現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦   作:ソル   

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独自解釈・独自設定タグが本気を出す回


閉門

 四人しか存在しない特級術師の内、三人が参戦した戦場。

 これほどの実力者が一堂に会する機会は、歴史上でもそうそうなかったはずだ。

 

 そのうち一人、刀を構えた青年が虎杖へと問いかける。

 

「虎杖君、状況は?」

 

 呪術高専二年、乙骨憂太。

 任務の忙しさ故に交流会には参加できなかったものの、虎杖とは何度か面識がある。

 

「宿儺先生が封印された、そっちの男が持ってる! もう一人は呪肉体、器は伏黒の姉ちゃん!!」

 

「先生が……!?」

 

「簡潔な説明どうも。随分と不味い状況みたいだね」

 

 九十九由基。

 特級でありながら、高専の任務を受けることなく海外を放浪している自由人。

 

(こっちに向かう途中で乙骨君と合流できたのはラッキーだと思ったんだけどな。夏油君以外にもこんなのがいるとは)

 

 黒髪をポニーテールにした女。

 特級の資格要件を満たしているかはわからないが、自分たちと戦えるレベルの実力者であることは疑いようもない。

 

 九十九が警戒を強める中、万の目線は自身の攻撃を防いだものへと向けられる。

 

「あんた、悟……というか五条家の子孫でしょ。ちょっと遊んであげるわ」

 

「!」

 

 乙骨と距離を縮めた万。

 その背からこれまで以上の黒が溢れ出し、巨大な壁を生成した。

 

 戦場の分断。

 羂索にも九十九にも邪魔できない一対一での戦い。

 

(伏黒君のお姉さん……。殺すわけにはいかないけど、手を抜いて戦える相手じゃないな)

 

 正直言って、優先度は向こうの方が上だ。羂索を倒して宿儺を解放できれば、この戦場の全てを簡単に片付けられるだろう。

 だが、全力で戦わざるを得ない。狙われている虎杖も壁のこちら側にいる以上、万から目を離すわけにはいかないからだ。

 

「リカ」

 

『はあ゛い』

 

 相手の実力を悟った乙骨は、薬指へと指輪をはめる。

 それは、彼にとっての全力の証。ただでさえ強大な呪力が、これまで以上の存在感を主張する。

 

「へえ! 現代の術師にしてはやるじゃない」

 

 千年ぶりに相まみえる強敵に、万の眼の色も変わる。

 

 パキパキと音を立てながらその体を覆っていくのは、万がたどり着いたもう一つの物質。

 数多の生体機能を流用・特化させた、蟲の鎧。

 

 現代の呪いの女王と、呪術全盛平安屈指の強者。異形の存在がぶつかり合う。

 その瞬間、周囲の空気が音を立てて破裂した。

 

 

 一方、壁の向こう側でも戦闘が開始されていた。

 

 挨拶がわりの攻撃。サッカーボールのように蹴り出された式神『凰輪(ガルダ)』が、風切り音を立てながら標的へと迫る。

 恐るべき威力だった。急所に当たれば羂索でさえ一撃で即死しかねないほどに。

 

「花御、陀艮」

 

 半分ほどの距離をつぶした地点で、式神の群れと樹木の盾が凰輪を迎撃する。

 一体が倒され、一本がへし折れた瞬間にまた次を生み出し続けることにより威力を削いでいく。数百匹の式神と数十本の大木を塵に返しながらも、その勢いは弱まっていた。

 

「チッ」

 

 羂索であれば十分受け止めきれるまで威力が落ちたところで、九十九が凰輪を手元へ戻す。

 効果がないとわかっているのであれば、相手に情報を与えるだけだと判断したのだ。

 

「さて、次の世界の話をしよう」

 

 羂索の影から現れたのは、宿儺封印以降、渋谷での戦いには参戦していなかった真人。

 

「無為転変、という術式がある。魂の形を変えることで肉体そのものを変化させるというものだ。やりようによっては非術師を術師に変えることも、またその逆も可能だろう。脳の形を整えてしまえばいいだけだからね」

 

 天与呪縛による欠損ですら、完璧に直しきることのできる自由度。

 彼の持つ術式は、ある意味では、五条悟や両面宿儺をも超えるほどの特異性を持つ。

 

「そして、個々人が持つ術式は、その肉体に刻まれる。私が呪霊操術を使えるのも、それが刻まれた夏油傑の肉体を利用しているからだ。また、受肉体がその体に呪物が持っていた術式を刻まれるという例もある」

 

「……まさか」

 

 相手の狙いを探るべく、聞き手に回っていた九十九の顔色が変わる。

 彼女の思考を読み切ったのか、羂索が口元に笑みを浮かべた。

 

「やはり君の思考は私に近いようだ。そう、無為転変をうまく扱えば、だれにでも自由に好きな術式を持たせられるのではないか?」

 

 それは、呪術界そのものを揺るがしかねない思い付きだった。

 単純な実力だけでなく、術式そのものによって自らの価値を証明している者は少なくない。例えば禪院家では、術式を持たないというだけで落ちこぼれとしての人生がほぼ決定する。

 

 そんな状況を一変させうる。それだけではない。

 仮に、特級術師の持つ術式が呪詛師の手に渡ったらどうなる?

 単独で国家転覆が可能な人間が、制御不能に暴れまわればどうなるか。自らに世界を滅ぼしつくす力があるからこそ、九十九はその脅威を正確に理解している。

 

 

「結論から言うと、自由に、というのは不可能だった。術式がどのような形をしているか、どのように動かしているかを完璧に理解していなければ、他者にそれを刻むことは出来ない」

 

 要するに、無為転変によって与えられるのは術者が熟練している自分の術式だけということ。

 仮に真人が別の術式を持っていたなら、その形に魂を整えることもできたかもしれないが、あくまで机上の空論だ。

 

「その上、いくつかクリアしなければいけない課題があってね。その中でも大きいものは二つ。まず、術式に対する耐性の問題。臓器や四肢を無理やり増やすようなものだからね。普通の人間や呪霊では拒絶反応に耐えられない」

 

 その言葉の裏に、実験によって犠牲になった人々の姿が透けて見える。

 

「そして二つ目は、術式の劣化。真人は魂を分けることで、自立行動が可能な分身を作ることができる。だが、分身には他者の魂に干渉する力はないらしい。分身であるという認識の問題なのか、魂の分量の問題なのかはわからないが……話がずれたね。これと同じことが、無理矢理持たせた術式でも起きる。本体と同レベル以上じゃなければ使い物にならないというのに」

 

「ならさっさと本人を取り込んでしまった方が早かったんじゃないか?」

 

「そうしたいのは山々だったんだが、少し面倒な縛りがあってね。無為転変は私自身が二回発動しなければいけない。どうにかしてこの無茶を成功させる必要があった」

 

 話を変えようか、と言葉を続ける。

 

「真人には、『多重魂』という技がある。魂同士を重ね合わせ、拒絶反応により肉体を勢い良く爆発させたり、逆に拒絶反応の微弱な魂を合体させることで、通常よりも強力な改造人間を作り出すことができる」

 

 虎杖がこちら側にいれば、声をあげていたかもしれない。

 初めて命の危機を感じた戦闘。裏梅を除いた一年で向かった、少年院にいた特級呪霊。

 

 それが、三体。それらは、コピーされたように全く同じ見た目をしていた。

 

「これらは、刑務所や少年院といった場所で、真人の呪力をなじませた呪物を核に、罪を犯した人間たちへの恐れを利用し人工的に生み出したものだ。つまりこの三体は、人に対する憎しみや恐れから生まれた呪霊ともいえる。真人との相性はこれ以上ない」

 

「……!」

 

 九十九の顔にこれまで以上の焦燥が浮かぶ。

 相手のやろうとしていることを完全に理解したからだ。

 

「長くなったが、これが結論だ。真人本人の魂を3割ずつ特級呪霊に分け与え、その上で肉体を無為転変を持つ形状に整える」

 

 真人が手を触れた特級呪霊達。その見た目が、真人そのものへと変化した。

 

「『分魂偏在体』」

 

 単なる分身とは違う。

 ほかの魂を核とし、それと別の魂を混ぜ合わせることにより存在としての強度を担保する。

 

「魂を分けただけの分身には出来なかった、他者への無為転変。それを成立させるため、彼らには一度術式を使えば自死するという縛りを強制的に結ばせている」

 

 命を使った縛りは強力な効果を発揮する。単なる鴉の体当たりが、特級呪霊を一撃で倒せるようになる程に。

 羂索の言葉通りなら、あの三体はそれぞれが他者へ無為転変を施すことが可能になっていてもおかしくない。

 

(だがそれでも三分の一以下、多くの人数を一度に変えるには出力は足りないはず……いや、まさか!)

 

 出力を上げる方法は、先程彼自身が語っていた。

 『拒絶反応の微弱な魂を合体させることで強力な改造人間を作り出す』、その技の名は。

 

「『奇魂異生体』。複数の命を短時間で燃やし尽くすことにより爆発的な力を得る。これで彼らの出力は、一時的に本体をも超えることができる」

 

 本来、呪霊操術の支配下にある呪霊は、取り込んだ時点で術式の成長を止めてしまう。しかし、『分魂偏在体』により存在を作り替えられた時点で、羂索は彼らの制御を手放していた。

 真人が肩に手を置くと同時に、二体の呪霊が一つの形を成す。それは、どこかの世界で『遍殺即霊体』と呼ばれる姿によく似ていた。

 

 もはや一刻の猶予もない。

 自然呪霊の攻撃を喰らうのも覚悟で、羂索を確実に仕留めるべく凰輪を振るう。

 

「■■■■」

 

「クソっ!!」

 

 その瞬間、九十九の姿がその場から消え失せる。代わりに現れたのは、特級呪霊『疱瘡婆』が展開した領域の外殻。

 ここまで伏せていた兵による領域展開。九十九の実力であればすぐに抜け出せるが、この状況では1秒が致命的。

 

 勝利を確信したような笑みを浮かべる羂索の背後で、真人の目に光が戻る。

 

「お前……!」

 

 分魂偏在体などという無茶を成立させるために羂索が結んでいたのは、その後真人を呪霊操術のコントロール下から外すという『縛り』。

 特級の手ごまを完全に失うという重い縛りにより、この儀式の成功率をさらに上げていた。

 

 そして、無為転変を使える呪霊が増えた今、もはや真人に興味はない。

 

「もう君に用はない。どこへなりと消えるといい」

 

「……後悔するよ」

 

 いいように利用された屈辱と怒りで、真人の顔が歪む。

 だが、魂の九割を消費させられた真人は、今までの十分の一ほどまで弱体化している。

 

 この状態で目の前の相手に勝てるわけがない。

 背を向けて逃げるという屈辱を噛み締めながら、真人はその場から姿を消した。

 

「さて」

 

 奇魂異生体と、それに使われなかったもう一体。残った二体の呪霊が、羂索の手の中へ吸い込まれていく。

 黒い球体と化したそれを、口元へと運んだその時。

 

 バキィ!と何かが割れるような音が、領域の内側から響く。

 

「マジか!?」

 

 余裕の表情を崩さなかった羂索が、初めて狼狽した顔を見せた。

 

 起きたこと自体は単純。九十九が全力で放った凰輪が、展開された領域を疱瘡婆ごと打ち砕いた。

 通常内側から脱出することはできない領域を、外殻ごと破壊できるほどの圧倒的な質量を込めた攻撃。

 

 九十九の術式は、自らと凰輪の質量を際限なく増大させる『星の怒り』。

 単純な威力だけでなく、概念といったあいまいなものをも貫くことができるほどの圧倒的な攻撃力を誇る。

 

 羂索へ向かい正確に飛んでいく凰輪。先刻のように威力を殺せるだけの距離はない。

 決まった。そう確信した九十九の眼に移ったのは、羂索の半径6mに立ち入った瞬間、凰輪の動きが何かに押しつぶされるようにして止まった光景だった。

 

「いや本当に驚いた。まさか単純な力業で領域を破壊してくるとは、流石特級術師といったところか」

 

(今のは重力……!?)

 

 秘められていた術式の一旦は掴んだ。

 

 しかし、それよりも不味いのは、相手の行動を止めきれなかったこと。

 呪霊を嚥下する音が、やけに大きく響いた。

 

「極の番『うずまき』」

 

 呪霊を呪力の塊へ還元し、相手へとぶつける大技。

 

 未だ動けない凰輪を手放しそれを避けるが、今のを出された時点で戦略的な敗北が決定している。

 うずまきの真価は、準一級以上の呪霊に使用した場合、その術式を抽出することなのだから。

 

「二人で来てくれて助かったよ。どちらか一方であれば万一人で抑えられる、それでは『縛り』をさらに強めることができないからね」

 

 縛りの本質は、自らのリスクを高めることによってリターンを大きくすること。途中で妨害される可能性を五分以上にすることで、儀式の成功率を引き上げた。

 

「無為転変」

 

 地に触れた羂索が術式を解放した。

 その足元に、不可思議な紋様が浮かび上がる。

 

 (術式の遠隔発動……!?)

 

 それと同じ紋様が空に浮かび上がっているのを確認し、九十九は自分が妨害に失敗したことを悟った。

 

「何をした」

 

「術式を所持しているが脳の形が術師でない者と、虎杖悠仁のように呪物を取り込ませた者。マーキング済みの二種類の術師にそれぞれ無為転変を施した」

 

 前者は脳の形を変えることにより呪術の使用を可能にし、後者は呪物が受肉するための強度を与えられた。

 その数はおよそ一千人。中には万のような強者も相当数混じっているはずだ。どういうレベルの混乱が起こるか、もはや想像すらできない。

 

「彼らにはこれから、呪術への理解を深めるため殺し合いをしてもらう」

 

「羂索ー終わった?」

 

「……話の腰を折らないでくれないかな」

 

 万が展開した壁が崩れる。

 空に浮かんだ紋章によって、もはや時間稼ぎの必要がないことを悟ったのだ。

 

「終わったみたいね。ここまでにしましょうか」

 

「逃がさない」

 

 万と乙骨は、どちらもほぼ無傷。

 戦闘時間が短かったこともあり、互いに底までは見せていない。

 

「逃げるさ。当然だが、私が契約を結んでいたのは人間だけではない。まあ、その契約はこの肉体を手にしたときに破棄したけどね」

 

 その言葉とともに、無数の呪霊があふれ出した。三級程度の呪霊から一級以上の実力を持つものまでさまざまな種類。

 放出の勢いは止まることなく、津波のように広がっていく。

 

「乙骨だったかしら? 仙台で待ってるわよ。今度は本気で相手してあげる」

 

「待て!」

 

 数多の呪霊の影の中へ、二人の姿が消えていく。

 最後に一つの言葉を残して。

 

「聞いてるかい、悟。()()()()()()()()()()、そっちも準備しておいてくれ」




明日もちょっと更新あります
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