現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦 作:ソル
11月6日
23:04
「で、誰がどこに向かうって?」
真正面からの突撃によって、秤の信頼を得た虎杖、伏黒、釘崎の三人。
結界の出入りが自由でない以上、一つの結界にすべての戦力を割くのは得策ではない。そのため、彼らはどういう形で戦力を割り振るのか作戦会議を行っていた。
「新田ちゃん達の情報だと、裏梅は東京の海側の結界に入ったらしい。秤先輩は私と一緒にそこの結界に来て。……あーあと、天使って泳者の捜索もやらなきゃならないから、パンダ先輩の鼻が欲しいかな。連絡しないと」
「わかった。そっちの二人はどうすんだ?」
釘崎から上がらなかった虎杖と伏黒について、秤が尋ねる。
「裏梅のことは釘崎と先輩たちにお願いします。俺たちは俺たちで動きます」
「近場の結界へ向かうんだよな」
「ああ。東京の西側、裏梅が向かったのとは別の結界へ向かう」
伏黒が追加しようとしているルールは五つ。
泳者間の得点の受け渡し。
結界間での連絡手段の確立。
結界の出入り可能。
得点と身代わりによる死滅回游からの離脱。
そして、受肉型の泳者から呪物を引きはがすことを可能にするルール。
「他はわかるが、最後のは何だ? 被害者救済にしちゃ行き過ぎだと思うが」
疑問を投げかけたのは秤。
現状の呪術界では、呪物を取り込んだ受肉体などその時点で死刑がほぼ確定する。完全に自我を保ち、呪物を抑え込んでいる虎杖ですら一度は秘匿死刑が決まっているのだ。魂を沈められている受肉型の泳者などなおさらだろう。
それでも、伏黒はこの総則を追加する必要がある。
「受肉型の泳者の一人は、俺の姉なんです」
「……そうか、野暮なこと聞いたな」
それ以上を掘り下げるほど、秤も空気の読めない男ではない。
「……必要な点は500点、つまり最低でも100体呪霊を祓う必要がある。一つ目のルールを追加できればほかの泳者から得点を稼げる可能性もあるが、結界内の呪霊が多いうちに入って、なるべく点を稼いでおいた方がいいと思う」
「了解。じゃあ、早速行くか」
◆
11月7日
東京都
「数日ぶりですね、二人とも」
東京第一結界についた二人を出迎えたのは、白いスーツを着た金髪の男。
「ナナミン!! 何でここに!?」
七海は、年上相手とは思えない呼称に何か言いたげな目を向けつつも、大人として受け流した。
「正直、今の君たちなら私が守る必要はないでしょう。他の結界へ向かうことも考えましたが、少々厄介なことになっていまして」
それは、補助監督から得た情報。
「この結界付近で、数百人が死体も残さず行方不明になっているとの報告が入っています。羂索による呪霊の放出が、ある程度封じ込められた後で」
羂索が放出した大量の呪霊により、被害は異常なまでに膨れ上がった。
だが、呪力の流出を渋谷中心に限定したことと、術師達の尽力によって、事変で放出された呪霊についてはある程度対処がすんでいる。
この状況で、術師達の眼をくぐり抜けそこまでの被害を出せるとなると、人数は少数か単独犯。
その上、被害の大部分が結界からそう遠くない位置。死滅回游に関係がないと考えるのは、さすがに楽観が過ぎるだろう。
「先程確認してみましたが、二、三日前から被害は完全に止まっているようです。ですが、下手人が見つかったわけではない。どこか別の場所へ移動したか、目的を果たして次の行動に移ったか」
「……もし後者だとしたら、それをやった呪霊か術師が、この中にいるかもしれない」
「可能性の話ですがね。少しでも戦力は多い方がいい」
「……」
二人の会話に混ざることなく、虎杖は物思いに耽る。
七海との合流直前、コガネによって総則追加のアナウンスが流れだした。
まだ結界に侵入していない虎杖が、泳者として登録されていることに驚きを隠せなかった。だが、五条が羂索と契約した泳者の一人であることを本人が認めたため、その疑問は解けた。
五条の眼球を自分の意志で飲み込んだのは虎杖であるという謎は残るが、今それはおいておくしかない。
問題は、追加された総則の内容。
『総則9 結界内で死んだ生物の魂は、一定時間その肉体に滞留する』
「魂……」
否が応でも思い出すのは、交流会での出来事。
本気の殺意というものを初めて抱いた、宿敵ともいえる呪霊。
「虎杖君?」
「ごめん、ボーっとしてた」
推測でしかないことで頭を悩ませている場合ではない。結界に侵入した瞬間、戦闘が始まってもおかしくないのだ。
伏黒が、黒い結界をノックするように叩く。
「よぉ、俺はコガネ!! この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!! ひとたび足を踏み入れたらオマエも泳者!! それでもお前は結界に入るのかい!?」
コガネからのアナウンス。
脅しのようにも聞こえる最終確認に、一歩も臆することなく三人は踏み出す。
「「問題ない」」
◆
「い!?」
結界内に踏み込んだ虎杖が放り出されたのは、地上から数十メートルは離れている空中。
一般人なら即死する高さだが、今の虎杖であれば受け身を取れば大したことはない。
着地のために体勢を立て直そうとした瞬間、コガネが現れリンゴンリンゴンと音を立て始めた。
『泳者による死滅回游へのルール追加が行われました!!』
『総則10 泳者は他泳者の情報ー"名前" "得点" "滞留結界" "10分前の所在地" "容姿"ーを参照できる』
「また? って言ってる場合じゃねえ!」
気づけば地上は目前。いくら虎杖でも、無防備に投げ出されてしまえば多少のけがは負ってしまう。
転がりながら着地する。
受け身をとったことで、手足が多少しびれている程度でダメージはない。
状況を確認するため周囲を見渡した瞬間、再びコガネが出現した。
「は?」
けたたましいベルの音。
つい先ほど空中で聞いたのと同じものだ。それが意味する所は。
『泳者による死滅回游へのルール追加が行われました!!』
『総則11 泳者が泳者を殺害した場合、殺害された泳者の持つ得点は殺害した泳者へ譲渡される』
立て続けに総則が追加された。
(一気に総則が追加されたの、偶然じゃないよな。200点以上稼いでた泳者がいて、そいつが二つ追加したって考える方が自然だ)
先程と同じく、追加した泳者の意図は分からない。だが総則10は、なるべく戦闘を回避したい高専術師にとってはかなり有利に働く。
得点が高い泳者を調べ、交渉などで得点を使わせてもらえれば、人を殺さずに伏黒が提案した総則を追加していける。
(きっと伏黒やナナミンも似たような動きをする……よな。けど二人とも俺より頭いいし、もっと他のやり方するかも——)
「ヒッ、く、来るな!!」
「——!」
怯える声に、体が反射で反応する。
声が聞こえてきた方向へ、ビルの間を飛ぶように駆ける。
そこに見えた敵は四体。襲われているのは、頭頂部だけが黒い金髪の青年。
繰り出されたのは四発。
虎杖の拳は、標的が痛みを感じる間もなく、一撃でその命を刈り取っていた。
「い、虎杖?」
自分のことを知っているような青年。
気にはなるが、それを考えている余裕はない。
『4点が追加されました』
死体が消えない。追加された得点は一点ずつ。
つまり、今虎杖が倒したのは、呪霊ではなく人間ということだ。
心当たりはある。というより、こんな真似ができるのは一体しかいない。
「いるんだな。あいつが、ここに」
死滅回游 泳者
虎杖悠仁
◆
「はぁ、はあ……。ここまでくれば」
息を切らしながら、乱立しているビルの一室に入り込んだのは、ヘリコプターのような頭をした男、羽場。
死滅回游序盤、参加者にとっての脅威だった男は、また別の脅威によって追われる立場になっていた。
数日前まで彼は、初心者狩りによって得点を稼いでいた。いきなり空中に投げ出され、何もできずにいる泳者をひき潰す簡単な仕事。
だが、今の東京第一結界で初心者狩りなど出来るはずもない。
一つの場所にとどまっていれば、そこら中にばらまかれている改造人間たちに包囲され、最後には自分もその仲間入りを果たすことになる。
空中で待機していれば手出しはされないが、捕捉される可能性も上がってしまう。呪霊が活動を開始してからは、建物の中を移動しながら、孤立している改造人間を狩ることで得点を稼いでいた。
しかし、総則追加のアナウンスが流れてしまったのが運の尽き。周囲に響き渡るコガネの声によって、半径百メートル以内にいた全ての改造人間が彼の存在に気づいた。
「なにもんじゃ、あの呪霊」
自分と行動を共にしていた羽生は、既に改造人間へ変えられた。
術師非術師を問わず、全てを自分の奴隷に変えていくあの呪霊。異様な術式を携え、結界内を地獄へ変えた継ぎ接ぎの姿。
「みぃつけた」
全身が総毛立つ。
部屋の入り口。羽場の逃げ先を塞ぐように、その呪霊は佇んでいた。
「何で空に逃げないの? 呪力が続く限りは飛んでられるんでしょ」
「一瞬逃げられても、お前を殺さんと結果は同じじゃ」
考えなしにこんな閉所へと入り込んだわけではない。
こちらが逃げにくいということは、相手にとっても動きにくい場所ということ。
壁をバターのように切り裂きながら、標的へ向けて突進する。
「やっば!」
廊下へと飛び出した呪霊を追い、羽場もまた廊下へ進路を変えた。
継ぎ接ぎの呪霊の呪力量はそこまで多くない。特級相当の不気味すぎる気配とは対照的だ。
まるで、無理やり呪力を奪われたかのようなアンバランスさだが、敵として相対するうえでは都合がいい。
呪霊術師問わず、呪力量の多寡はそのまま勝敗に直結することが多い。
呪力が少ないということは、肉体強化の幅が少なく、負傷の回復に使える呪力も少ないということなのだから。
相手も全力で走っているようだが、それでも突進の速度の方が速い。
「ひき肉にしたるわ!!」
プロペラの羽が、呪霊を捉えた。
肉を引き裂く嫌な音と共に、体が細かく切断されていく。
経過した時間は数秒。だが、引き裂かれた敵は、もはや原型を留めていない。
ミキサーにかけられたような肉片が、周囲を赤く染めていた。
「これで……」
どんな術式を持っていようが、呪霊である以上頭部を潰せば消滅する。
ここまでバラバラにしてしまえば、いくらなんでも死んだだろう。羽場はそう判断した。
「酷いことするね」
「は——あぇ」
倒したはずの敵の声が聞こえて、誰かに肩を叩かれた。
それが、彼が最後に考えたことだった。
『36点が追加されました』
「やっぱ魂をいじっただけだと死亡扱いにはならないのか。完全に殺さないと点は入らない」
死滅回游の総則では、泳者を死に至らしめることで初めて得点を獲得できる。
真人の命令に従うだけの改造人間になり果てたとしても、命をつないでいる以上、それは死亡と認定されない。
「ま、だからこそああいう総則を追加したんだけど」
無為転変は、あくまで魂を操るもの。魂が肉体に残っているなら、肉体が死んでいようが魂の形を変えることで改造人間はストックしておける。
掌サイズの肉塊へと変貌した羽場を口の中へ放り込み、彼はその場から姿を消した。
死滅回游 泳者
真人
◆
男は、白いスーツを返り血で赤く染めながら、一つ息をつく。
渋谷でも経験していることだが、この感触に慣れることはない。殺したのが、哀れな被害者であるとわかっているから。
「あの……助かりました、ありがとうございます」
「いえ。君は……覚醒型の泳者ですか。私は七海建人と言います」
「僕は、吉野順平です」
死滅回游 泳者
吉野順平
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