現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
死滅回游について
2018年11月6日
10:31
東京都 千代田区
「虎杖!」
「応!」
玉犬によって追い込まれた呪霊が、虎杖の拳で消滅する。
渋谷事変終結から二日。
虎杖をはじめとした高専術師達は、総監部からの通達に従い、東京周辺の呪霊を祓い続けていた。
◆
「この辺りの呪霊は祓いきったみたいだな」
「じゃあさっさと次行くわよ。玉犬お願い」
「なんかやけに張り切ってんな、釘崎」
「……こんな状況なんだし、一匹でも多く呪霊減らさないと。あんたらは休んでてもいいわよ、渋谷で疲れてんでしょ」
どこか余裕がない釘崎だが、渋谷での戦闘に参加していない分、体力は有り余っているらしい。誰よりもはやく、次の目標を求めて歩き出した。
そんな彼女の背を追いながら、二人は物憂げな表情を見せる。
「なあ、俺たちこんなことしてていいのかな」
「……よくはねえよ」
問題が起きているのは東京だけではない。
日本各地に十の結界が展開され、その中では千人規模の殺し合いがスタートしている。
自分の姉すらその中に参加させられているのだ。誰よりもこの状況を何とかしたいのは伏黒本人だった。
「焦んなよガキども」
三人へ声をかけたのは日下部。
宿儺がいないこともあり、一年の監督は二年と同時に日下部が行っていた。
「……けど、どう考えてもおかしいですよね、あの通達」
「……ま、そりゃな」
事変後に総監部から下された決定は三つ。
夏油傑の捜索の禁止。
宿儺の封印解除の禁止。
死滅回遊への干渉の禁止。
要約すれば、「死滅回遊の主犯である夏油は放置し、回游に手出しするな」ということだ。
それぞれに理由はつけられていたものの、まともな人間が見ればそれが成立していないことは一目瞭然だった。
渋谷と同規模の呪霊拡散を防ぐため、という理由であれば、羂索を監視もつけずに放置するような結論に至るはずがない。
相手が何を目的としているのかわからない以上、彼を放置しておけば、今この瞬間呪霊がどこかで放出されても不思議はないのだから。
(そのうえ、死刑を留めてた宿儺が消えてるってのに虎杖に対しては何の通達もない。渋谷での情報的に、羂索とかいうやつは五条悟と面識あるみたいだし、それ関連なんだろうが)
あまりにも羂索に対し都合がよすぎる状況。
日下部は、総監部が完全に手中に収められていることはほぼ確定しているとみていた。
つまり、派手な動きを取るわけにもいかない。
あちこちに監視の目がある以上、急に動けば出だしを潰される可能性がある。
「東京の呪霊をほっとくわけにもいかないしな。とにかく、タイミングを考えねえと何もできねえっちゅー話」
「正しいね。けど、今タイミングが来たよ」
背後から聞こえた声に振り向くと、そこには渋谷で知り合った四人の姿があった。
「九十九さん!? それに脹相達も! 何でここに!?」
「二日ぶりだな、悠仁。元気にしていたか?」
兄弟の再会を喜ぶ脹相達を遮るように、九十九が話を進める。
「説明は後だ。高専の内側に入りたい、手を貸してくれ」
「待て待て、あんたら警戒対象なの忘れてんじゃねえだろうな」
待ったをかけたのは日下部。
九十九は、あの時九相図兄弟を連れて渋谷から離れたことで、総監部から最大級の警戒対象として睨まれている。
混乱により結界が緩んでいるとはいえ、自分から高専へ向かうのはさすがにリスクが高すぎる。
「悠長にしている時間がないのはわかっているだろう? それに、乙骨君にも同行してもらうつもりだ。誰か止められる人間がいるのかな?」
「……まあいねえな」
単独で国家転覆すら可能な特級術師が二人。
一級術師が束になっても止められるものではないだろう。
「安心してくれ、別に暴れまわろうって訳じゃない。この状況を収束するために、引きこもりから情報を聞き出したいだけだ」
◆
11月6日
14:13
「この先だ」
混乱によって交通機関が麻痺していることもあり、高専へ着くまでにはかなりの時間がかかった。
だが意外にも、ここまでの道中で妨害を受けたりはしていない。
(私たちに警戒を向ける余裕がないか、逆に余裕がありすぎて放置されているのか。どっちにしても不気味だね)
なんにせよ、今考えても仕方がない。
脹相の術式により、兄弟の気配を辿る形で天元への道が開けている。ここを逃せば、天元と接触できる機会はほぼなくなるだろう。
ここに来たのは虎杖、伏黒、釘崎、九十九、乙骨、九相図兄弟。あまり大人数だと目立ちすぎるという理由で、日下部や乙骨を除く二年は呪霊狩りを継続していた。
「ここだ」
九相図の亡骸が眠る高専忌庫を通り過ぎ、天元の本体が住まう薨星宮への扉を開ける。
彼らの目に飛び込んできたのは、見渡す限り無限に続く真っ白な空間。
「何ここ、なにもないじゃない」
「よく来たね」
そこに立っていたのは、一見して人間とはわからないような異形。
長方形のような頭部に、四つの大きな瞳。その姿は、どこか宿儺に似ていた。
「お前が天元か」
◆
天元から得た情報は、大きく分けて三つ。
まず、死滅回游の元凶である羂索についての情報。
平安の時代から活動している術師である彼は、進化した天元を呪霊操術で取り込むことにより、すべての日本国民を別の存在へと強制的に進化させることを目的として活動している。
そのために必要な儀式が、死滅回游。術師の死により結界内へ呪力を満たし、非術師を呪力に慣らすことによる同化の下準備を行なっている。
結界内での殺し合いを止めるのは、巻き込まれた一般人だけでなく、日本全体を救うことにもつながるということだ。
二つ目は、宿儺の封印を解くために必要な術師、天使。
獄門疆の封印を解くためには、羂索から表門を奪取するか、天元が持つ裏門から解放する必要がある。
羂索の動向が掴めない以上、前者は成立しないだろう。
だが、裏門の封印を解くためには、術式効果を乱し相殺する黒縄か、術式を強制的に解除する天逆鉾のどちらかの呪具が必要になる。
黒縄については、百鬼夜行での戦闘時に宿儺がほとんどを削り切ってしまった。残りがあるかをラルゥ経由で九十九がミゲルへ問いただしていたが、こちらに関しては望みが薄いようだ。
天逆鉾についても、交流会での襲撃時に奪われ、今は羂索本人の手中にある。
そこで天元が提案したのが、『あらゆる術式を消滅させる術式』を持つ術師、天使に協力を仰ぐこと。
死滅回遊への対処と同時進行で、天使の捜索を行う方向で話がまとまった。
そして、最後の情報。
千年近くの間活動している羂索が、何故今この時動き始めたのか。
これは、虎杖にとっても関わりの深い話だった。
「羂索は、過去に一度六眼の術師に敗れている。五条悟の先々代、五条家の初代当主によって」
それは、天元が星晶体との同化を行おうとしたときだった。
同化を防ぎ、天元の進化を促すべく羂索が暗躍したが、最終的には六眼の無下限呪術使いによって破れた。
「私、星晶体、そして六眼。この三つは、因果の鎖によって強固に結びつき、それを邪魔することは出来ないはずだった」
だが、その因果を崩すべく、羂索は一つの手を打った。
それこそが、五条悟に持ち掛けた取引。
「虎杖悠仁の中にいる彼が、六眼を持ったまま呪物と化したことで因果の鎖がほどけ始めた。六眼は同時期に二つ現れることはないからね。それにとどめを刺したのが、天与呪縛のフィジカルギフテッド、禪院甚爾の介入だ」
あの日、甚爾が天内理子を殺したことにより、天元を中心とした因果の鎖は完全に破壊された。
皮肉にも、呪術界に否定された存在が、すべてを変えるきっかけになったことになる。
「……天元様はさ、五条のこと恨んでたりすんの?」
今の話を聞くに、天元がここまで追い込まれているのは、元をたどれば五条悟のせいともいえる。
もし彼が呪物と化していなければ、六眼を持った存在が現れ、十年前の護衛任務の結果は違っていたかもしれない。
「五条悟か。……思うところがないといえば、噓になるね。だが、そもそも彼は私たちの因果のことなど少しも知らなかったはずだ」
四つの眼が、虎杖を見た。
遠い昔を懐かしむような、変えられない過去を悔やむような、そんな視線。
「彼の孤高を知りながら何もしなかった私に、何かを言う資格はないだろう」
◆
(……流石にちょっと罪悪感あるなー。後悔は微塵もしてないけどさ)
◆
「だいたい情報は集まったわね。で、誰がどこに行くの?」
天元の護衛として名乗りを上げたのは脹相と九十九。
そして、壊相と血塗もここに残ることを希望していた。
「私たちの外見では、人探しには向かないだろう。兄さんたちとここに残るよ」
「構わないよ、私の護衛は少しでも多い方がいい」
羂索は、渋谷にて特級呪霊を手駒に置いている。
九十九であれば対処は可能だが、それでも無傷で余裕の勝利とまではいかないだろう。人数が多いに越したことはない。
「俺は仙台の結界へ向かう。死滅回遊の目的が分かった、これ以上津美紀をほっとくわけには——」
「いや、仙台へは僕が行く」
伏黒の言葉を遮ったのは乙骨。
「僕は先生と同じように、反転術式をアウトプットできる。津美紀さんの肉体を殺さずに捕縛するなら、僕が適任だと思う」
「なら俺も一緒に行きます。玉犬がいれば捜索もしやすいでしょ」
「いや、だめだ」
頑なに伏黒を来させまいとする理由は、乙骨の目が語っていた。
「……っ」
言葉に出さないからこそ、伝わることがある。自分では、足手まといにしかならないと。
領域こそ会得しているが、伏黒の実力はせいぜいが一級術師と同等。
現代の術師の中では上澄みでも、特急術師レベルの戦いについていけるほどではない。
乙骨自身も、かなり苦しい戦いになると判断している。
(悔しいけど、伏黒君に気を配りながらあの人と戦うのは、今の僕じゃ無理だ)
渋谷での戦闘時、乙骨は指輪を付け完全な状態で万を相手取った。
その上で、互角。しかも、相手にはまだ余裕があった。
実力的に格上の相手。それを殺さず捕縛するとなると、難易度はさらに跳ね上がる。
荷物を抱えて戦えるほど甘くはないだろう。
「伏黒君達は、停学中の秤先輩を引き入れてほしい。先輩に顔を知られてない三人なら、警戒されずに近づけるはずだ」
「津美紀を、お願いします」
「任せて」
これで全体の方針は確定した。
虎杖・伏黒・釘崎の三名は、秤金治と星綺麗麗を仲間に引き入れたのち近場の結界へ侵入、得点を稼ぎ死滅回遊の殺し合いを止める総則を追加する。
乙骨は仙台結界へ侵入、万の捕獲を狙いつつ得点を稼ぐ。
九十九と九相図兄弟は薨星宮に残り、天元の護衛に当たる。
他の高専術師達も、情報を共有すれば各々で動き出すだろう。
今の情報を携帯で共有しようとした時、先に家入からの連絡が入った。
『裏梅が高専から抜け出した。既に結界内へ侵入している可能性もあるそうだ』
◆
11月6日
15:24
東京第二結界
「5点が追加されました」
呪霊の消滅とともに、機械的なアナウンスが流れた。
あたりの気温は著しく低い。その原因は、周囲を凍り付かせる一人の女。
彼女は白い息を一つ吐くと、次の標的を求め彷徨い始めた。
死滅回游 泳者
氷見裏梅
所持得点 35点
東京第二結界編は毎日投稿の予定です
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