現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
渋谷事変
20:51
渋谷PARCO付近
呪詛師、重面は走っていた。
外部と連絡をとる補助監督を狩るだけの簡単な仕事。帳の外側にいる以上、術師とはち会う可能性も低い。
そのはずだったのに。
甲高い拍手の音が悪夢のように響く。
どれだけ距離を取ろうと、それがなかったことにされる理不尽。
「ふざけんなよぉ!!」
弱者を嬲って殺していたのは先ほどまでの話。
すでに立場は逆転し、今度は彼が狩られる側。
溜め込んだ奇跡はすでに使い果たした。
そのうえ、相手は一人ではない。
「あ」
遺言を残す暇すらなく。
突っ込んできた一羽の鴉とともに、重面の視界は黒く染まった。
「今のが補助監督を殺していた呪詛師だね」
「こいつだけとは限らんがな。Ms冥はこのまま帳外の補助監督を捜索、救助してくれ。加茂、パンダ、お前らもだ。直接的な輸血はまずいが、応用で止血はできるだろう。一人でも多くの命を救え」
「任された」
「東堂はどうすんだ?」
東堂が見据えるのは、いまだ混乱に包まれた渋谷の街。
何の情報もないにもかかわらず、東堂は彼がいる場所を確信していた。
「
◆
「げ、面倒なのが」
視覚共有により花御と陀艮の戦況を捉えていた夏油は、東堂の参戦に顔を顰めていた。
「距離的には花御の方が近かったはずなんだけどね。なんでピンポイントで陀艮の方に……?」
彼は今、二体の呪霊を完全にマニュアルで動かしている。
マニュアルのメリットは、情報をリアルタイムで共有し、敵への対策を立てられること。
花御が投射呪法に対応できたのも、術式の情報を知っていたものが操っていたからだ。単純に敵の足止めを指示しただけなら、直毘人の速度に対応できずに瞬殺されていた可能性もある。
デメリットは、それぞれの挙動を完璧に制御しなければならない点。
「高難度のアクションゲームを二つ同時にプレイしてる気分」
一つの命令を与えてそれを遂行させるのと違い、一挙手一投足、術式の使用までを完璧に操らなければならない。
一体だけならともかく、二体同時に別の場所で動かすとなると、操作の難易度は高い。
「とはいえここでやられてもらっても困る」
視界に映っているのは、縦横無尽に駆け回る直毘人にかろうじて喰らいつく花御と、大量に出した式神が仇となり、不義遊戯に翻弄されている陀艮。
操作に慣れればまだ善戦できるかもしれないが、その前に押し切られる可能性が高い。
せっかく手に入れた領域を使える手駒。ここで失うのは惜しい。
この戦闘は、今後の為の試金石でもある。
彼の目的を達成するためには、五条悟を殺さなければならないのだから。
そう判断した彼は、呪霊達に逃走を選択させた。
花御は、直毘人が上空へ上がったタイミングで大木を複数生やし、生い茂る葉によって彼の視界を奪い、下に穴を開けその場から去る。
陀艮は、大量の海水を生み出すことにより、手を叩く行動を阻害しつつ術師達をヒカリエと逆の方向へと押し戻した。
「万の奴も何やってるんだか。『彼』もこっちに向かってるらしいし、早く来てほしいよほんと」
◆
20:56
渋谷ヒカリエ付近
「急げ
「応!」
地下通路での洪水という最悪の組み合わせにより、陀艮をあと一歩のところで逃した虎杖達。
陀艮が消耗していたこともあり、通路を完全に埋め尽くすほどの規模ではなかった。しかし、彼が生み出した大量の水は今も通路に残っている。
次に同じことをされれば今度こそ全員が水没すると判断した虎杖達は、地上からヒカリエの地下を目指していた。
(……それ相手も警戒固めてるってことだろ? やっぱ狗巻に着いて帰りゃよかったか)
狗巻は喉が限界を迎えたこともあり、帳の外へと退避した。
日下部が付き添おうとしたが、狗巻本人が一人でも問題ないと拒否。逃げる口実を失って苦々しい顔を見せていたのはここだけの話。
「見えた! ヒカリエ!」
遠回りのルートではあるが、一級術師の速度であればそこまで時間はかからない。
不自然に人がいない建物を駆け抜け、地下へと進む虎杖達。
そこには、さらに下へと先行していたもの達がいた。
「伏黒!」
「虎杖に……東堂先輩!?」
花御の残穢を追い、地下道からヒカリエへと向かっていた直毘人達も、地下3階へとたどり着いていた。
「恵、下だ」
長々と話しているほど余裕はない。宿儺が飛び込んだ吹き抜けへ、同じように飛び込んだ術師達。
彼らが目撃したものは三つ。
「何だ、これ」
まるで時間ごと停止させられたような、無数の一般人の氷像。
特級に匹敵する実力を持つ裏梅が、血を流して倒れ伏す姿。
そして、その異様な空間の中心に立つ、夏油傑の姿をした何者か。
何が起きているのか。あの男は何者か。
ほんのわずかな一瞬だけ、術師たちの思考に空白が生まれる。
欲しかったのは、その一瞬。
轟音。
B5Fのさらに下から噴き出した何かが、爆発的な勢いで全てを押し流していった。
◆
同時刻
東急東横線渋谷ビッグ20付近
「近くの改造人間はこれで全てのようですね」
「20ちょい位はいました、渋谷中こんな感じなんスかね」
七海と猪野は、新たに表れた帳との間にいた改造人間を狩り続けていた。
この近辺だけで少なくとも数十、渋谷全体を見れば数百はいてもおかしくない。
(それにしても)
改造人間に、知性と呼べるほどの賢しさはない。彼らがまだ彼らだった頃の未練を吐くことはあっても、会話が成立するほどの知性は喪失している。
だが、それを加味してもあまりに無秩序すぎる。
周囲の人々を襲うだけでなく、建物を破壊したり、逆に何もせずに立ち尽くしているものもいた。
(統制が取れていない……というより暴走しているような。統率者に何かあったのか?)
原因はわからないが、放置はできない。
改造人間の等級は2〜3級前後。強さとしては大型の動物に近い。
術師であれば簡単に対処できるが、いきなり襲われて生き残れる非術師はそういないだろう。
「宿儺さんはヒカリエ付近にいたはず。そちらの方へ向かいつつ道中の呪霊、改造人間を祓――」
今まさに向かおうとした方角からの強大な呪力に、言葉が停止する。
七海の目に映ったのは、コンクリートを突き破り、ビルを薙ぎ倒しながら成長を続ける何本もの樹木だった。ヒカリエを中心に出現したそれは、折り重なるように集まっていき、半径50メートルほどの巨大な樹の檻を形作る。
「何だあれは……!?」
◆
「『樹海降誕』ってところかな」
軸となっているのは、言うまでもなく花御の術式。だが、花御単体ではここまでの出力を出すのは難しい。
これは、陀艮の生み出した式神を木々の養分とすることで、その成長を活性化させるという合技。
「特級二体分の全力だ、倒せはしないまでも相当削れたろう」
もちろんこれで終わりではない。
むしろ、ここからが彼の本命。
「戦力の逐次投入は愚策っていうけど、後から投入する戦力で確実に勝てるのならば話は別だ」
手駒に置いた呪霊の中でも、一番強力な手札を解放した。
◆
「っ、痛ってえ」
虎杖が気が付いたのは、光の届かない、閉ざされた空間。
倒れているのが巨大な木の上であることだけは、手ざわりによって分かるが、逆に言えばわかるのはそれぐらい。
「なんだ、ここ? ……皆は!?」
「落ち着け虎杖、全員生きてはいる」
日下部が持っていたライターの仄かな明かりで、あたりの状況を察する。
一見余裕そうな東堂や日下部も、顔にあざが残っていたり、服があちこち破れたりしている。
一級術師達すら軽くはないダメージを負うほどの攻撃。
ほぼダメージを食らっていないのは、飛天によって攻撃より早く上空へ逃げた直毘人のみ。それも、他をかばうほどの余裕はなかった。
実力的には一級クラスだが、フィジカル面では少し物足りない伏黒や、呪力によって自分を強化できない真希は、立ち上がることもできないほどの重傷を負っていた。
「とにかく早くここから出ないと……」
今日一番の悪寒が背筋を走る。
上。
少しだけ開いた檻から、何かが入って来た。全員に死を予感させるほどの強力な気配。
先ほど戦った特級達をも格段に上回るほど。
「マジかよ」
その単眼が、虚な目で標的を睨んだ。