続きはまだ書けてません。
絶望的な遅筆....私は自分が許せません!
でも投稿しちゃいます。
死蔵はイケナイこと。そう思いたい。
黒が揺れる。
赤茶けた毛に吸われ、滑らかな波紋が生まれて消える。
十分に行き渡ったのを感覚で量る。余分を落とし、持ち上げる。
呼吸は必要ない。全ては流動的で慣性的。
工程に境は無く、迷いなんてものは既に無くなっている。
筋繊維は記号的に連動し、出力された運動は意思を伴わない過去をなぞるものだった。
つまり大量生産。腕がつりかけている。
休憩を挟みつつも3時間は経過している。
場所は陽葵の家、方代神社の作業場。
夏祭りの方代神社では、ある特別な御神籤が提供される。
そのための御神籤作りは、観光客の年々増加による労働環境の悪化の一途を辿っていた。
代々昔から、
つまり、方代家の方々と私でこの苦行....作業は進められていた。
毎年やっていることである。指導も確認も慣れきった私にはほぼ無い。
「お婆様....機械を導入するご予定はございますか。」
それでも弱音は溢れるものである。
「無い。これはここの慣習だよ。今まで全部手作りだったんだ。ちょっとぐらい人が増えたぐらいで変えてたら皆に申し訳が立たないよ。」
「....ですよねわかっております。」
チクショウである。別の家の子にも容赦はない。
隣で陽葵が苦笑している。わかってましたの顔だ。彼女も何回か説得しようとしたのだろう。ため息と恨み言は飲み下す。それでも長年の慣れは恐ろしく、邪念と雑念に満ちた思考で筆を持っても一切の乱れは生まれない。切り分けられた和紙に下書きされた数字と対応表を比べ、墨で塗りつぶしていく。ある程度のランダム性のある無難な御神籤が量産されていく。
内容を流し見てもそう他社のそれと変わりはないように見える。
けれどなぜここのはこんなに人気なのか。
お昼休憩。誰の目にも止まらない、庭木の影にある縁側に寝そべって、手を自由にさせる。比較的冷たいフローリングが熱を持った筋繊維によく染みた。
思考がほどけて、隙間に音が入る。閉じた目蓋の裏で神経が快感で弾ける。
疲れているって言うのに不思議なもので、こういうときはいやに思考がまわりがちだった。
そういうわけで、同じように液体になっている陽葵に、ふと脳裏をよぎった質問をぶつけてみる。
「なーんでここのくじはこんなに人気なのだろうね。別に特別な特典でもつけてるわけじゃないでしょ?」
「_____私たちが担うものが星詠みだからさね。」
答えたのは陽葵じゃなかった。意識する間もなく、体が跳ね上がって背筋をいつも通り伸ばそうとして、
「ああ、そのまま休んでおくれ。今日は特に大変だったから。」
無理な挙動を起こす前に体は声で停止した。
隣で同じように息を吐く親友がいる。心臓に悪いというものだ。
一息ついて、改めて先程の言葉も見直す。
星詠み。と聞けば思い出すものがある。
"星詠みの御神籤はよく当たる"
そういう噂、そういう風評。
確かに方代神社は星詠みの役割を持つし、星詠みといえば占星術、或いは天文学的なものを連想し、御神籤に繋がる安直な発想の結果なのだろう。
「いやはや有難いが面倒なことだね。星詠みというのは、占いとは違うというのに来る者はみーんなそれだ。」
「と、言いますと。」
「そうさな、確かに方代は星詠みの務めを担っておる。だが、それは天に瞬く星々のことではない。地の星、すなわちこの大地、地球の行く末を詠むという意味だ。正に
知っている。家だけでなく、地域の歴史としても学校で触ることさえある。
「この社は、古来より
方代町は活火山に囲まれた窪地にある。その地層は古い石灰岩を火山由来の岩石が覆うように積み重なってできたものだ。しかし、頑強な火成岩層の被覆はマチマチで、所々露出していた石灰岩層が削られ、味のある憎たらしい凸凹地形を生み出した。地下には広大な洞窟網もそれ由来だ。故に地盤が所々脆く、被災がそりゃあ昔から多かったようだ。
「....ところが、どうしたことか。いつの間にやら、こんな噂が独り歩きするようになった。
"星詠みの御神籤はよく当たる"
馬鹿を申すな。そんなもの、元より何の関わりもない話だ。それなのに、噂とは恐ろしいものよ。人の思い込みというのは理などお構いなしに広がってゆく。今では観光客が押し寄せる始末。当たるも八卦、当たらぬも八卦、効果の程など知ったことか。まったく、これがローカルブームというものかね。
無駄に人手ばかりかかり、疲弊する者も出ている。こういう流行り事は、いずれ何の前触れもなく消えるものよ。故に、設備を整えることもままならない。つくづく、悩ましい話だよ。」
私の家からすれば今のブームは渡りに船だ。しかししわ寄せは必ず何処かに生まれる。私がここに派遣されたのもそういうわけだろう。遺恨を減らす、単純だが分かりやすいほど的確だ。
「すいません....」
居た堪れなくなって、謝罪が零れてしまった。十中八九、私の家が噂の根源だ。父さんはそういう事する。人の心を分かりすぎるから人の心が無いことをするのだ。そういう人を誰も好みはしないだろう。
「お前さんが謝ることじゃないよ。実際金回りには余裕がちょっぴりできてきたんだ。噂のお陰様でね。災害による人への被害は未だ抑えられているけれども、建物や資材、営業には多大な影響は出る。金だって幾らあっても足りないぐらいだろう。ウチはそういうのを助けてこそでもあるんだ。」
災害発生時、民間で真っ先に動くのが方代神社のコミュニティだ。というか発生前から動き出している。歴史的な地域の信頼、積み重ねた対応力と動きが自治体とはまた別のベクトルである。
例えどれだけそれが来るとわかっていても、皆が理解して、従ってくれなきゃ意味がない。結果は信頼だ。記録は安牌だ。それを私は、酷く痛感している。
....そうだ。どれほど見えていても、手に収まるものなんて
見上げれば、蒸発した宙が見えている。
見下ろせば、崩れた大地が見えている。
空を行く鳥の瞳に、火の粉が映っている。
地を裂いた大穴は、黒煙で満ちている。
それは、終末の後の些細な一幕。
何もわからないまま、私の世界が、そんな風に終わっていた。
私が見るのは、漠然としたイメージだった。
瞬きした一瞬だけ重なる。窓ガラスに反射する。水面の波紋に映る。夢に出る。
火花が散ったような感覚。脊髄に氷を差し込まれたような硬直。
いつの間にか汗が滲んでいる。憶えていない涙で目が痒い。
そうして、目敏い陽葵に、私と同じように寝転んでいた筈の親友に、
「大丈夫? ことちゃん....」
って訊かれて。
慣れた風に、幻を拭うのだ。
「今日は風が強いみたい。寝転んでいたら目に入っちゃった。」
なんて分かりやすい言い訳をしておくのだ。笑っておくのだ。
見えてしまったフィクションを少しだとしても現実に置いておきたくなくて_____そうだ、それは馬鹿馬鹿しい妄想に過ぎないのだから。
だから、どうか。誰かの血の色に染まった両手だとか。
あの綺麗だった青い瞳が、乾いたままになっているだとか。
そういうのは、本当に、もう突きつけないで欲しいのだ。
半ば引っ張られる形で夕飯を方代家でいただくことになり、家に連絡を送り、陽葵と他愛の無い話で盛り上がって少し、泊まっていったら?と言う陽葵のお母さん....
まず山を下る。そして歩いて、また山を登る。
罵倒しか出ないアクセスの悪さ。没したとはいえまだまだ暑い夕方の夏。固持せず泊まってけば良かったかななんて後悔しながらそれでもえっちらおっちら家へと進む。
背のリュックサックには幾つかの文献、紙束の分だけいつもより重量増加がキツいのもあって、着いた頃には汗でびっちょりだった。すぐに風呂に入ることにした。
髪やらなんやらを乾かして整えて、自室。寝る前に少し、持ち込んだ紙束を丁寧に広げていく。
父さんの命令....依頼で方代神社には派遣されていたのだが、その裏、この頃頻発している地震関係の情報を個人的に欲していたのもあった。
そこで方代のお婆様に助力を願い、未だ紙ベースで記録、保存されているものをお借りしたわけで。
見守りの台___方代神社による地質調査とその記録は今も続いている。
昔のように土着の儀式と称して人々の協力、理解を得る必要がない分、現代に近づくにつれ記録の帯の空白は比較的少なくなってくる。信仰は弱まれど、田舎的強み、地域住民の結束がまだまだ強い証拠である。若者からすれば面倒な話だろうが、ここではこれが確かに人々の命を繋いできた。
閉鎖的かつ限定的な環境の歴史、そこで紡がれた認知と手段。
外部からすれば如何にもな古典もの。
けれど、それは確かな人智の証明。
帯をなぞる。夢を見る。
さざめいているのは寄せた波。
私が視るのは、束ねられた時の笹舟。
ただ情報を得るのには便利な知覚に、このくらいは役立ってもらわなきゃと毎日のストレス分の悪態をつきつつ、過去を遡る。
遡って、束ねきって、洗い浚い厄災となり得る要素を憶えつつ、意識を反転させる。視界を捻っていく。
原点から今へ、今から
無限は知覚できる有限へ、この
雨の音。川の音。風の音。石の音。
落ちて集って削って流れて、溜まって溜まって溜まって。そして滴って。
その一滴が。その大地を穿つ一滴が。
大地の奥、星の炉が湯だつ、岩漿に注がれる。
煙、否、蒸気。一瞬で生まれる蒸気圧、軋む洞穴。
軟弱な石灰の世界がそれだけで砕かれて、溜まった地下水が更に落下して。
増えて登って広がっていく蒸気の熱は、宙ぶらりんの地蓋を________そこで、私は。
寝苦しさに目を覚ました。
母さんの誘いを巧みに受け流して、いつの間にかお婆ちゃんから受け取っていた紙束をリュックサックに丁寧に包んで仕舞い込んで、琴目....ことちゃんは、手を降って帰っていく。
それに笑顔で応えて、また遊ぶ約束を交わしてそれで別れた。
長い長い階段を軽快に降りていく背を眺めながら、少し心配になってしまう。
ことちゃんは、時々視線が何処か遠くへ行くときがある。
そういう時、いつもは大好きなあの星色の瞳が無性に苦手になる。
底冷える程の冷たさと、触れたら融けてしまいそうな熱を連想させる、あの無機質な耀き。そんな目をさせるのがいやで、あの綺麗な色に戻って欲しくて、私はことちゃんをよく遊びに誘う。
ことちゃんは優しくて、私と遊んでいるときは、決してあの目はしないから。
そうなると、結構無茶振りをしたり、無神経に誘ったりすることが多くなる。私の家も、ことちゃんの家も少し特別だから、どうしても忙しいときが多いから。
いつも気にしていた。内心恐れてもいた。あの目をしていることちゃんもイヤだけど、今までのような強引に誘い続けた結果、嫌がられもしたら、嫌われでもしたら、もう、友達でいられなくなってしまうのではないか。それがもっとイヤだった。
けれど、ことちゃんはいつも応えてくれた。付き合ってくれた。なんてこと無いフリをして、人一倍心を砕いて、努力している
私は
役割を担い続ける
友人を演じ続ける
いったい、いつ、どこで、償えるのかな。
方代陽葵
楔。精神的に病むことの多い
歴代の方代....『形代』に並ぶ役者。友人を遂行する者。
素の一人称はわたし。友人モードの時は私。
素の呼び方はあなた。友人モードの時はことちゃん。
普通に悪い子だけどそれを自覚しているので翻って善。
誘導の通り琴目ちゃんは友達である陽葵のことがモチベーションになっているので罪悪感マッハ。心のダメージは2人で半々ぐらい。仲良しだね♡