現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
11月7日
禪院家
『全部壊して』
数百年続く名家は、凄惨な殺戮の舞台となっていた。
妹の死により覚醒した鬼人、禪院真希。
自ら虐げてきた者たちによって、禪院家は壊滅した。
「真依ちゃん!!」
『真依……?』
声を上げたのは、真依の後を追ってきた、西宮とメカ丸だった。
二人を見ても、一切表情を変えずに歩き続ける真希。その沈黙によって、二人は真希が抱えているものの正体が、すでに息絶えた級友であると悟った。
「……後、頼む」
夕暮れが、血で染まった姉妹を照らす。
真依の遺体を二人へ預け、真希は生家に背を向けた。
「これからどうするの、真希ちゃん」
「まだ終わってない。直哉の奴もいなかったしな」
『……禪院直哉なら、情報があル。つい昨日、氷見裏梅を追い東京結界へ入ったト』
「そうか。急がねえとな」
禪院家という呪い、その次世代の象徴。
禪院直哉を殺さなければ、真依の想いは遂げられない。
(ジジイも含めて、禪院家で一番強いのはあいつだ)
◆
術師の成長曲線は、必ずしも緩やかではない。
確かな土壌、一握りのセンスと創造力。後は些細なきっかけで、人は変わる。
直哉にとってそのきっかけとは、あの日味わった敗北感に他ならない。
幼いころから天才と呼ばれ、実際に次期当主として申し分ない才能を持っていた。それを更に磨き上げた理由は、自分を歯牙にもかけないある男の強さへの憧憬。
彼の立つ場所へ辿り着くべく積み重ねてきた強さを、十にもならない女児に否定された。そのことが、甚爾と同等、しかし負の方面への衝撃を直哉へと与えていた。
皮肉にも、直哉にとってはその屈辱こそが飛躍へのきっかけとなる。
鍛錬の密度。任務の難易度。日々の生活。
そのすべてが、自身の力を引き上げるためのものへと変わった。
「『霜凪』!」
誰より早く動いたのは裏梅。
視界をふさがず、しかし人ひとりを凍らせるには十分な規模の吹雪が、直哉へ向かい殺到する。
「トロイわ」
嘲笑の言葉を残し、直哉がその場から消失する。
裏梅の目ですら残像を捉えるのがやっとの速度。
(氷が追い付かない……これが『最速』の術師!)
投射呪法。
一秒を24に分割し、予め画角内で作った動きをトレースする術式。出せる速度に制限はなく、術式を絶えず重ねるほどにその速度は増していく。
投射呪法の制限は、過度に物理法則を無視した動きは再現できないこと。
その限界を超えるため直哉は、血のにじむ鍛錬といくつかの縛りにより、自らの術式を進化させた。
(速い……だけじゃねえ、一秒に8回か? 一定のタイミングだけ出現して他は完全に消えてやがるな)
24分割した一秒のうち、実際に後追いする動きを8まで減らし、残った16をスキップする。
一秒ごとの動きに余白を作ることにより、術式で再現可能な動きの幅を拡張。最高速度へ達するまでの時間を極限まで短縮すると同時に、最高速度を出した際の負担を最大限和らげることに成功した。
体に影響のない範囲での直哉の最高速度は、マッハ2まで達する。
この術式の進化によって、禪院直毘人から『最速』の称号を奪い取り、一級術師最強の一角へと名乗りを上げた。
「行くで? 死んでも文句言うなや」
十分に加速を終えた直哉が、攻勢へと転ずる。小回りを考えてか、音速までは達していないものの、目で追いきるのは難しい速度。
その標的は、乱入者である鹿紫雲だった。速度を乗せた一撃が、無警戒だった背中に突き刺さる。
「ぐっ!」
ただ速いだけの相手であれば、呪力の流れなどから動きを予測することもできる。
百戦錬磨の鹿紫雲なら、そのやり方で追いつくこともできただろう。だが、それができない理由があった。
(やりづれえな、予備動作や後隙を消える瞬間に重ねてやがる)
攻撃や移動の予備動作、行動後の残心を余白となったコマに投影することで、相手に次の動きを悟らせないまま戦闘を進めることが可能になる。
漏瑚を優に超える速度に、動きの導線を見切らせない特殊な移動。単純なスピード勝負であれば、泳者の中で彼に追いつけるものはいない。
「俺の呪力も通ってねえか。用心深いこった」
「はっ、こないな静電気で動き鈍るわけないやろ」
鹿紫雲に直接触れた者は、彼の呪力特性により感電する。
ファーストコンタクトでそれを体験した直哉は、感電による硬直を余白に投影、ダメージを受けることなくスキップした。
その衝突を見ながらも、裏梅は次の動きのため呪力を集中させる。
(直哉の術式は一秒ごとに動きを設定しそれをなぞるもの。設定した動きを読み切るのは至難でも、ほんのわずか妨害できれば動きは止められる!)
「出力最大、『霜凪』!!」
回転しながら呪力を開放し、周りのすべてを凍り付かせていく。
「派手にやるなぁ!」
凍結の術式が発せられる前にそれを察知し、コンテナの上へと回避していた鹿紫雲。
相対する敵の実力に、彼の呪力もみなぎっていく。
「またこれかい、派手なだけの技何度も見せるとか舐めとんのか?」
鹿紫雲より離れた位置から、直哉は余裕の声を上げる。
持ち前の速度によって、霜凪が放たれた後で範囲外へ回避していた。
(当然のように躱すか。だが想定内だ)
裏梅自身も、こんな雑な攻撃が有効打になるとは思っていない。
その狙いは敵ではなく、周囲の地形を変化させること。裏梅が術を止めたとき、出現したのは波打つ氷のフィールド。不規則に波立たせた氷の呪力は、まともに歩くのが難しい凹凸を生んでいた。
間髪入れずに裏梅が次の行動へ移った。
地面に手を突き再び呪力を開放、足元に氷を重ね続け、高速で目標へ移動する。
「来るかぁ!?」
向かう先は、距離の近い鹿紫雲の元。
自分を相手に真正面から突っ込んでくる裏梅に、鹿紫雲の口角が吊り上がっていく。
「……余裕やな、俺から眼ぇ離すとは」
対照的に、直哉の額には青筋が浮かぶ。
自身をいないかのように扱う怨敵の背中を追い、術式を全力で起動した。
並みの使い手なら、全速力で動くのは難しい荒れた地面。しかし、修練により直毘人をも超えるコマ打ちの技術を手に入れた直哉なら、この程度で足が鈍ることはない。
両者の速度差では、直哉が裏梅に追いつくまで一秒もかからない。
だが、その一秒で再び戦局が変わる。
「警戒までは解いていない!」
「っ、クソが!!」
轟音とともに直哉の行く手を阻んだのは、上空から落下した巨大な氷塊。
コンテナを運搬するためのクレーンが、まとわりついた氷により、自重に耐えられず崩れ落ちたのだ。
氷結を地面に集中させ、上への注意をそらしたうえでの妨害。
直撃こそしていないものの、裏梅へとたどり着く道は完全に塞がれた。回り込むには、直哉の足でも一分はかかる。
(倒しきれるとまでは言わない。だが、鹿紫雲の手の内を暴くなら、一分あれば事足りる!)
肉弾戦の距離まで、二人が近づく。短い間だが完全な一対一。
わかりきっていることだが、先に攻撃が届くのは鹿紫雲の方だ。長物を持っている分、間合いでは圧倒的に有利。
如意を防がれても構わない。纏わせた呪力で動きが止まったところへ、本命の一撃を叩き込む。
頭を刈るように放たれた一撃を、裏梅が右腕で防いだ。
「づっ、ああ!!」
隙にもならない一瞬、動きが鈍る。
だが、その一瞬を埋めるように反撃の蹴りが鹿紫雲を狙う。
それをさばきながらも、鹿紫雲の頭には疑問が浮かぶ。
直哉のように呪力を避けられたわけでも、呪力特性を無視できるほどの呪力で身体を守ったわけでもなく、単純に雷の効きが悪い。
(どういうこった、……!)
疑問の答えは、着物の隙間に見えた。
(氷で腕を覆って……! 理屈は知らねえが、あれで俺の呪力特性をしのいでやがるのか!)
(やはり受肉型の術師か、氷が絶縁体に近いことを知らない!)
氷は、電気をほぼ通さないという性質を持つ。導体となる不純物を含んでいるのなら別だが、呪力から生成された裏梅の氷は、不純物など少しも含んではいない。
動きが鈍らない程度の氷で身体を覆ってしまえば、攻撃・防御の際に鹿紫雲から流れる電流についてはかなりマシになる。
(しかし、呪力特性を抜きにしてもこの男……!!)
裏梅は、現代でも指折りの術師と言える。
それは、術式の強さだけでなく、呪力そのものの操作技術の高さから来ているものだ。
「どうしたぁ!? ぬるいぜ、白髪!!」
「ちぃ……!」
鹿紫雲は、その裏梅を単純な肉弾戦で上回ってくる。
年季から来る経験が、体術と呪力操作の両面で裏梅を追い詰めていた。
十にも満たない攻防。
その時間で、直哉が戦場へ舞い戻る。
「舐めた真似しよって」
「遅かったじゃねえの、寄り道でもしてたか?」
「……その減らず口も止めたるわ」
「やってみな。お前、一回動き決めたら変えらんねえんだろ。なら、こんなのはどうだ?」
呪力を込めた拳が貫いたのは、凍り付いたコンテナ。
氷結によって割れやすくなっていたコンテナは、ひしゃげるのではなくバラバラになり周囲に飛び散った。
それだけでも、当たれば痛打となる威力。だが、鹿紫雲の策はここから先にある。
「躱せるもんなら躱してみろ!!」
これまで以上の勢いで放出されていく呪力。それは単純に広がるのでなく、破壊されたコンテナを伝う稲妻を生む。
鹿紫雲が先程コンテナを破壊した一撃に込めていたのは、強力なプラス電荷。それがコンテナに伝わると同時、自身に蓄えたマイナス電荷を開放、コンテナへと誘導し稲妻を発生させた。
破片と破片の間に生まれる雷撃が、周囲を蹂躙しながら広がっていく。
「ぐっ……!」
全方位に放たれた、無差別な雷。
一連の動きの素早さに、氷の防壁は間に合わない。電撃にさらされた裏梅は、痙攣しつつ膝をついた。
「舐めんなや!!」
直哉は、高速機動に慣れた動体視力で、鹿紫雲が何をするかをある程度見抜いていた。
足元の氷を踏み砕き、宙を舞うそれに掌で触れる。
投射呪法拡張のための縛り。トレース失敗時、自身のフリーズ時間を倍にするとともに、他者に触れた際、そのフリーズ時間を半分にする。
氷がフリーズした時間は0.5秒。だが、稲妻の到達する時間を考えれば、防壁としての機能は十分すぎる。
防壁によって、雷の間に生まれた隙間。そこに身体を入れ込むことで、直哉は雷を無傷で回避した。
瞠目する鹿紫雲をよそに、直哉は加速する。最速の術師は、1秒も経たず、鹿紫雲へ攻撃が届く間合いへ入り込んだ。
流れるように放たれる一撃。即死級の攻撃を凌いだ極限の集中が、その現象を引き起こす。
黒閃
鹿紫雲の雷を塗りつぶすように、黒い閃光があたりを照らす。
「ぐ、あ」
鹿紫雲が口から血を吐く。この戦闘で初めての、明確なダメージ。
だが、まだ意識は飛んでいない。
(さっきの蹴りとで二回! もう十分貯まったろ!!)
感電による硬直を避けていても、鹿紫雲に直接触れている以上、電荷は直哉へ蓄積されている。
パリッ、というどこか軽い音。
直哉へと向けられた雷が、命を奪うべく直進する。
どんなに速く動こうが、人間である以上雷の速度を超えることは出来ない。反転術式を使えない直哉は、これで死んでもおかしくない。
「見えとんねんカスが!」
直哉の体へ雷が到達するまさにその瞬間、その姿が消失する。
行き場を失った雷は、直前に直哉が放っていた小刀へと行き先を変えた。
「なっ……」
意表を突かれた鹿紫雲の顔面へと、直哉の拳が突き刺さる。
転がりながら体勢を立て直した鹿紫雲は、直前に起こった出来事を反復していた。
(マジかコイツ、俺の稲妻をスカしやがった!)
電荷の移動する瞬間にコマの余白を入れ込むことで、電気の通り道を無くし、避雷針代わりの小刀へと鹿紫雲の呪力を逃す。
言葉にしてしまえば簡単だが、それを実行するのにどれだけの技術が必要になるか。
雷の速さに対抗するためには、相手が呪力を発するタイミングを完璧に見切ったうえで、一切のズレなく動きを設定する必要がある。コンマ数秒の誤差があれば、躱しきれずに致命傷を受けていただろう。
もちろん、通常であればこんなシビアな術式発動は難しかった。これはあくまで、黒閃によるゾーン状態が可能にしたもの。
だがそれでも、この結果を導いたのは直哉が磨き上げてきた技術であることに疑いはない。
確かな才能と、それを最大限発揮するための修練。
自身と同等に戦える強者に対し、鹿紫雲のボルテージが最高潮に達する。
「……まだだ!」
それは、もう一人も同じこと。
雷撃による負傷を反転術式により回復し、裏梅が立ち上がる。
(この二人を相手に温存するほどの余裕はない……。全開で仕留める!!)
(腹立たしいが認めたるわ、こいつらはアッチ側に片足突っ込んどる類の人間や。だからこそ、こいつらを喰えば俺もアッチ側に手が届く……!)
(お前らのレベルなら使えるよな? 五条悟に取っとくつもりだったが、ここまで来て出し惜しみは無しだ!!)
その思考はバラバラ。
だが、自分を殺しうる敵を前に、取った手段は一致する。
三者三様の掌印とともに、世界が塗り替えられていく。
呪術の秘奥。術師にとっての最終奥義。その名を——。
「「「領域展開!!」」」
設定開示という名の言い訳コーナー
Q.何でメカ丸生きてんの?
→総監部を手中に収めてるので各国説得用の映像は冥冥から横流し可能
となると外部から協力者増やすリスクの方が高いと判断され放置
Q.投射呪法の進化が分かりづらすぎる
→オンラインゲームでめちゃくちゃラグい奴と戦ってる感じ
短距離の瞬間移動を繰り返すような動きで、動きの導線を狙っても攻撃が当たらない
Q.鹿紫雲が領域使ってんのは何で?
→こんな会話があったとか
「さすれば、五条悟と戦れるのだな」
「まあ領域使えないと勝負になんないと思うけど」
「何?!」
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