現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
「ほらよ、星漿体天内理子の遺体。五体フルセットだ」
「……マジでやるとはな。一般社会もてんやわんやだぞ」
「あの状況が一番確率高いって言ったろ? 成功したんだからグチグチ言うんじゃねえよ」
航空機が上空で壊れるなど日本ではなかなかないことだ。
不時着に成功し、死者は出ていないとはいえテレビやネットではその話題で持ち切りだった。
しかも、それは対岸の火事であった一般人の話である。
夏油からの報告により、事故が襲撃によるものであったと知らされた呪術界の人間は、その対応に追われている。
事故の原因についてもそうだが、高度数キロから投げ出されながら傷ひとつおわずに生還した人間がいるなど隠蔽しきれるものではない。
その者たちの処遇も含め、高専を含めた呪術界は大混乱に陥っていた。
「で、報酬は?」
だが、甚爾には知ったことではない。
自分を否定した者たちが慌てふためいているのを知れば、むしろ指をさして笑うだろう。
「事前の金額はしっかり支払おう。それ以上は出せんがな」
「何だ、ケチくせえな」
「お前ホント……」
「流石に派手に動きすぎたな。術師が介入してくる可能性もある、そのあたりの隠蔽のためにかなりの金額がいるだろう」
「知らぬ存ぜぬを通せばいいんじゃねぇのか? 俺達に依頼したのは確かだし、かなり協力もしてたが、俺が何する気かは知らなかったろ」
「念の為、だ。会が潰されれば依頼した意味もなくなってしまう」
磐星教の代表、園田が暗殺を依頼したのは、あくまで術師に目をつけられずに天元と汚れの同化を防ぐためだった。
星漿体を殺すのが最優先ではあったが、磐星教を守ることも重要な目的の一つ。
天元の暴走によって人間社会が終わりを迎える可能性もあるが、それは彼らには関係ない。それが狂信者というものだ。
天内の遺体を抱え去っていく園田を、狂人を見る目で見送る二人。
こんなことに関与している時点で、人のことを言えた立場ではないのだが。
◆
仲介役の孔とも別れ、一人歩く甚爾。
夕日のまぶしさに細められそうになった目は、直前に捉えた光景によって見開かれる。
「……マジか」
幽鬼が、そこにいた。
「……見つけた」
異形の肉体に、流れ出る血によって赤く染まった服。見るものすべてに恐怖を植え付けるようなその外見は、先ほど確かに打倒したはずの敵。
(傷口は塞がってない。ならどうやっ……!)
あの状況から生還を果たした理由。
天与呪縛の五感には、その正体が映る。
(呪力で心臓を無理やり動かしてやがるのか!)
薄れゆく意識の中、生き延びるため宿儺が考え出した方法。
負傷の治癒ができないのであれば、別の手段で心臓を動かせばいい。
傷口そのものが閉じたわけではないため、血液は体外へ流れ続けているが、それは反転術式によって補充する。並の術師では数秒持つかも怪しいレベルの呪力消費だが、宿儺は膨大な呪力量と神がかった呪力操作により、それを長時間持続することに成功している。
(……だが流石に消耗はデカいみてえだな。呪力量はさっきと比べりゃせいぜい四分の一程度。逃げるだけならどうにでもなる)
「……久しぶりじゃねえか、元気してたか?」
「……おかげさまでな」
「そりゃよかっ、た!」
会話で気を逸らしつつ懐から取り出していたのは、夏油への不意打ちにも使用した閃光弾。
放り投げた閃光弾が地面に落ちる前に、眩い光が辺りを包む。
即座にその場を離脱しようと地を蹴った瞬間、宿儺の状態に気づく。
その眼は、何事もなかったかのように敵をにらみつけていた。
閃光弾に効力がなかったわけではない。三秒にも満たない一瞬ではあったが、たしかに宿儺は視界を奪われていた。
ただ、その一瞬で焼き付いた網膜の再生を終わらせただけだ。
(反転の出力は健在か! だが数秒は稼いだ、このまま……)
「逃がすか」
「な……!」
甚爾の背を追うように、宿儺が空を駆ける。
それは、数時間前までは持っていなかったはずの技術。使えたのであれば、自分の命が危なかったあの場面で出し惜しみする理由がない。
つまり、あの時数分見ただけの甚爾のそれを見て盗んだということだ。
だが、甚爾が真に驚愕したのはそこではない。
「俺より、速……!」
宿儺が持つ才能。
その中でも、戦闘において最も光り輝くのは、一度目にした技術を模倣し自分のものにする力。
単純に空を面として捉え、足場にするだけではない。
空を踏み込む一瞬、爆発させるように呪力を開放することで、甚爾を超える速度で空中を駆けているのだ。
「『解』!」
反転術式の出力が落ちていないように、呪力が少なくなろうと斬撃の威力は健在である。
自身を裂こうと迫る『解』を紙一重で躱した瞬間、甚爾の体勢がわずかに崩れた。ほんの一瞬の減速。
だが、速度で勝るならばその一瞬で十分。さらに加速した宿儺が、甚爾の頭上を奪う。
その勢いのまま繰り出されるのは、体を一回転させての踵落とし。
とっさに腕を交差させて防御するも、空中にいる以上踏ん張りは聞かない。衝撃が体を突き抜けると同時、背中から地面に激突する。
「……ってえな。なんだ、惚れでもしたのか? 星晶体に」
「……気色の悪いことを言うな」
「じゃあ俺を狙う理由無いだろうが」
任務自体は天内が死亡した時点で終了している。
宿儺が甚爾を狙う理由は無い。
「……確かにな。ただ、」
言葉を区切る。
そこに込められていた感情は、本人にすら理解しきれていない。
「
「……はっ、まあそうだな」
相手が目の前に立っている以上、まだ勝敗は決まっていない。
『現代最強の術師』と『術師殺し』。どちらかが死なない限りは、この戦いに決着はつかないのだ。
片方が呪具を取り出し、片方が駆け出す。
甚爾の全力をも超えるほどの速度で接近する宿儺を、三節根の形をした呪具、游雲が迎撃する。
宿儺の移動ルートへ置いておくように放たれたその一撃は、それを逆に読み切っていた宿儺の腕に防がれた。
だが、その効果はゼロではない。防御のため呪力を集中させていたにもかかわらず、喰らった部分の骨が嫌な音を立ててきしむ。
衝撃で体制が崩れた一瞬を狙い、甚爾が後ろへ距離をとる。
それを追うように放った「解」は、游雲とは逆の手で握っていた呪具に当たった瞬間、残滓も残さず消滅した。
(あの呪具……先ほど見たものと同じか。単純に防ぐのではなく術式そのものをなかったことにされているような感覚……。そしてあの三節根、急所に喰らうのはまずいな、特殊な効果はないようだがそれゆえに純粋な威力が高い!)
そう思考を巡らせる間にも、甚爾の動きは止まらない。
手が届かない距離から再び振るわれる游雲。頭を砕かんばかりの勢いで振るわれたそれは、宿儺の腕によって掴まれた。数瞬前に初撃を防いだように、来るとわかっているのであれば対処することは難しくない。
力任せに游雲を奪おうとした宿儺だが、次の瞬間その手のひらに穴が開く。
甚爾が「解」をかき消した呪具、天逆鉾を口に咥え、代わりに取り出していたのは、何の変哲もないハンドガン。一切の呪力を持たない武器だが、「人を殺す」という目的のためならこれ以上のものはない。
宿儺相手なら急所に当てても致命傷にはならないが、一瞬ひるませるぐらいなら十分。
奪われそうになった游雲を引き寄せると、再び後ろへ距離をとる。
(そろそろ俺の狙いにも気づいたか?)
そう。宿儺を相手に甚爾がとった戦術は極めて単純。
相手の間合いには入らず、しかし自分の攻撃が最大限の威力を発揮する距離を保ち続ける。
空中での戦いのように万里の鎖を使わないのは、単純に有効ではなくなったから。宿儺の方も空中移動を習得した以上、上空から一方的に攻撃し続けることは難しい。
さらに、遠距離からの攻撃には数瞬のタイムラグがあるため、そこを狙われてしまえば一瞬で距離を詰められてしまうだろう。
こうしている今も、胸から流れる血を補充するため宿儺の呪力は減り続けている。莫大な呪力を持つ宿儺といえど、あと数十分もすれば全力の戦闘は難しくなる。
さらに、肉弾戦において宿儺が甚爾に並べているのはあくまで呪力強化があるため。甚爾と正面から張り合うほどの身体能力を発揮できるのは、せいぜい数分といったところだろう。
(消耗の具合を見るにあと五分程度ってとこか? そこまで耐えればあとは殺すも逃げるも好きにできる)
甚爾が勝利を確信し始めた一方、宿儺は手詰まりに近い状況にある。
遠距離攻撃の「解」は天逆鉾で打ち消されてしまう。
触れることができれば「捌」で殺すことは簡単だろう。しかし、相手は絶対に自分を間合いに入らせない。そういう動きを徹底している。
領域が相手に効かないことは先の戦いで理解した。宿儺の「伏魔御厨子」は呪力のないものをも対象にできるが、呪力が完全にない相手を結界にとどめておくことはできないため、術式の発動前に結界外へ逃走されてしまう。
(さて、どうしたものか。手札は……ないこともないが)
一つ、この状況を打開する心当たりはある。
それは、以前自分を負かした男と交わした会話。
◆
「領域使えるようになったんだって? 相変わらず半端ねえなお前の成長速度」
「お前ならいつかご先祖がやってたやつも再現できんじゃねえの?」
「ん? ああ、領域だけなら何人か使える奴もいなくはない。ただ、三代目の当主……例の奴な、そいつが使ってたのは結界を閉じずに領域を展開するって離れ業だったらしい」
「そんなことできんのかって? 俺が知るかよ。ただ、文献とか口伝とかでは結構出てくるしやってたのはマジなんじゃねえか?」
「六眼持ちしかできねえって可能性もあるけど、前例はあるんだしいつか試してみろよ」
◆
(クハッ、賭けだな)
「……領域展開」
「あ!?」
宿儺の口から洩れた言葉と、二つの両手で結ばれた閻魔天の掌印。
(さっきの今で領域だと!? 何のつもりだ? 俺に領域は効かねえってのは見せただろうが!)
自殺行為としか思えない領域展開。
だが、相手は両面宿儺。
(こいつはバカじゃねえ、絶対に何か狙ってやがる! まずい、離れ……)
領域を扱うために必要なのは、心象風景を具現化する範囲を決めるための外殻。
外殻がなければ、何処まで世界を塗りつぶすかを決められないため領域の展開は失敗する。
そして、空を面で捉えるというのは、何もない空間を壁として扱うのに等しい技術といえる。
つまり、結界を閉じない領域を展開する方法とは、空間そのものを領域の外殻として定義すること。
伏魔御廚子
宿儺の背後に、厨子と牛の頭骨のような物体が出現する。
空中での領域展開の時にも確認した、宿儺の心象風景。
だが、その展開方法は先ほどとはまるで違う。
周りの風景は全く変わらないままに、宿儺の周囲だけが塗りつぶされていく。
(領域の……外殻、逃げ場がねえ!?)
先の戦闘で甚爾が領域の影響を受けなかったのは、術式の発動前に閉じられた結界から脱出することができたからに過ぎない。
簡易領域や彌虚葛籠といった領域対策の技を使えない以上、無生物をも対象にできる宿儺の領域に対し、対抗できる手段は存在していない。
宿儺は閉じない領域の成功率を上げるため、そして万が一にも周囲に人間がいた場合に巻き込まないため、領域の要件を変更している。
伏魔御厨子に付与された術式から、呪力のあるものを対象とした「捌」を外し、呪力のないものを対象とした「解」に限定した。
激しい雨音のように、斬撃音が連続する。
半径五十メートルほどに存在していた建築物が、削り取られるように消滅していく。
領域の範囲内から逃げ切ることができなかった甚爾の体も、「解」によって切り刻まれていく。
数秒もたたないうちに、半球状に抉られたクレーターが出来上がった。
その中心に立つ宿儺は、地獄の王にもみえる様相で正面の敵を見下ろした。
急ごしらえの閉じない領域では、十全に効果を発揮することはできなかったのだろう。
生来の肉体の強さもあり、本来肉片と化していただろう甚爾は、その全身を切り刻まれただけで済んでいる。
だが、その領域は間違いなく致命傷をあたえている。
内臓が見えるほど深い傷が全身を包んでいるのだ。宿儺レベルの反転術式持ちでなければ、命をつなぐことはできないだろう。
「……何で、だ」
「まだ息があるのか……。ハッ、呆れた生命力だな」
甚爾の口からこぼれた疑問の声。それは、自身の敗因を問いただすものではない。
「何でお前は、そこに居られる……?」
呪いを持たずに生まれたことで、一族から迫害を受けた男。
あまりにも強力な呪いを持っていたことで、親から捨てられた男。
正反対だったからこそ、どこかで似通っていたかもしれない存在。
禪院甚爾には分からなかった。
自分以上に忌み嫌われるであろう異形。人間社会で生きていくことなどとてもできないであろう体を持ちながら、何故人を救う立場でいられるのか。
「……何故、か」
死の間際にいる男の言葉。
切り捨ててもいいはずのそれを受け止めた理由は、宿儺自身にも分からなかった。
術師になったのは成り行きに近い。元から期限付きの縛り、覚が提示した目標に届けばそのあとは自由。
だが、術師をやらない自分など想像もできない。ほかの生き方を選べないから、という話ではない。仮に普通の体だったとしても、自分は術師になるだろう。
何故、自分は呪術師をやっているのか。
人を救いたいから?
違う。どこの誰がどう死のうが、自分には関係がない。
地位や名誉のため?
違う。他者からの評価などどうでもいい。
力を振るいたいから?
違う。戦闘を嫌っているとまでは言わないが、積極的に何かと戦いたいと思うほどではない。
なら、何故。
その時宿儺の頭に浮かんだのは、今まで出会った人間の顔。
完全な呪いと化す前に、自分を拾い上げた男がいた。
呪いを払うだけの装置になりかけていた自分を、単なる生徒として扱った教師がいた。
自分と歩幅を合わせて歩く、クラスメイトや後輩たちがいた。
だから、理由は一言で言える。
「俺は、きっかけに恵まれた。それだけだ」
「……は、そりゃあ、羨ましいこった」
(……いや、俺にもあったか、きっかけが)
記憶を縛り付け、忘れようと務めた顔が、頭の中を駆け巡る。
こんな曲がった人間を、純粋に愛してくれた女性の顔。
そして、その女性が慈しむように抱きかかえる、自身の息子の姿も。
「……おれのガキを、頼んでいい、か」
「ガキ? 何の話……」
今際の際に
「……チッ。言いたいことだけ言って死ぬとはな」
どこか未練を感じるような表情をした男の死体へ吐き捨てる。
「ふざけるな。餓鬼の面倒などごめんだ」
プロット書いてて若干境遇似てるなと思った二人
TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?
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いる
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いらない