現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル  

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 乗客越しに殺気をぶつけ合う宿儺と呪霊。

 この戦いの結果には、日本の未来が左右されるといっても過言ではない。

 

 だが、超常現象にいきなり巻き込まれた一般人には、怪物同士が殺しあっていることなど知る由もない。

 何が起こっているかはわからないまま、自分や親しい者の命を優先し、その場から離れようと動き出す。

 

「おい押すな!」

 

「邪魔だ、早く上に……うわっ!?」

 

 我先にとその場から逃げ出す人間たち。その退路を塞ぐような形で、ホームドア上部と線路上に、絡み合う樹木の壁が生成される。

 

「何だよこの木!?」

 

「どいていろ。『捌』」

 

 乗客を押しのけた宿儺が木の壁に触れた。当然のように大穴が開くが、瞬く間にそれが修復される。

 切り刻み続ければ多少は逃がせるかもしれないが、ここまで人数がいれば焼け石に水だ。

 

(徹底的に一般人の逃げ道を塞ぐか。そしてこの動き方)

 

 呪霊たちの姿は、すでに群衆の中へと消えている。

 かなりの体格を持つ花御や、特徴的な姿をした陀艮、血塗は宿儺の視界に映っているが、小柄な漏瑚と、姿を自由に変えられる真人の姿はすでに捉えられない。

 

「死累累湧軍」

 

 陀艮が印を結んだ瞬間、乗客の頭上を覆うようにして魚の式神が無数に展開された。

 異界の海のようなその光景。「見える」側の一般人が、喉が裂けんばかりの悲鳴をあげる。

 

「無為転変」

 

 一方、真人は周囲の人間を改造する。単純に改造人間を作り出すのではなく、その体躯を大きくしていくような形で。

 隣の人間が急激に肥大化したことで、押しつぶされる人間もいる。

 

 線路内のみに限定される戦場。

 その中にいる大量の一般人。

 増え続ける改造人間と式神によってさらにスペースが消えていく。

 

 戦いづらい、などという次元ではない。

 まともに戦闘が成立するような足場が既に存在しない。このままでは圧死するものすら出かねないほどだ。

 

 呪霊たちが近づいてこない以上、「解」による遠距離攻撃も使えない。

 こんな状況で斬撃を飛ばせば、一発ごとに最低でも数十人の死者が出る。特級呪霊に有効打をあたえるほどの威力なら、さらに死傷者は増えるだろう。

 

「なら上だ」

 

 間近にいた乗客が、突然消えたと思うほどの速度。跳躍した宿儺は、すでにその術式を起動している。

 十字型に交差した斬撃が、空を埋め尽くす式神を消し飛ばす。

 

 こじ開けた道を駆け、上空から接近する。

 宿儺の狙いは、非術師の逃げ道を塞いでいる花御。その体躯が仇となり、人間の中でも姿を捉えられる。

 

「解……何!?」

 

 周囲の人間を巻き込まないよう、範囲を絞った『解』を放とうとしたその時。

 花御を庇うように、宿儺との間に入った存在がいた。

 

 一般人とほぼ変わらない姿をしたそれは……。

 

(改造人間!? いや、この呪力……それなりの呪霊を人間の形に変えたのか!)

 

 真人の無為転変は、魂を持つ相手であれば全てに有効。であれば、呪霊の姿を変えるように術式を使用することも可能である。

 

 もっとも、そこらにいる呪霊ではこのレベルの戦いでは何の役にも立たない。

 だが、今回戦場に投入されているのは、虎杖達が少年院で遭遇した、量産型の特級呪霊。

 

 粗悪品であろうが特級は特級。直接戦闘ならともかく、この状況なら盾となるには十分な耐久力を誇る。

 それを証明するかのように、花御を狙った『解』は、その存在を掻き消すのみで威力を失った。

 

 量産型特級が稼いだ一瞬の隙。花御は、自らを弾き飛ばすようにして樹木を生成、後方へと跳躍する。

 高速で移動した花御に轢かれる者もいる。彼らは吹き飛ばされた先でさらに別の人間にぶつかり、将棋倒しで被害が連鎖していく。

 

 それを視界の端で捉えながらも、樹木を破壊し花御へ近づこうとした宿儺。彼の殺傷能力であれば、花御へ迫るまでに数秒もかからない。

 『捌』によって粉微塵にしようとした瞬間、背後から感じた悪寒に身を翻す。

 

 0.1秒前まで宿儺が存在していた地点を、赤い閃光が貫いた。

 その正体を確認する間もなく、次の攻撃が飛んでくる。

 

「極ノ番『翅王』」

 

 先程のレーザーよりも速度は遅い。しかし、確実に宿儺を追尾して追ってくる血液の塊。

 

 二度ほど空を蹴り、線路沿いの外壁に足を埋めるようにして着地する。

 それでも追ってくる『翅王』を、斬撃を纏った手で消し飛ばした。

 

(今のは血液か? 赤血操術に近い、……交流会で奪われた呪物が受肉でもしたか)

 

 攻撃を放ってきたのは、宿儺の目から見ても、ほぼ人間と同一の存在。

 それが民衆の中に混じっているとなると、さらに厄介なことになる。

 

 

「そんなわけで、君たちは絶対に近づいちゃだめだよ。一瞬でも触れられたらバラバラにされる」

 

「領域はどうする? 閉じない領域を使えるのなら、非術師がいようが圧殺する危険性はない。我々だけを対象に術式を発動してくるのではないか?」

 

「だからこそ改造人間や九相図を使うのさ。宿儺には六眼のような目がない。そこまで混迷した状況で敵と一般人の判別はつけられないはずだ」

 

 戦場に存在するのは六種類。

 

 呪霊。

 式神。

 人間。

 改造人間。

 人間の姿へ変えた呪霊。

 九相図兄弟。

 

 さらに混乱を大きくするのが、ハロウィンというイベント。千人近い人間の中には、怪物のような仮装の者がそれなりの数存在している。

 注視すれば見分けられないわけではない。だが、生存のため動き回る人間の渦の中で、自身の敵だけを選び抜くなど、いくら宿儺でも不可能だ。

 

 

(一定以上の呪力を持つ者を対象にして領域に閉じ込める……いや、この狭さで領域を閉じればかなりの人間が圧殺されるな。かといってこの混乱では呪霊だけを狙うのは難しい)

 

 呪力の多寡で標的を決めるというのも1つの手だが、それでは呪力を抑えられる九相図を対象にできない。交流会での襲撃を仕組んだ呪詛師が紛れ込んでいる可能性があるならなおさらだ。

 

 ある程度の犠牲を前提として領域を展開することもできる。

 というより、この状況ではそれが一番確実だろう。領域内にいる者は全員死ぬが、それでも敵を全滅させ、これ以上の被害を防ぐことはできるのだから。

 

(高専入学前なら、そうしていただろう)

 

 だが、それは呪いの生き方だ。

 簡単に命を奪う選択肢は、これまでの自分の全てを否定するものでもある。

 

 何より。

 この程度の窮地でそれを選んでしまえば、自分が教えてきた生徒達に顔向けなどできはしない。

 

「ハッ、久々に賭けだな」

 

 式神を踏みつけるようにして上から戦場を見下ろす。

 上下の両腕で作り出されるのは、二つの閻魔天の掌印。

 

 ◆

 

 戦場から少し離れた位置で、視覚を共有した呪霊越しにその光景を眺める者がいた。

 

「お、領域か。手っ取り早い方法を選んだわけだ、真人に指示出しといてよかったよ」

 

 (効果は線路上、敵がいると思われる範囲に絞ったうえで領域を展開、その外にいる人間を救うってところかな。多少の犠牲覚悟で花御たちの呪力切れを狙うかと思ってたけど、まあこれでも悪くはない)

 

 元々、狙いは宿儺を消耗させることであって倒すことではない。領域によって術式の焼き切れを起こせるなら十分といえる。

 この後絶対に必要になる真人には、掌印を見た時点で地下を通って離れるように指示を出していた。

 

(いや待てこの呪力、範囲が広すぎ……!?)

 

 宿儺の狙いを察した彼の額に、冷や汗が流れる。

 

「……噓でしょ、できるのそれ」

 

 ◆

 

 領域展開

 伏魔御廚子

 

 紙で切ったような浅い切り傷が二つ、領域内に存在する全員につけられる。

 戦闘態勢だった呪霊たちですらすぐには気づかないほどに小さな傷跡。ほとんどの存在を微塵切りにしてしまう程の火力を極限まで絞り、一般人へのダメージを最低限に抑えた。これだけでも十分に神業。

 だが、それは単なる前段階に過ぎない。

 

 ここから。

 宿儺の狙いは、ここから先にある。

 

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 氷室(フリゴ) (フェルマ)

 

 瞬間、全てが静止する。

 あれほど響き渡っていた叫び声も、足音も、全てが搔き消えた。

 

 何が起こったかは一目瞭然。

 戦場となっていた範囲外。先ほど人間が投下された階層も含め、領域内にいたすべての者が、現状を理解することもできずに分厚い氷に封じられていたのだ。

 

 静寂を破るように、破壊音が響き渡る。空を泳ぐ式神たちが、落下の衝撃で砕け散った。

 

 術式反転。

 反転術式によって生まれた正のエネルギーを使い、術式の効果を真逆にして発動する技。

 

 技の概要だけ見れば、反転術式さえ使えれば誰でも使用できるようにも思える。しかし、反転術式を使えるものの中で、さらに術式反転を使えるものは数少ない。

 

 それはなぜか。

 そもそも、正のエネルギーで動かせる術式の数自体が相当に少ないからだ。

 いくら性能が高くても、いくら操縦者の腕が良くても、動力炉に流すエネルギーが合わないならマシンは動かない。

 

 宿儺が持つ術式、御厨子もその例に漏れない。

 正確には、御厨子の全てを正の呪力で動かすことは出来ない、といったほうが正しい。

 

 御厨子は、大別して二つの能力を持つ異端の術式。

 『解』と『捌』という、相手を切り刻む斬撃。

 そして、『解』と『捌』によって調理した対象を焼き尽くす『竈』。

 

 宿儺が術式を反転させて使えるのは『竈』の方のみであり、斬撃の力を反転させることは出来ない。

 それも、『解』と『捌』によってマーキングした対象を凍らせるという使い方に限定される。

 

 コールドスリープの要領で、領域内のすべてを凍らせることで、一般人の命を奪うことなく事態を収束させる。

 言ってしまえば簡単だが、それに要求される技術は途方もなく高いもの。

 

 初めから反転させた術式を領域へ付与していれば、『解』と『捌』による呪力のマーキングができずに術式は失敗していただろう。

 

 必要だったのは、順転の術式を付与した領域を、発動途中で反転させること。

 展開された領域は動作中の精密機器にも近い。その心臓部を動かしながら入れ替えるような荒技。

 

 宿儺は、自身の術式精度と呪術センスにより、その無理難題を突破した。

 

 当然、その負担は通常の領域展開の数倍である。

 無茶な動かし方をしたことによる術式の焼き切れは、数十分は回復しないだろうと宿儺自身が診断する。

 

 しかし、その効果は大きい。

 凍結した対象に危害を与えないという縛りによって強化された封印は、漏瑚ですら外部の干渉なしには十数分は出られないであろう牢獄と化している。

 

「成功だな……、裏梅に礼でも言っておくか」

 

 打開策として凍結を選んだのは、教え子である裏梅の影響も大きい。

 誰より間近で成長を見守ってきた、氷の術師。彼女に呪力の扱い方を教えてきた宿儺には、氷を操るノウハウが蓄積していた。

 

(さて、一般人にまぎれた呪詛師や呪肉体が何人いるかは知らんが、ひとまず呪霊に関しては目視で判別できる。優先順位は火山頭、ツギハギ、木、タコ。氷室が溶ける前に始末する)

 

 ひとまず危険は去った。

 乗客を避けつつ着地し、次の動きを考える宿儺。

 

 その背後。

 最初からそこにあったかのように自然に、箱のようなものが佇んでいた。

 

「獄門疆 開門」

 

 その言葉とともに、呪物が開く。

 血涙を流しながら宿儺を見つめる巨大な瞳。

 

 なにかはわからない。だが、それが脅威であることに間違いはない。瞬時に距離を取ろうとした宿儺。

 その動きを、一つの声が押しとどめる。

 

「や、宿儺」

 

 その声、その姿は確かに。

 一年前、手ずから葬った友人のもの。

 

「……!」

 

 フリーズは一瞬。

 変身、降霊、もしくは死体を動かす術式であると宿儺は瞬時に判断した。

 

 だが、そのどれだろうが関係はない。

 彼らの物語は、あの日あの場所で終わっているのだから。

 

 宿儺の中にあるのは、友を利用された怒りのみ。

 その怒りの赴くまま、拳を振るおうとしたその時。夏油の姿をした何者かが、その手に抱えているものの正体に気づく。

 

 白い髪。高専の制服。その見慣れた姿は。

 

(裏梅)

 

 なぜ、別の任務にあたっているはずの彼女がここにいるのか。生きているのか。人質として使うつもりか。

 様々な疑問が浮かんでは消えていく。

 

(――息はある出血量を見ても命に別状はない裏梅の向かった先はそこまで遠くないそれでも裏梅を倒した後この場面に間に合うということは戦闘は長引かなかったはずその上反転術式を使える裏梅を生かしたまま連れてこられるレベルの実力者ということは確定そもそもなぜ傑の姿をしている隙を作ることが狙いならそれこそ裏梅の姿を使えばいいあの縫い目は何だ変身や幻覚の類ならあんなものをつけるわけがない本人の死体かだとすれば総監部があの時処理していなかったことになる総監部にいる内通者もしくはそいつと関係しているとみていいこの状況を組み立てたのはこいつかだがここまで徹底した人間がこんな無防備に俺の前に出てくるのか実力差は理解しているはずだ俺に殺されることで何かを起こす仕掛けでも張っているのかいや違うそれなら先ほどの戦闘中に出てきてもいいはず恐らく今展開したこの呪物になにかあるその条件を満たすためそれは何だ思いつくのは時間距離呪力量あたり呪力量はないな領域直後とはいえそこまで呪力が減っているわけではないここまで間近に置くということは距離かだがまだ発動していないということは他に条件がある考えつくのは時間だがそれは何を基準としているまさかこの思考時間そのものが――)

 

 現状の把握。

 自身の持つ情報を用いた敵の正体、目的の推察。

 常人を遥かに超える戦闘中の思考速度が仇となる。

 

 あらゆるものを封印する特級呪物「獄門疆」。

 その発動条件は、対象者をその脳内時間で1分、半径4メートル以内の地点に留めること。

 

 ここまでの思考は実際には1秒にも満たない。

 だが、答えにたどり着いたときには、脳内の思考は一分間などとうに経過している。

 

「……チィッ!!」

 

 獄門疆から現れた肉片のような何かが、宿儺の身体を縛り付ける。

 確実にその効力を果たしたそれは、宿儺の呪力と体の自由を完全に奪っていた。

 

「ふう、危ない危ない。保険をかけておいてよかったよ、この体だけじゃ瞬殺されてただろうし」

 

「……」

 

 視線を動かすことしかできない宿儺。

 その目は、夏油がわきに抱えた裏梅へと向けられていた。

 

「あ、気になるかい? 大丈夫、心配しなくても彼女は殺さないよ」

 

「……何?」

 

「君の封印もすぐに解く、こっちのやることが終わったらね。数か月……早ければ数週間かな。君らには悟を削ってもらわなきゃならないんだから」

 

「じゃあね両面宿儺。少しの間、休んでもらうよ」





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