現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル  

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渋谷エアプなので地形的にこんな事できなくね?が多発するかもしれませんがご容赦ください


死線—壱—

20:52

東京メトロ渋谷駅 B5F 副都心線ホーム

 

 ゴクリ。

 何度か続いていたその音が止まったのが、特級呪霊の全てが彼の支配下に置かれる合図だった。

 

「ああ、やっぱりひどい味だ」

 

 呪霊操術で呪霊を使役するには、黒い玉のような形状になった呪霊を経口摂取で取り込む必要がある。

 そして、呪霊玉は一切の例外なく不味い。精神を削り取ってくるような、そもそも食べ物にすらたとえられないような味。

 

 夏油がこの場から数分間動けなかったのは、4体の呪霊を取り込むのに相当の手間をかけていたからだった。

 

(獄門彊のことだけを考えるとさっさと離脱すべき……けどあれをやるとなると術式開示も載せたいし、術師はなるべく多くいた方がいいな)

 

 どうしたものか、と歩く夏油の姿をした誰か。

 その手にある獄門彊が、前触れもなく震えだす。

 

「な」

 

 獄門彊にこんな仕様はない。ならば、これはその中にいる彼が起こしていること。

 策を練り、罠にはめ、封印に成功した敵。されど、彼が規格外であることにはなんの変わりもない。

 

 コンクリートを破壊するほどの勢いで、獄門彊がその手から落下する。

 

「っなんて奴!」

 

 最強を封じたその呪物は、両面宿儺という情報を処理しきれずにバグを起こしている。

 処理が終わるまでこの場からは動かせないだろう。

 

「しばらくここで待つしかないか」

 

 九相図達はあと数十分は凍り付いているだろうし、裏梅は二、三日は目を覚まさないよう痛めつけてある。

 今すぐこの場から動く必要はない。

 

 ただ、不確定要素もある。

 この近辺にいる術師達はもちろんだが、渋谷には東堂葵が来ている。

 彼の術式であれば、ほかの者と戦闘を行っている最中に獄門彊だけを奪って逃走される可能性もある。

 

 封印解除の手段は押さえているものの、不測の事態もありうる以上、足止めは絶対に必要になると彼は判断した。

 

「早速使ってみようか」

 

 たった今取り込んだ呪霊のうち、二体が目の前に現れる。

 呪霊操術によって操られている彼らに意思はない。突如として裏切られたことへの怨みを口にすることもできず、ただ主の命令を遂行するのみの存在。

 

「御三家は機能不全の方がありがたい。当主交代のゴタゴタを狙うためにも、禪院直毘人は殺しておかなきゃね」

 

 

20:54

渋谷駅 B3Fコンコース(スクランブルスクエア直下付近)

 

 日下部班が新たに降りた帳を破壊したことで、他班も一斉にヒカリエ方面へと向かい始めた。

 

 地下深くへと向かっていく禪院班の前に現れたのは、顔面に木を生やした巨漢の呪霊。

 

「交流会の時の……!」

 

「ほう、宿儺から逃げ切ったという特級か」

 

「強いです、警戒……」

 

「俺からも逃げ切れるかな?」

 

 伏黒が忠告を言い終わる前に、直毘人が花御の後ろへ回る。

 速度を乗せた回し蹴りが、標的の体を吹き飛ばした。

 

「ふはは、なるほど硬いな」

 

 それなりの力で蹴ったにも関わらず大したダメージが見えない。

 消耗した体で宿儺から逃げ切るほどのタフネス。並の呪霊とはまるで違うことを、直毘人はここで確認した。

 

「恵、あれをよこせ」

 

「最初から持っててください」

 

 そばへと戻った直毘人へ伏黒が投げ渡したのは、短剣のようにも見える呪具。

 目がいいものなら、それは半ばで折れた槍であることに気づいただろう。

 

 当然、花御も黙って見ているわけではない。

 地面を突き破り飛び出したのは、無数の種子を内包した巨大な植物。ナハナハと不快な声をあげながら、その種子は獲物を狙う。

 

 マシンガンのごとく飛び出す弾丸。

 圧倒的な物量に対し、直毘人は上空へと跳躍する。

 

「バッ、なんで上に!?」

 

 飛び道具を相手に上へ逃げるのは基本的に悪手だ。空中では先程見せたような速度を生かすことは出来ず、敵にとってはいい的になる。

 

 花御の打ち出す種子は術師の体に根を張り、その呪力を奪い取って成長する。

 呪力強化で防ぐことはできず、1発でも喰らえばそこから呪力のほとんどを吸い尽くされる。

 

 「大丈夫ですよ」

 

 真希とは対照的に、伏黒は余裕の態度を崩さない。

 次代の禪院家を担う一人として、直毘人の任務に同行する機会は何度かあった。彼は、直毘人と、彼が持つ呪具の力を理解している。

 

 種子に生えた鋭い牙が直毘人を捉えようとしたその瞬間、特級呪具がその効果を発揮する。

 

 呪具の名は飛天。

 伏黒恵に関わる交渉にて、五条家から入手した特級呪具。

 

 ダン!と、地を蹴ったような音がする。

 直毘人の体が、空中で曲がった。何もない空を踏み台にするように。

 その姿は奇しくも、禪院家を追われた異端のごとく。

 

「速ぇ……!」

 

 空を踏みしめるごとに上がっていくスピード。残像が見えるほどの速度になった瞬間、直毘人が攻勢に転じる。

 

「フン!」

 

 ばら撒かれる種子を全く意に介さず接近した直毘人が、花御の右腕をもぎ取った。

 

 飛天は、空を支配する。

 空の面を固定化し足場や盾として利用することや、固定化した空をそのまま相手へとぶつけることもできる。

 

 千年前の最強は、呪詛師から奪い取ったこの呪具をきっかけに閉じない領域を会得したという。

 

(速い……。あの速度で縦横無尽に空を駆けるとなると、攻撃を当てるのもきついぞ)

 

 直毘人の投射呪法と飛天は、これ以上ないほどの相性を誇る。

 24fpsで設定した動きをなぞり加速する術式に、空中にすら自在に足場を作ることのできる呪具。

 二つが可能にするのは、障害物のない空中で加速を続け、速度が最大に乗った一撃を叩き込むという単純ゆえに対処のしようがない戦法。

 

 最速の術師の称号こそ息子に譲ったが、その実力はいまだ衰えを知らない。

 

「……とんでもねえな、ジジイ一人で祓っちまうんじゃねえか?」

 

 というより、真希や伏黒が介入できる速度域での戦闘ではない。

 下手に近づけばかえって邪魔になる可能性も高いだろう。

 

「だといいんですけどね」

 

 優勢に戦闘を進める直毘人を見ながらも、伏黒の頭には一つの疑問が浮かんでいた。

 

(あれだけ攻撃を受けてうめき声一つ出さないのはどういうことだ? あいつの声……というか思考は特徴的だ、頭に直接意味を叩き込んでくるようなあれがわからないはずがない)

 

 その先に思考を進める間もなく、状況が動く。

 花御が生み出した大木による攻撃を躱した直毘人が、掌で花御に触れた。

 

 投射呪法発動中の術師に触れたものは、自身も24fpsで動きを作らねばならず、失敗すると一秒フリーズする。

 直毘人の速度を考えれば、一秒の隙はそのまま致命傷へと変わる。

 

 ただでさえわかりにくい術式に、思考をかき乱す速度。

 初見で直毘人の術式の種に気付き、その対処法を思いつくなど、相応の実力者でも不可能だろう。

 

 だが、事前に術式の情報を知っていればそれに備えておくことはできる。

 

「む」

 

 相手を止めたと確信し、攻撃のための動きへ移った直毘人。

 だが、顔面を狙い放たれた一撃に顔色を変える。

 

 フリーズしたはずの相手から放たれたカウンター。

 直毘人自身の速度が加算されたそれは、当たれば首から上が吹き飛びかねない。

 

 投射呪法では、一度決めた動きを途中で変更することはできない。動きのトレースに失敗すると一秒の間フリーズする。

 

 直毘人はそれを利用し、攻撃の気配を察知した時点で動きのトレースをやめていた。

 先ほどまでの速度に合わせて放たれていた拳は、その途中で急停止した直毘人を捉えきれず、鼻先を掠るのみにとどまる。

 

 攻撃を回避した時点で一秒がすぎ、フリーズが解除される。

 加速前に仕留めるべく放たれた種子は、空の面に突き刺さりその動きを止めた。

 

「呪霊にまで知られているとはな。歴の短い相伝にしては有名になったものだ」

 

 今花御は、24fpsの動きを完璧にトレースしてフリーズを回避し、カウンターを放った。

 それを可能にした実力自体も脅威だが、それ以上に不味いのは術式の情報を完璧に把握されていること。

 

 かなりの情報網を持った者が敵方にいる。次に何を仕掛けてくるかわからない不気味さに、直毘人は相手への警戒を強めた。

 

 

同時刻

渋谷駅 B2Fコンコース

 

「くそっキリがねぇ」

 

「先輩、大丈夫!?」

 

「じゃ、け」

 

 背中合わせに戦う三人を、深海魚のような見た目の魚が包囲する。

 彼らの手が届かない上空から見下ろすのは、海の呪霊、陀艮。

 

 禪院甚爾から何とか逃げおおせた三人。

 そのままの勢いで宿儺がいたヒカリエへと向かおうとしていたが、そこで出くわしたのが陀艮。

 

 交戦を避けようとした日下部だったが、ここは閉鎖的な地下通路。

 逃げ道は、辺りを埋め尽くす式神によってふさがれている。

 

 一体一体はそこまでの力を持たない式神。

 それでも、それが数百数千と集まれば話は変わってくる。

 

 数が多いという単純な力。

 三人がいくら倒そうが、また新しい式神が襲ってくる。

 

 陀艮自身の呪力量という限界こそあるが、彼の呪力が切れるのはいつになるか見当もつかない。

 術師達の体力、呪力も無限ではない。反転術式などの回復手段を持っていない三人には、耐久戦はむしろ不利と言える。

 

「……日下部先生、ちょっと」

 

 飛んでくる魚を殴り飛ばしながら、虎杖が短く声をかける。

 敵に伝わらない小声の提案に、日下部は露骨に顔をしかめた。

 

「……リスクはたけぇがそれしかないか。俺がやる」

 

「いや、俺が」

 

「虎杖、お前あいつを一撃で倒せるような切り札持ってねえだろ。マジでやりたくねえけど、俺の方が成功率は高い」

 

「……分かった」

 

 バレーのアンダートスのような体勢をとった虎杖。

 腕に日下部が乗ると同時に、規格外の膂力で彼を陀艮の方へと打ち上げる。

 

 式神の群れの中へと突っ込んだ日下部。

 自分からその身を捧げにきた敵に対し、式神がその牙を突き立てようとしたその時。

 

『動くな』

 

 日下部に攻撃が届く位置にいた式神が、その動きを停止する。

 

 これが、虎杖の考えた作戦。

 狗巻の呪言によって式神の動きを止め、そこを突き抜けて陀艮へ近づき、その一瞬で致命傷を与える。

 

シン・陰流

簡易領域

 

 日下部の簡易領域は、他者のそれとはレベルが違う。

 入り込んだものを自動で迎撃するプログラムと、後から範囲を広げ、相手を引き込むことができるほどの結界の技術。

 

 式神を踏みつけた日下部の体が、本人の意識より早く動き出す。

 簡易領域を上に伸ばすことによって、陀艮をその射程に捉える。

 

 陀艮に刻まれる無数の傷跡。虎杖の目でも追うのがやっとの速度で放たれた斬撃は、確かに陀艮を切り刻む。

 

 だが。

 

(タフにもほどがあんだろくそったれ!)

 

 健在。

 

 ダメージがないわけではない。陀艮の体には深い傷がいくつも刻まれ、それを修復するためにかなりの呪力が消費されている。

 だが、それでも致命傷には程遠い。自然呪霊の中でも耐久力に優れる陀艮を倒すには、同じ攻撃があと3、4回は必要になるだろう。

 

「先生!!」

 

 無防備な空中。

 獲物を狙う無数の牙が、日下部に襲い掛かる。

 

『動……、ゲフッ」

 

 狗巻も限界。呪言を言い終える前に、その口からは赤い液体が飛び散った。

 

 数匹を切っても関係ない。

 次から次へと押し寄せる式神に飲まれ、日下部が見えなくなっていく。

 その場の全員が彼の死を予兆したその時。

 

 パン!と、いつか聞いた音が虎杖の耳に届く。

 日下部に食らいついた無数の式神。そのうち一体が、突如日下部と入れ替わる。

 

「入れ替え!? ってことは……」

 

「待たせたな、兄弟!」

 

 

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