現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル  

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前回誤字報告がかなり多くてビビりました
自分じゃ気づけないので本当ありがたい……


懐玉・玉折
両面宿儺


 それが自分の存在を認識したのは、人気のない山の中だった。

 生後数日も経っていない。

 

 腹が空いていた。不快だった。

 

 食えそうなものは全て喰らった。

 手の届く草や実はもちろん、虫やキノコなど手当たり次第に。

 

 獣を見つけることもあった。

 量が多い。食べ応えがありそうだ。そういう感情が湧き、あれを食べたいと思った。

 這いずり、近づこうとすると警戒して逃げていく。

 とても追いつけない速度。あれを遠くへ行かせている足が邪魔だと思った。

 

 次の瞬間、その獣は赤い水を流して倒れた。

 しばらくバタバタともがき苦しんでいたが、だんだんその動きも弱くなり、ついに動かなくなった。

 

 血を飲み、肉を食らった。

 満腹、というものを感じたのは初めてだった。

 

 邪魔だ、と思うとそれを二つに分けられることに気づいた。

 それからは、獣を狩って生きていた。虫や草より、肉の方がうまかったからだ。

 

 それでも肉ばかりを食えるわけではない。

 不承不承他のものを食っていたある日、毒に当たった。

 もちろん、その時のそれには毒物に関する知識などなかったが、それでもこのままでは何かまずいということは理解できた。

 

 死。

 幼子であろうが関係はない。生物として存在している以上、自分が消失するという脅威に対し対抗しようとするのは当然であった。

 

 自身の中にある力。それを利用し、いじくりまわす。

 終わりに近づくほどに、その力が大きくなっていくことがわかった。

 毒が全身に周り、その生命が停止する前に、それを分解し除去する術を身につけられたのは、天性の才能によるものだった。

 

 反転術式と呼ばれるそれを身につけたのは、彼が生まれて3年が経過した時。

 獣達から学び、自らの足で立ち上がるという機能を覚え始めた頃だった。

 

 かなりの数の獣を狩り、小さなものが大きくなることは理解した。家族や群れという概念も。

 だが、自身に近い姿のものを見たことはなかった。そこは人里と隔絶された山奥。特に景色がいいわけでもないこんな場所に、まともな人間は来る理由がない。

 

 だから、初めて彼と接触したのはまともではない理由で訪れた者だった。

 

 

 

 1992年

 

「はあっ、はあっ」

 

 走る。走る。走る。

 背後を気にする余裕はない。振り返った瞬間に、自分の首が落ちている可能性もあるのだから。

 

「ぐっ、くそっ」

 

 痛みに思わず声が出る。

 失った右腕からの出血が激しい。

 反転術式など使えない自分にとって、この怪我は術師として致命的だ。

 

「なんで、こんな――」

 

 なんて事のない任務のはずだった。

 昇格試験すら受けていない自分に回ってきた、単なる二級呪霊の討伐。事前に受けていた説明はそれだけだったし、呪霊の討伐自体は楽なものだった。

 

 そこで帰っておけばよかったのだ。山の奥から感じた呪力など、気にするべきではなかったのだ。

 

 気づけば右腕がなくなっていた。

 何が起きたか全くわからなかった。

 流れ出る血と、燃えるような痛みを感じた瞬間、全速力でその場から離れることを選択した。

 

 下手人の姿は一瞬見えた。

 

 あんなものの存在は聞いていない。

 いや、あれがなんだったのかも正確にはわからない。

 人間ではないことは確かだろう。あんな人間がいるはずがない。いていいはずがない。

 

 そういえば、この土地には一つ伝説があったはずだ。

 二対の顔と腕を持つ鬼神の伝説。

 

 

「両面……宿儺」

 

 

調査報告

 

月 日

 ・■■山付近で目撃された2級呪霊の討伐任務のため担当者(■■二級術師)を派遣。

  標的の呪霊の討伐後、山の奥から感じた呪力を捜索中に担当が右腕を切断される重症を負う。

 

 以下、本人の証言

 

 「四本の腕を持つ何かに襲われた」

 「気づいたら右腕が飛んでいた」

 「信じられないほどの呪力を感じた」

 

 ・当該県で語られている伝説と併せ、該当の呪霊を『両面宿儺の呪霊』と呼称。

 ・早期解決のため、特別一級術師 五条覚の派遣を決定。

 

「……決定事項かよ」

 

 そんな内容の報告書を片手で揺らしながら、一人の男がぼやく。

 年の頃は40~50程だろうか。染めたような不自然な白髪に、現代では珍しい古風な着物が目を引く。

 男の名は五条(さとる)。現在の五条家の当主であり、『両面宿儺』の討伐を総監部より命じられたものでもあった。

 

「はっ、仮にも当主が顎で使われるとは。五条家も地に落ちたもんだ」

 

 この通達は、五条家を一切通さず、総監部とほかの御三家によって決定されたものであった。

 そのあたりの旧家であればともかく、五条家は仮にも御三家の一員である。百年前ならこんなことはあり得なかっただろう。

 だが、今の五条家にこれをはねのけられるだけの権力はない。そんなことをすれば、ただでさえ不安定な地位がさらに危なくなっていく。

 没落しかけている家には、媚びをうって生き残るしか道がないのだ。

 

「しっかし両面宿儺ねえ、また御大層な名前だこと」

 

 両面宿儺とは、飛騨国に伝わる二面四腕の悪鬼、もしくは英雄である。真逆ともいえる評価が両立されているのは、場所によって、その伝説の内容が大きく変化しているからだ。

 日本書紀においては民衆を脅かす悪鬼として描かれる一方、地元の飛騨では龍や鬼を退治する英雄として語られている。

 どちらにしても、かなりの知名度を誇っている存在であることに変わりはない。

 人間の恐怖や嫌悪、畏怖といった感情から生まれるのが呪霊である以上、その知名度は呪霊の強さに直結していくことになる。

 

 例を挙げると、九尾の狐で有名な玉藻の前は、仮想怨霊として特級認定されている。知名度的には多少劣るが、両面宿儺も一級を優に超える実力を有しているのは間違いないだろう。

 

「しかも十中八九術式持ち……」

 

 二級術師が何をされたかもわからずに右腕を切断された。単純な身体能力の可能性もなくはないが、それならその術師が逃げ切れるはずがない。まちがいなく、何らかの術式を所持している。

 

「強いんだろうなぁー、行きたくねー」

 

 

 

 数日後。

 目的の場所へとたどり着いた五条覚は、驚愕に眼を見開いていた。

 

「これは……まじか」

 

 特別一級術師として、これまでもかなりの数の修羅場をくぐってきている。

 自身の命を奪われかねないほどの強力な呪霊や呪詛師と戦った経験も、二度や三度ではない。

 

 だが、これは次元が違う。

 本体の姿が見えていないにもかかわらず、その総量が推し量れるほどの膨大な呪力。呪力に耐性のない一般人であれば、近づくだけでも心臓が止まってしまうのではないかと思うほど。

 数値で測れば、自身の5倍や10倍では済まないだろう。

 

(冗談じゃねえぞ何が一級だ、どう考えても特級クラスじゃねえか!)

 

 敵の戦力が事前の情報と違いすぎる。

 伝達された情報に齟齬があるのか、とも思ったが、頭がそれを否定する。このレベルであればその術師も簡単に報告できただろう。

 

 術師が襲われた時にはこれほどのものではなかった、という可能性もあるが、それ以上に考えられる可能性としては、

 

(あのジジイども、俺に奥の手切らせてウチをさらに追いやるつもりだな?)

 

 術師の中に御三家といった権力争いを行う勢力があるように、総監部の中にも派閥が存在している。

 あくまでも術師としての責務を果たすことを目的とする者。

 呪術規定を絶対視し、それに従うもの。

 そして、自身の権力や財産を増やすことを優先する者。

 

(今五条家がギリギリ持ってるのは、アレを使える俺がいるから。だが、今回の任務に使っちまえばそのアドバンテージも消失する。あとは難癖つけて五条家を御三家から外し、財産やら権利やらを奪い取ろうって魂胆か)

 

 だが、逃げ出すわけにもいかない。

 最低でもなんらかの情報を掴んでから出なければ、五条家の限界っぷりを周囲に喧伝することになる。

 

「半日経っても俺が戻らなかったら帰って上に報告してくれ」

 

「承知いたしました。お気をつけて、当主様」

 

 補助監督であり、五条家としての部下である男に託けを頼むと、呪力の元へと歩き出す。

 それはまるで、龍の口の中へと飲み込まれていくようでもあった。

 

 ◆

 

 自身に似た姿のものと遭遇してから数日。

 あれを追いかけなかったのは、あまりにも自分と力の差があり過ぎたから。狩ってきた獣は多いが、同じ姿のものは速度も力もそこまで変わるものではなかった。

 本当に自分の同族であるならもう少し抵抗できるはずだ。その上、あれの肉は筋っぽくてあまりうまくはなかった。

 仲間でもない、獲物としても旨みに欠けるのであればわざわざあれを追いかける意味もない。

 

 ただ、わざわざ逃がしてやるほどの理由もなかった。自分からこちらの縄張りに入ってきたのだ、殺されても文句は言えない。

 

 それでもあれを見逃したのは、何かが変わる予感がしたから。

 獣を狩り続け、食べるだけの生が終わるように感じたから。

 

 

 そして、それはやってきた。

 何かが自身の縄張りに踏み入る。

 力の総量は自分より圧倒的に少ない。だが、その練度が違う。澱みのない川のように、力がそれの周りを流れている。

 

「お前か。……思ってたより小さいな」

 

 互いが目視できる距離に入る。

 小手調べのように斬撃を放つが、男の周りに展開されたなにかがそれをはじく。

 

 さらに何発かを放つと、その正体が見えてくる。

 

「秘伝 落下の情」

 

 自身を覆い、斬撃自体へ対処するような力の形。

 単純な斬撃では話にならないと悟り、自身の力で直接相手を叩き伏せようと接近する。

 

「速っ……」

 

 相手に向かって腕を突き出す。

 当たれば致命傷になりかねないその一撃。

 

 その腕が相手の間合いに踏み込んだ瞬間、周りの景色が逆転する。

 腕を掴まれ、回転するようにして投げ飛ばされたのだと気づいたのは、頭部が地面に叩きつけられてからだった。

 

 すぐに起き上がり、再び攻撃を仕掛ける。

 しかしどういう理屈か、こちらの攻撃は全く当たらないのに相手の攻撃が的確にこちらを捉える。

 流れる力の量の差もあり大したダメージにはなっていないが、それでもこのまま続けていれば確実に体力を削られていく。

 

 山の獣とは明らかに違う、戦闘のために磨き上げられた技術。

 

 宿儺の目の色が変わる。

 目の前にいるのは、狩られるだけの得物ではない。

 全力を持って排除しなければならない、敵であることに気づいたのだ。

 

 力も速さもこちらの方が上のはず。だが、体の動かし方。力の操り方。そういったものが自分を上回っている。

 使っている力の量はこちらの方が多い。何も考えずに攻め続ければ逆転される可能性もあるだろう。

 

 ならばどうするか。

 簡単な話だ。

 相手が自分より優れたものを持っているのなら、その部分だけを盗み取ればいい。

 

 相手を真似て、力の流れを操作する。

 今までのようにただ爆発させるのではなく、必要な時、必要なところにだけ流すような形で。

 

 

 両面宿儺の動きが変わる。

 今までは、攻撃をする瞬間に拳や足に呪力が流れていくのが目に見えていた。

 やり方が分からなかったのか、呪力を操作するという発想そのものがなかったのか。膨大な呪力だからこそ、その動きは読みやすかった。

 

 だが、今その呪力操作は別次元の域へと変貌している。

 呪力の流れが読めない。なんとか避けたはいいが、空を切る風切り音が今までよりも攻撃の威力が上がっていることを物語っている。

 

(油断させるために隠していたって訳でもないよな……。学習したのか……? 俺の動きから!?)

 

 戦闘経験の差による、体術と呪力操作の精度。

 唯一のアドバンテージが消失してしまった以上、あとはじわじわ削られていくだけだ。

 

 五条家を守るため、数十年の努力によって少しずつ積み上げてきた力。

 それをものの数分で盗み取られた。いや、宿儺のそれはもはや自分が使うものよりも高い精度を保ちつつある。

 

 才能。

 凡人がどんなに努力しようと、それを一瞬で無にしてしまうほど残酷な。

 

 徐々に精度と威力を増していく四腕。

 先ほどのように反撃に移ることもできない。一撃が致命傷になりかねないのは変わっていないが、攻撃同士の継ぎ目が消えているのだ。一つを躱しても残りの三つがこちらの命に手をかけようとする。

 

 腕をはじき、逸らす形で相手の体勢を崩し、ぎりぎりすべての攻撃に対処しているが、それも限界に近い。

 

 拳が顔の横を通り過ぎて行く。

 その瞬間、視界の半分が赤く染まる。

 

「ぐ、あああっ!?」

 

 右の眼球が、顔の一部とともに削り取られた。

 拳自体は躱していたが、宿儺が放ったのは単純な殴打ではない。

 斬撃を体に纏うようにして殴りつけることで、攻撃の範囲を広げていたのだ。

 

 想定外の被弾によって生まれた明確な隙。

 それを見逃すほど宿儺は甘くはない。

 

(ま、ず)

 

 防御に回した腕をすり抜けるように、宿儺の手刀が五条覚の腹を貫いた。

 反転術式を使えない彼にとっては、明らかな致命傷。

 

 それでも、男の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「俺の……勝ち」

 

 

 

 五条覚。

 彼が持つ術式の名は、付喪操術。愛用の道具や武器を操る術式。

 ただ、それだけではない。術式の解釈を変えることで、本来それが持ちえない効力を発揮することもできる。箒を術式対象として選べば、跨ることで空を飛び、風を吹かせて攻撃することもできるようになるだろう。

 

 では、彼が術式に用いる道具とは何であるのか。

 

 彼が懐から取り出したそれは、千年前にある当主が残した呪物。

 限界を迎えた五条家に残された、唯一の切り札。

 

 青い輝きを放つその眼球は、かつての最強の力をしかと宿している。

 潰れた方の目を自らくりぬき、義眼のようにそれをはめる。

 

 一つ。通常時は術式の使用を完全に縛る。

 二つ。自身の目を代償としてささげる必要がある。

 三つ。自身が致命傷を負っていなければ術式を使用できない。

 

 この三つの縛りによって、彼の術式は最大の効果を発揮する。

 

 すなわちそれは、

 

「術式反転 『赫』」

 

 かつて最強が用いた術式、その一部の再現。

 

 

 一分。

 最強の力をその身に宿しておける時間。

 その時間が過ぎた時、五条覚の目の前には右側の腕が消し飛んだ両面宿儺の姿があった。

 

「おい、まじか」

 

 意識をなくした瞬間、体が再生しなくなった。

 呪霊であれば、呪力がなくなるか頭が無くなるまで再生を続けるはずだ。

 

 呪力自体は残っている。それなのに、両面宿儺の腕は再生が止まっている。

 その事実が、目の前の存在がなんであるかを映し出す。

 どうやって身体機能を補っているかもわからないほどの異形の躰。それでも、確かに、

 

「人間なのか……。 この形で」

 

 反転術式は頭で回す。

 気を失っている今、頭をつぶしてしまえば目の前の存在は完全に息絶える。

 自身も満身創痍。代償としてささげる目はもう残っていない。奴が目を覚ませば今度こそ殺されるだろう。

 

 だが。

 

「使える……かもな」

 

 情が沸いた、というわけではない。

 ここまでボロボロにやられたうえで、切り札まで切らされたのだ。どちらかといえば恨みの方がつよい。

 

 だが、それを超えるほどに、目の前の存在には利用価値がある。

 危険度合いを上回るほどの価値が。

 

「コイツ人間みたいなんで連れてく」

 

「はい……?」

 

 この一つの選択が、今後世界を大きく変えることになるなど、この世のだれも予想してはいなかった。




五条覚
・現五条家当主
・術式:付喪操術
・直毘人と飲み友

プロット組んだ段階だとこんな設定過剰なキャラを出す気なかったんですが、このぐらいしないと宿儺に普通に殺されるな……と思ったので変更しました
扱いきれないので名ありのオリキャラはこいつが最後になると思います

なんでこんなバグみたいな挙動する奴が生まれてるのかについても一応理由は用意してます
多分次回で書くかも


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TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?

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