幼馴染が一人暮らしする部屋に行く危険。もしくは満足。あるいは中毒。〜幼馴染にキスをされて一緒に寝た。もとの関係には戻れないかもしれない〜   作:冷泉七都

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第8話 関係に名前を付けるなら

 あの後、お風呂を済ませてから家に帰ったが、母さんは特に怪しむこともなかった。

 そして翌日の金曜日になった。

 

 学校に登校した直後は、友人の直斗に「昨日二人揃って休んで、なにかしてたんじゃないか」と言われたが、「そんなこと、絶対にない」と面倒くさそうに返せば、案外信じてくれた。

 だから学校では平凡に生活できるって思っていたのに、今、俺の真正面にいる真結が、思いもよらないことを言ってきている。

 

「裕誠、一緒に昼ごはん食べよ」

堀内(ほりうち)たちと食べなくて良いのか?」

「良いから聞いてるんじゃない……」

 

 真結は呆れたという感じで言い放った。

 ちなみに堀内――堀内由樹というのは、俺たちのクラスにいる女子で、真結と仲良くしているうちの一人だ。

 真結は毎日その女子たちと共に、昼の時間を過ごしている。

 すると、真結が目線をまっすぐ俺に向けてきて、身体まで寄ってきた。

 

「で、どうするの? いいよね?」

「直斗が一緒なら――」

「そっか。私は二人きりが良かったんだけど、裕誠がそう言うなら……」

 

 真結に何されるのか分からなくて、拒否される覚悟で聞いたのだが、意外と提案を認めてくれて安心した。

 今でも周囲の目線が痛くて、俺には耐えられない。

 入学二ヶ月でイケメン先輩に告白されるほど人気がある女子から言い寄られている男子――。

 それが幼馴染同士の関係だと知っていても、嫉妬や奇異の声が出るのも仕方ないだろう。

 

「だってさ、直斗。三人で食べよ」

 

 とにかく視線を分散させるために、いつも昼食を一緒にとっている直斗に呼びかけた。

 しかし――。

 

「いや、オレは良いよ……。二人の間に水を差したくないし」

「俺たちはそんな関係じゃ……」

「分かってるから。大丈夫」

 

 なにが大丈夫なのか。

 直斗は俺の提案をきっぱりと断った。

 一縷の希望はあっさりとなくなってしまい、結局俺は真結と二人で食べることになった。

 

 

 俺たちは教室後方にある真結の机で対面に座り、間にはそれぞれの弁当が置かれている。

 つまり、(はた)から見れば、俺たちは仲良く昼食を食べる二人のカップルとなっているのだ。

 教室にいる全てのグループが俺たちに注目する。

 どうやら驚きの視線はなく、温かく見守っている感じだ。

 ありがたいようで、でも誤解されている気がしてならなくて――。

 

「裕誠の弁当、美味しそうだね」

「そう?」

「うんっ。もしかしなくても、お母さんの手作り?」

「あぁ、そうだ」

 

 すると、真結がこちらをチラチラと見てくる。

 どう言う意図か分からなかったのだが、痺れを切らしたのか、真結はすぐに真意を話した。

 

「裕誠。ここは……、

 真結は自分で作ってるんだよねっ。美味しそうっ!

 ――って言うところだよ」

「俺の声真似はやめてくれ。似てないから」

「結構似てると思ったんだけどな。裕誠の声は、毎日聞くし……」

「はいはい」

 

 適当にあしらうと、真結がブーイングの意を表してきた。

 真結の『毎日』という言葉に反応したのだろう。

 教室の窓側にいたある女子が「あれで付き合ってないとか信じられる?」と言って、周りもそれに賛同していた。

 こんな状況は嫌だと思いながらも、俺は真結のもとを離れることはできない。

 

「玉子焼き交換しよ。裕誠ん()の、美味しかった記憶があって」

「良いぞ。ほら――」

 

 それぐらい困ることもない。

 俺は弁当箱を真結へと差し出した。

 すると真結は箸で玉子焼きをつまみ、口に放り込んだ。

 

「うん、やっぱり美味しい」

「真結にそんなこと言われたって知ったら、俺のお母さん凄く喜ぶだろうな」

「いくらでも食べられるよ」

「じゃあ、俺も貰っていいか?」

 

 一応聞いたが、真結の返答を待つ必要もないだろう。

 俺は真結の弁当箱に入っている玉子焼き――最後の一つを取ろうと、箸を伸ばしていく。

 美味しそうだ。

 が、掴む直前、その玉子焼きは真結によって奪われた。

 

「ぇ――?」

 

 困惑する俺をよそ目に、真結は玉子焼きを頬張って……。

 なんてことはなく、俺の口の前へと差し出された。

 まさかとは思うが――。

 

「はい、あーん」

 

 やっぱりそうだった。

 

「いや、それはさすがに……」

 

 教室――みんなに見られる中で、そんなことをするのはできなくて、俺は口を塞いだ。

 すると俺の言葉を分かってくれたのか、真結は玉子焼きを弁当箱に戻してくれた。

 でも、次に真結の顔が俺に近づいてきて、耳打ちする姿勢になる。

 

「私は裕誠に色々してあげてるのに、私のわがままは聞いてくれないの?」

「色々って、真結だって望んでしてるんじゃ……」

「分かった。もし何でも私を拒否するなら、私たちの関係を学校中に伝えるから」

「俺たちの関係……?」

()()()だって言いふらす――」

 

 真結は堂々としていて、目も笑っていない。

 これが周りに聞かれていないかと、俺は周囲を見渡した。

 騒いでいる人はいなくて、誰にも聞かれていないと一安心する。

 それが真実でも嘘でも、高校生男女がセフレしてるなんて知られたら、かなりの問題になるに違いない。

 そして、俺たちは面と向かい合った。

 

「それは、ちょっと違うんじゃないか」

「そう? (はた)から見れば、誰だってそう考えると思うけどな」

「でも……」

 

 探しても探しても、間違っている点が見当たらない。

 真結の言うとおり、俺たちはセフレという関係なのかもしれない。

 その事実を肯定するように、俺はもう一度真結から差し出された玉子焼きを、俗に言うあーんで食べた。

 味は甘くて、かなり美味しかった。

 

「裕誠のこういうところがイケないんだよ……」

 

 真結の呟きには、返事をしなかった。

 

 

 俺たちが食べ終わったころ、例の堀内がやってきた。

 

「真結ちゃん、大胆だねー」

 

 対する真結は、むすぅっとした顔をしている。

 

「ごめんごめん、羨ましくてさ。彼氏がいないわたしへの当てつけかなぁ」

「何回も言うけど、裕誠は彼氏じゃないから」

「そうだったっけ――?」

 

 どうやら真結は、そこら辺については正しく訂正してくれるようで、さっきの言いふらす発言での恐怖が少しおさまった。

 

「まあ良いや。それよりも、わたしに良い男紹介してよ」

「また同じこと言って……」

「だって早く彼氏欲しいもんっ。わたしを守ってくれれような、かっこいい彼氏が――っ」

 

 堀内が、彼氏が欲しいと嘆いているのは日常茶飯事だ。

 すると堀内は俺の方を見てきた。

 

「東郷くんも、良い人がいたら教えてねっ」

「ちょっと由樹、裕誠に変なこと言わないで」

「大丈夫大丈夫。わたしが、真結ちゃんの東郷くんを取る訳ないから――」

「そう言うことじゃないっ」

 

 静かに怒りを見せた真結に、堀内は他の友達の元へと去っていった。

 俺と真結が一緒に昼ごはんを食べた話も、一時間が経てば、少なくとも聞くことはなくなった。

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