現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル  

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佳境

 目の前に現れたのは、数分前にB5Fで見た男。

 正体はわからない。だが、どう考えても敵だ。それを示すように、級友の殺意が膨れ上がっていく。

 

「宿儺様を返せ!!」

 

「君の相手は彼だよ」

 

 最大出力の霜凪をぶつけようとした瞬間、その体が吹き飛ばされる。

 

 横から突進して来たのは漏瑚。

 足から炎を噴射することで加速、突き飛ばすようにして裏梅をその場から引き離す。

 

「また貴様か、どけ!」

 

 過去に敗れかけた相手。だが、それは裏梅の戦意に影響しない。

 一層の殺意をもって、相手の体を飲み込もうと呪力出力を引き上げた。

 

 その戦闘を横目で見ながら、男は会話を続ける。

 

「怖い怖い。反転術式持ちとはいえ、なんだってあんなに元気なんだか」

 

「お前は……」

 

「加茂憲倫!!」

 

 脹相が叫んだ名から虎杖が頭に浮かべたのは、交流会で戦った京都校の一人。

 だが、呪術界においてその名にはもう一つの意味がある。

 

 加茂憲倫。それは、明治時代に活動し、御三家の汚点としてその名を残した史上最悪の術師。

 

「両面宿儺はこの中だ」

 

 懐から取り出したのは、閉じた瞼のついた悪趣味な箱。

 それについての詳細を知っているわけではないが、裏梅の反応からして宿儺に関わっているのは間違いない。

 

「っ返せ!」

 

「落ち着け悠仁! 無策で突っ込んで勝てる相手じゃない!」

 

 それは正しい。目の前の男から感じる圧は特級呪霊をも超えている。万全でもどうにもならない戦力差、消耗している今ならなおさらだ。

 

 だが引くわけにもいかない。宿儺が封印されたということは、目の前の男を止められる人間がいなくなったということでもある。

 ここで宿儺を開放しなければ、この先どんな被害が出るか想像もできない。

 

「君、弟のことはいいのかい? 何やら下で動いてるようだけど」

 

 壊相と血塗は五条の指示で裏梅を保護しに行っている。

 だが、裏梅が上にきている以上、下で捜索を続けているのは完全に無駄だ。もし術師と鉢合わせれば戦闘になる可能性も高いだろう。

 

「お前を放置する方が怖い」

 

 それを加味しても、加茂憲倫から目を離すリスクの方が高い。

 虎杖がこの場から引くことを考えていない以上、危険なのはこっちの方だと脹相は判断した。

 

「そう。ま、どうでもいいけどね。彼女も到着したみたいだし」

 

(あ、やばい。面倒なのが来た)

 

「は?」

 

 五条の言葉に上を見上げる。

 雲を吹き払うように、蟲のような羽が生えた女が落下してきた。

 見た目は十代後半。だが、呪力の流れ、立ち振る舞いともに数十年の積み重ねを感じる、練り上げられた強さ。

 

 それが味方でないというのは、こっちを見る視線で容易に想像がつくが。

 

「千年ぶり」

 

 気づけば頬を撫でられていた。接近に全く気付かせない速度。

 その眼は、恋慕とも親愛ともつかない殺意で、虎杖ではなくその奥にいる男を見つめていた。

 

 嫌悪感で体が飛び退く。

 

 理解不能、という意味では今までで出会った中でも一際。

 愛しいものへと向ける情念と、絶対に殺すという殺意が完全に同居している。

 

「おい五条こいつなんだ!?」

 

(万っていう昔の知り合い。今風に言うと……あー、ヤンデレストーカー? 平安でも俺を殺そうと付け狙ってきてたんだよね、いやー懐かしい)

 

「お前の交友関係どうなってんだよ!!」

 

 旧友に再会した、といった感じの親しげな口調。

 あれだけの殺意をぶつけてくる相手にもかかわらず、五条の側には悪感情がない。

 

 やっぱこいつよくわかんねえ!と思いながらも、万と呼ばれた女へ最大限の警戒を続ける。

 さっきの動きもそうだが、五条と殺し合いが成立するという情報だけで危険度は最大だ。

 

 その態度を見て、万は不快そうに眉をひそめる。

 

「器が邪魔ね。羂索、さっさと完全に受肉させなさいよ。持ってるんでしょ、もう片方」

 

「万さあ、集合時間に遅れてその態度はないんじゃないの? 君がいたらもっと楽だったのに」

 

「呪詛師との交渉やってやっただけでもありがたいと思いなさいよ。悟の復活には直接関係ないじゃない、ここでの戦闘」

 

「はぁ、まったく……。今は無理だ、完全に復活させるにはもう二つほど準備がいる。先に回游を始めるところからだ」

 

 渋谷での黒幕ともつながっているのだろう。

 脹相は加茂憲倫と呼んでいたが、万は羂索という別の名前で呼び、本人もそれを受け入れている。

 

(どうする!? 加茂憲倫だか羂索だかも相当強い、傷は治ってるけど俺一人じゃ……)

 

「ぐうっ!」

 

 虎杖の思考は、横合いから聞こえてきた苦しげな声に向けられた。

 

 二人の会話の間にも、氷炎のぶつかり合いは止まっていない。

 前回もギリギリのところで拮抗していた実力差。地形による不利はないとはいえ、満身創痍の体では長くはもたない。

 

「ちぃっ……っ!?」

 

 爆炎に吹き飛ばされた裏梅が、転がりながら立ち上がった。

 女の顔を見た瞬間、裏梅が目を見開く。この場にいるはずがない、顔なじみを見たような表情だった。

 

「津美、紀……?」

 

「うん? ああ、この器の知り合い……裏梅だったかしら」

 

「!!」

 

 器。

 呪術の世界でそれが示すものに思い至らないほど、虎杖も無知ではない。

 

「知り合いか、あれ誰だ!?」

 

「恵の姉だ……!」

 

「な……」

 

 伏黒の姉。

 虎杖も、彼女が行方不明になっていることは聞いていた。少なくとも生きていることが分かったのは朗報といえるだろうか。

 問題は、受肉済みの呪物を引きはがす方法など見当もつかないということ。それができるなら、そもそも虎杖は秘匿死刑を決定されていない。

 

 知人の身体を利用されていることへの怒りか、最悪の場合自分の手で殺さなければいけないことへの焦燥か。

 精神も肉体も限界を超えている裏梅。更なる感情の濁流に、体から一瞬力が抜ける。

 

 そんな隙を見せている余裕などないことは、本人も理解しているというのに。

 

「裏梅!」

 

「く、あ」

 

 体全体を包み込む大きさの火炎が背後から襲い来る。

 とっさに呪力を放出するも、相殺までは至らない。積み重なったダメージに、意識はあっても体が動かなくなる。

 

 それをつまらなそうに眺めながら、万は話を続ける。

 

「仕方ないわね。器の方にやらせたい役割はないんでしょ?」

 

「どうするつもりだい?」

 

「手足捥いで持って行くわ。悟に戻れば簡単に治せる。私は一秒でも早く彼と殺りあいたいの」

 

「……まあいい、好きにしなよ」

 

 諦めたようにため息をつく羂索。

 万は、言質は取ったと言わんばかりの笑みを浮かべて、虎杖の方へ向き直る。

 

「させると思うか!?」

 

 弟へと向けられた敵意に、脹相が臨戦態勢へ入った。

 虎杖を庇うように前へ立ち、万へ穿血を発射する。

 

「邪魔よ」

 

 万が背から出していた羽が、黒い液体へと変化した。

 前方へ回ったそれが盾のように硬化し、いとも容易く穿血を防ぐ。

 

「あんたも受肉体? なら殺してもいいか」

 

 穿血を弾いた盾が再び形を崩し、槍を模した形状へと変化した。その切先が、脹相の体を貫かんと加速する。

 

「『赫鱗躍動・載』!」

 

 狙いが自分に向いたことを確認した脹相は、身体能力を引き上げたうえで、回り込むように万へと接近した。

 その背中を、黒い穂先は追い続ける。穿血ほどの速度はない。だが、追尾性能と威力はそれを超えている。

 

「なんだこれは!?」

 

 万の術式は、特殊な呪具を除きほぼすべての物質を再現できる『構築術式』。

 これは、彼女が術式の燃費の悪さを克服するべく、たどり着いた物質のうちの一つ。

 

 呪力により物性を安定させたまま体積を変化させる液体金属。

 赤血操術に勝るとも劣らない自由度を誇る、変幻自在の凶器である。

 

 枝分かれした細かな槍が、雨のように降り注ぐ。

 脹相も即座に血液を硬化させて盾を作るが、穿血を防げる硬度の物質を止められるはずもない。

 

「が……」

 

 着弾。

 薄紙のように破られた血液が制御を離れ、脹相に降りかかる。全身を貫かれた彼は、倒れることも許されずに動きを止められた。

 

 まだ死んではいない。だが、意識は完全に刈り取られている。

 とどめを刺そうと追撃する万。

 

「やめろ!」

 

 虎杖は脹相のことをほとんど知らない。

 だが、先程から自分をかばって戦ってくれているのも事実だ。殺されるのを見過ごすわけにはいかない。

 

 だが、万を相手に何かができるほどの実力は、今の虎杖にはない。

 

 脹相を貫いていた槍が再度形を変え、虎杖へとまとわりついた。

 足首を捉えたそれを破壊するため拳を向けた瞬間、天地がひっくり返る。

 

 液体金属が虎杖を捕まえたまま、上空へと伸び上がったのだ。

 吊られた姿勢のまま地を見ると、足首から伸びた黒が鞭のようにしなるのが見える。

 

「離……」

 

 言葉を紡ぐ暇もなく、頭から地へ叩き落された。

 脳が揺れ、意識が飛びかける。呪力で強化していなければ、頭が割れるか首の骨が折れるかして死んでいた。

 

「へえ、まだ意識あるの? 流石に頑丈ね」

 

 未だに足に絡みついている金属が分裂し、手足を磔にした。

 

 初手で手足を切り落とさなかったのは、確実に意識を刈り取り、致命傷を与えないようにするためだろう。

 四肢を落としたうえでなお暴れられれば、失血死する可能性もある。身動きできなくしてから攻撃し、液体金属によって傷口を封じれば命を奪うことはない。

 

 万が新たに生み出した黒いワイヤーが、地面を抉り裂きながら虎杖へと迫る。

 

(やられ……、っ!?)

 

「ふうん?」

 

 ぬるっ。

 圧倒されるというより、畏怖を抱かせるような。五条よりも宿儺に近いその気配。

 

 今日何度目かになる強者の乱入。

 一人は羂索の前に立ち、その動きを制する。

 

 金の長髪。

 龍のようにも見える式神を後ろに浮かせた女。

 

「質問の答えを聞こうか、夏油君」

 

「思ったより早かったね」

 

 もう一人は虎杖の前に立ち、万の攻撃を食い止める。

 

 虎杖とは違う白い制服。

 式神なのかもわからない、得体の知れない存在を後ろに立たせた青年。

 

「ごめん、遅れた」

 

「九十九由基、乙骨憂太!!」

 

 

 




実は乙骨が海外行ってるって情報は書いてなかった(はず)です
五条家の権力なしに特級術師を海外派遣なんてできるわけないので

次回で渋谷事変終わりです
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