現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
大変お待たせいたしました・・・
「だあっ!」
「くっ……!」
京都校との初邂逅から一週間。
東堂葵という一級術師によって自身の立ち位置を思い知らされた伏黒や虎杖は、彼と再び戦うことになる交流会へ向けて鍛錬を続けていた。
(くっそ、またタイミングが遅い! 東堂とやってた時はもっとうまくやれてたはずなのに……)
(やっぱ成長早いなコイツ、呪力の扱いに慣れたらすぐ置いてかれそうだ……!)
二人が行っているのは実戦形式の組手。交流会後半に行われる個人戦に向けての対策として、お互いが本気で殴り合う。
東堂との邂逅で術師としての感覚をつかもうとしていた虎杖と、五条悟との戦いを経て術師としての実力に磨きをかけた伏黒。
両者の実力自体はほぼ拮抗している。しかし、互角の相手と戦っているにもかかわらず、7日という時間をかけても大した進歩が見られない。
「よーしそこまで。集中切れてきてんぞー」
「真希さん」
「次、悠仁は棘と呪術面の強化、恵はこのまま私と組み手な」
「押忍!」
「……分かりました」
(スタミナ妖怪め……)
両者の運動量は変わらないが、体力の面では伏黒は虎杖にかなわない。
虎杖からワンテンポ遅れて答えた伏黒。その声色には、呆れに近い感情が若干混じっている。
そんな目線に気づくこともなく、虎杖は狗巻のもとへと向かっていった。
「しっかし、よくまああんだけやるな悠仁も。ちょっと前まで普通に高校生やってたとは思えねえよ。あんなぽわぽわした感じで術師やっていけんのかってのはちょっと疑問だけどな。……最初の方の憂太よりはましか?」
「すでに追い抜かされそうで若干焦ってるよー俺は」
膂力だけならゴリラモードでもギリかもしれん……。と口をとがらせるのは、白と黒の毛皮をもったパンダ。
動物園にでもいそうななりだが、れっきとした東京校の2年、呪術師である。
「元からかなり動けたみたいですしね。今はそこに呪力強化が乗ってきてる」
「けど苦戦してるっぽいよな。東堂とやってた時はいい感じだったって言ってたけど」
「東堂の方も様子おかしかったんだっけ? ……あいつと波長が合うってそれはいいことなのか?」
「ノーコメント」
「……東堂先輩のことは置いとくとして。その辺は術師として日が浅いのが大きいかもですね」
呪術とは負の感情から生まれるエネルギーを利用するもの。腹の底からの本気の怒り、悲しみ、恐怖。元の性格が温厚なうえまだまだ術師としての経験が浅い虎杖は、そういったものをまだ経験したことがない。
だからこそ、
「本気の感情を爆発させるような……というか、術師として壁を破るに足りるきっかけがいるんだと思います」
『動くな』
「ぬぐっ」
狗巻家の相伝術式。それは、呪いを込めた言葉によって対象の動きを強制する呪言である。一般人はもちろん、術師や呪霊ですら封殺可能な強力な術式。
それに対抗するためには、耳から入った呪力を防ぐための呪力強化が必要になる。呪力制御の訓練としてこれ以上に向いている者もない。
「おかか」
「くそーまた失敗か」
それじゃあダメだ、というように首を振る狗巻。成功率自体は上がってきているものの、来ることが分かっている呪言もまともに防げないようではまだまだである。
(早く何とかしないとな。交流会もそうだけど、少年院みたいなことがまたあったら……)
映画訓練や、生徒同士の組み手、簡単な任務と様々な体験をしてはいるが、あれ以来なかなか進歩がみられない。若干の焦りを隠せない彼に、狗巻が声をかける。
「高菜、おかか」
狗巻の言語は独特だ。彼は呪言による干渉を避けるため、語彙をおにぎりの具に絞っている。会ってからそこまで時間の経っていない虎杖は、それを完全に理解できているわけでもない。
「……そうすね。あざす!」
だが、そこに込められた感情は何となく伝わっている。
焦るな、ゆっくりやっていこう。そんな思い。先輩としての優しさを感じるその気遣いに、体の力が少し抜ける。
「続きお願いします!」
「しゃけ」
「む、おかか」
「あれ、もうこんな時間!? くっそー、結局あんまりか」
時刻はすでに12時半を過ぎている。高専としても昼休憩の時間だ。
虎杖としてはこのまま続けたい気持ちもあるが、呪言の発動は狗巻の喉に負担をかける。
「あざした、またおねがいします!」
「しゃけ!」
「ん? あれって……」
狗巻と別れ、休憩のため校舎へと戻る途中のこと。
見覚えのある白い髪に、虎杖は足を止めた。
(裏梅。 ちょうどいい、呪力操作について聞いてみるか)
そんなことを考えながら近づこうとしたとき、裏梅が足を下にたたきつけた。そこから一瞬にして、2~3mはありそうな氷の塊が構成される。
何の飾り気もない壁のようなものではない。中心から外側に向かい六本の枝が伸びているような形状。
(雪の結晶じゃん、すっげ……)
「ふう……。ん? 虎杖か、どうした」
「あ、ちょっと聞きたいんだけど。呪力操作のコツとかってある? あんま上手くいかなくてさ」
あれほどの複雑な氷塊を瞬きする間に形成する呪力の操作技術。彼女の呪力操作は、単なる学生とは一線を画している。
まともな術師の最高到達点である一級。16という年でそこまでたどり着いている裏梅は、間違いなく天才といっていいだろう。
だからこそ、彼女の話を聞くのは上達への近道になると考えたのだが、裏梅本人の反応は芳しくない。
「呪力操作か……。悪いがあまり参考にはならんかもしれんぞ。私はいろいろと特殊だ」
「特殊って……」
「私は呪力、というより、術式の扱いを覚えなければ生きていけなかったからな」
「……」
空気が凍り付いたような気がした。
軽い口調ではあったが、重苦しい言葉。裏梅自体はまったく気にしていないようだが、軽々しく踏み込んでいいものでは絶対にないだろう。
そんな虎杖の気遣いに気付いているのかいないのか、先ほどの言葉がなかったかのように裏梅は話を続ける。
「というかそもそも、私の呪力操作は宿儺様から教わったものだ。直接訊ねてみるのが早いだろう」
「直接……? あれ、先生!」
「なんだ騒がしい」
遠くから歩いてくる人影。
ふてぶてしい態度でその場に現れたのは、二人の担任である宿儺だった。
特級術師として日本中を飛び回っている宿儺は、一年の担任でありながら高専にいる時間が少ない。
高専としての通常授業は補助監督などに任せ、生徒のトレーニングメニューの考案や任務の報告を聞いてのフィードバックなど、術師としての成長につながる業務を中心に行っている。そのため、直接顔を合わせて教えを受ける機会はあまりないのだ。
「先生は呪力操作ってどうやってんの?」
これ幸いと虎杖が質問をする。
「呪力操作? 言葉で説明しきれるものではないな。呪力の質も量も個々人で全く違う、当然その操り方もだ」
「うーん、まあそうか」
「虎杖、お前は感覚派だろう。成長を実感していたのは東堂とやっていた時だと聞いているし、実戦で覚えるのが一番早い」
三分後、宿儺の指示で登校してきていた生徒たち全員がグラウンドに集まった。
「乙骨や三年を除けば全員いるな。丁度いい、ひさしぶりに実戦形式でやるか」
「え」
「マジか? マジかー……」
「おかか……」
死刑宣告でも聞いたかのように、虎杖と釘崎を除いた全員の表情が固まる。
「なにその反応……。 そんなヤバいの?」
「ヤバいというかなんというか……」
「時間がもったいない、さっさと始めるぞ。裏梅以外は用意しろ」
「えっ裏梅は!?」
ひーきだひーき、理由を教えろーと2年生が騒ぎ出す。単純にずるいという気持ちもあるが、生徒の中では断トツの実力を持つ裏梅が参加しなければ、自分たちの負担が大きくなるという思いもある。
模擬戦といえど相手は宿儺、戦力は多いほうがいい。それがほぼ全員の共通認識だったが、宿儺が理由を説明し始める。
「裏梅の術式は集団戦と相性が悪い。本人の訓練としてはいいかもしれんが、全体的な効率を考えると今参加すべきではないと判断する。代わりに戦闘後のフィードバックをやってもらう」
「……まあ理由あんならしょうがねえか」
まだ若干不満げではあるものの、しっかりとした理由があるならこれ以上ごねても時間の無駄だ。
全員が戦闘準備に取り掛かる中、裏梅だけは宿儺に対して複雑な目線を向けていた。
「準備はいいか。よし、来い」
その言葉を聞くが早いか、単独で飛び出したのは虎杖。
訓練とはいえ、明らかな格上相手の実戦。不意を衝く形で初撃を打ち込み、止められても組み付く形で仲間の飛びかかる隙を作る。
反撃を食らってしまったとしても、訓練である以上は手加減をするはず。一撃喰らうぐらいなら耐えられる。
それが虎杖の思考だった。
「あっバカ!」
作戦自体は決して悪いものではない。格上を相手にする場合は、相手の油断を誘うか隙を作ってから攻めるのがセオリーでもある。
(入る!)
拳が届くまで、あと数センチ。有効打になるかはともかく、かなりの実力の術師でもこの状況から攻撃をかわすすべはない。
だが、相手は現代最強の術師である。
(消え)
2mを超す巨体が、突如視界から消えた。特殊な術式や技術を使ったわけではない。単なる身体能力で虎杖の視界の外へと回り込んだだけだ。
恐るべきはその速度。少し離れた位置にいる真希や伏黒達ですら、一瞬その動きを見失いそうになったほど。
宿儺の動きをはっきりととらえていたのは、この中では裏梅のみだった。
「ご……」
反撃の拳が放たれる。砲弾が直撃したかのような衝撃。
骨が折れ、肉が潰れる音とともに、虎杖の体が浮き上がる。
「……え?」
「気ぃ抜くな野薔薇!」
放心する釘崎を 咤するように真希が叫ぶ。
「いやいやいやいやちょっと待って! あれ死んでない!?」
地面に倒れた虎杖はピクリとも動かない。気を失っているを通り越して、物言わぬ屍のようだった。
「人聞きの悪いことを言うな。拳が離れる前に反転術式で治癒している、命に別状はない。……おそらく」
「言った! 今おそらくって言ったじゃん!」
攻撃の加減自体はしっかりしている。もし宿儺が本気で殴っていれば、どてっぱらに穴が開いて即死していただろう。
だが、教師が生徒に向ける攻撃としては明らかにやりすぎている。
これが、宿儺の教師としての特徴の一つ。加減はするが容赦がない。
なまじ反転術式という強力な回復手段をもっている分、「やりすぎても治せばいいだろう」という考えが常に頭にあるのだ。こういった模擬戦になると、生徒相手でも三途の川が見えるレベルの攻撃を当たり前のように放ってくる。
「さっさと続けるぞ。時間は有限だ」
五条悟を相手にしたときとそう変わらない緊張感が生徒たちを襲う。
最強相手の模擬戦は、その後半刻にわたって続いた。
「まあこんなところか」
「ぜ、ぜえ……まさか、一発も、当てられないとは」
「かすりもしてねえ……。相変わらずバケモンだな」
30分近くも全力の攻撃を続け、全員が満身創痍。
だが、その攻撃をさばき続けた宿儺は、かすり傷どころか息一つ切れていない。
「強すぎでしょ先生、意味わかんねえ」
「……お前も大概おかしいけどな。なんで最初のあれ食らって十分程度で復帰してくるんだよ」
反転術式によって怪我自体は即座に直されていたものの、それはそれとして最強の攻撃をまともに喰らっていたのは間違いない。
心ごとへし折られてもおかしくないような拳を受けて即復帰してきたタフさ。肉体の強さもそうだが、精神の強さも相当のものである。
「裏梅」
「はい。まず虎杖、お前は一人で突っ込みすぎだ。周りに合わせようとしていないわけではないが、味方の攻撃の邪魔になっている場面があった。もう少し連携を意識して動け」
「マジか、気を付ける」
「次に伏黒。お前は逆に周りに合わせすぎだ。手数が豊富なんだからもっと前に出て攻撃を当てに行け。決めに行く攻撃の方が相手の意識をそらしやすい、味方もそっちのほうが動きやすくなるはずだ」
「分かった」
「釘崎は――」
裏梅による戦闘の総括が続く中、宿儺が虎杖に声をかける。
「腹は問題ないか」
「うん、だいじょぶ。……喰らったときは死んだと思ったけど」
心身ともに後に残るダメージはなかったものの、回復していなければ致命的な重傷を負っていたのは間違いない。
あの時の痛みを思い出し、虎杖の顔が青くなった。
「その感覚を忘れるな」
「え?」
「本気の怒りや死の恐怖は一度は経験しておいたほうがいい。呪力は負の感情から捻出する以上、いつでも思い出せるような、印象に残る記憶を頭に入れておけばいざというときに呪力を練りやすい」
「なるほど……。それであんな強いのを一番最初に」
「……ああ、そうだ」
納得がいった、という目で宿儺を見る虎杖。関わりこそ少ないものの、命を救ってもらったこともあって人間としての尊敬はもともとあったが、今回で教師としての指導力をも見せつけられた。
彼がむける尊敬のまなざしを避けるように、宿儺は顔をそむける。
(初手で加減を失敗したのは黙っておくか……)
「さて」
最強との訓練を終え、生徒たちは皆寮へと戻っていった。
……一人を除いて。
「一級術師は、俺達を除けば術師の頂点に立つ存在だ。最年少にしてその最上位にいるお前は次世代の象徴といっても過言ではない」
一対一の形になる理由は二つ。
単純に、ここから始まる訓練には他の者はついてこれないとわかっているから。
そして、もう一つ。
「特に、近い世代の生徒たちからすればお前は身近な到達点の一つ。態度はどうあれある程度は目標としてみているはずだ。それが圧倒的にやられる姿など、そう簡単に見せるわけにもいかないだろう」
「……」
「こうしてやるのも何度目だったか。いつまでやられっぱなしでいるつもりだ?」
「……今日こそは、一撃入れて見せます!」
辺りの気温が急激に下がり、空気が切り裂かれる音が響く。
そこから先の戦いは、修業とは思えないほど苛烈。しかし、二人の横顔は普通に授業をしている生徒と教師のようにも見えた。
それぞれがそれぞれのやり方で、術師としての実力を高めていく。
そして、ついにその日はやってくる。
「勝つぞ」
就職して執筆の時間が取れずに遅くなりました 申し訳ない・・・
ストックは多少あるので週一ペースで投稿していこうと思います
よろしくお願いします
TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?
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いる
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いらない