プロローグはオリキャラ視点で進みますが、2話以降は西住みほ主体のストーリーとなっています。
青空、草原、森、小川…そして戦車。
一見場違いに見える戦車だが、不思議と調和している。
草原をゆっくりと進む戦車は静かに停止し、少しの間をおき砲塔を回転させ、爆音を響かせながら発砲する。
発射された砲弾は、戦車から数百メートル離れたダミー車に直撃し、砲塔を吹き飛ばす。
「撃破確認しました。」
俺の少し横に立つ記録係が双眼鏡を覗きながら、報告してくる。
「訓練終了の旨を伝えて帰還するように行ってくれ」
「了解です」
横に立つ記録係は軽く敬礼をしてから返事をし、通信を開始する。
「司令部よりIV号戦車へ、訓練終了。直ちに基地に帰還せよ」
「了解。直ちに帰還します」
その応答無線として帰ってきた声は男のものではなく、若い女のものであった。
その声の響きは、俺の頭に3ヶ月前の出来事を思い起こさせる。
戦車道が“スポーツ”でなくなった、あの瞬間を。
約3ヶ月前、この国及び世界の平和はいとも簡単に崩壊した。
先の大戦において多くの死人と損害を出した各国は、戦時に築いた軍事技術をそのまま凍結することで平和を保とうとした。
それから少しし、世界で当時の戦車を使い「戦車道」というスポーツをしようという流行りが訪れた。
当初は男女共に楽しめるスポーツとしてルールなどが設定されていたが、筋力を多く使う他のスポーツに比べて筋力がいらないということもあり、女子のスポーツとして確立していった…。
3ヶ月前に平和を壊した出来事は、まさにこの「戦車道」の国際大会の真っ最中に起きた。
3ヶ月前、国際大会の予選として日本の国土で、中国戦車道チーム対日本戦車道のチーム試合が行われた。
その試合の最中、相手国である中国が試合に実弾を用いて日本代表選手の乗る車両を破壊、その後大々的に宣戦布告をし、自国に戻って行った。
我が国が対中国のための対抗策として戦車道に目をつけることは火を見るより明らかだった。
この3ヶ月間で起こった出来事に思いを馳せていると、扉を叩く音で現実に引き戻される
「入っていいぞ」
俺がそう言うと扉が開き、車長をはじめとする5名が部屋に入ってくる。
「大尉。ただいま帰還しました。」
車長である西住みほ以下4名は俺に向かって綺麗な敬礼をし、敬意を示す。
「お疲れ様、この後は各々部屋に戻って休むように。西住、君だけ残ってくれ」
「わ、わかりました…」
西住は少し困惑した顔を見せ、返事をする。
「では解散」
俺の合図で4名は軽く西住に声をかけ、部屋を出て行く。
「あの、大尉なんの用でしょうか…?」
「そんなにずっと気張ってたら疲れるだろ?、崩していいぞ」
私がそういうと西住はピシッとした状態から少し力を抜いて崩した状態になる。
「改めて、実は君に話しておきたいことがあって呼び止めたんだ。
一つ目は数日後、他の高校の戦車道をとっていた生徒全員がここの基地に配属になること。二つ目はちょうど一週間後に作戦を行うことだ。この二つのことを、君のチームの子や他のチームの子に伝えてほしい。」
「あの、大尉…二つ目のお話についてなんですけど、それってつまり…」
西住は二つ目の報告の意味することを理解したのか、震える声で俺に尋ねる。
「あぁ…前線に出てもらうことになる…」
この言葉を聞き、西住の顔はさらにこわばる。
「君たちには本当に申し訳なく思ってる…俺たち軍がもう少し力を持っていれば、年端もいかない君たちを前線に送り出す必要なんてなかったのに…」
「大尉は何も悪くないですよ…」
みほはそう言ってかすかな、そしてとても柔らかい笑みを浮かべる。
「そんなことは…」
俺が返す言葉が見つからず言い淀んでいると、西住が喋り出す。
「…では他のメンバーに伝えてきます。失礼します」
西住は一瞬迷うように目を伏せたが、すぐに表情を引き締めて部屋に来た時と同じようにピシッと敬礼をし、綺麗な回れ右をして部屋から出て行った。
〜数日後〜
起床ラッパの音で目を覚まし、ささっと身支度を整えて、基地内の食堂に向かう。
女の子は身支度に時間がかかるのか、まだ食堂には誰もおらず、ただ配膳係が歩き回る音と、アルマイトの食器同士のぶつかる音しか聞こえない。
これと言った特徴のあるわけでないよくある軍隊食を配膳係から受け取り、適当な席に着き朝食を食べていると、入り口からゾロゾロと女の子たちが入ってくる。
「みんなおはよう」
俺が女生徒たちに声をかけると、ほぼ全員がびっくりしたような動きをし、バラバラにこちらを向いて敬礼をする。
「お、おはようございます大尉!すいません、いらっしゃるとは思わなくて」
隊長である西住が代表して言う。
「みんなそんな改まらないでくれよ、気にしないでいいよ。」
「ですが…」
西住は少し躊躇う。
「俺はみんなと仲良くしたいんだよ。これからは命を預け合う訳だし、君たちはまだ若いのに本来男が戦うべき戦場で戦わされてる。だから少しでも気を楽にして欲しいんだよ」
「大尉がそこまで仰るなら…これからは改まらない態度で接します!」
西住は年相応の笑顔で笑い返してくる。
「ところで話が変わってしまうんだが、今日の午後から君たちが今まで試合した高校のうち何校かがこの第2中隊に参加する。大丈夫だとは思うが、仲良くするんだぞ。じゃあ解散!しっかりと朝食を取るんだぞ」
「「「了解です!」」」
今までの距離を感じさせる硬い返事とは違い、少し解けた返事が返ってくることに、俺は言葉に表しにくい喜びを感じる。
俺は背中に大洗女子高校の生徒たちの楽しそうな話し声を感じながら食堂を出て、後日行われる作戦と今後の訓練のメニューを考えるために自分の部屋に戻った。
〜数時間〜
「コンコン」
扉をノックする音を聞いて、上官に渡す作戦書を机の中にしまい扉の奥の主に声をかける。
「鍵は空いてるから入っていいぞ」
「失礼します」
入ってきたのは女生徒たちではなく、報告に来た下士官だった。
「何か用かな?」
「伝令です!黒森峰女学院戦車隊をはじめとする、4校が基地にそろそろ到着すると伝令が入りました。」
「わかった、報告ありがとう。私もすぐ向かうから、君はそのまま訓練場に行って大洗の子達を広場に集めてくれ」
「了解しました、失礼します!」
そう言って下士官は敬礼をして部屋から出ていく。
出ていく下士官の姿を見送った後、俺は机の上の軍帽を取り、広場に向かった。
〜数分後〜
俺が広場に着く頃には、大洗の生徒たちはすでに広場に集まって綺麗に整列をして待っていた
「みんなすまない、少々遅れてしまった」
「「「問題ありません!」」」
まるで示し合わせていたかのようにみんなが一斉に言う。
俺はその様子に頬を少し綻ばせながら会話を続ける。
「朝食堂で話した通り、もうそろそろ黒森峰女学園をはじめとする4校が我が隊に加わることになる」
俺がみんなに向かってそう言うと、西住の目が普段より大きく開かれる。
「大尉!質問があります。尋ねてもよろしいでしょうか!」
「いいぞ、どうした秋山?どんな内容だ?」
「黒森峰女学園をはじめとする4校とおっしゃいましたが、残りの3校はどこなんでしょうか?」
「あぁ、いい質問だな。聖グロリアーナ女学院、アンツィオ高校、プラウダ高校だ」
俺が残りの3校の名前を言うと大洗の子たちが少しざわつく。
「それは大変強力な援軍ででありますね!」
「あぁ!本当に強力な3校が参加してくれて、俺も嬉しいよ」
そんなふうにして談笑をしていると、地平線の向こうから重いエンジン音が地を揺らすように響いてくる。
その音は次第に大きくなり、俺たちの隊列へと近づいてきた。
「来たようだな…よしみんな、整列を崩していいぞ!きっと今日から参加する高校に友達もいることだろうから少し自由にしてくれて構わない。」
俺がそう言うと、大洗の子たちは数人が飛び跳ねるように喜び、一斉に整列を崩す
「しかし!彼女たちにも報告するべきことがあるだろうから、他の高校の子達と戯れるのはそのあとだぞ。とりあえず全員の到着が確認できたら、そのあとはみんなで食堂に集まるように!」
「「「はい!!」」」
そんな会話をしていると各校の戦車団が続々と到着し、各校の隊長がそれぞれ私に書類を渡したあと、大洗の子達と楽しそうに喋りながらいそいそと食堂に向かう。
「西住!少し待ってくれ」
俺が声を大きくして少し先にいる西住を呼ぶと
みほと一緒に歩いていたもう一人も一緒に振り返り、西住が何か喋ってからこちらに小走りでやってくる。
「どうかなさいましたか?大尉」
「伝え忘れていたんだが、後で各校の隊長たちに後で俺の部屋に来る様に伝えてくれないか?西住も一緒に来てくれ」
「わかりました!」
西住は軽く敬礼をして、先ほど一緒にいた子と一緒に食堂に向かう。
俺はそんな背中を見送ってから自室に戻り、各隊長たちが戻ってくるのを待つことにした。
〜数十分後〜
「コンコン」
「空いてるぞ」
俺がそう声をかけると西住を含む5名の女生徒が部屋に入り横一列に並ぶ。
俺は西住を除く4名の顔をしっかり見ながら喋りかける。
「今日から君たちの上官になるものだ、よろしく。
みんなの大方の実績などは知っているが、それ以外のことは詳しく知らないから、みんなにはぜひ自己紹介をしてほしい」
俺がそういうと、まず優雅な雰囲気を醸し出している髪をギブソンタックにし、まとめている子が一歩前に出る。
「本日からこの隊に所属することになりました、聖グロリアーナ戦車隊隊長ダージリンですわ。
よろしくお願いいたします、大尉」
ダージリンはそう言って優雅にお辞儀をする。
次に一見高校生には見えない身長の女の子が一歩前に出る。
「この隊に配属されました、プラウダ高校戦車隊隊長のカチューシャです。よ、よろしくお願いします!」
緊張しているのか、はたまた敬語慣れしていないのか、辿々しい口調でカチューシャは挨拶をする。
そして次に長い髪をとても綺麗にツインドリルにまとめている子が元気よく一歩前に出る。
「この隊に配属されました、アンツィオ高校隊長のアンチョビです。よろしくお願いします!」
アンチョビはとても元気よく挨拶し、こちらにニコリと笑いかける。
そして最後にとても綺麗な焦げ茶色の髪を短くまとめている子が前に出る
「この隊に配属されました、黒森峰女学園戦車隊隊長、西住まほです。どうぞよろしくお願いいたします。」
とてもハキハキとした口調で彼女は挨拶をする。
みんなが一通り挨拶をし終わった後みんなに合わせて、西住も一歩前に踏み出す
「各校の生徒も全員揃っているのを確認しました!」
「そうか。ありがとう西住」
俺の俺に同時に二人がぴくりと反応する。
俺はその反応にしまったと思い、西住に尋ねる
「あぁそうかわかりにくかったな、どっちも西住だもんな…これからは二人のことを下の名前で呼んでも構わないかな?」
「「はい!」」
俺の問いかけに元気な返事が返ってきて、俺は一安心する。
「よし、じゃあこれからはそうさせてもらうな。それは置いておいて、みんなに話したいことが二つある。
まず一つ目、みほには言ったが無理に敬語を使う必要はないと言うこと。君たちはまだ女子高校生なのにこんな戦場に連れてこられて、見ず知らずの上官に敬語を強いられている様な状況だろう?だから俺はこの隊にいるみんなには敬語を強要したりはしない。敬語が嫌じゃないならそれでも構わないけど、嫌なら使わなくてもいい。敬語に慣れてない様な子もいる様だしね」
俺はそう言ってカチューシャの方に目を向ける
目があったカチューシャは少しバツが悪そうに俯く
「このことを他のみんなにも伝えて欲しい。大洗の子達にはもうこの話をしたからそれ以外の子達だよ。」
「「「「わかりました!」」」」
西住みほ以外の四人が声を揃えて返事をする。
「そしてもう一つは…今度行われる作戦についてだ…作戦書をみてもらいたいかあらもう少し机に近づいて欲しい」
俺がそういうと全員が俺の机を取り囲む様に近づく。
俺は前もって上官から渡されていた作戦書を掻い摘んで読み上げる。
「『鋼鉄の盾作戦』
作戦決行日は3日後の5月10日。場所は島根県。
任務の目標は中国戦車部隊並びに歩兵部隊の迅速かつ迎撃・撃退
大洗女学園戦車隊は防衛線の主力となり、多様な役割をこなし、アンツィオ戦車隊は機動力を生かした敵の撹乱・偵察、黒森峰戦車隊は重戦車を用いて決定的な反撃を待ち、プラウダ戦車隊は強力な火力を持ってして、防衛線の火力支援を担当、聖グロリアーナ戦車隊は重装甲を生かし防衛戦の中核担うべし。」
俺が作戦書を読み切ると、部屋の中には気味の悪いほどの静寂が訪れる。
「何か質問はあるか…?」
西住まほがすっと手をあげる。
「何を聞きたいんだ?まほ」
「…私たちが3日後までにできることは何がありますか?」
西住まほは厳しい現実を噛み締めながら搾り出す様に声を出す。
「上の話だと、銃の扱い方の講義と訓練、全学園での合同訓練だそうだ」
「ありがとうございます…」
まほは目を伏せ、例を言う。
「他にはないか…?」
厳しい現実を受け止めきれないかの様にみんなが下を向いて沈黙を貫き通す。
「ないなら…」
「大尉!」
俺が全てを言い切る前にアンチョビが声を大きくして俺を呼ぶ。
「何か質問か?アンチョビ」
「大尉は私たちが戦場に行っている間はどこにいるんですか?」
アンチョビは自己紹介の時の様にハキハキとした口調で私に尋ねてくる。
「将校は戦場に出向いて作戦に参加する義務は設けられていないが、俺は山中のトーチカで作戦指示を担当する。大切な部下だけを戦場に送り出して基地で仕事なんてできるわけないだろ?」
俺がそういうと、みんなが顔をゆっくりとあげてこちらを見る。
「そうでしたか…私はてっきり基地で待ってるものだと…」
アンチョビは少し申し訳なさそうに俯いていう。
「俺は絶対にそんなことをしない。上になんと言われようと俺は一緒に戦場に出向く」
俺の発言で少し不安は払拭されたのか、先ほどの強張った表情は幾分か崩れている。
「聞きたいことはもうないか?もしもうないならば作戦書のコピーをもって各隊長は仲間たちに作戦内容を説明するように。以上解散!」
そう声を上げると隊長たちはピッと敬礼をして部屋を出ていった。
お読みいただきありがとうございます!
第二話以降本格的にストーリーが動きますので続きも読んでいただけると幸いです。
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