【完結】3年後に世界が滅ぶと知ったエイシンフラッシュとトレーナー   作:ポンタ4

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2.出会い

俺は彼女、エイシンフラッシュの走りに一目惚れだった。

今思ってもそれは身内贔屓ではなく俺自身の本音である。

 

 

トレーナー業を続ける、その考えは纏まっている。

あの綺麗な黒鹿毛のウマ娘を俺は忘れることが出来なかった。

あの子の走りに一目惚れした俺がいる。

しかし、そのウマ娘はトレーニングを終えるとそそくさと帰ってしまったため、結局スカウトが出来なかった。

 

それから会うことができずに1週間が経ってしまった。

コースに足を運んでも練習しているウマ娘自体がほとんど見られず、それこそ練習しているウマ娘がいてもどこか上の空で走っている子ばかりであった。

まるで彼女を探す自分はストーカーではないか、そう自虐的に思ってしまった。

 

踵を返してトレーナー室へ戻り、そして今日の仕事を進めようと考えていたところ、

 

 

彼女がいた。

 

 

あの日一目惚れをしてしまったウマ娘。

しかし、そのウマ娘はどこか体調を悪そうにしている。

表情が真っ青になっているというのはこのために用意されたと言えるほどの表情の悪さである。

彼女に近づいていき、声をかける。

 

「君、大丈夫かい?」

「……えっ?あ、はい。大丈夫です。」

 

彼女の大丈夫という言葉を聞いても安心はできなかった。

誰がどう見ても強がりにしか見えなかったからである。

先ほどの問いかけに対して返答をするまでに時間がかかった彼女。

倒れてしまいそうなほど足元はふらついている。

 

「まさか…今からトレーニングを?」

「何か…おかしいでしょうか?」

「おかしいも何も止めておくんだ、ケガをしてしまうぞ。」

 

彼女にトレーニングを止めるように助言をする。

当然である。

俺はトレーナーであり、みすみすケガをしてしまいそうなウマ娘を放っておくことなんてできないのだから。

しかし、彼女はその制止する言葉なんて耳に入らないように

 

「ですが、スケジュールでは…」

「スケジュールって…今日は休むんだ、本当に倒れてしまう。」

「いえ…休むわけ―――――」

 

話している彼女の足元がふらつく。

そのまま彼女は膝から倒れそうになるのを両腕を伸ばして支える。

両腕でなんとか抱き留め、彼女の様子を見ると浅い呼吸。

目を瞑っては苦しそうにしている。

 

彼女の背中と膝裏に腕を回して抱き上げてお姫様抱っこをしていく。

周りには殆ど人の気配は無かった。

この様子を他の誰かに見られたらあらぬ疑いをかけられたり、噂になってしまう可能性もあったが、その心配は無さそうである。

 

向かう先は保健室、さすがに休ませてあげないと更に体調を悪くしてしまう。

彼女を抱き抱えたまま、保健室へと足を運ぶ。

しん、とした校舎内。

生徒の数は少しずつ登校してくるものは増えてきたが、まだまだその数は少ない。

世界が滅ぶ前の活気は未だに戻ることは無い。

 

保健室にたどり着く。

がらら、と音を立てながら扉を開けるも中には誰もいない。

保険医に診療して欲しかったが、居ないのであれば仕方がない。

そのまま彼女を備え付けられた白いベッドの上に寝かせる。

 

さて、このまま彼女を置いていくのは些か忍びない。

彼女が起きた時に誰も居ないのであればきっと混乱してしまうだろう。

保険医が戻ってくるまで、ここで待つことにしようと思うが、手持ち無沙汰である。

何か暇を潰せるものはないか、と中を保健室内を散策すると本棚にはウマ娘がケガをした時の治療法やレース論が置いてあった。

これで暇を潰そう、その本棚から1つ、ウマ娘の治療について描かれた本を手に取る。

少しずっしりとした重さ、それを脇に抱え、パイプ椅子を持って彼女のベッドの傍に置く。

そしてその硬いパイプ椅子に座り、本を読んで彼女が起きるのを待つことにした。

 

 

 

**

 

 

 

「ここは……?」

「おはよう、保健室だよ。気分は大丈夫か?」

 

パイプ椅子でその読んでいた本が半分程終わった頃、黒鹿毛の彼女は目を覚ました。

外は既に日が落ち始めていた。

本を閉じ、起き上がろうとする彼女を両手で制止をする。

 

「まだ起き上がらない方がいい。」

「その…私は何故…?」

「倒れたんだよ、記憶にないか?」

 

その黒鹿毛の彼女は腕を組み、そしてそのうちの片手を口元に持ってきて考える素振りをする。

少しした後に、ゆっくりと首を振っては思い出せない、というように返答をした。

 

「そうか…とりあえず今日はもう寮に帰った方がいい。」

「いえ…今日のトレーニングスケジュールを満たせなかったので練習します」

「本当に体を壊してしまうぞ」

「壊れません、私のスケジュールは完璧ですので」

「倒れたのに、か?」

 

うっ、と彼女は気まずそうに顔を逸らしてしまう。

スケジュールだとしても、その内容はいくら何でも詰め込みすぎなのだろう。

とはいえ、ここまでのオーバーワークをするのにはきっと理由があるはず。

 

 

「何故そこまでのオーバーワークを?」

「……それは――――」

 

彼女の話を要約するとこうだ。

ドイツから留学をしてきたものはいいものの、そこで地球が滅ぶというニュースを聞いた。

自分は誇りある両親の娘として、誇りあるウマ娘として成し遂げたい。

その一心でトレーニングに励んでいた。

元々立てていたトレーニングスケジュールもより過密にしていき、必ず王道路線の制覇をする。

ただそれだけを目指した、というものだ。

 

しかし、実際は体を壊すほどのスケジュール。

睡眠時間やトレーニング後の休憩時間も殆ど取らない、それこそ体を壊すためのトレーニングスケジュールであり、誰がどう見ても自殺行為であった。

 

「いくらなんでも無謀だ。これじゃ―――」

「ですが、どうしろというのですか。このままでは私は…!」

「俺が君を導く」

「っ…!?」

 

彼女が目を見開いて驚く。

このままでは彼女は自ら立てたもので自らの体を破壊してしまう。

誇り高いウマ娘として成し遂げる前に、己の体を破壊する愚者になり下げてはいけない。

その一心で俺は彼女に告げた。

 

「その…どのように導かれるのですか?」

「俺が君のスケジュールで間違っている部分を正していく。要はルートから外れたらその修正をする感じだな」

「……一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「どうした?」

「……何故そこまで親身になってくださるのですか?トレーナーなのは分かります。ですがそれにしても…。」

 

不可解、なのだろう。

彼女のトレーナーではない、それ所か彼女からすれば俺とは今日会ったばかりの初対面である。

不思議に思うのは当然のことだろう。

しかし、トレーナーからすれば彼女に救われた一人である。

このトレーナー業を続けたいと思わせた走り、美しさ、それら全てに惹かれてしまった。

 

「そうだな…地球が滅ぶって言われた時にコース上で君を見たんだよ。走ってただろ?」

「えぇ、そうですけど…それが何か?」

「まぁ、その、一目惚れしたんだ。君の走りに。」

「ひとめ…っ!?」

 

またもや彼女は驚く。

普通に考えればそうであろう。

今日会ったばかりの男に一目惚れしたと言われて驚かない方が無理がある。

 

「で、ですがいくら一目惚れとはいえここまで懇意にしようとは思いません。」

「それはそうかもしれないね。だけど、一目惚れ以外にも理由があるんだ。」

「理由…?」

 

彼女は首を傾げて更に不思議そうにする。

少しだけ俺は視線を下に向けた後、ゆっくりとその視線を戻していく。

 

「あの地球が滅ぶと聞いた日、俺はトレーナーを辞めるか迷っていたんだ。

でも考えが纏まらなくてな。コース場が静かだったからそっちに行ったんだよ。

そしたら君を見かけたんだ。」

「えぇ、確かにその日はトレーニングをしていました。」

「そう、そのトレーニング姿を見て、俺は心打たれたんだ。

あぁ、この子と3年間を駆け抜けたいって。」

 

本心だった。

彼女の走りはあの時やけくそに近いものでもあったが、その走りの美しさ、力強さ、それらに惹かれた。

だから彼女を探していたんだろう。

そして彼女とこうやって会えたのは何かの運命によるめぐり逢いなのだろう。

そう思ってしまうほど、彼女に一目惚れをし、それだけ彼女に惹かれてしまったのだから。

 

「つまり、それは私をスカウトしたい。そういう意味でよろしいでしょうか?」

 

彼女からの問いにこくり、と頷く。

彼女はふふっ、と笑顔を浮かべて笑う。

 

「分かりました、お受けいたします。それに…私自身もこのスケジュールで良いのか分からなくなりつつありました。

だから、貴方にお願いがあります。」

「なんだ?」

「先ほども仰って下さりましたが、もし私が外れてしまったら…トレーナーさん。貴方が正しい道に導いてください。」

「勿論だよ」

 

俺も笑顔を浮かべて彼女に答えていく。

その答えに彼女は満足気に頷き、

 

「では、よろしくお願いいたしますね、トレーナーさん。

あ…そういえば名前をお伝えしていませんでしたね。

エイシンフラッシュといいます。生まれは…もうお伝えしましたね。」

「エイシンフラッシュか。これから3年間よろしく。」

 

 

こうして俺と彼女、エイシンフラッシュはトレーナー契約を結んだ

 

 

 

**

 

 

 

「今思えば一目惚れで、それこそ君のことを考えていたって変なやつだよな」

「そうですか?私は嬉しかったですよ?」

 

 

現在午前11時。

エイシンフラッシュとトレーナーは横並びに、そして一枚の写真を一緒に眺めながら話していく。

手に持っている写真は校門の前でエイシンフラッシュとその両親、そしてトレーナーの4人が並んでいる写真だ。

これは初レースを終えた後に撮ったものである。

彼女の初レースは1着で無事に終えることは出来た。

だが、その走りは未だに完璧とは程遠く、エイシンフラッシュ自身も走りに満足できていなかった。

こんな走りでは両親に誇れない、そうエイシンフラッシュは考えた。

しかし、そのひたむきに努力する姿、その努力する姿を両親に見せたいという心構えが両親にしっかりと伝わり、そしてエイシンフラッシュ自身も完璧にこなすのではなく、誰かを思って成すことが大事であると気づいたのである。

 

その記念、というのは少々変ではあるが、その時に撮った写真である。

 

「今思えばこうやって俺と君が出会えて、それこそトレーナー契約を結べたのはある意味そうなる運命だったのかもしれないな」

「ふふっ、もし運命ならば余程神様は引き合わせたかったのでしょうね。」

「そんな神様がいるなら今は感謝しかないな。」

 

エイシンフラッシュの両親に会い、その時にトレーナーとして挨拶をすることになったが、流石に緊張はしたものだ。

まさか指導しているウマ娘の両親に会って挨拶をするとは一切思っていなかったからだ。

俺自身、エイシンフラッシュが初めての指導するウマ娘であったが、こういうものなのか?と勘違いもしてしまった。

実際のところ、両親に会って挨拶をするのは殆どない、というのはあとになって知った話である。

 

 

写真をもう一枚取り出す。

その写真はとあるカフェのテーブルが移っており、写真に写っているのはエイシンフラッシュ一人だけである。

他にあるのは彼女の手元にはフルーツが盛り付けられたタルトとキャラメルとチョコが二層になったケーキが写っている。

 

俺が一人で出かけていた時にたまたまエイシンフラッシュと出会い、彼女と一緒にカフェに行った時のものである。

彼女はタルトを食べることを決めていたが、その時に”スペシャリテセット”というのが出ていた。

彼女はスケジュールを遵守するため、少し迷っていた。

その様子を見たトレーナーがスペシャリテセットと季節のタルトを注文し、2人で半分こにして分け合ったという経緯があった。

その時の写真である。

 

「この時のカフェで食べたケーキ美味しかったな」

「えぇ、本当に。この時から私とトレーナーさんでケーキ屋巡りをするのが一つの日常になっていましたね。」

「ケーキ屋、以外もだけど」

 

エイシンフラッシュからすればそもそもトレーナーと出会う事自体が、そしてそのタルトだけでなく、スペシャリテセットを食べることになったこと自体が予定からずれていたことになる。

しかし、その予定からずれただけでなく、トレーナーが居ることによって、予定外の良いことも起きた。

この予定外の良い事、に備えるという名目で二人で休日にお出かけをすることが多くなったのである。

 

そうしてお出かけが多くなるごとにケーキ屋だけでなく、トレーニングに必要な物品や服、お祭りといったイベントにも一緒に参加することも自然と多くなっていった。

彼女とお出かけ、いやデートをするのが俺として一つの楽しみにもなっていた。

地球が滅ぶ、その影響もあるせいか彼女とのこのデートは滅んで死んでしまうことについての逃避にもなり、そしてトレーナーの癒しにもなっていた。

 

桜が咲き誇る公園でのお花見。

桜吹雪で彩られたその景色の中で散歩した道はいつもより綺麗で、彼女自身も優雅に見えた。

 

梅雨、2人で振っていた雨の中を相合傘で歩幅を合わせて歩き、その雨は暑い夏が訪れる前の涼雨(りょうう)であった。

お互いに肩が濡れないように体を寄せ合い、いつもより近い距離に雨の寒さより少し頬が熱くなるのを感じた。

 

夏祭り。

夏合宿中のトレーニング後に訪れ、そしてそこで見た花火はいつもより輝き、様々な色合いの光による調和に見とれていた。

彼女の着物姿は百合のように美しく、誰よりも綺麗だった。

 

ハロウィン、彼女が驚かせようと着ていた黒色を基調とし、ワンポイントでかぼちゃのマークが入った魔女風の服装。

彼女が作ってくれたかぼちゃのタルトは控えめな甘さであり、そして彼女からの愛情の甘さをより感じた。

 

クリスマス、滅多に降ることのないその白い結晶は珍しく積るほど降り注ぎ、聖夜を彩った。

彼女へのお返しとして手作りの不格好なリース、そして彼女の友達を呼んで行う賑やかなクリスマス。

彼女の喜んでいる表情はいつもより幼げに見え、そこには日本のクリスマスを楽しむ無垢な乙女だった。

 

バレンタインデー、彼女から送られた日常を彩る1輪のバラ。

そのバラを、花をトレーナー室に飾るのは一つの日課となり、トレーナー室には1輪の花が飾られるのが当たり前となった。

 

エイシンフラッシュと過ごした日常をきっと俺は忘れることは無い。

彼女もそうであってほしいと思ってしまうのは俺のエゴなのだろう。

だけどそれは心からの本心である。

 

彼女と撮ったこの写真一つ一つに思い出がある。

それは写真が無い物に対しても同様だ。

 

 

「写真…撮ってよかったですね、トレーナーさん」

「あぁ、本当に」

 

 

写真を撮り始めたのは彼女とトレーナー契約を結んだときに決めたことである。

エイシンフラッシュを保健室に運んでその二日後、彼女は契約書を持って現れた。

その契約書を結ぶ際に彼女と話し合って決めたことである。

 

”思い出を写真として、形に残そう”

 

地球が滅んでしまう為、そんな形にした所で消えてなくなってしまうのは火を見るよりも明らかであった。

しかし、最初で最後の担当をする彼女と何かしらの形を残したい。

そう思った一心でエイシンフラッシュに提案をした。

彼女は最初は少し迷っていたが、頷いてくれたため、一番最初の記念としてトレーナー室で2人で撮ったのが始まりである。

最初の写真は証明写真のように二人とも表情が硬く、思い出、というより何かのPRに使うような硬い雰囲気であった。

 

その硬い雰囲気は彼女と歩みを進める日数が多くなるごとに、そして写真を撮る枚数が増えるごとに和らいでいった。

 

「少し喉が渇きましたね。何か準備でもしましょうか?」

「そうだね、お願いしようかな。ありがとう、フラッシュ」

 

思い出話に花を咲かせているところで、彼女からの提案。

彼女からの提案に少しだけ、喉が渇いていることに気づく。

 

彼女がソファーから立ち上がり、荷物の中から2つの水筒を取り出す。

俺とエイシンフラッシュのコップ付きの水筒、黒色と白色であるそれらの蓋を外せばコップに早変わり。

そのコップに水筒を傾けて飲み物を注いでいく。

注がれた飲み物は湯気が立っており、一目でまだ熱を持っていることが分かる。

彼女から片方を受け取れば、口を付けて中身を飲んでいく。

 

エイシンフラッシュもそれに続くようにして一緒にその中身を飲んでいく。

喉を通る液体の熱、それを飲み干していくとふぅ、とお互いに息を吐く。

外の寒さに合わせて暖かな飲み物を選んだのだが、トレーナー室には今は暖房が効いている。

少し暑いな、なんて考えながらコップを置く。

 

ジュニア級、エイシンフラッシュとの出会い。

ここからが全て始まったのである。

彼女との出会いは必然であったのかもしれない、いやもしかしたら偶然が重なったものかもしれないのである。

ただ、その偶然が重なるのはある意味必然でもあるのだろう。

 

”ジュニア”と書かれたこのファイルの物語はここで終了である。

俺はそのファイルを横に置けば今度は”クラシック”と書かれたファイルを手に取り、また同じように開いていく。

そこも多数の写真によって思い出が積み重ねられていた。

 

 

 

王道路線。

 

皐月賞・日本ダービー・菊花賞の制覇。

3冠ウマ娘。

 

 

クラシック級における誰もが目指す一つの到達点。

エイシンフラッシュが目指していたものであった。

 

 

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