現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
2018年11月6日
11:05
東京都立呪術高等専門学校
『家入さん、状況は……どうなりました?』
『……悪いニュースだらけだ。一旦落ち着いてからでも』
『なら尚更です、早く教えてください』
『……夏油のガワを被ったやつは取り逃した。宿儺は封印された上でそいつが持ってる。東京は新宿中心にメチャクチャになって、日本各地で殺し合いの儀式が始まっている』
『それと、もう一つ伝えなきゃいけないことがある』
『姉、さん』
『……汐梨ちゃんは、パンダたちと距離が遠かったこともあって発見が遅れたらしい。外傷自体は完璧に修復してるけど、心停止していた時間が長すぎた。生命活動自体は止まっていないが、植物状態で眠り続けてる』
『……回復する可能性は?』
『わからない。原因は心肺停止による脳へのダメージだが、脳についてはまだブラックボックスなところが多いんだ。私や乙骨の反転術式では完全に回復しきれなかった。……すまない』
『いや、二人のせいじゃありません』
『悪いのは、何もできなかった私だ』
◆
2018年11月7日
「5点が追加されました」
今ので35点。
新たな総則を追加するためには、少なくともあと十三の泳者か呪霊を殺す必要がある。
裏梅が東京第二結界を選んだのは、ここがほぼ海の結界であることが大きい。
行動できる範囲が狭ければ、それだけ他の泳者とも遭遇する確率が高いからだ。
裏梅は死滅回游の目的について詳しく知っているわけではない。
だが、わざわざ結界を用意して殺し合いをさせる時点で、全ての結界に相当数の泳者や呪霊が送り込まれているはずだと考えていた。
そして、その推測は的中。
結界侵入後半日も経たないうちに七体の呪霊と遭遇、その全てを得点へと変えた。
(本格的に活動するのはもう少し後だ。海の周辺に巻き込まれた一般人がいないかを確認してから、この結界の海を全て凍らせる)
現在裏梅がいるのは、貨物船へ乗せられる予定だっただろうコンテナがそのままになっている船着き場。
目線を変え海を見れば、そこには呪霊の気配がありありと感じられる。
氷を操る術式は、水の中にいる相手には特効に近い。
海中の呪霊であれば、そのやり方で一掃できる。何体いるかまではわからないが、今のペースを考えると総則を一つ追加できる程度には存在しているはずだ。
(追加する必要のある総則は二つ。泳者の情報を開示するものと、特定の泳者に限り結界の出入りを自由にするもの。その二つさえあれば、羂索を追うことができる)
死滅回游の下手人が羂索である以上、彼が泳者としてカウントされている可能性は非常に高い。
(一秒でも早く宿儺様を解放する。宿儺様の反転術式なら、姉さんも治せるかもしれない)
宿儺の反転術式であれば、致命傷に近い傷でも瞬時に回復できる。
乙骨や家入で治しきれなかった汐梨の脳も、宿儺が戻ってくれば治療できる可能性は高い。
『留守を任せた』
宿儺の言葉が頭をよぎる。
後を託されたにもかかわらず、結局は宿儺に頼らざるを得ない自分に、自己嫌悪が加速していく。
だが、それでも足を止めるわけにはいかない。
次の獲物を探すべく、振り向いた彼女の視界に映ったのは。
嘲笑するような笑みを浮かべる、金髪の男。
◆
2018年11月6日
禪院家
禪院家当主、禪院直毘人が昨晩死んだ。
それ自体に心を痛める人間はほぼいない。
術師の家系に生まれた以上、だれがいつ死のうが不思議なことではないからだ。
問題は、直毘人が残していた遺言状について。
『何らかの理由で両面宿儺が死亡もしくは意思能力を喪失した場合、禪院甚爾との制約を履行し伏黒恵を禪院家当主に迎え入れ、全財産を譲るものとする』
直毘人が何を考えてこんな文言を残していたのかは、今となってはわからない。
どうあれ、今これが禪院家に混乱をもたらしているのは事実だった。
「伏黒恵はあくまで外様だ。奴が当主になったとして家に利があるとは思えん」
「奴の姉も死滅回游に巻き込まれているらしい。ことと次第によっては総監部の通達に真っ向から逆らいかねんぞ!」
「むしろそれが使えるかもしれん。事実はどうあれ、総監部に暴走を通達し討伐の大義名分を得られれば……」
伏黒を排除すべく、策謀を巡らせる禪院家の面々。
そんな会話に参加することなく、つまらなそうにあくびをした者がいた。
「アホらし、勝手にやっとけ」
自分に集まった視線を歯牙にもかけず、直哉は立ち上がる。
「貴様はいいのか!? 相伝を継いでいるだけの小童だぞ!」
「邪魔んなったら殺せばええやろ。領域も使えんあんたらに任せるよりは幾分マシや」
非難の声を受け流しながら、部屋の外へと出ていく直哉。
彼は心底から見下した目で、謀略を続ける面々を置き去りにした。
「直哉様、ご報告が」
「何やこんな時に」
廊下に出た途端、女中の一人が直哉へと声をかける。
「氷見裏梅が暴走、東京東側の結界へ侵入したとの報告が入りました」
「……やっぱり動いたみたいやなあの女。総監部に伝えとき、禪院直哉が命令違反のバカを誅殺したるって」
直哉が遺言に対し激昂しなかった理由は、10年前の経験に起因する。
氷見裏梅、そして両面宿儺から受けた屈辱。それは地位や名誉などよりも、自身の強さを追求する方面に直哉の性格を傾かせていた。
もはや当主の地位になどそこまでの興味はない。
直哉の中にあるのは、『あっち側』への執着と、あの日の雪辱を果たすことのみ。
絶好の機会が到来したことに、直哉は口元を歪めていた。
◆
「禪院直哉か……。何のつもりだ?」
「そりゃこっちの台詞やね。総監部からの通達聞いてないんか?」
「あんなもの真面目に取り合う必要があるのか」
敵が敷いたルールを馬鹿正直に守るつもりなど裏梅にはない。
その言葉を待っていたと言わんばかりに、直哉の笑みは深まっていく。
「その言葉、明確な総監部への反逆やな。今この瞬間、君の立場は呪詛師になった。ぶっ殺してもだぁれも文句は言わん」
「建前を用意したいなら殺気ぐらい隠せ。私が何も答えなかったとしてもやるつもりだっただろう」
「くくっ、どうやろなあ」
そういう裏梅も、直哉に対する殺気を隠すつもりはない。
普段であれば、戦闘を避けるだけの理性はあっただろう。だが、今の彼女には余裕などかけらも存在しない。
恩師の封印に昏睡状態の姉。一刻を争うような状況で、自分を殺そうと迫る相手へ冷静に対処することなど、今の彼女には無理な話だった。
裏梅の周囲の温度が下がる。
直哉の動きが不自然に加速する。
一級術師の中でも、外れた実力を持つ二人が衝突する。
その直前。
上空、コンテナを吊り上げるクレーンの上から声がした。
「楽しそうなことやってんじゃねえか」
紫電が、二人の間へ割って入った。
乱入者ごと敵を排除しようとした二人だが、攻撃が男へと到達した瞬間に、その動きが停止する。
(これは、電気、か?)
男へ触れた部位から、雷に打たれたかのような衝撃が全身へ走った。
術式や呪具によるものではない攻撃。男の呪力そのものが、電気のような性質を持っていた。直接触れれば感電し、体が一瞬硬直する。
「あん? なんか薄っぺらくなってんな」
「……誰やお前、すっこんでろ」
「鹿紫雲一だ。このレベルの術師が、
古今東西の強者が集結する死滅回游。
その中で、最も早く激戦が繰り広げられたのは、この東京第二結界であった。
東京第二結界、電光雪華編は全4話です
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