幼馴染が一人暮らしする部屋に行く危険。もしくは満足。あるいは中毒。〜幼馴染にキスをされて一緒に寝た。もとの関係には戻れないかもしれない〜 作:冷泉七都
その後、帰る途中、電車の中――。
クラスグループから繋がったのだろう、俺のスマホに堀内からのメッセージが届いた。
『今度二人で遊びに行くって約束、覚えてるよねっ』
約束はしていないが、そういうことにはなっていた。
俺が返信しないでいると、堀内から続けて着信が来た。
『もし真結のことで躊躇ってるなら、わたしのせいにしても良いよ』
『ゆっくり仲良くなってこっ』
堀内はその理由を知っているから、わざわざ俺にそう送ったのだろう。
俺も、隣の真結を見れば、なんとなく理解できた。
「裕誠、誰から?」
「お母さんだよ」
「どうかしたの?」
「今日は真結ちゃんの家に泊まるんだよねって確認だけ――」
「なんだ……良かった」
ここで本当のことを言う勇気は、俺にはない。
だから、真結のためにも秘密にしておく――と自分に言い聞かせた。
通学路とまったく同じ道を、見慣れた真結と一緒に歩いているのに、いつもと違う。
まっすぐ進行方向を向いていて歩く真結に、俺の手は握られた。
俗にいう恋人繋ぎだ。
真結の横顔を見ても、こちらを向く気配はない。
俺たちはそのまま、三叉路についた。
右に行けば真結の家で、左に行けば俺の家という分かれ道――。
しかし、真結は迷うことなく右に曲がっていく。
手が繋がった俺も、自然とそちらに歩くことになった。
「真結……」
「なに――?」
「なんでもない」
貫くように前しか見ない視線に、こっちを向いてほしくて出した言葉も、そっぽを向いて返されてうまくいかない。
/ / /
その後は一言も話すこともなく、俺は気が付けば真結の部屋にいた。
一か月前までは全く来る機会がなかったのに、最近はよく来ている。
そのときはいつも、あざとい笑顔や艶美なよがり声をみせるのに、今日は全くその気配がない。
今の状況が、そういうことをするべきなのか、はたまたただ話し合うべきなのか。
どうすればいいのか、分からない。
俺がどうしようかと棒立ちしていると、正面から真結に抱かれた。
弱々しくない、強い抱擁だった。
そして真結はキスをしようと、顔を上げて唇を差し出してくる。
「――っ!」
真結の目は少し潤んでいる気がした。
普段からは考えられないほど、訴えかけられるような顔に、俺は口づけで応えたくなる。
真結の悲しそうな顔なんて見たくない。
そう思考が支配された。
俺がひざを少し曲げて、真結の顔に合わせて身体を下げたとき――。
「ぁっ……」
真結に身体を押し込まれ、バランスを崩してしまった。
空中をふわっと浮遊する感覚に恐怖を覚える。
と、重力に引かれて、ベッドの上に叩きつけられるように落ちた。
少しの痛みを感じた刹那、俺は降ってきた真結に押しつぶされる形となる。
圧迫されて息がしにくくなっている。
俺が呼吸を整えていると、俺の顔の真上20cmに真結の顔がやってきた。
「私の家に上がったってことは、してもいいってことなんだよね――」
真結を怖いと感じてしまうほど、暗い声だった。
でも、確かにそんな約束を交わした覚えがある。
このまま真結に任せてしまう方が、俺も真結も幸せになれるのではないか――。
「ああ、そうだ」
「ん……」
真結の顔がゆっくりと近づいてくる。
そして、キスをした。
唇が離れることはなく、そのまま舌を入れられる。
二十秒ほど口内を舐られると、真結はようやくキスをやめた。
足らない酸素を欲して、二人は荒い深呼吸をする。
すると、真結は無表情で言う――。
「裕誠も、しろ」
命令なのに、声に力はなく、威圧感はない。
「……うん」
俺が首を縦に軽く振ると、二度目のキスが舞い込んだ。
言われたとおりに舌を入れると、真結の口は歓迎してくれる。
咥えられたり、吸われたり、いつもより激しい。
なのに、頭が真結の手で包まれたりして、可愛い攻めで思考がぐちゃぐちゃになってしまう。
やっとキスのし合いが終わると、真結は服を投げ捨て始める。
それを傍観していると――。
「脱いで」
と言われ、真結の変わりように戸惑いながらも拒めなかった。
そして、俺も真結も一糸まとわぬ姿になった。
行為が終わった――。
真結が「好き、好き、好き」と連呼して身体を抱きしめる姿は、異常だったけど不思議と守りたいと思った。
俺はそれに言葉で答えることはなかったのだが、いつか、言えるようになりたいと感じた。
「痛くなかった?」
「いや、大丈夫」
普通、男が言うようなセリフを言われた。
確かに、今日はずっと真結が優位に立ってしていて、激しいというよりも少し乱暴になっていた。
これが今の真結の感情なんだと痛感するほど、過度に力が強かった。
「ごめんね……。私、ちょっとイライラしちゃってて」
「……」
それが何故かが分かっているからこそ、おかしい真結を否定できなかった。
真冬の夜というのに暖房も付けずにいたからか、肌寒さを感じてきて、俺たちは散乱した服を拾い上げて着る。
そして、ベッドに座って何もしないでいると、真結が口を開いた。
「裕誠は、由樹のこと……好きなの――?」
その気まずい過ぎる質問に、俺はじっくり思案する。
でも、好きかと聞かれたら答えは一つしかない。
「いや、好きじゃない」
「じゃあ、将来的に付き合う可能性は?」
ないとは言い切れない。
堀内との恋が魅力的に感じられるのは事実で……。
だけど、それに『はい』と答えることは、今まで真結を否定している気がするし、さっきまでの俺を否定することにもなる。
だから――。
「人類だれでも、俺と付き合う可能性は0じゃない」
なんて、的外れの回答をした。
俺も意味が分からない――。
「ならさ、私のことは好き?」
堀内とあんなことがあるまでは、俺はこれに『はい』と言えただろう。
でも、俺の真結に対する気持ちは変わっていないのに、今はそう言えない。
堀内が俺に与えた影響は甚大だと実感した。
どっちの返事を選んでも、なにか違う気がして悩ましい。
また的外れなことを言おうか、と考えていると――。
「やっぱ、言わなくていい」
真結が話を終わらせた。
時計の秒針がうるさいと思うほど、静かになった。