【完結】3年後に世界が滅ぶと知ったエイシンフラッシュとトレーナー   作:ポンタ4

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9.雪解け

有馬記念が終わって二日後、12月25日。

クリスマスである。

 

地球最後のクリスマス、そのクリスマスを楽しむように、そして悔いが残らないように街は一斉にイルミネーションで飾り付けされており、トレセン学園も例外ではなかった。

 

「トレーナーさん、Frohe Weihnachten!(メリークリスマス)

「フローエ ヴァイナハテン!フラッシュ!」

 

2人でドイツ語によるクリスマスの挨拶。

トレーナー室もクリスマスツリーやちょっとしたイルミネーションを飾り、まさにクリスマスムードである。

 

トレーナー室にあるテーブルの上、そこには大きなローストチキンにポテトサラダで作られたツリー。

ビーフシチューにマルゲリータとまさに豪勢という言葉に相応しいものが揃っている。

 

「…それで、これ全部フラッシュが準備したの…?」

「はい、ドイツではクリスマスは盛大に行いますから」

「なるほど、それで…今日は何をするんだ?」

「このままトレーナー室でお喋りですね」

 

ちょっと拍子抜け。

盛大というのだから、もっとどこかへ出かけたり、それこそ何かしらの大きな催しがあると思ったのだが…。

 

「ふふっ、それで終わりって顔をされてますね。でもこれがドイツ式なのです。本当はアドベンドカレンダーというものもあったのですが…」

「確か毎日開けていってお菓子が入ってるやつだっけ?」

「そうです、よくご存じですね?」

「クリスマス特集で聞いたことあったからね。でもこうやって団らんして終わりだとは思わなかったよ」

 

フラッシュはふふん、としたり顔で話してくれる。

日本ではそれこそ遊園地に遊びに行ったり、イルミネーションを見に外へ出かけ、恋人同士で過ごすことの多いクリスマス。

どうやらドイツ式では家族でのんびりすることが多いようである。

 

「これは…日本の大晦日に近い感じなのか」

「確かにそうですね、むしろドイツでは大晦日は日本のクリスマスに近いかと」

「なるほどなぁ…文化の違いだ」

 

国によって同じ季節のイベントでも内容が違うというのはかくも面白いものである。

2人でクリスマスの準備を終えていき、フラッシュは此方へと近づいてくる。

 

「さて…次は少し早いですが、クリスマスプレゼント交換を――――」

「おっと、それは少し気が早いぞ、フラッシュ」

「…?というと?」

「まぁ、待っててくれ」

 

俺は自分の携帯を取り出して時刻を確認していく。

時刻は18時30分、既に約束した時間になるはずなのだが…。

そう思い、扉の方に視線を向けるとタイミングよくノック音。

 

其方へ歩いていき、扉を開けると、そこには数人のウマ娘。

スマートファルコン、ナカヤマフェスタ、トーセンジョーダン、彼女と関わりのあったウマ娘達。

 

「メリークリスマス、フラッシュさん☆」

「えっ!?ふぁ、ファルコンさん…?それに…」

「やっほー、フラッシュさん。メリークリスマス、遊びに来ちゃった!」

「地球最後のクリスマスなんだ、その最後に面白いもんをアンタとやりたくてな…逃げるなんて言わねぇよな?」

 

3人が彼女へと近づいていき、それぞれ話をしていく

 

「え…えぇっとトレーナーさん…これは?」

「日本式の…まぁ恋人同士じゃない友達同士のワイワイクリスマス…ってやつだよ」

「そうそうっ、フラッシュさんは日本式のクリスマスは初めてだからー、ファル子気合い入れてきちゃった☆」

 

俺は少し離れたいつもトレーナーとして座っている椅子に座り、そしてソファーに4人でその豪勢な食事を囲むように座っていく。

 

「えっ!てか、これフラッシュさんが作ったの?」

「はい、勿論ですよ」

「やば~!写真とっとこ…」

 

 

「なァ、フラッシュ。これ例えば一つだけ激辛なものが入っている、なんて――――」

「ナカヤマさん、そんなことはしないですよ」

「なら…ここはカードで勝負、だなんてどうだい?」

「ふふっ、いいですよ。この後しましょうか」

 

 

「フラッシュさん、フラッシュさん」

「はい、どうされました、ファルコンさん?」

「一緒にツリーで写真撮ろっ☆」

「ふふ、構いませんよ」

 

 

俺はその4人が話しているのを邪魔をせず、時折料理を取ってはすぐに椅子の方へ戻っていく。

彼女がこうやって他のウマ娘と話している姿はあまり見たことがない。

だが、フラッシュと話している3人のウマ娘達は楽しそうに笑っている。

フラッシュ自身も笑顔を浮かべ、彼女にとって楽しく、そして忘れられないクリスマスになると嬉しいと思う。

 

彼女のその楽しそうな笑顔、和やかなクリスマスムード。

外を眺めると既に白い結晶が空から贈り物として地表へ降り注いでいく。

 

「みんな、外で雪が降ってるよ」

 

そう言うと4人ともソファーから立ち上がり、窓へ近づいていく。

 

「此方でも雪が降るんですね、久しぶりに見ました」

「この地方だとあんまり見ないからね」

 

 

トレーナー室にある大きな窓、そこから降り注ぐ白い結晶はきっと彼女達にとっては心安らがせる一つの贈り物になるだろう

 

 

 

**

 

 

 

「フラッシュさん、また寮でねー!」

「はい、また。今日はありがとうございました」

 

スマートファルコンが扉の前で手を振り、フラッシュもそれに控えめに手を振って返していく。

扉が閉まり、残される2人。

机の上にはお皿が重ねられており、既に去ったウマ娘達に少しだけ片づけを手伝ってもらったが、最後までは自分たちでやるということで先に帰ってもらった。

 

「さて、フラッシュ。とりあえず片付けようか」

「…その前に…プレゼント交換、しませんか?お片付けしてしまうとプレゼント交換の時にクリスマスムードがないのは少し勿体ないかと」

「それも……そうか。じゃあ、先にしようか」

 

フラッシュからプレゼント交換を先にしたいという要望。

確かにこのまま片づけをしてプレゼント交換というのも味が無い。

 

フラッシュはカバンへと近づいていき、その中から緑色を基調とし、赤や白の丸が散りばめられた模様の長方形に梱包されたもの。

ご丁寧に赤色のリボンで蝶々結びがされていた。

 

「では、まずは私からです」

「これは…開けてもいいのか?」

「えぇ、どうぞ開けてください」

 

フラッシュから了承を得て、リボンを解いていく。

そして梱包されたその長方形のもの、持ってみると軽く、見た目からして手のひらサイズ。

テープで固定された部分を剥がしていく、丁寧にその梱包を解いていくと、現れたのは手帳だった。

彼女と同じ黒鹿毛色で触っていると手触りが良く、滑らか。

ぱらぱら、と開くとシンプルな作りであり、日程とメモが書けるスペース。

ペンを差し込める留め具もあり、かなり便利なものだ。

 

自分の持っていた手帳は既に少しボロボロになっており、毎年買い換えていた。

来年の分は買おうか迷っていたが、フラッシュからのプレゼント。

それを眺めていると頬が緩んでしまい

 

「嬉しいよ、フラッシュ。ありがとう」

「気にしないでください、トレーナーさん。その…気に入られました?」

「あぁ、すっごく気に入ったよ。普段から俺のことよく見てくれてるんだな」

「…っ…まぁ、その…私のトレーナーさんです…し」

 

フラッシュは視線を左右に動かしては、少し下に抜けて照れた表情。

来年からの予定、今はまだ考えられていないが、少ない来年の予定をこの手帳に書き込むとしよう。

 

さて、今度は俺の方からお返しのクリスマスプレゼント。

自分のいつも座っている席へと足を運んでいく。

そこから、一つの丸く、そして緑色が円を作っており、差し色として赤や茶色が入っている。

 

「じゃあ、次は俺からのお返しのプレゼント」

「これは…」

「クリスマスリース。フラッシュのお母さんから貰ったリースがあっただろ?俺も幸福を願って…作ってみたんだ」

 

フラッシュの母親と比べるとどこか不格好であり、並べてしまえばその出来栄えの差は一目でわかってしまうほど。

しかし、想いだけは彼女の母親に負けていないつもりである。

セイヨウヒイラギやモミの葉を編んでいき、そして松ぼっくりに鮮やかな赤色のセイヨウヒイラギの身を添えていく。

 

有馬記念が終わった後に1日体験教室があったため、受講をし、家に帰っては講座動画を見ながらひたすらに作っていた。

我ながらに上手く出来たと思えるも、既にトレーナー室に飾られているフラッシュの母親のリースが視界に入ればまずその綺麗さが違う。

これが年季の差か、なんて思ってしまった。

 

「…嬉しいです、トレーナーさんっ…」

「本当に?よかった…喜んでくれて」

「ふふっ、私は大喜びですよ」

 

彼女がそのリースを受け取ってくれると、カバン中へとしまっていく。

さて、プレゼント交換はこれでおしまい。

俺が彼女に背を向けて、早速片付けようとすると、背後から抱きしめられる。

 

「ふ…フラッシュ?どうしたんだ?」

 

「トレーナーさん―――――

 

 

 

 

 

クリスマスリースの意味って知っていますか」

 

 

 

どくんっ

 

心臓の鼓動が早くなってしまう。

 

「知ってるよ、魔除けとか豊作、幸福…だろ?」

「それは普通のリース、の話です」

 

 

どくんっ

 

 

また早まる心臓の鼓動。

誤魔化してしまった自分がいる。

幸福を祈って彼女にリースを送った、それは間違いない。

 

そして俺はクリスマスリースの意味を知っている。

 

永遠の愛

 

それがクリスマスリースに込められた1つの意味である

 

「トレーナーさん…」

 

フラッシュの温もりが背中から伝わってくる。

ここまでしておいて、何もしない、何も言わないのは流石に男が廃るだろう。

フラッシュの方へ体を向けていき、そして彼女を抱き寄せていく。

 

「知ってるよ、知ってるからこそ今日送ったんだ」

「っ…トレーナーさん」

 

バレンタインに送られた彼女からの1輪のバラ。

ドイツでは告白という文化が無く、所謂お試し期間があるというものを俺は見た。

そのお試し期間中に気が合えば、そのままお付き合い、気が合わなければ自然と消滅らしい。

 

しかし、悲しいことに俺は日本男児である。

彼女のそのアプローチに対して踏み切れずにいた。

とはいえ、フラッシュのドイツ流を尊重するようにそういった意味を込めたものをホワイトデーにも送っている。

 

そして、それは今日もそうである。

 

彼女に惹かれた。

それは最初は走りだけであった。

しかし、彼女という1個人に惹かれてしまった。

普段はスケジュールに沿って、そこから外れてしまえば不器用になってしまう彼女。

 

そのスケジュールに俺が入り、どこかへ出かけるときはフラッシュが一緒にいることが当たり前になってしまった。

 

ダービーに勝った時、自分のことのように喜び、フラッシュをずっと導こうと思った。

 

去年のクリスマス、フラッシュと共に支え合うことを決め、レースのトレーニングやプランを考えるときは彼女がいつも隣にいた。

 

ホワイトデー、フラッシュに贈り物を送るとき、何を送ったら喜ぶのだろうか、そればかり考えていた。

 

そう、俺の世界にはフラッシュと出会った時から、ずっとずっとフラッシュが傍にいた。

 

「フラッシュ」

「トレーナーさん」

 

 

 

「好きだ」

 

 

「私も好きですっ…」

 

 

強く、彼女と離れないように、離さないように強く強く抱きしめていく。

フラッシュは顔を胸元に押し付け、そしてすりすり、と擦りつけてくる。

だめだ、可愛いという言葉以外出てこなくなってしまった。

 

「嬉しいです…私にとって最高のクリスマスプレゼントです…トレーナーさん」

「俺もだよ、フラッシュ」

 

フラッシュの頭をゆっくり、ゆっくりと優しく撫でていく。

彼女の黒鹿毛は貰った手帳よりも手触りがよく、もっと撫でたくなってしまう。

 

フラッシュの声が好きだ

フラッシュの温もりが好きだ

フラッシュの走りが好きだ

 

 

一度口に出してしまえば溢れ出していく想い。

もうこの想いは既に壊れたダムのように溢れ出し続け、止めることはできない。

 

「…私は悪い子ですね」

「…?どうした?」

「もう一つ、クリスマスプレゼントが欲しいって思ってしまいました」

 

 

もう一つのクリスマスプレゼント、それを言われても何のことだか分からない。

 

「俺から渡せるものはもう無いぞ?」

「いえ、大丈夫です――――」

 

フラッシュが顔を近づけ、そして自分の視界は彼女の顔しか映らなくなってしまう。

そして唇に触れる柔らかな感触。

自分の瞳が大きく開き、体が一瞬硬直してしまうも、俺からも求めるように強く抱きしめる。

 

 

 

数秒、でもその数秒はとても長く感じてしまう。

 

ゆっくりと話していき、腕の拘束も解けては体が離れていく。

 

「フラッシュは…欲張りさんだな」

 

頬が熱い、でもその頬の熱さを隠すようにフラッシュに少し揶揄うように告げる。

 

 

 

「…だって、今日は最高のクリスマスなんですから……ね?」

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

先ほどの状況より、気を取り直して片づけを進めていく。

2人で今回準備したものをごみ袋にまとめていれていく。

食器は全て使い捨てのものであるため、捨てるだけで済むのが便利な所である。

 

トレーナー室を飾っていた紙で作ったサンタクロースの置物や、壁にかけられたMerry Christmasと描かれた掛物。

それらをテープで固定しており、それらを剥がしてまたごみ袋へ詰めていく。

 

本当はこういうのは来年用に取っておくものだが、来年はない。

ごみ袋に1つ、1つと捨てていくことに実感していく、生きていられる時間の有限さ。

後はクリスマスツリー、これは流石に大きすぎるため、ゴミ捨て場に持っていくわけにはいかない。

ここに置いておき、明日時間がある時に業者の人に頼んで持って行ってもらおう。

 

机を拭き、そして軽く床の掃除。

2人で進めているため、掃除はすぐに終わり、いつものトレーナー室にクリスマスツリーが添えられている。

 

「行こうか、フラッシュ」

「はい」

 

俺と彼女、それぞれ1つずつごみ袋をもってトレーナー室から出ていく。

廊下は最低限の光だけが付いており、外は雪が降っているため、その寒さは建物内にいても感じられる。

廊下を歩いていき、建物から出てゴミ捨て場へ向かう。

 

外へ出ていけば、俺と彼女から白い息が出ていく。

彼女はごみ袋を持っていない手を口元へもっていき、はーっ、と息を当ててその手を温めようとしていた。

 

「フラッシュ、手、寒いだろ?」

 

フラッシュに自分の手を伸ばしていく。

彼女はその手に視線を落としては嬉しそうに頬を緩ませ

 

「はい、温めてください」

 

俺と彼女の手が結ばれていく。

指を絡め、冷たい彼女の手に俺の体温が伝わっていくのを感じる。

 

 

彼女と共に支え合う、その言葉はもう今となってはもう一つの意味を持つようになった。

 

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