ガチャ
私は大尉の部屋の扉を後ろ手に閉めて一息をつく。
お姉ちゃん、アンチョビさん、ダージリンさん、カチューシャさんも私と同じ様に一息をつく。
「これでカチューシャたちも立派な兵隊ね…」
カチューシャさんが少し哀愁を漂わせながらつぶやいた一言に、誰も突っ込むことなく無言のまま五人で並んで廊下を進んで食堂に向かう。
少し前までたくさんの生徒たちがひしめき合い、騒がしかった食堂も今は私たち5人しかおらず、寂しい雰囲気を醸し出している。
私たち5人はそれぞれ好きな飲み物をコップに注ぎ、特に会話が弾むわけでもないのにもかかわらず、決まった動作かのように席につく。
あまりにも静かな食堂には、壁にかけられている時計の秒針が時間を刻む音だけが響き渡り、より静けさを強調する。
「…皆さんは部下の方々にどんなふうに作戦を伝えるつもりなんですか…」
秒針の音を遮るように私が言うと、皆がゆっくりと顔をあげ、私の方を見る。
「わたくしは普通に伝えるつもりですわ…できるだけ怖がらせないように普通に」
ダージリンさんはいつもの調子で紅茶を飲みながら答える。
「私はまずエリカに伝えてから、エリカと一緒に各員を集めて説明するつもりだ」
「私も西住と一緒でとりあえずカルパッチョとペパロニに伝えるかな…」
「カチューシャはまずノンナに相談する予定よ」
各々が自分の意見を述べる。
「ミホーシャはどうするつもりなのよ」
カチューシャさんは少し身を乗り出し、私の顔を覗き込むように尋ねる。
「私は…まずあんこうチームの皆さんに説明した後に会長のところに行こうかと…」
私がそう言い切ると、また沈黙が流れそうになるが、まるでそうさせまいとするかのように今度はダージリンさんが喋り出す。
「兎にも角にも、今ここで感傷に浸っていても出撃しないといけない事実は変わらないですし、大尉さんを信じて準備をしましょ」
ダージリンさんはそう言って、紅茶を飲み干して立ち上がる。
「じゃあこのまま解散でいいか?」
アンチョビさんがみんなを気遣うように声をかけると、アンチョビさん以外のみんなが頷く。
「では、3日後の実戦に備えて各々伝達をするってことで…、みなさんおやすみなさい」
私がそう言うと、お姉ちゃんを含むみんなが別れの挨拶をして各々食堂から出ていった。
私も他の皆さんと同じように食堂を出て廊下を進み、あんこうチームの皆さんがいる部屋に向かう。
部屋の前についた私は、自分を落ち着かせるように一度深呼吸をして扉を開ける。
「みぽりんおかえり!」
私が部屋に入るやいなや、ドアに一番近いベットに座っていた沙織さんが私に飛びついてくる。
「ただいま、沙織さん」
私は抱きついてきた沙織さんを宥めるように背中を軽く叩く。
「西住殿、何の用で大尉に呼び出されてたんですか?」
優花里さんが読んでいた本を枕に伏せ、私に尋ねる。
「みほさん、大尉さんと何かあったんですか…?」
私は華さんと優花里さんの質問に答えるため、重い口を開く。
「みんなは何日か前に、近いうちに実践に出ないといけないって話をしたの覚えてる…?」
私が尋ねると、あんこうチームのみんなはゆっくりと頷く。
「その作戦決行日が3日後の5月10日になったの…。詳細はこの紙に…」
私は、紙を一番近くに座っていた沙織さんに渡す。
優花里さん、華さん、麻子さんが沙織さんを取り囲み、紙に目を落とす。
「ついに私たちにもこの時が来たか」
麻子さんが普段と変わらないトーンで呟く。
その言葉を聞いて、暗く俯く中沙織さんのみが声をあげる。
「麻子はなんでそんな普通なの!?死んじゃうかもしれないんだよ!」
「わかってる!わかってるけど…どうしようもならないだろ!」
「二人とも、落ち着いてください!」
普段は物静かな華さんが声を大きくして二人を止める。
「ごめん…私、怖くてつい…麻子だって絶対怖いはずなのに…」
沙織さんは申し訳なさそうに謝る。
「沙織…私こそ熱くなりすぎた…すまない…」
私は二人が落ち着いたタイミングを見計らって口を開く。
「私、この後会長のところに行ってその作戦指示書を見せようと思うんだけど、行ってきていいかな…?」
この空気の中で部屋を出るのは車長としてどうなのか、と思いながらみんなに尋ねる。
「いってきても大丈夫であります!ねぇみなさん!」
優花里さんがまず一番に口を開き、みんなに同意を求めると、優花里さんに勢いにのまれながらもみんなが頷く。
「じゃあ行ってきます…」
私はあんこうチームの部屋を出て、会長さん達のいる部屋に向かう。
廊下は気味が悪いほど人気がなく、冷たい空気が立ち込めている。
コンコン
『空いてるよ〜』
中から聞き慣れたいつもの会長の声が聞こえてくる。
「失礼します」
部屋に入ると、生徒会室から持ってきた椅子に座りながら干し芋を食べる会長と、河嶋先輩、小山先輩が迎えてくれる。
寝る前だったのか室内は薄暗く、作戦を伝えることを億劫に思っている私の心の中のようであった。
「こんばんは、西住ちゃん。どうしたの?」
私は一息ついて「実は…」と言いながら、会長に近づいて紙を差し出す。
「先日話した実戦が3日後の5月10日に決まったということを伝えにきました…」
「に、西住、それはつまり…」
河嶋先輩が今にも涙を溢してしまいそうな顔で私の方を向く。
そんな河嶋先輩の気持ちを察するように、小山先輩は何も言わずに河嶋先輩の肩を抱く。
そんな周りの状況が目に入っていないように、会長は渡された作戦書を干し芋を咥えたまま、いつもになく慎重な面持ちで見つめる。
「わかった、ありがとう西住ちゃん。これ他のチームのところにも見せに行くんでしょ?私がやっとくから西住ちゃんはもう部屋帰っていいよ」
「え、でも…」
「いーのいーの。会長である私がやるって言ってんだからさぁ。ね?西住ちゃん」
会長は作戦内容を読んだ後なのに、取り乱すことなくいつもの調子で話す。
「会長がそこまでいうなら…お願いします」
改めてこの人の忍耐力はすごいと思いながら承諾し、深いお辞儀をする
「じゃあ、おやすみ〜」
「はい、おやすみなさい。失礼しました」
私は会長に背を向けて部屋を出ようとする
「あ、西住ちゃん一個だけ言い忘れてたよ」
「はい、なんですか?」
「今回の戦いは今まで以上に厳しい戦いになると思うんだよね、もちろん命かかってるし。だから…だからこそしっかり戦って、生きてて帰ってこよう」
会長は大きくはないが、とてもしっかりとした声で言う。
「はい…、絶対生きて帰ってきましょう」
会長は、私がそう言うのを確認すると軽く頷く。
「じゃあ、改めておやすみ〜」
「おやすみなさい。失礼しました」
部屋から出ると、中で河嶋先輩と小山先輩が会長に何かを言っているのが聞こえる。
私はその声を背に受けながら、また冷たい廊下を進み部屋に戻る。
「おかえりなさい。みほさん」
部屋に入ると、さっきとは変わって華さんが私を迎えてくれる。
「ただいま華さ…」
私が言い切る前に華さんが人差し指を自分の唇に当て、空いている方の手でベットの一つを指差す
そこには、沙織さんと麻子さんが二人でくっついて寝ている。
「みほさんが出て行ってからほんの数分で寝てしまったんですよ」
「きっと武部殿も冷泉殿もお疲れだったんですよ」
優花里さんが声のトーンを落としながら言う。
「そりゃ疲れるよね…それより華さんさっきはありがとう。私、車長なのに何もできなかったから…」
「みほさんは何も悪くないですよ、一番辛いのはみほさんだってわかってますから。きっと沙織さんも麻子さんもわかってますよ」
「そうだといいんだけど…」
「大丈夫ですよ西住殿。きっと大丈夫です」
「ありがとう、優花里さん、華さん」
「さて、私たちも寝ましょう。明日も早いですし」
華さんはそう言って布団に自分のベッドに入る。
華さんに倣い私も優花里さんも、ベッドに入る
「おやすみなさい」
そう声をかけると、沙織さんと麻子さん以外の返事が聞こえてくる。
私は真っ暗な部屋の天井を見つめながら色々と思考を巡らせ、そして眠った。
ーーーーーーーーーー
「はっ!!!」
私は、夢の中で鳴り響く砲弾の音で目を覚ます。
起床ラッパはまだなっていないようで、左右のベットでは華さんと優花里さんが穏やかな寝息を立てて眠っている。
私は二人を起こさないようにそっとベットから抜け出して、パジャマの上から上着を羽織ってそっと部屋から出て、寝起きで乾き切った口を潤すために食堂に向かう。
大洗の生徒たちはまだ誰も起きていないようで、廊下はこの基地には私しかいないと思わせるような静けさで満たされている。
そんな気持ちで食堂に着くと、驚くべきことに先客がいた。
そこにはいつものギブソンタックではなく、髪を下ろした状態のダージリンが紅茶を飲みながら座っていた。
「あら、みほさん。おはよう」
「ダージリンさんおはようございます。ずいぶん早起きですね」
「それはみほさんも同じでなくて?」
「そうですね」
ダージリンさんの返しに、少しだけ笑みを浮かべて答える。
私はコップにお茶を入れてダージリンさんの対面に座る。
「ダージリンさんは、昨晩食堂で別れた後メンバーの方々に作戦内容を伝えたんですよね?」
ダージリンさんは軽く頷く。
「特に揉め事とかは起きなかったんですか…?」
「揉め事はなかったわ。ただ…オレンジペコが感極まって少し泣いてしまったぐらいよ…」
「そ、そうですか…」
「みほさんのところはどうでしたの?」
「私のところは、沙織さんと麻子さんが少し揉めましたけど、それ以外は特に…」
「そう…他の方達はどうなのかしらね…」
私たちの間でそれ以上会話は起きず、沈黙が走る。
「二人とももう起きてたのか。おはよう」
声のする方を見ると、ガウンを着た大尉が立っていた。
「「おはようございます」」
私たちが声を合わせて挨拶をすると、大尉は軽く反応した後コーヒーを淹れて、私たちの座っている椅子の端に腰掛け喋り出す
「二人はチームのみんなに作戦のこと説明したのか?」
大尉は少し気まずそうに聞いてくる。
私たちは頷き、昨晩の出来事を説明した。
「そうか…そうなるよなぁ…」
大尉はマグカップに入ったコーヒーの水面を見つめながら、噛み締めるように呟く。
そんなふうにしているとスピーカーからいつものように起床ラッパが鳴り響く。
「みんなが起きてくる時間か、俺は一旦部屋に戻って仕事の続きをやってくる。今日からの訓練遅れないようにな」
大尉はそう言って足早に自室に向かって行った。
「私も一旦部屋に戻りますわ。今日から三日間の訓練、一緒に頑張りましょうね、みほさん。」
ダージリンさんはそう言って片手を差し出してくる。
「はい!」
私はダージリンさんの手を強く握り返し、返事をする。
「では、ご機嫌よう」
そう言ってダージリンさんも足早に自室に戻って行った。
ダージリンさんが部屋に戻っていくのを見送った後、私もみんなのまつ部屋に戻った。
「みんなおはよう」
「西住殿おはようございます!どこに行っておられたのですか?」
部屋に入ると、優花里さんが元気に挨拶を返し、そして質問を投げかけてくる。
「ちょっと早く目が覚めたから、食堂でちょっと時間を潰してたの」
「朝起きて横を見た時、西住殿のベットが空っぽだったんでびっくりしましたよ〜」
優花里さんはそう言って笑う。
「びっくりさせちゃってごめん」
私は優花里さんに謝罪をしてから続ける。
「みんな聞いてください、昨日見せた紙にも書いてあった通り、今日から三日間みっちりと訓練だからなるべく早く用意してください!」
私がそういうとあんこうチームの皆さんはとても元気に返事をしてくれる。
私はパジャマをサッと脱いでいつもの服に着替えてみんなの用意が終わるのを待つ。
みんなの用意が終わったタイミングで一緒に部屋を出て食堂に向かい、各校の人たちと食事をして訓練場に向かう。
訓練場には、大尉、教官などが並んで立っておりすでに準備は整っているようだった。
「各校二列縦隊を作って整列!」
教官がよく届く声で私たちに指示する。
私たちはサッと集まり二列縦隊を完成させる。
「よろしい。ではこれから三日間の訓練の内容を発表する!
本日の訓練内容は実銃の扱いと射撃訓練、夕刻以降は作戦内容のより詳しい説明。
明日はチームワーク、模擬戦などの実戦に向けた訓練。
明後日はそれらの総復習である。何か質問はあるか?」
教官の質問に対して各校の生徒たちは何も答えず否定の意を表す。
「では射撃場に向かう。ついてこい」
このように始まった実戦に向けた訓練はとてもきついもので、辞めたいとぼやく生徒や、陰で泣くような生徒、そして揉め事を起こすような生徒も出るほどだった。
かくいう私も、初日の実銃の訓練は3日以内にものにできるように何発撃ったかわからないほど撃たされ、皆のようにやめたいと思うほど本当にきついものだった。
そんなきつい三日間はあっという間に過ぎ、当然の如く作戦前日を迎える。
私は訓練を終え、着替えなどの身支度をしたあと兵舎から出て、兵舎の外にある軽い台地に腰掛け星の出る夜空を見上げる。
車長である私が弱気なところを見せてはいけないと思い庭に来たはいいものの、やはり一人は寂しいななんて思っていると後ろから聞き慣れた元気な声が聞こえてくる。
「みぽりーん!ここにいたんだー!」
声のする方を見ると沙織さんがブンブン手を振りながら、ニッコニコで近づいてくる。
沙織さんの後ろには、あんこうチームの皆さんが少し遅れをとりながらも着いてきていた。
「ごめんみんな。勝手に出てきちゃって…」
「そんなことは別に気にしなくてもいいからさ、ご飯食べに行こ!訓練でお腹ぺこぺこだよ〜」
沙織さんは普段よりもテンションが高く、そのノリのまま私を食事に誘う。
「そうしようかな。私もお腹ぺこぺこ!」
沙織さんや他の皆さんに明日のことを気にしていると悟られないように、できるだけ元気に返事をして台地から立ち上がる。
私たちは今日の夕食についての話などをしながら食堂に向かう。
食堂に着くと、すでに各校の生徒たちが集まって食事をしており、食器と人の声が混じり合い大きな音を奏でている。
私たちは食事を受け取り、空いてる席につき食事を始める。
席につき、食事に手をつけ出した頃誰かが肩を叩く。
「みほ、食事中にすまない。ちょっといいか?」
「どうしたの?お姉ちゃん」
「ちょっと渡したいものがあってな」
「…わかった」
私はあんこうチームの皆さんに断りを入れ、お姉ちゃんについていく。
お姉ちゃんは食堂を出ると、出口を出てすぐ横の壁にもたれかかり、私をじっとみつめる。
「渡したいものってなに?」
私がそう尋ねると、お姉ちゃんはパンツァージャケットの内側から茶封筒を引っ張り出して、私にスッと手渡してくる。
封筒の裏面を見ると、私が大洗に転校する際もう勘当すると言っていた母の名前と見慣れた実家の住所が記されていた。
「私宛の手紙の中に混じっていたんだ。勘当するとはは言っていたけども、お前のことが心配なんだよ」
私はもう見捨てられたとばかり思っていた母からの想いを受け、鼻の奥がツンとする。
「…ありがとう、お姉ちゃん」
「いいんだ。それよりみほ、明日のことだが…絶対に生き残ってくれ…頼む…」
お姉ちゃんは震える手で私の肩をしっかりと掴み、潤んだ目で私の目をしっかりと言う。
「…もちろん。お姉ちゃんもね…」
私はお姉ちゃんをしっかりと抱きしめる。
お姉ちゃんは体を細かく振るわせながら、弱々しい力で抱き返してくる。
「…ありがとうみほ。食事中に引き留めてしまって悪かったな。」
お姉ちゃんは抱擁を解くと、いつもの様子に戻っており、私に別れを告げて食堂の中に戻って行った。
私はもらった封筒をポケットにしまってあんこうチームの元に戻る。
「おかえり西住さん」
いち早く私の帰還に気づいた麻子さんが声をかけてくれる。
「ただいま、麻子さん。みんな。」
私はそう言って席に座り、先ほどと同じようにみんなと喋りながら食事を再開する。
各校の生徒がポツポツと食べ終わり、談笑を始める。談笑の内容は甘いものが食べたいという女の子らしい会話や、温泉に行きたいなどのとても戦争中とは思えないような明るい話があちこちから聞こえる。
「みんな食べ終わったなら部屋に戻る?」
みんなに声をかけるとみんなは頷き、食器を持って席を立ち、食器を返し部屋に戻る。
「ふぁ〜もうおなかいっぱい!」
沙織さんは部屋に入るなりそう言って、重力に任せ自分のベッドに仰向けに倒れる。
「武部殿、このまま休むのもいいですけど先にみんなでお風呂行きませんか?汗もかきましたし。ねぇみなさん!」
「そうですね!いきましょう!」
華さんも優花里さんに同調して声を上げる。
そうして私たちは風呂に向かい、汗と泥をと一緒に明日の恐怖を洗い流すかにように風呂に入った。
風呂から上がり部屋に戻り、みんなが一息ついてから私は言わないとと思っていたことを言う。
「みなさん、明日の作戦の最終確認をしましょうう」
その一言で部屋の空気が変わる
私は自分の荷物から作戦書と現地の地図を引っ張り出して部屋の中央にある机の上に広げる。
「みなさん、明日の作戦はこれまでの訓練の集大成です。もちろん失敗は許されません」
私は深刻な表情でみんなに告げる。
「わかってるよ、みぽりん。けど私たちなら大丈夫だよね?今までも廃校危機とか川島先輩の留年危機とかをみんなで一緒に乗り越えてきたんだから」
沙織さんが笑顔で答えるが、その目には隠しきれない不安の色が見える。
「西住殿、絶対に成功させましょう!」
優花里さんが力強く言う。
「私たちならできますよ!」
と、華さんも優花里さんに習い力強く言う。
麻子さんは何も言わず、ただ頷くだけだったが、その表情には決意がみなぎっていた。
「絶対にみんなで帰ってきましょう」
私はみんなの顔を見渡してから静かに言うと、私の言葉にみんなはしっかりと頷く。
それから私たちは明日の作戦の最終確認を済ませて、それぞれのベッドに入る。
電気を消して静かに寝ようとするも、私は寝ること
ができなかった。
真っ暗な天井を見つめながら、大洗女子学園で過ごした日々や、平和だった頃の戦車道の試合などを思い返す。
訓練中の失敗や、みんなの笑顔、そして明日への不安が頭の中を駆け巡る。
「みほさん、まだ起きていますか?」
色々と考えていると、横のベットから華さんが小さい声で声をかけてくる。
「うん、起きてるよ」
「私、明日がとっても怖いです。たまらなく怖いんです。でも、みほさんとみなさんがいるから大丈夫だって気持ちになれるんです」
華さんがまるで告白するかのように穏やかな口調で言う。
「私も同じだよ、華さん。皆がいるから、私も頑張れる」
私は華さんの言葉に答える。
「ずーっと一緒にがんばってきたんですから、私たちなら絶対大丈夫ですよ」
私たちの話し声で起きたのか、ずっと起きていたのか、華さんと反対側のベットから優花里さんが話しかけてくる
「そうだよ。きっと大丈夫だよ!」
「そうだな」
いつのまにか沙織さんと麻子さんも加わり、互いに励まし合う。
「みんな、寝なきゃダメじゃないですか…でも、私も元気出た!ありがとう」
私は、みんなが一つになっているという嬉しさから涙を流しそうになりながらお礼を言う。
「お話もこれくらいにして、明日に備えて寝ましょうか」
華さんが話に区切りをつけるようにまとめ、その後、再び静寂が訪れる。
私は心の中で明日への決意を新たにしながら、仲間たちと共に戦う力を感じて、眠りに落ちた。
〜〜〜数時間後〜〜〜
作戦当日の朝、まだ夜が明けきらない薄暗い時間に、私は目を覚ました。
あんこうチームのみんなはまだ眠っているようで、静かな寝息が部屋に響いている。
私は静かにベットから出て、昨晩お姉ちゃんから渡されたお母さんからの手紙を取り出して、薄暗い光の入る窓辺にいって手紙の封を切ると、その中には短い手紙と、お守りが入っていた。
手紙にはお母さんの筆跡で、「みほ、無事に帰ってきて。信じているわ。」とだけ書かれていた。
その短い文がお母さんらしく、少しだけ涙が滲む。
手紙を丁寧に折り返して壁にかけてあるパンツァージャケットのポケットにしまい、上着を羽織って廊下に出る。
廊下を歩いていると、先日と同じように早起きしていたダージリンさんに再び会った。
「あら、おはようございます、みほさん。昨晩はぐっすり眠れました?」
「おはようございます、ダージリンさん。まぁ…よく寝れたんじゃないかと思います」
私たちは食堂に入り腰を下ろす。
「いよいよ今日ですわね」
ダージリンさんはティーバックの入ったコップにお湯を注ぎながら言う。
「そうですね…すごく緊張するし、すごく…怖いですけど、一緒に頑張るってチームのみんなと約束したんです」
ダージリンさんは紅茶を淹れたカップを手に持ち椅子に腰掛け、いつも以上に真剣な眼差しで少しの間遠くを見つめた後、口を開く。
「実は、私も少し怖いのです」
「ダージリンさんがですか…?」
普段からあまり感情を表すことないダージリンさんが感情を表すことに、私は驚きを隠ず思わず尋ねる。
「ええ…この戦いの結果がどうなるか分からないという不安。それに、私たちのチームのメンバーが死んでしまうかもしれない不安ですわ…」
「でも、それでも私たちは戦わないといけないわけですもんね…」
私はダージリンさんの言葉に続ける。
「その通りですわ、みほさん」
ダージリンさんは少し微笑む。
「こんな格言を知ってる?『恐れることなく進みなさい。恐れを克服することが真の勇気だから。』
恐れることは恥ずかしいことじゃありませんわ。それを乗り越えることで私達は強くなれるのよ」
ダージリンさんの言うその言葉で少し不安が払拭される。
「ありがとうございます、ダージリンさん。少し不安がマシになりました」
ダージリンさんはそれから特に何も言わずに紅茶を啜り、飲み干してからすっと椅子から立ち上がってから言う。
「私もみほさんとお話しできて、不安がマシになりましたわ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
私は謙遜するように言う
「生きて帰ってきましょうね」
ダージリンさんがそういって右手を差し出してくる
「はい!」
私たちは軽く握手を交わし、それぞれのチームのもとへ戻る。
部屋に戻ると、みんながすでに起きて準備をしていた。
「おはよう、みんな」
私が挨拶をすると、みんなから元気に挨拶が返ってきて、その元気な声に、また私は励まされる。
私はみんなに合わせて素早く身支度を済ませて食堂に向かう。
食堂は各校の生徒が集まってきており、緊張感と期待感が入り混じったらような異様な雰囲気が漂っていた。
食事をプレートにとって、あんこうチームのみんなが席に座ったタイミングで私は口を開く。
「いよいよ作戦決行の日です。みんなでしっかり食べて、準備を整えましょう」
私はそう声をかけて、みんなで朝食を摂る。
みんなの顔には決意の色が見え、私は少しだけ安心する。
朝食を済ませ、私達はその足で集合場所である訓練場に向かい各校ごとに整列をする。
教官と大尉さんはすでに到着しており、私達全員が到着したのを確認して、大尉さんが喋り出す。
「本日、5月10日。みんなが訓練してきた成果を発揮する時が来た。絶対に無事に帰れることを祈っている。さあ出発しよう!」
大尉の力のこもった言葉に私達は皆敬礼をして、各々戦車に乗っていく。
「私たちも行きましょう」
あんこうチームのみんなと戦車に乗り込み、麻子さんがエンジンをかける。
V12エンジンの振動が体に伝わり、緊張感が高まる
「みなさん、絶対に生きて帰りましょう」
私がそういうとみんなが私の方を向き、強く頷く。
「西住殿、合図を」
私は優花里さんの言葉に頷く
「パンツァー・フォー!」
平和だった頃からずっと使っている私の合図で麻子さんがIV号戦車を発進させる。
私達はまだ日の昇りきっていない薄暗い中、先の見えない不安や恐怖に駆られながら、戦場に向かって進んでいった。
読んでいただきありがとうございました。
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