現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
「無愛想な態度だけど、割と楽しい奴だったよ。一緒に先生に怒られたりもしたね」
「へぇー」
「それと」
「それと?」
「私は、⬛︎⬛︎だと思ってたよ。……向こうがどう思ってたかは、わからないけどね」
高専から卒業し、教師としての日々が続く。
その日々は、宿儺が考えていたよりずっと密度の高いものだった。
◆
経験が浅いころは色々と苦戦することもあった。
「おっ、宿儺じゃん」
「家入。お前試験勉強はいいのか?」
「息抜きだよ。で? 最初の生徒はどうだった?」
「……難しいものだな。裏梅を基準に考えているとどうもうまくいかん」
「いや基準高すぎだって。あの子かなり天才よりでしょ」
「……遠まわしに小学生以下と認識するのもまずいだろう」
「……。まあ、まだまだこれからでしょ。裏梅にもちゃんと呪力のコントロール教えられたんだし、何とかなるって」
「だといいがな」
◆
別の道を選んだ後輩が、電話をかけてくることもあった。
「高専に戻る、か。どういう心境の変化だ?」
『……案外私にも、生き甲斐というものが必要だったようです』
「はっ、後悔するなよ? 術師になるならこれまで以上に働いてもらうぞ」
『残業はしませんよ』
「それはお前の努力次第だな」
◆
自分の手が届かないことも少なくはなかった。
「……」
「自分の生徒が死ぬのは初めてだったな」
「ああ。夜蛾、お前は何度目だ」
「両の指では足りん数だ。その度悔いが残る。あの時、何かできることはなかったのかと」
「そういうものか。随分と重たい荷物だな」
「だが、背負っていかねばならないものだ」
◆
だが、救えなかったものを超えるほどに、多くの可能性とも出会う。
◆
強者の側に立つ問題児。
「ほう? 意気のいいのがいると聞いてはいたが、想像以上だな」
「アンタが両面宿儺か? つまんねえやつばっかで冷え切ってんだよ、ちったあ熱くさせてくれるんだろうな」
「くくっ、望むなら焼き尽くしてやろう」
「はっ、上等!」
◆
宿儺にとって、初めての生徒といえる少女。
「一級に推薦されてからは初めてだったか。随分とやるようになったな」
「まだまだです。目標があるので」
「ほう? それは何だ」
「貴方に次ぐ術師になること」
「……はっ、どうせなら俺を超えるぐらい言ってみろ」
◆
過去の因縁を思い出させる者。
「禪院家の天与呪縛か。まったく、妙な偶然もあるものだ」
「私以外にもフィジカルギフテッドがいたのか? んなもん聞いたことねえけど」
「ああ。お前の完成系のような男と戦り合ったことがある。いまだにあの男より苦戦した敵はいないな」
「アンタが……!? どうすれば、私もそうなれる!?」
「天与呪縛の強化方法など見当もつかん。さらに何かしらの縛りを加えれば……、いや、それでもあの男のようになるのは難しいだろうな。基本の体術を徹底的に磨くか、外付けの呪具で強化するほうが確実だ」
「そうか……」
「呪具に関しては自分ではどうにもならんが、体術に関してはいくらでも自力で伸ばせる。鍛錬を怠るな」
◆
宿儺に並びうる、特級の呪いに呪われた少年。
「乙骨憂太だな」
「その姿、あなたも、呪われて……?」
「呪われた、というのは語弊があるがな。まあ似たようなものだ。この姿の俺でも、人間として生きている」
「人として……」
「このままここで死ぬか? それを選ぶなら止めはしない」
「俺はただ、選択肢を与える。このまま呪いとして死ぬか、人間としてその力を制御するか。決めるのはお前だ」
◆
多くの出会い。
多くの別れ。
人間らしく、それを繰り返す。
そして。
◆
2017年12月25日
東京都立呪術高等専門学校内部
「ずいぶん、早かったね」
「憂憂の手を借りた。まったくひどい出費だ」
「ははは、相変わらずだね、冥さんは」
昔を懐かしむように、夏油は笑う。
すべて出し切った。そういわんばかりの、すがすがしさすら感じるような笑みだった。
「薄情な奴だ。あれから一度も顔を出さんとは」
「出したら殺されてただろ?」
「……まあ、そうだな」
「くくっ、はっきり言うなよ……」
10年前に離反した時から、二人が顔を合わせたのはここが初めてだった。
高専への宣戦布告の時でさえ、夏油は宿儺の不在を確認してから行っていた。
宿儺がそこを躊躇うような人間ではないと知っていたからだ。
「そうだ、これ彼に返しておいてくれ」
「小学校もお前の仕業か。乙骨はどうだった? 俺の生徒の中ではおそらく最強だが」
「いやはや、さすが特級だね。完全にしてやられたよ。折本里香を注視しすぎて、乙骨のイカレ具合を甘く見ていた」
自身を、自らを呪う存在へ捧げるという縛り。
縛りの強力さで言うなら、絶命の縛りをも超える可能性すらある。禍呪怨霊と化した者に自分のすべてを捧げるなど、普通に死んだほうがましだったと思えるほどの地獄へ放り込まれてもおかしくはない。
非術師が嫌い、という本音のための建前でもあった大義と、死者を縛り付けるほど熟成された純愛。
ぶつかり合った結果がどうだったかなど、いうまでもない。
「理由を聞いておこうか」
「……覚えてるかい? あの時の盤星教の連中の眼を。自分に理解できないものを排斥し、恐れる眼。あの後も、いくつもあれと同じ目を見た。私は、あの弱さに耐えられるほど強い人間じゃなかったんだよ」
守るべき存在だと思っていた、弱者の弱さ。
その弱さのために失われていく、仲間の命。
天秤にかけていたものが釣り合わなくなった時、呪術師としての夏油傑は限界を迎えた。
不器用な男だ、と宿儺は思う。
彼は、真面目すぎたのだ。
普通の呪術師がある程度の折り合いをつけて見ているものを、真正面から直視し、悩み続け、結果として折れてしまった。
「……」
「……?」
いつまでたってもその瞬間が訪れないことに、夏油は疑問を浮かべる。
もう何もできない程の瀕死とはいえ、宿儺がこうして会話を選んだことすら、少し信じられない気持ちだったというのに。
目の前で死にかけている男を、四つの目が見下ろす。
10年前よりも老けているが、あの時のようにやつれてはいない。
行くべき道を決めたからだろうか。その道が正しいものだったかどうかはともかく、その道を歩んだことに対する後悔は夏油傑にはなかったのだろう。
二度と交わらない程に、決定的に道を違えた。
それでも彼は、宿儺にとって、初めての。
「さらばだ傑。生涯貴様を忘れることはないだろう」
「……ははっ。なんだ、ちゃんと友達だったのか、私たち」
彼が最後の最後に浮かべたのは、胸のつかえがとれたような表情。
並んで歩いた、青い春の記憶が脳裏をよぎる。
その未練を断ち切るような音がして。
二人の距離は、無限に離れた。
「おい、次は落とすなよ」
「あっ学生証。先生が拾ってくれてたんだ」
「いや、俺じゃない。古い友人だ」