現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
その日伏黒恵は、生まれて初めて防犯ブザーを鳴らすかを本気で悩んだ。
学校からの帰り道のことだった。
いつも通っている通学路に、明らかな異物が一つ。
全体的に黒づくめの服装。
何より目を引くのは、顔の半分を黒い布で覆っていること。目出し帽のようにもみえるそれは、これから犯罪を犯しに行くといわれても納得するような風体だ。
それが自分の家の前に立っている。
まあ、それだけならいい。狭いアパートではあるが、ほかにも住民がいる以上、自分にかかわりのある客ではない可能性も高いからだ。
問題は、その人物が放っている気配。
自分の持つ力を何十倍にもしたような、空気が物理的な重みを持ってのしかかってくるような圧迫感。
これで自分と無関係ということはいくら何でもないだろう。
このアパートの住民に、伏黒と同じように不思議な力をもっている人間はいないのだから。
本能的な恐怖で少し後ずさりをしたが、その微かな音で気づかれた。
「お前が伏黒恵か」
「……ああ、そうだけど。アンタは誰だ」
敵意は感じなかったためひとまず会話を選ぶ。ただし、距離は保ったままだ。
もし襲い掛かられたとしても、この距離なら大声で叫ぶ程度の暇はある。
「……色々と事情が複雑だな。一言で言ってしまえば、お前の父親を殺した者だ」
「は?」
冗談のように軽い一言。
だが、それが現実味を帯びているのは目の前の男が発する雰囲気のせいだろうか。
疎遠に近く、ほぼ関心がなかったとはいえ、実の父親。
その死をいきなり突きつけられた伏黒の動揺は大きかった。
「なん、で」
「正当な理由があり始末した。それについても詳しく話すが、場所を変えたい。お前の家に上がらせろ。それとも、俺の方でやるのがいいか?」
自分で言っていてわかっているのだろう。こんなあやしい男についていくわけがないと。
他の場所へ連れていかれるよりも、勝手知ったる自分の家で話すほうがまだましだ。
無言で家へと入ると、すでに帰っていた義姉の津美紀が出迎える。
「おかえりー……。恵、その人だれ?」
「俺に用事があるらしい、外出てろ津美紀」
「いや、ソイツにも関係のある話だ。ここで聞いていたほうが――」
「ダメだ」
「……そうか」
義理とはいえ父親の死に関すること。そんな話をいきなりするわけにもいかない。
小1とは思えないほど達観している伏黒はともかく、津美紀はあくまで普通の子供だ。
大きなショックを受けるのは間違いない。
さっきの会話からして、目の前の男がそのあたりに気を使うとは思えない。
まずは自分が詳しい話を聞いた上で、内容によっては自分だけで留めた方がいいと伏黒は判断した。
「晩飯の買い物に行っててくれ。俺は大丈夫だから」
「危害を加えるようなことはない。俺はあくまで話をしにきただけだ」
その言葉に嘘はないと感じたのか、津美紀は不承不承ながらも頷いた。
「わかった。……気をつけてね」
バタン、とドアが閉まる。 狭い玄関に、重苦しい沈黙が落ちた。
「じゃあ聞かせろ。なんであいつを殺した?」
「飛行機を一機墜落させたうえで、女子中学生とその家族一人を殺害したからだ」
「……はぁ?」
伏黒の脳裏によぎったのは、一年前に世間を騒がせた飛行機の墜落事故。
完全に原因が不明な上、飛行機に大穴が空いたにも関わらず死者数はゼロという不可解な点が多すぎる事故で、連日連夜マスコミが大騒ぎしていたのがまだ記憶に残っている。
「自分におかしな力があることは気づいているか? お前の父親も似たような力を持っていてな。その力を使い、殺し屋まがいのことで金を稼いでいたらしい」
信じられない、という否定よりも、何してんだあのロクデナシ、という悪態が先に出た。
実の父親に対して向ける感情ではないが、あの親父ならやりかねない、という思わせる記憶は伏黒の中にもいくつかあった。
やけに物騒な発言、どこから稼いでいるかわからない金、突然いなくなったと思ったら大金を稼いでひょっこり帰ってくるなど、どう考えてもまともな仕事をしていないのは伏黒も分かっていた。
まさか、人殺しを生業としていたなどとは想像もしていなかったが。
「本題に入る。お前の父親の生家は禪院家。俺達呪術師の中では御三家の一つに数えられるほどの名家だ。このままいけば、お前はその家に引き取られることになる。父親の生前にそういう契約が結ばれていたらしい」
「……津美紀は、どうなる?」
「禪院家に求められているのはあくまで術式持ちのお前だけだ。まあ、ついていくこともできるだろうが勧めはしない。禪院家……というより呪術界の古い家は、平安時代から価値観が変わっていないような場所ばかりだ。普通の幸せとやらを掴むのは難しいだろうな」
(なら、論外だ)
どんな場所なのか詳しく分かったわけではないが、津美紀がまともな扱いを受けないことだけはわかる。
うっとうしく思うことも多いが、それでも伏黒にとって津美紀は大切な家族。彼女が幸せに生きられないのであれば絶対にそんなところへ行くわけにはいかない。
最悪でも、津美紀だけは禪院家とやらの影響を受けないようにする。そんな覚悟を固めた伏黒。
その真剣な表情を見て、宿儺は笑う。
「冗談じゃない、といった顔だな。俺が来た理由もそれについてだ。まだどうなるかわからんが、禪院家との交渉次第ではお前が引き取られるまでに多少の猶予を作れる」
「!」
「おそらく高校卒業あたりまでといったところか。それまでの金銭的な援助も俺の通う高専から通す。その分呪術師として働いてもらうことにはなるだろうが」
その提案は、今の伏黒にとって無視できないものだった。
特に、金銭面での援助が大きい。
今伏黒と津美紀は、津美紀の母親が残していった少ない資金をなんとかやりくりして生活している。だが、その金も尽き始め、最近は光熱費の催促状が届くようになった。
後2、3か月持つかも怪しいような状況だったが、金銭面での援助が出ればかなりの余裕ができるだろう。
だが、そう簡単には首を縦には触れない。
「なんで、そこまでしてくれるんだ? 理由がわからない」
いくら何でも話がうますぎる。
話を聞いている限り、父親と良好な関係だったわけでもない。そもそも、本人曰く殺し合いをしていた間柄だ。どう考えても敵対していたのだろう。
それなのに、その息子に対して破格ともいえる条件で交渉を行っている。
何か裏の目的があると考えるのが自然だ。
「禪院家内部に貸しを作っているやつがいると便利なんでな。……それと、オマエの父親の遺言だ」
「え……?」
「奴は間違っても善人ではないが、そうなるに足る理由もあったらしい。まあ、それを知ったのは殺してからだが」
一歩間違えれば、自分がそうなっていたかもしれない存在。
生まれ。力。境遇。すべてに恵まれなかった男が、最後に息子のことを言い残した。
小学生にもなっていない息子を数年間放置していたような男が、今際の際に何を思ったのか。そこにどんな感情があったかは宿儺にもわからない。
ただ、記憶の片隅にとどめておく程度には、その言葉が印象に残っていたのも事実だ。
「『俺のガキを頼んでいいか』。奴の最後の言葉はそれだった」
「……なんなんだアイツは。勝手に置いて行って、それかよ」
伏黒は、必死に父親との記憶を辿る。
だが、どんなに思い出そうとしても思い出せないものがあった。
家族で写真を撮るような普通の家庭でなかったこともあり、父親がどんな顔をしていたのかは、伏黒の記憶の中には残っていなかった。
彼が自分を置いて行ったとき、最後に見せた顔がどんなものだったのか。それがわからないのを、少し悔しく思った。
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「というわけだ。何とかしろ」
「事後承諾で無茶ぶり振ってくんのホントやめてくんねえかなあ!?」
五条覚はこの辺の無茶ぶりを何とかしてもらうためだけに生まれたキャラクターだったりします
多分現代だとまともな出番は無い
TS要素裏梅しかないんですが必要ですかね…?
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いらない