現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル  

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玉折ー壱ー

 それを先に目撃したのは、宿儺ではなく夏油の方だった。

 

 宿儺が海中から這い上がり、補助監督から状況を確認し甚爾を捜索するまでのタイムラグがあったこと。

 夏油たちが薨星宮の内部に入り込んでいなかったため、重傷を負った彼が見つかるまでの時間が早かったこと。

 宿儺の呪力が限界に近かったことで、いつもの莫大な呪力に慣れていた夏油がその気配に気づけなかったこと。

 

 この三つが重なったことで、夏油は宿儺と甚爾の戦いとすれ違った。

 それが彼にとって幸運だったのか不運だったのかはわからない。確かなのは、甚爾の死亡とほぼ同時刻に、夏油はその部屋へと入っていたこと。

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ――と。

 拍手の音で埋め尽くされた白い部屋。

 

 何かを囲むように、円形になっている信者たち。自らの目で確かめる前から、そこに誰がいるかわかってしまう。

 

 拍手の音は鳴りやまない。

 

 信者たちをかき分け、それを目撃する。数時間前まで隣を歩いていた少女が、物言わぬ姿で転がされていた。

 

 貼り付けたような満面の笑みを浮かべ、少女の死を祝福する信者たち。

 そこに罪悪感や葛藤は微塵も感じられない。なぜなら、これは正しいことだから。

 

 拍手の音は鳴りやまない。

 

「……」 

 

 夏油が天内の遺体を持ち去ろうとするのを止める者もいない。信者たちにとって、天内理子という個人の生死など、究極的にはどうでもいい。重要なのは、信仰対象である天元が、穢れと同化しなかったことなのだから。

 

 拍手の音は鳴りやまない。

 

 天内の遺体を抱えながら、その場を立ち去ろうとする夏油。俯いたままだったその顔を上げさせたのは、後ろからした一つの気配。

 扉越しにでもわかる、禍々しくも慣れ親しんだ呪力。夏油が入ってきたのと逆の扉から、両面宿儺が現れる。

 

「無事か、夏油」

 

「……宿儺こそ。血の量やばいよ」

 

 その瞬間、拍手の音が停止する。

 

 時間が止まったかのような気色の悪い静寂。

 一拍おいて、信者たちの表情が恐怖に染まる。

 

「ば、化け物!」

 

「……は?」

 

 言葉の意味が理解できない。

 今の今まで少女の死を笑顔で喜んでいた連中が、その死を止めようと戦っていた者を化け物と呼んでいる。

 

 拍手の代わりに悲鳴が鳴り響く。

 一目散に逃げていく背中が見える。

 腰を抜かし、地を這うように後ずさる者がいる。

 

 恐怖にゆがんだ眼。

 人の弱さと醜さを凝縮したような黒。

 

 そんな視線を気にすることなく、宿儺は夏油へ声をかける。

 

「黒井は?」

 

「……」

 

「……そうか」

 

 返答が返ってこないことが答えだった。

 その場に宿儺がいれば結果は違っていたかもしれないが、すべては後の祭り。あの二人は死亡した。これがすべてだ。

 

「さっさと行くぞ。こんな騒々しいところに長居するのはごめんだ」

 

「…………ああ、そうだね。早く、会わせてあげよう」

 

 遠ざかっていく畏怖に満ちた声。質量などないはずのそれが、背中にへばりついていくような感覚がする。

 同じ道を歩いているはずの、二人の歩幅がずれていく。

 本人たちすら、それに気づいていなかった。

 

 

 数日後、五条家。

 

「お疲れ。心臓ぶっ刺されたって聞いたが大丈夫か?」

 

「ああ。厄介な呪具だったがもう治した」

 

 呪力が切れる前に魂の輪郭の知覚に成功したことで、心臓の治癒は済ませていた。

 それよりも予想外だったのは。

 

「……意外だな。小言の一つでも言われるものと思っていたが」

 

 いつものように当主の部屋に呼び出された理由は、初めて任務を失敗したことを 責するためだと思っていた。

 まっとうにねぎらいの言葉をかけられると、困惑の方が大きい。

 

「お前俺を何だと思ってんだ? お前と……夏油君だったか? 特級が二人もいて失敗したならどうにもなんねーだろ」

 

 単騎での戦闘能力で頂点に立つ宿儺と、手数の豊富さで他の追随を許さない夏油。

 日本においては最高とも呼べる戦力をぶつけてそれでもダメだったのだ。これで宿儺にあたるほど、覚も狭量ではない。

 

「やばそうなのは禪院家の方だしなあ。ほとんど勘当されたようなもんとはいえ、前当主の息子があんだけの騒ぎ起こしたわけだから」

 

 重要な任務に失敗したことで、五条家の立場が悪くなったのは間違いない。ただ、そこまで大きい影響があったわけでもない。

 護衛自体は失敗したが、下手人をしっかり仕留めていたことや、飛行機事故による犠牲者を0に抑えたことで、最低限の対面は保たれている。

 

「それに、天元様も安定してるらしいからな」

 

「何? どういう意味だ」

 

「たしかに天元様の進化は起こったはずなんだが、不気味なぐらいに変化がない。今後何か起きる可能性はあるが、今のところは気にしなくても問題ねえよ」

 

「……そうか」

 

 宿儺は、その言葉に動揺した自分自身に少し驚く。

 日本の安寧がどうこうの話にはあまり興味がない。なのに、天内の死には深い意味がなかったとという事実が、妙に胸に残る。

 

 沖縄で見た寂しそうな笑顔が頭に浮かぶ。その少女が家族と慕っていた女の顔も。

 

 生涯二度目の敗北。

 それは一度目よりも深く、宿儺の心に突き刺さっていた。

 

 ◆

 

 二人の心にそれぞれの傷を残しつつ、護衛任務は終了した。

 

 宿儺と夏油の道が決定的に分かたれたのは、それから一年後のこと。

 同じ日に向かった別々の任務と、そこでの出会いが、彼らの目指す先を決めた。

 

 

 

TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?

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