現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
夏油が教室に登校したとき、そこには家入がいたが、宿儺の姿が見えなかった。
「おはよう、硝子。宿儺は?」
「任務いったってさ」
あの一件以来、宿儺が割り当てられる任務は増加した。
空中移動を覚えたことで対応可能な案件の幅が増え、あの時の失態を取り返すようにあちこちを飛び回っている。
「顔も見せずに出てくとか薄情な奴だよねー。……後輩が死んですぐだってのに」
「……強いんだよ、彼は」
「……そうかもね。夏油も任務でしょ? 頑張れ」
「ああ。行ってくるよ」
◆
旧●●村
「ハッ、絶景だな」
皮肉るように目の前の光景を笑う。
ただの雪ならまだ異常気象で片付く。だが、完全に凍りつき氷像のようになっている家などどう考えても自然のものではない。
(二級呪霊の討伐任務だと聞いていたんだがな。どう考えても術式持ちだぞ)
異変の対処に当たっている様子の住民たちは涼しげな格好をしているあたり、凍結してからそう時間が経っているわけでもないらしい。
そんなことを考えていると、慌ただしく動いていた女性が声をかけてきた。
「あなたは……?」
「あー、フィールドワークに来た学生だ。それよりこれは何があった?」
呪霊を討伐しに来た呪術師です、などと正直に言えるはずもなく、術師の間でよく使われている方便を使う。
どんな答えを返そうと、2Mを超えている奇妙な服装の男など不審者にしか見えないのだが。
「私たちも何があったのかわかりません。気がついたらこんな状態になっていて……」
「人的被害は?」
「それもわかりません、ドアや窓も凍り付いていてあの家の中がどうなってるのか……」
何とか扉を開けようと四苦八苦しているが、かなり厚い氷で覆われているらしく、開けるのには時間がかかりそうだった。
「どけ」
「? 誰……え!?」
近くにいた男を押しのけ、ドアの前に立つ。普通の人間なら道具を使わないと砕けないような氷だが、宿儺にとっては大した障壁ではない。
片足で蹴りを入れると、バキバキと音を立てながらドアが内側に倒れだした。雑なやり方ではあるが、中に何がいるかわからない以上さっさと入ってしまったほうがいい。
「な、何者だ君!?」
「何があるかわからん、俺が呼ぶまで入ってくるな」
驚愕している男に忠告してから家の中に踏み込む。
玄関も廊下もすべてが凍り付いているが、人間の姿は見当たらない。
さらに奥へ進み、リビングに入ると、その中にあったのは四つの氷像。
完全に氷で固められ、意識もないらしい。まだ凍死しているわけではないが、このままでは時間の問題だろう。
「……」
それらに向かい指を向ける。
「解」
斬撃音に続き、何かが崩れる音が響いた。
◆
簡単にやることを済ませると、先ほどの男達が中に入ってきた。
「君、大丈夫か!?」
「おい、この家に住んでるのはこれで全員でいいのか?」
その場で凍っていたのは三人。
ほかに家族がいるのであれば、犯人を目撃している可能性が高い。
「えっと、汐梨ちゃんはいる、けど裏梅ちゃんはどこに……」
「やっぱりあの子が……」
「……その裏梅というのは?」
平常時なら見知らぬ男の質問に答えることはなかったかもしれない。
しかし、ただでさえ異常な状況で気が動転していたのだろう。裏梅という子供について、宿儺へ説明し始めた。
「少し変わった子で……。髪の色が真っ白なのもそうなんですが、その……あの子がそばにいると、やけに寒かったり、ものが凍ったりすることがあるんです」
(なるほど、大体見えてきたな)
十中八九、これをやったのは裏梅という子供だろうとあたりをつける。
ここまで大規模なものはあまりないが、潜在術師が自覚なく呪術を暴走させてしまうこと自体は珍しいことではない。
入口をよく見れば、裏梅がどの方向へ行ったのかも理解できた。
都市部と逆の方角、山があるほうへと残穢が残っているのがわかる。
(人のいないほうへ逃げた……いや、人を巻き込まないよう離れたのか)
補助監督への連絡を済ませると、住民へ声をかける。
「この手の現象に詳しいものを呼んでおいた。そう遠くないうちに到着するだろうが、それまではあまり派手に動かないほうがいい」
「あ、あの!」
◆
「ハアッ、ハアッ」
走る。走る。走る。
自分の罪から逃げるように、走り続ける。
素足のまま飛び出してきたせいで石や枝が刺さっているが、そんなことも気にならない。
「ぐ、うううう」
涙が溢れる理由は、体ではなく心の痛み。
昔から周りと違っていた。
家族と違う白い髪だけではない。皆に見えないものが見えたり、周りのものを凍らせてしまったり。
家族も近所の人も、そんなこと気にするなと言ってくれてはいたが、自分がおかしいことは裏梅自身が一番よくわかっていた。
何とかこの体質をコントロールしようと努力した。
自分の体を温めてみたり、どういうときに冷気が出てくるのか調べてみたり。漫画やアニメが好きな姉が教えてくれたことを応用してみたりもした。
だが、結局完全にコントロールすることはできなかった。
周りの人を凍らせるような強力な冷気を出すのを一時的に抑えるので精いっぱい。しかも、その分の冷気は後で放出しなければ暴発してしまう。
何とか日常生活を送ることはできたが、根本の原因が何とかなったわけではない。
そして、今回のことが起きてしまった。
冷気を抑えきれなくなったわけではない。自分の意志で解放した結果、周りの全部を巻き込んでしまった。
父も、母も、姉も。
しっかり確かめたわけではない。そんな度胸はない。ただ、あんな状態で生きていられるとも思っていなかった。
家族を自分の手で殺した。そんな重荷に、6歳の子供が耐えられるはずもない。
せめてこれ以上被害を出さないように、人のいる場所から離れることしかできなかった。
「ハア、ハア」
気づけば、そこは高い崖の上。
危ないから子供は立ち入るなと言われている場所だが、今は危ないからこそここに向かっていた。
「ごめん皆。今行くから」
身を投げる。
裏梅は何故か人より体が丈夫だったが、この高さから落ちればさすがに死ねるだろう。
自分の体が落下していく感覚を味わった、その瞬間。
「え?」
突如体が停止する。
何が起こったのかと目を開けると、自分の手を見慣れない男がつかんでいるのが見えた。
「おい、お前が裏梅だな?」
◆
「っ、離せ!」
裏梅の感情に呼応してか、彼女を掴んでいる宿儺の腕が凍り始める。
(術式……というより呪力そのものが冷気に近いようだな。本人が意図せずとも周りを凍らせるとは、面倒な呪力特性だ)
だが、そんなもので怯むようならそもそもこんなところに来ていない。離せという言葉を無視し、一息で裏梅を崖上に放り投げる。
「ぐっ……なんで邪魔する!? あなたも見たんだろう、あれを! 私が生きていたらまた同じことが起こる! だから、私は生きてちゃダメなんだ!!」
「……」
裏梅の問いかけに対し、腕を組み考え込む宿儺。
今までなら死にたいのなら死ねばいいと突き放していたはずだ。
なのに、何故か。
(何故俺は苛立っている……?)
何故か異様に腹が立つ。
他人の命になど興味はない。重要な護衛対象でもない、先ほどあったばかりの子供ならなおさらだ。
(そうだ。天内、黒井、灰原。お前らのせいか)
頭に浮かんだのは、自分が救うことのできなかった人間。
少しでも状況が違っていれば、今も生きていたであろう者たち。
性別も年齢もまるで違うが、彼らには一つの共通点がある。
それは、彼らの死に意味はなかったということ。
黒井は言うまでもないだろう。暗殺のターゲットですらなかったのだから、あそこで殺されたことに意味はない。
天内もそうだ。同化を行わなくても天元に異変がなかった以上、わざわざ命を奪われてしまう意味はなかった。
そして、灰原。
ほんの数日前だ。簡単に終わるはずだった二級呪霊の討伐任務。だが、そこで遭遇したのは本来一級術師が対処するような土地神。
まだ二年の七海や灰原にどうにかできるはずもなく、彼は命を落とした。
その任務を引き継いだ宿儺が標的に対して抱いたのは、「この程度なのか」という落胆にも近い感情。戦闘と呼べるようなものすら成立せず、「解」を一発放っただけでその呪霊は消滅した。
確かに、一級以上でなければ倒すのは難しい相手ではあった。だが逆に言えば、一級以上の術師であれば祓い切れて当然というレベルでしかない。もしも冥冥や日下部、夜蛾が同行していたのならば犠牲者などでなかっただろう。
呪霊のレベルを測り違えていた以上、どうしても死人は出ていたかもしれない。
それでも、それが灰原でなければならない理由は一つもなかった。
家族も友人もいる、明るい少年である必要などどこにもなかったのだ。
(死にたくなくても殺された連中がいるというのに、死ぬ必要すらない人間が自分から命を絶とうとしている。俺はそれがどうしようもなく不愉快なのだ)
「くっくっく」
「……何で笑ってるんだ」
「いや? 絆されたものだなと思っただけだ」
宿儺が憤っている理由は要するに、「命を粗末にするのが許せない」である。数年前の宿儺なら鼻で笑うような考え方だ。
その変化を成長と呼ぶか、劣化と呼ぶかは人によるだろう。ただ宿儺本人は、変わった自分を不快に思っていないのは確かだった。
「死ななくてはならんというのは、貴様の家族のこともあってか」
「……ああ、そうだ」
「勘違いを抱えたまま死ぬのも間抜けな話だ。一度村に戻ってみろ」
「え……?」
◆
「裏梅! よかった、無事だったんだ!」
「姉さん……? 何、で」
「運がよかったな。凍り付いてそこまで時間がたっていなかったから、俺の炎と反転術式での治癒が間に合った」
大半の相手は斬撃で仕留められるため使う機会はほとんどないが、宿儺の攻撃手段は斬撃だけではない。
宿儺の術式『御厨子』は、二種類の斬撃「解」と「捌」によって調理した対象を、「竈」によって焼き尽くすことができる。
その力を応用し、凍死寸前の体を温めたあとで反転術式による治癒を行った。
火炎放射器で冷凍食品を解凍するような無茶な使い方だが、宿儺の力量であればそこまで難しいことではない。
「父さんと母さんはまだ寝てるけど、命に別状はないって……」
「姉さ……、っ!」
姉に抱き着こうとした裏梅だが、先刻の光景を思い出たのか、その足が止まる。
「本当に、良かった……。ごめん、ごめん」
踏み出せなかった裏梅に代わるように、汐梨が彼女の方へと歩み寄る。
「何謝ってんの。 助けようとしてくれてたの、わかってるよ」
二人の会話を聞きながら、宿儺は事件の全貌を完全に把握した。
一般人には見えていなかったが、あそこで凍らされていたのは四名……もとい、三人と一体。
裏梅の家族のほかに、何かに襲い掛かろうとしたような姿のまま固まっていた呪霊が存在していた。
おそらく、元々宿儺が祓うはずだった呪霊。
それが何かの拍子にあの家に入り込み、氷見家の家族を襲おうとしたのだろう。その場面に居合わせていた裏梅は、それから家族を守ろうとして呪力を解放、結果として周りのすべてを凍らせてしまった。
家族を凍らせてしまったのは、あくまで呪霊から家族を守ろうとした結果だったのだ。
(姉の方は術師ではないが呪霊が見えていたらしいな。それで妹を心配していたわけだ)
そして、泣き出した裏梅を心配しているのは家族だけではない。
「ちょ、足血だらけじゃないか! 宿儺さん、裏梅ちゃんの手当てしてやってよ!」
「怪我ならもう治してある。血がついているだけだ」
「そっかあ、良かった! でも泥もついてる、早く洗ったほうがいい」
明らかに超常の力を持つ裏梅を、普通の子供のように心配する人々。
普通じゃない、というだけで子供を排斥できるほど、この村の人間は弱くはなかった。
その結果として異変が村の外に伝わらず、今回のような事件が起こってしまったのは皮肉な話である。
(優しい、というよりは能天気といったほうがいいか。平和ボケした連中だ)
裏梅を追いかけようとしたときに、汐梨と交わした会話を思い出す。
◆
『あ、あの!』
『なんだ』
『あなたも、不思議な力を持ってるんですよね! なら、裏梅を……私の妹を助けてくれませんか!?』
『……おまえ、俺や妹が怖くはないのか? たった今その力で殺されかけたばかりだろうに』
『けど、助けてくれたじゃないですか』
『結果論だろう、俺が来るのが数分遅ければ死んでいた。そうなってもお前は同じセリフを吐けるのか?』
『うん。私はお姉ちゃんだから。あんな悲しそうな顔してた妹を放っておけない』
『……家族とは、そこまで大事なものなのか?』
『そうだよ。だから、お願いします』
◆
「フン」
裏梅は、あらゆる意味で運がよかった。
あの会話がなければ、宿儺が彼女を見つけるのはもう少し遅くなっていただろう。
誰かに生きることを望まれていたからこそ、宿儺は裏梅を追いかけていたのだから。
「感動の場面に悪いが、今後の話をさせてもらうぞ」
「今後?」
「もう隠す必要もないだろうが、俺はお前の同類だ。その力を学ぶ学校からここに派遣されてきた。そこでならお前の体質と付き合っていく方法も教えられる。将来の選択肢は絞られるかもしれんがな」
「……いいのかな、普通に生きていても」
また今回のようなことが起こってしまえば、今度こそ本当に犠牲者を出してしまうかもしれない。
その恐怖が、裏梅の足を止めている。
その心情を察しつつも、宿儺は知るかと吐き捨てる。
「自分の在り方なんぞ自分で決めろ。その力をどう使うかはお前次第だ」
裏梅よりよほど怪物地味ている宿儺ですらこうして社会で生きている。呪力の扱いさえ覚えればそれでどうとでもなるなら、いくらでも人間として生きられるはずだ。
「よろしく、お願いします!」
「ああ。とりあえず、この家周辺を何とかしてからだな」
(……とはいったもののガキの世話などわからんぞ。夜蛾や夏油……女となると家入のほうがいいか? あいつらも巻き込むことにしよう)
◆
同時刻
旧⬛︎⬛︎村
絶叫が響き渡る。
自分がなぜ殺されるか、何に殺されるのかもわからない、不可解に満ちた死。
その中心にいる一人の青年。彼が投げ捨てた高専のボタンが、村人たちの血の海に沈んだ。
来週も投稿できるか怪しいです申し訳ない
年末年始は多少余裕ができると思うので更新速度を戻していきたいと思います
TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?
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いる
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いらない