現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル  

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遅れました……


異端者

 この場にいる術師達は全員、特級を冠する呪霊と戦闘を行ったことがある。

 それらの呪霊は、決して弱くはない。それに対処し生き残っていること自体が、術師としての強さを証明している。

 

 だからこそわかる。

 目の前に現れたこの呪霊が、今まで出会ったどんな呪霊よりも強いということが。

 

(火山みたいな頭、裏梅と戦ったっていう特級……!)

 

 一級術師の中でも最上位の実力者を相手に、終始優勢に戦いを進めていたという怪物。

 

(不義遊戯での脱出は……無理だな、効果範囲内の呪力を捉えられん。この檻によるジャミングか何かか)

 

 東堂が舌打ちをし、術式の不発を悟ったその直後。

 飛び出したのは直毘人。

 

 無謀にも思える単独の特攻。しかし、それは決して勇み足ではない。

 七十年分の経験が、全力で警戒心を鳴らしていた。

 

(こいつを先に動かすのは不味い……!)

 

 花御との戦闘は、吹き抜けがあり、天井が高い場所で行われていた。だが、あくまで地下であることに変わりはなく、本領を発揮するまでには至っていない。

 だが、この場はドーム状に上下左右が広い空間。障害物もなく、地形に阻まれることもないため、縦横無尽に動き回ることができる。

 

 加速の時間は十数秒。

 その時点で、直毘人の体は音の速さへとたどり着く。

 

 飛天によって空気の流れを制御しなければ、直毘人本人ですらソニックブームでボロボロになりかねない速度。

 確実に頭を潰すべく、最大限の加速を乗せた一撃が漏瑚へと襲い掛かる。

 

(殺った!!)

 

 数値にしてマッハ1.5。

 一級術師達ですらまともに追いきれない直毘人の動きを、赤い瞳は捉え続ける。

 

 自然呪霊達には、それぞれに特化した強みがある。

 

 花御は、大木を思わせる頑強さ。

 陀艮は、大海のように底なしの耐久力。

 真人は、無為転変による豊富な手数と殺傷力。

 

 そして漏瑚は、噴火の如き爆発的な速度と攻撃力。

 単純な戦闘において、漏瑚の右にでる呪霊は存在しない。

 

「な……」

 

 当たりさえすれば決着がついていたであろう攻撃は、漏瑚の頬を掠るにとどまる。

 大きく動いたわけではない。直毘人の軌道を完全に見切り、その体に沿うように半回転しただけ。

 

 その簡単な動きだけで、容易に直毘人の背後を取る。

 腕に集中した呪力が、骨まで焼き尽くすほどの炎を顕現させた。

 

 彼を焼死から救ったのは、乾いた破裂音。

 漏瑚との位置の入れ替えにより、逆に背後をとった直毘人は、その場から全力で離脱する。

 

 (助かった……とは言えんな)

 

 直毘人にはおよばないまでも、確実にそれに追いすがる程の移動速度。

 そこから放たれる、即死級の火力。

 

 今のを事もなげに躱された時点で、術師側の勝ち筋はないに等しい。

 

(ここにいる全員を皆殺しにできる呪霊、俺たちを外部に流さないための檻。手の込んだことだ)

 

 ここにいたり、彼らは理解した。

 これは術師達を閉じ込めるためのものではなく、彼らを確実に抹殺するための狩場だということを。

 

 だが、何もできないわけではない。状況を打開する一手は、この場に存在している。

 

「恵! 出せ!!」

 

 言うが早いか、直毘人は死を覚悟した特攻で再び漏瑚へと向かっていく。

 

「!」

 

 言葉の意味を理解したのは、伏黒本人のみ。

 

「皆さんはこの場からの脱出方法を探ってください。あいつは俺と直毘人さんで引き受けます」

 

 突然の無茶な提案に、即座に虎杖が噛み付く。

 

「何言ってんだ、あんなの二人じゃ無理だろ!」

 

「大丈夫だ、奥の手がある。むしろ近くにいられると巻き込む可能性が高い」

 

「……死ぬなよ」

 

「……ああ」

 

(悪い、虎杖)

 

 術師達が壁際に退避したのを見届け、伏黒は精神を集中する。

 今生で最後となる術の発動のために。

 

 (っ急げ、直毘人さんはもう限界だ!)

 

 伏黒の視界の端には、時間稼ぎを続ける直毘人の姿が映っていた。

 体のあちこちに増えていく火傷により、その速度は目に見えて落ちている。

 

 火礫蟲の喚き声を飛天による空気の壁で断絶した瞬間、上下左右から生えた噴火口によって直毘人の体が炭と化す。

 稼げた時間は一分もない。だが、彼は確かに禪院家当主としての役割を果たしていた。

 

 突き出した右腕に左の拳をつける。

 完全なる循環と調和を表す、掌印と呪詞。

 

「布瑠部由良由良」

 

 それは、禪院家の秘中の秘。

 条件次第で『最強』をも殺しうる、到達点の一つ。

 

 大理石のように白い体。

 目の位置に生えた翼。

 頭の上に鎮座する方陣。

 

 見るものによっては天使のようにも見えるだろう怪物。

 

 その名は。

 

 八握剣異戒神将魔虚羅

 

 これが、十種影法術使いの最後の切り札。

 最強の式神調伏の儀式に無理やり相手を巻き込むことで、敵を道連れにしていく自爆戦法。

 

 呼び出した本人の背後から現れる関係上、魔虚羅が最初に狙うのは術者本人。

 だが、ここで伏黒が死ねば魔虚羅の矛先は漏瑚へと向かう。

 

 魔虚羅が右腕の剣を振り上げた。容易に伏黒の命を奪うことができる一撃。

 自分の終わりを意識し、伏黒の頭に走馬灯がよぎる。

 

(津美紀)

 

 最後に浮かんだのは姉の顔。

 

 二年前、何の痕跡も残さず行方不明となった家族。

 自身のあらゆる伝手を使っても、その生死すら確かめることができなかった。

 

(あっちに津美紀がいないといいが)

 

 せめて、死後の世界で再開することがないように祈る。生きてさえいれば、いつか誰かが津美紀を見つけてくれると信じたいから。

 

 背後から風を切る音がした。

 振り下ろされる刃を受け入れ、その命が搔き消えようとしたまさにその瞬間。

 

「は」

 

 破壊音とともに、天与の暴君が乱入する。

 

 その一瞬のうちに起こったことは二つ。

 

 虎杖、東堂、日下部の攻撃によって削られた壁が、外側からこじ開けられたこと。

 それを行った男が、真希の持つ游雲を奪い取り、魔虚羅の攻撃を止めたこと。

 

「あいつ、さっきの」

 

 呪詛師によって呼び出された存在が、敵であるはずの伏黒を救うという不可解な光景。

 

 その事実に驚いているのは、甚爾本人も同様だった。

 

 降霊術により蘇った甚爾は、術者であるオガミ婆を殺したことにより暴走していた。

 強者を求める殺戮人形と化していたはずの自分。それ以前に、生前ですら誰かを救うなどという慈善じみた行動をとったことなどなかった。

 

 それなのに、何故。

 

「おいお前、名前は」

 

「……伏黒」

 

「伏黒、ね」

 

 禪院でない苗字。

 それが意味する事実は一つ。

 

『俺のガキを頼んでいいか』

 

 あの時の遺言。

 自分を殺した同類が、それを果たしたということ。

 

「邪魔だ、離れてろ」

 

「ぐっ!?」

 

 手刀によって伏黒の意識を飛ばす。

 魔虚羅を出したということは、命を捨てるつもりでいるということ。生きて返したいのであれば、いっそ気絶していた方がいい。

 

 制服の襟をつかみ、伏黒を術師達のもとへと投げ飛ばす。

 当然、魔虚羅も黙ってみているわけではない。標的である伏黒を追おうと動き出した。

 

「させるかよ」

 

 その動きを止めるように魔虚羅の顔を蹴り飛ばし、その反動で移動する。

 向かう先は、瀕死の顔なじみの元。

 

「……借りてくぜ」

 

 全身が焼け焦げた直毘人から、彼が持つ呪具を奪い取る。

 

 右手に游雲。

 左手に飛天。

 

 二つの特級呪具で武装した甚爾が、魔虚羅の眼前に立つ。

 

(魔虚羅の調伏儀式は、魔虚羅を倒すか儀式の対象者が死ぬかで終了する。今回はあいつとあの火山頭だろ)

 

 甚爾は漏瑚の実力を見抜いていたが、それでも魔虚羅に勝てるとは思わなかった。

 魔虚羅が持つ退魔の剣は、呪霊に対し絶対的な効果を持つ。いくら強かろうが、呪霊である以上はかすっただけでも消滅するだろう。

 

 漏瑚が敗北すれば、魔虚羅の標的は伏黒へ移行する。

 いまの伏黒の力では、魔虚羅を相手に抵抗することなどできない。数秒も持たずに瞬殺され、それで調伏儀式は終わる。

 

(なら話は簡単だ。俺が魔虚羅をぶっ殺して、調伏の儀式を強制的に終わらせりゃいい)

 

 シンプル。

 だが、それが無理難題に近しいことは彼とて理解している。

 

 それでも。

 

『恵をお願いね』

 

 忘れ去っていた約束。やり残しを清算するために。

 禪院家の異端が、禪院家の虎の子へと挑む。

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