現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
激しい雷鳴と、それをかき消さんばかりのパチンコの音が鳴り響く。
鹿紫雲と秤の戦いは、周囲の建築物をすべて破壊しつくさんばかりに激しさを増していた。
その戦闘音を聞きながら、二人は向かい合う。
「どういうつもりだ、釘崎」
「今のあんたじゃ私にも勝てないっつってんのよ。そうじゃないっていうなら、私を倒してからあっちに加勢することね」
「……本気か?」
裏梅は確かに限界だ。
ここまでの戦闘でボロボロの体に、枯渇しかけた呪力、再び殺されかけたことによる精神へのダメージなど、ベストコンディションには程遠い。
しかし、それでも釘崎では裏梅の敵にはなりえない。
あと二人の同級生ならば違っただろう。片や生来の肉体。片や相伝の術式。すでに一級術師に届く実力の彼らであれば、万全ではない今の裏梅を止められるだけの実力はある。
だが、釘崎には裏梅に勝るだけの武器がない。
彼女の術式は、遠距離からの援護こそが真骨頂と言える。強力であることには違いないが、真正面から格上を倒すことができる術式ではない。
(だからどうした)
相手との実力差など当然理解している。この半年、同級生として彼女の強さを見続けてきたのだから。
相手の強さも自分の弱さもすべて承知の上で、彼女は戦意をたぎらせていた。
「いいからさっさとかかってきなさい」
(……引く気はないか。仕方ない、怪我をさせない程度に氷で閉じ込める)
呪力を限界まで絞った、最小出力の『霜凪』。
迫る冷気に対し釘崎は、攻撃が放たれるより前に、身を翻し回避した。
「何……!?」
「あんたの技なんて何度見てると思ってんだ!」
呪力の予兆を見切るほどの眼は、釘崎にはまだない。
それでも、半年以上付き合ってきた級友の癖ぐらいは分かっている。
こういう場面で、どこをどう狙ってくるか。それを先読みしておけば、いくら攻撃が早かろうと到達前に回避できる。
「ふっ!!」
動揺を見せた裏梅に対し、反撃の釘が放たれる。
彼女の動体視力であれば、全てを空中でキャッチすることも不可能ではない。ただ、単純に受け止めれば、『簪』による呪力で追撃が来る。
万全なら簡単に回避できるが、鹿紫雲の攻撃が足にきている。これまでのような機敏な動きは難しい。
呪力の消耗を覚悟で、『簪』の射程に入る前に、氷の壁で釘を防御した。
領域展開や反転術式によって、すでに呪力は限界が近い。こうして防御できるのも、あと数度が限界だろう。
「食らえ!」
飛ばした釘を追うように近づいた釘崎が、ハンマーを振りかぶる。
裏梅にとっては、スローモーションにすら見えるような遅い攻撃。それでも、今はその攻撃へ対応することすらギリギリなほど、限界が近い。
氷の壁の構築も、身を躱すことも間に合わない。
「……っ!」
釘崎の攻撃が到達しようとした瞬間、氷の呪力があたりを蹂躙する。
接近する釘崎に対し裏梅がとった手段は、交流会でメカ丸へ放ったような、全方位を凍り付かせる冷気の放出。
消耗を考えずに解き放たれた呪力は、再び周囲の風景を白銀の世界へ変えた。
「ぐっ、くっそ」
「ハァ、ハァ、少し、大人しくしていろ」
体のあちこちが凍り付き、完全に身動きが取れなくなった釘崎。
決着を確信した裏梅は息切れしながらも、彼女に背を向け歩き出す。
「……舐、めんじゃねえ!!」
釘崎を閉じ込めていた氷が、内側から破られた。
それを成したのは、あちこちに入れておいた釘から溢れた『簪』。
自分の体をも刺し貫く覚悟で放たれた『簪』は、甲高い音を上げて氷を打ち破る。
(あんたなら死にはしないでしょ!!)
交流会で使っていたピコピコハンマーとは違う。
使い続けてきた鉄製のハンマーが、裏梅の頭を捉えた。
「ぐ、あっ……!」
「痛っ、……さすがに無茶しすぎたか」
『簪』の呪力によって貫かれた体からは、ドクドクと血が流れ出ている。まだ裏梅に意識があることを考えれば、今の戦闘で受けた傷は、釘崎の方が重いだろう。
それでも、勝ったのは釘崎だ。
「ま、私以上に無茶しようとしてる馬鹿は止められたし、問題なしね。少しは頭冷えた?」
どこか軽い調子で語りかける釘崎が、裏梅の怒りを逆なでする。
今日二度目の敗北。これ以上ない無力感に震える裏梅は、抱え込んでいた感情をぶちまけた。
「……お前に、何がわかる? この状況を招いたのは私だ。私があの男に敗れなければ、全部、全部、私の——」
「知らないわよ、あんたが考えてることなんて」
「な……」
「当たり前でしょ。あんたの悔しさもあんたの悲しみも、私には想像することしかできない」
それは、自分という存在が強固に確立しているからこその発言だった。
確かに、東京校の一年で一番弱いのは釘崎だろう。黒閃を経験しているとはいえ、その実力はまるで足りていない。
だが、四人の中で精神的に一番安定しているのも、また彼女だ。
何があろうと揺るがない精神性。自分を貫く意思の強さでは、術師の中でも群を抜いている。
「ただ、あんた達が命懸けで戦ってるとき、何も出来なかった私の気持ちもあんたにはわかんないでしょ」
高専術師の中で唯一渋谷へ招集されていなかった釘崎。
彼女が事態を知ったのは、別件の任務から戻る途中で見たニュースからだった。
補助監督の制止を振り切り、すぐさま現場へ向かったが、彼女が渋谷へ到着したときには、すでにすべてが決着していた。
ボロボロになった同級生や先輩を見て、彼女が拳を握りしめていたことは誰も知らない。
「あんたが自分を責めるのはあんたの勝手。そこに関して、私の方から何か言う気はない」
たださ、と、釘崎は言葉を続ける。
友人達から預かってきた言葉を、目の前の友人に届けるために。
「虎杖や伏黒が言ってたわよ。魔虚羅とかいう式神を倒せたのは裏梅がいたからだ、裏梅がいなきゃ、あの場にいた全員死んでたかもしれないって。……あんたはあんたなりに、あの場で出来ること精一杯やってたんじゃない」
虎杖が魔虚羅を仕留められたのは、脹相の拘束を振りほどいた魔虚羅を、さらに裏梅が止めていたからだ。
あの一瞬がなければ、更に適応が進み、あの場にいた全員が魔虚羅に壊滅させられていた可能性が高い。
「それでも自分が何もできなかったって思うなら、せめて私に相談しなさいよ。役立たず同士、話ぐらいは聞いてあげるわ」
「……釘崎、」
何かを言いかけた裏梅の言葉を遮るように、ドン、という衝撃音があたりに響いた。
遠方から吹き飛ばされてきたのは、完全に気を失った鹿紫雲。その後を追い、秤もその場へ現れた。
「よう、そっちも終わったみたいだな」
「……早すぎない!? 裏梅ここまで追い詰めたやつでしょ!?」
「だから、だろうな。できれば万全の状態でやりたかったぜ。充電切れ寸前の奴を倒しても自慢になんねえよ」
鹿紫雲が先程までの戦いで消耗してなければ、ここまで楽には勝てなかっただろう。今の短い戦闘ですら、一度右腕を吹き飛ばされている。
ボーナス状態の回復力によって一瞬で治った右腕で意表を突き、鹿紫雲の意識を刈り取った、というのが戦いの推移だった。
既にボロボロの状態の相手を、ほとんど不意打ちに近い手段で倒してしまった。
不完全燃焼だ、と言いたげに、秤は不満そうな顔を見せる。
(ま、全部うまくいったんならOKか)
秤は、先ほどよりも顔から険が取れている裏梅を見て、釘崎の説得がうまくいったことを悟っていた。
(やるじゃねえの、やっぱあの熱は本物だったか)
半日ほど前のことを思い返す。
高専の一年三人は、真正面から小細工抜きで、秤が運営する賭博場へと乗り込んできた。
『友達が危ないかも知れないのよ、さっさと力貸せ先輩』
熱く燃えていたその瞳。
簡単に他人の頼みを聞くタイプではない秤が、すぐに彼女へ協力した理由は単純。『熱』を愛する彼が、その瞳に充てられたからだった。
「秤、釘崎! 裏梅もいるじゃん、無事だったか!!」
自分たちを呼ぶ声の方向を見ると、そこには白黒の姿があった。
「おーパンダ、もう全部片付いたぞ」
「……マジで? 俺何もしてないじゃん! 捜索のために呼ばれたのに!!」
「まあまあ、天使ってやつ探すにもお前の鼻は使えんだろ」
二人の会話によって、緩い空気があたりを包む。
そんな中で、裏梅が口を開いた。
「釘崎」
「何?」
「一人で抱え込んで、済まなかった。……ありがとう」
「……どういたしまして」
◆
「ところで、さっき追加されたルールは何だったんだ?」
「魂、か」
「なんだ釘崎、心当たりあんのか?」
「……交流会で、ちょっとね」
次回、東京第一結界編『幼魚と天秤』
お盆期間中には投稿できる予定です
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