現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
「閉門」
バチィッ、という音と共に、獄門疆が元の形へと戻る。
後に残るのは、宿儺が作り出した氷の牢獄のみ。現代最強の術師は、これで完全に何も出来ない。
「さて、どうしようかな」
夏油の視線の先には、未だ凍りついたままの呪霊達。
意識があるかは外側からわからないが、このまま放置しておけば自然に氷が溶け、解放されるだろう。
もっとも、その時間があるかは別の話だが。
「すぐに術師達も向かってくるだろうし」
宿儺の呪力は、質・量ともに並外れている。それが突如として消滅したのだ、術師達が異変に気づくのも時間の問題である。
そうなれば、何の抵抗もできない呪霊たちの命は危ないだろう。宿儺が使った縛りは、あくまで凍結によって命に危害を加えないこと。外部のものが氷ごと中にいる者を砕くことは容易だ。
(残った量産特級は五体……いけなくはないか。多少は賭けに出るのもいいだろう)
「術式反転『反重力機構』」
バキ、ともグシャ、とも取れるような音が連続する。その回数は四回。
自然呪霊達を封じた氷が、見えない何かに潰されるようにして消えていく。
「げ、とう!? 何のつもりだぁぁ!!」
「随分都合の良い状況が完成してたからね。真人の成長が足りてないかもだけど、代替手段も考えてる」
コンクリートへと沈んでいく四体の呪霊。
耐久力が低い順に、夏油の手元へ黒い玉となり吸い寄せられていく。
「君たちはもう用済みだ。じゃ、いただきます」
◆
20:48
JR渋谷駅新南口
「噓だろ……!?」
「先生!?」
その異変に最初に気づいたのは、最も近い距離にいた日下部班の三人。
宿儺の呪力が、突然強くなったと思ったら完全に消えた。
戦闘が終わり、呪力を抑えたわけではない。それでもこの距離なら感じ取れるほど宿儺の呪力量は膨大だからだ。
帳の中へと踏み入るが、やはり呪力は感じない。
だが、その中では異変が起こっていた。先ほどはなかった帳が、もう一枚降りている。
(何だってんだ!? まさか宿儺の奴が負けたのか……!?)
「くそっ、かってえ」
「……ダメそうだなこりゃ」
「おかか……」
虎杖の全力の殴打。
日下部による斬撃。
それをものともしないほど強固な帳。
「日下部先生、どうする!?」
「どうするったって……」
今降りた帳は完全に術師を拒絶しており、中へと入っていくことはできない。
日下部や虎杖の攻撃でもどうにもならない以上、宿儺が向かった地下五階へと辿り着く手段は封じられていると見て良いだろう。
「一旦帳の外に出るぞ。他の班と合流しつつ今降りた帳を破る方法を探す」
(出来れば禪院家のジジイ……いや、冥冥の班だな。なんかあっても憂憂の術式がありゃ逃げられんだろ)
保身が交じったその思考を知る由もなく、虎杖は自身のうちにいる存在へと問いかける。
(おい五条、何があったかわかるか?)
(さすがに宿儺の方は直接見ないと何とも。ただ、この帳張ってる奴がどこかは見当つくよ)
(マジ!? 教えてくれ!)
(悠仁のあれでビクともしないってのは、多分張ったやつを外側に置いて強度を上げる縛りだね。昔知り合いが使ってた。この硬さだとかなり目立つとこにあると思うよ)
「目立つとこか……二人とも、ちょっと」
「どうした?」
たった今五条から得た情報を、二人へ共有する虎杖。
(理屈自体はあってんな、ただの帳であの硬さはねえだろ)
「高菜」
狗巻が指さした方向。帳に阻まれて全体像は見えないが、端の方は確認できる高層建築物。
「セルリアンタワーか。確かにこの近くだとあれが一番目立つ」
怪しい場所のめぼしはついた。
ただ、日下部としては。
(行きたくねえなあ)
仮にその情報が本当だったとしても、そのレベルの結界術をもった呪詛師がその場所にいるのはほぼ確定。
戦闘になったら死ぬのは自分かもしれないのだ、この状況で向かいたくはない。
「……信用できんのか、そいつ?」
「……多分?」
宿儺に何かあって困るのは、彼との戦闘を目的としている五条にとっても同じこと。この場面で嘘をつくメリットはない。
(大丈夫大丈夫。特級呪物ウソツカナイ)
(急に信用度下がったな)
「もう少し情報集めてからでも……何だ?」
日下部の言い訳を遮るように、一羽の鴉が日下部の頭に留まる。
その足に括り付けられていたのは、
「手紙? 冥冥の奴か」
『こちら冥冥。セルリアンタワー屋上に呪詛師らしき人物を確認。私達の班はまだ距離がある、これを受け取ったものが対処に向かってほしい』
「やっぱあそこか、行こう!」
「いや、冥冥の班も向かってるならそっちと合流した方が……」
『PS.これ見てるのが日下部だったら色々理由つけて逃げようとするだろうから同行してる2人が引き止めるように』
「「……」」
「……よし、行くか」
◆
渋谷
Cタワー屋上
「おっ、来たか。思ったより早いな」
直下から接近する呪力の気配に、呪詛師達が反応する。
「始めるよ、孫」
自らの術式のため、呪詞を紡ぎ始めるオガミ婆。敵が来ているにしては悠長だが、その時間はあると呪詛師達は判断していた。
セルリアンタワー下層には改造人間が多数配置されており、それらを対処し屋上まで登ってくるにはかなりの時間がかかる。
しかし、術師達は数分もたたずにその場へと現れた。
いくら数がいようと、改造人間自体の強さは三級から二級の呪霊程度。
狗巻の呪言でまとめて動きを封じ、日下部と虎杖が即座に葬る形で、数十体の改造人間は瞬殺されている。
(どうやってこんな早く……!?)
「おいオガミ婆、早くしろ!」
(五条、帳の元はどいつだ!?)
(あいつらが張ってるわけじゃないね、あの杭みたいな奴かな)
「先生、先輩、あの杭みたいなやつ!」
「しゃけ!」
目標を確認した術師たちが動き出す。
一方、呪詛師達は虎杖の口から出た言葉に動揺を隠せずにいた。
(嘱託式の帳のことも知ってやがんのか!? くそったれ、やらせるかよ!)
オガミ婆の術式にはまだ少し時間がかかる。
その時間を稼ぐべく、前へと踏み出す。
呪詛師、粟坂二良の術式は「あべこべ」。
受けた攻撃の強弱をあべこべにし、強い攻撃ほどダメージを少なくすることができる。
うまくやれば一級術師クラスの攻撃でもダメージを受けなくなるほど強力な術式。
弱点は、規格外には対処できないこと。そして、複雑な術式とは相性が悪いこと。
『動くな』
(呪言――)
シン・蔭流
簡易領域
簡易領域によって術式効果を弱めたうえで放たれる斬撃。突然の呪言に反応しきれなかった粟坂は、呪力強化によって刀を防御することができなかった。
致命傷には至らずとも、気を失うには十分すぎるダメージが粟坂の体に刻まれる。
流れるように、足元に突き立てられていた杭を刈り取る日下部。
杭が両断されると同時に、先ほど降りた帳が逆再生のように上がっていく。
(目標は達成、あとはあっちの2人を……)
奥に控えていたもう一人の男が、骨の入ったカプセルを飲み込んだ。
「禪院甚爾」
オガミ婆が紡いだその名によって、降霊の呪詞が完遂する。
男の姿が、突如として変化した。
現れたのは、口の端に傷を持つ黒髪の男。
呪力は全く感じないにも関わらず、その立ち振る舞いだけでその人物の実力が推し量れる。
日下部の後輩や受け持ちの生徒と同じ、斜めに外れた部類の強さ。
(今禪院つったか? なのに呪力を全く感じねえってことは……)
ふ、と。
移動によって生じた風圧を感じるよりも早く、男は日下部の横へ立つ。
「は?」
本人は認めないだろうが、日下部の呪力強化技術は一級術師の中でも最上位。
くぐってきた修羅場の数もそれなり。その経験が、思考より早く身体を動かす。
衝撃。
刀を使ったガードは間に合ったものの、直接攻撃を受けた刀には小さな亀裂が走る。
呪力で強化した呪具が壊れかけるほどの威力。身体に当たればどうなるかは想像に難くない。
「あっぶねぇ!」
(簡易領域が反応しなかった……やっぱ禪院と同じフィジカルギフテッド、それも完成形か!?)
今のに反応できたのは、相手がまだあの肉体に慣れていなかったからだろう。
ここから時間をかけ身体の使い方を覚えたら完全に詰む。
「逃げるぞ! 狗巻、頼む!」
『動くな』
呪言によって稼いだ隙。
その一瞬で屋上を切り裂き、空いた穴へと飛び込む。
それに追従する狗巻は、ゲホゲホと咳をしている。先程の呪言によって喉に限界がきているのだ。
「あいつらほっといていいの!?」
「俺らじゃ無理に決まってんだろあんなもん!」
単純な実力差もそうだが、簡易領域が機能しない面も含めて日下部と相性が悪すぎる。
帳自体は破壊できている以上、尻尾を巻いて逃げ出すのが最適解である。
(ったく、マジでどうなっちまうんだ渋谷は)