現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
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暗殺は一度失敗すればその後の難易度が跳ね上がる。
特に俺の体は初見殺しみたいなもんだからな、一度存在が知られれば次のチャンスはなかっただろう。
アウトプットで致命傷に近いようなダメージも治癒できる反転術式持ち。星漿体を確実に殺すとなると、お前を引きはがすことが前提条件だった。
空中を戦場に選ぶことは、ホテルでの戦闘を観察している時から決めていた。
これまでの動向を調べると、高専入学まではろくにチームプレイなんざしたことのない人間。そんな奴が任務の成否にかかわるような状況を他人に任せるわけがねえ。ジジイのときの速度が出せるなら、呪霊操術のガキに任せるよりも自分で助けに行ったほうが早かったよな?
それをしなかったのは、空中での移動手段を持っていないからだろう。空中戦でなら俺に分があると踏んだ。
だからメイドをさらって、沖縄まで運ばせた。人質交換で星漿体から離れたならよし、そうでなくても、時間がない中で沖縄まで来るなら飛行機を選ぶだろう。つまり、空中戦に持ち込むチャンスができるってことだ。
コイツの実力なら領域を使えてもおかしくないとは思っていた。確実に相手を殺そうとするならそれを使うだろうことも。
だが、結界術は対象を呪力によって認識する。だから、呪力が完全にない俺は必中術式の対象にならない。術式が発動した瞬間に領域を脱出すれば、呪力で感知できない俺は死んだように見えるだろう。
相手を確実に殺した、と思ったときに生まれる隙はでかい。そのタイミングなら、どんな相手だろうが一撃はあてられる。
なら、その場面で狙うべき個所はどこか。
どうやってまともに生きてられんのかもわからないような身体。反転術式を回す脳みそが複数あっても驚きゃしねえ。
だが。
ここまで接近すりゃわかる。
心音は、確実に一つしかない。
なら、初撃の狙いは決まってる。
◆
「な、に?」
自身の心臓を正確に貫く、無機質な刃。
それを握るのは、確実に領域に飲まれたはずの男。
(領域の中にいるのは確かに確認した、何故生きている!? いや、それより……)
男の生存よりも優先すべき事態が一つ。
心臓。普通の人間であれば明らかな致命傷だが、それは宿儺には当てはまらない。彼の膨大な呪力量と、それによる反転術式であれば、即死しない限り傷の回復は可能。
そのはずだった。
(反転術式が、機能しない!?)
(やっぱ治せないみてぇだなあ!?)
特級呪具、釈魂刀。
その効果、通常の反転術式では回復できない、魂を対象とした斬撃。
釈魂刀によってつけられた傷を回復するには、魂の輪郭を知覚し、魂そのものを修復する必要がある。
しかし、魂を観測できる人間は稀だ。そういう術式を持った術師や甚爾のようなフィジカルギフテッドでない限り、魂そのものを認識する技術はほぼ使えないといっていい。
異形の体を持っていようと、宿儺はあくまで人間。その視界に映っているのは、通常の人間が認識している世界と変わらない。
(危ない橋だったが、渡り切っちまえば何てことはねぇ!)
「賭けは俺の勝ちだ!」
「ぐ、があああ!」
白刃取りの要領で、切り上げられる刃を押しとどめる。
心臓だからまだ意識を保っていられる。だが、この呪具で脳を破壊されればどうあがいても死は避けられない。
釈魂刀の動きが止まる。この状態でも、単純な力比べだけで言うならまだ宿儺に分がある。
彼の身体能力の源は、あくまで膨大な呪力による強化。身体そのものへのダメージは大きいものの、宿儺の呪力はそこまで減ってはいない。
「おいおい、離せ、よっ!」
釈魂刀にかかる力が消える。
相手が力での勝負をあきらめたと気づいた瞬間、背中に鋭い衝撃が走る。
「がっ……!」
蹴り飛ばされた勢いで身体が前へよろけ、その一瞬の隙に胸から刃が強引に引き抜かれる。
視界の端で、噴き上がる自分の血飛沫が相手の顔を赤く染めていくのが見えた。
(詰み、か)
海面に衝突するまで数秒程度。死はもはや避けられない。
無下限呪術を使った男に敗れて以降、可能性すら頭によぎることはなかった敗北。
あの時の宿儺であれば、おとなしくそれを受け入れていただろう。刹那的に生きていたあの時には、死ねばそれで終わりだったから。
今は違う。今の彼には、役割がある。
(任務を……果たす。こいつを、行かせん)
血液が回らない。
視界がぼやける。
意識が薄れていく。
しかし、その眼は死んでいない。
領域展開によって焼き切れ、使用困難な術式。
膨大な呪力でそれを無理やり起動させ、全範囲へと「解」を放つ。
精度、威力共に通常時の十分の一にも満たない拙さ。
それでも、両面宿儺の放った最後の一撃。
それは。
「っ、危ねえな」
敵の体を浅く裂くだけの結果に終わる。
斬撃の到達直前、甚爾が呪霊から取り出した短剣のような呪具。それに防がれた「解」は、最初から何もなかったかのように霧散した。
「……クソッ」
宿儺の目に映った、敵の姿。
彼が自分に向けている眼差しには、敵意以外の何かが含まれているような気がして。
それに疑問を覚える間もなく、宿儺の意識は闇にのまれた。
◆
盛大な水飛沫が肌を濡らし、顔にかかっていた血を落としていく。
空を蹴って落下の勢いを殺しつつ、海中へ沈んでいく宿儺を見送る。
(追撃……いや、流石に星漿体優先だな)
万が一の事態に備え、できれば首を落としておきたい。
だが、狙いは星漿体であって宿儺ではない。
呪霊操術の使い手が乗客を救出し、戦場を離れていったのは確認した。龍の姿をした呪霊の速度を考えれば、今頃高専についていてもおかしくない。高専結界ならともかく、天元の支配する薨星宮まで入られてしまえば、流石に手が出しにくくなる。
ここまで派手にやったのだ。必ず成功させなければ割に合わない。
「……あばよ、真逆の同類」
最後に宿儺の方を一瞥すると、甚爾の姿はその場から消えた。
◆
救出した乗客を補助監督に任せ、高専へと続く長い階段を上る夏油達。
「飛行機は不時着に成功したらしい。乗客は全員無事だ」
「良かった……。けど、宿儺は大丈夫かな」
自分たちを逃がすために一人残った宿儺。あれから数十分は立ったが、いまだに彼からの連絡はない。
戦闘が長引いているのか、それとも連絡ができない状態にあるのか。
それはわからないが、どちらにせよ苦戦を強いられているのは間違いないだろう。
あれだけ入念に行った索敵にも引っかからず、飛行機を襲撃した男。
その実力も含め、得体のしれない敵であることに間違いはない。
それでも。
「大丈夫。彼は最強なんだ」
その言葉に込められた感情。
今の自分では彼に並び立てないという、嫉妬と劣等感。
それを上回る信頼と尊敬。
自分の知る最強が負けるわけがない。だから、自分のできることを全うする。
「急ごう。高専まではもうすぐだ」
階段の終わりも見えてきている。
高専の中まで入ればもう手出しはできないだろう。ひとまず安全は確保できる。そう考えた直後。
カン、と空き缶が転がるような音がした。目の前に飛び出した、灰色の筒のようなものを認識するが早いか、呪霊を呼び出し敵に備える。
次の瞬間、光が辺りを埋め尽くす。
(閃光弾!?)
呪術に全く関係ない、軍用の兵器。
相手の視界を奪うことを目的としたそれは、その役目を確かに果たしていた。
天内と黒井をかばうようにして正面に立っていた夏油の目は、光によって機能不全に陥っている。
呪力によって強化されているとはいえ、反転術式の使えない夏油の視界が戻るには数秒。
たかが数秒。だが、襲撃者が仕事を完遂するのには十分すぎる。
銃声が響く。
肉が斬られる音が、自分の胴体から聞こえる。
最後に、それなりの重さのものが倒れるような振動がして。そこでようやく視界が戻る。
痛みが脳に到達する前に、目に映った光景。
「え」
右手に血の付いた呪具を、左手に発砲したばかりの銃をもった男の姿。
その奥で血を流して倒れる天内。
「……か、は?」
目の前の現実に頭が追い付かない。
あまりにもあっけなく奪われた命。
宿儺と戦っていたはずの男。
自分の胸から吹き出る血。
「くろ、さ、にげ……」
体が地へ伏す前。
唯一生き残る可能性があった黒井へと声をかけ、夏油は意識を失った。
「り、こさま?」
「あー疲れた。おいメイド、邪魔すんなよ。これからコイツ持ってかなきゃならねえんだから」
「あ、あああああああ!」
夏油の言葉が届いていたのかはわからない。
ただ、家族にも等しい存在をゴミのように殺され、黒井が激高するのも無理はない。
「だから邪魔すんなって」
拳を振りかぶった黒井に対し、甚爾は興味もなさそうに呪具を振るう。
無造作、というのがふさわしいような雑な攻撃。しかし、それは術師でもない黒井に受けきれるものではなく。
夏油と同じように胸を袈裟切りにされ、黒井の体が前に倒れる。
「さて急ぐか。さっさと逃げねえと面倒なことになりそうだ」
彼が言い残したのはそれだけ。呪霊に天内の遺体を格納し、その場を去っていく。
後に残ったのは、血の海に沈んだ二人の体だけ。
特級二人による護衛任務は、こうして失敗に終わった。
五条悟に救えない存在は両面宿儺にも救えないぐらいのバランスで書いてます
宿儺が殺していた・見捨てていた相手を五条が救うことはあるかもしれませんが
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TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?
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いる
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いらない