アルドノア・ゼロ ファイルs   作:デルタイオン

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Ep.1 せんそう

 火星と地球。未だ相容れない存在。

 

 人の愚かさの象徴。

 

 宇宙ネズミ共が覇権を握るこの世で生まれた、ただのゴミ屑(一般人)

 

 そう理不尽にも押し付けられた。地面の苦さも、身体を犯すこの痛みも奴らは知る由も無い。

 

 2014年。この年は、妹の生まれるはずだった年。

 

 この年は、私の17歳の誕生日でもあった。

 

『……トラ…………ド!……きこ……』

 

 この年は、父の退院の日でもあった。

 

 この年は、わたしにとってかけがえのないものになるはずだった。

 

「ゴホッ……カヒュー…………」

 

 空の青さが目に刺さる。なぜこうなった?

 

 こんな理不尽な事がたった数人のせいで

 

 違う。厳密には()()

 

 あの紅き蒼さを持つ奴のせいで……

 

「ミーク…………なあ、ミーク?なんで…………」

 

 そんなところでうつ伏せになるなよ……

 

 息ができないだろ?

 

『トライブレード!!生きているか!?防衛はどうなっている!!』

 

 なあ……なんで

 

「ハハッ…………なあ、おしえてくれよ……」

 

 奴の瞳が俺を捉える。

 

「貴様らが正しいってさ…………教えてくれよ……」

 

 全身の力が抜けていく。

 

 視界が揺れ続ける。

 

「じゃなきゃ…………」

 

 

 

 暗く、深いよ

 

 

 

 

 

 恐怖がさけぶ

 

 

 

 

「憎み続けてしまう…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤子のように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 揚陸城が落ちたあの日。世界は変わってしまった。

 

 世界中が悲劇に見舞われる。人一人には理解できないほどに悲しみと憎悪が蔓延る地獄になった。

 

 ただ、一部地域に関してはまだ安全策が取られていた。そこへ世界は集まりつつある。

 

 俺たちも…………行かなくてはならない。

 

 化け物の住処。赤ずきんである我々が成さねばならない最初の仕事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッハ!?」

 

 飛び起きるとそこは見慣れた医務室。白い天井と多数の負傷者の蔓延る地獄だ。

 

 医療従事者の怒号と負傷者の絶叫。床に撒かれた血の海が包帯や雑巾で埋め尽くされている。

 

 血の染み込んだ包帯は、自身の手足に巻かれている包帯と同じ色。

 

「ミーク……は、そうか…………」

 

 寝ている間にも握りしめていたのだろう手のひらには数本の髪の毛が傷口へ刺さっていた。

 

 包帯も無限ではないのだろう。負傷箇所の大きい所以外の細かな傷口には消毒液がついさっき塗られていたかのように光沢をもっている。

 

 もうここに邪魔になるわけにはいかない。やるべきことを探さなくてなならない。

 

「すまない……少し通らせてくれ」

 

 座り込んでいた人が少し動いたおかげで廊下まで出ることが出来た。

 

 廊下も軽負傷者が寝転がって休んでいる。死体袋までそのまま置かれている様子だ。

 

 ゆっくりと目的の場所へ進む。

 

 あの紅い機体。あれは確実に火星カタフラクト。その一機だ。

 

 奴の記憶が体へ痛みを伝える。痛みが幻聴(叫び)を引き起こす。

 

 心臓の音が血管を流れる音を鮮明にし、傷口に痛みを与える。

 

「やつを…………いや、先に状況を……」

 

 記憶が定かではない。思い出さなくてはならない。

 

 あの前と、あの後を…………

 

 

 

 

 医務室から遠く離れた場所にそれはあった。

 

 作戦会議室は静寂に包まれていた。それは人の少なさ故か。それとも、あの映像の後の感情から来るものかはわからない。

 

 司令の女性とその副指令のみが存在するそこへ扉の開く音が突き破る。

 

 壁へ手を当て、立ち上がる事が全力な少年が。

 

「…………ハスキ。あの時の記録を見ました」

 

 その言葉が今の彼に正しいのか。それは誰にもわからない。

 

 だが、ここに集まることに意味があった。

 

「司令。今は…………いや、おれは!!」

 

「わかってるわ。来た意味も、何を欲しているのかも……」

 

 そして、彼にとっての需要も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約18時間前。火星と地球は戦争となった。

 

 ヴァースの親善大使。アセイラム・ヴァース・アリュージア殿下は殺害された。

 

 その時の光景は今も思い出せる。だが、その後のことはなかなか思い出せない。

 

 その後、火星は地球へ一方的な宣戦布告と同時に地球衛星軌道上に配備されていた火星騎士の揚陸城が地球へ降下。そのうち一基が九州の太平洋側へ着陸。そのときの衝撃により沿岸部防衛部隊は壊滅。上陸した火星カタフラクトによって民間人も蹂躙された。

 

 そして、俺たち学生すらも戦場にでなくてはいけない状況になり、敗北した。

 

「そして、その後沿岸部から姿を消した火星カタフラクト。現名称『トリケラスニクス』はまだ発見されていない」

 

 司令はそこまで話すと冷え切ったコーヒーへ手を伸ばした。

 

「俺はどうしてここに?」

 

「消えたのちに救助隊を出したときに発見されたのよ」

 

 そうなるともうあの戦闘の後には火星カタフラクトは居ない。しかし、火星カタフラクトは無限動力であるアルドノアドライブを搭載している。本来の想定ならば軍事基地へ襲撃が来ることを見越していた。

 

「ほかの作戦目標が……?」

 

「今はドローンによる警戒と捜索を行っている。痕跡はいくつか発見できているが、肝心な本体は見つかっていない」

 

「場所は?」

 

「副司令。マップを」

 

「はい」

 

 マップが大型ディスプレイへ投影される。

 

「ここ、九州新水原基地の場所は東地域の基地の中ではかなりの小規模な基地だ。立地も山岳部に隠れている。敵トリケラスニクスの行動予測では別の航空基地へ襲撃するものとされていた。しかし、痕跡を辿る限り移動進路は予想と大きく離れている。目的地は不明だが、進路上にはかなりの数の避難場所がある地域になる」

 

「都心部…………」

 

「そこには脱出用の艦船も停泊していた。現在の状況は不明。だが、もし。この進路を最悪の予測と掛け合わせると……」

 

 予想が甘かった。いや、自惚れていた。

 

 現状空と陸は支配されている。だが海は別だ。広大な海は敵にとっては最も攻めづらい土地なのだろう。

 

 脱出経路を潰す事。

 

「けど、それにしては右往左往しすぎている。それに、この速度ならもう都心部へたどり着いても良い頃だ」

 

「そう。だから現在、その理由を考えている」

 

 だが、わからない。理解できない。

 

 目的がなにか。それは聞き出すしか無いだろう。

 

「現在地は…………石崖街ですか」

 

「ああ。住宅地や工業の盛んなところだ。その場所からかれこれ2時間は動いていない」

 

「観光でもしてるつもりなのか……」

 

 苛立ちが収まらない。今すぐにでも復讐が果たせるのならば…………

 

 だが……

 

「司令。この基地の機体は……」

 

「…………もうほとんど残ってない。航空基地へ移動する計画を立てているが、その進路には……」

 

「石崖町ですか」

 

 現在の新水原基地と航空基地の間には石崖街がある。他を通るにしても近辺を必ず通ってしまう。

 

「スレイプニールはまだ残っていますよね。あと二機のみ」

 

「予備機ね。ある。弾薬も実戦仕様のが。しかし……」

 

「さすがに時間稼ぎにもなりませんね…………あと一機あれば…………」

 

 二機でどうすれば時間が稼げるのか。あの時の記憶が蘇る。

 

「三機による分割攻撃。陽動の多重攻撃を行うにはどうしてもあと一機いないと場には立てないか…………」

 

 戦術としてはこうだ。まず三機は住宅街を盾にしつつ一機が攻撃。残り二機がそれぞれ監視役と次の陽動役を担う。

 

 それをランダムに行い、時間を稼ぐ。

 

 しかし、二機だと片方を集中的に狙われた際に支援できる役が無い。

 

「…………あります。一機だけ」

 

「ここまで残すという事は疫病神なんでしょう?」

 

「ええ。ピーキーな子です。乗ってて楽しくはないですよ」

 

「司令?それ、私知らないのですが?」

 

 副指令が頭を傾ける。

 

「まあ、必要ない情報でしたからね。あなたがここへ就任する1年前。KG-7 アレイオン配備が始まっている時にとある試験目的で作られた機体です」

 

「そんなに前なんですか?」

 

「それで、その機体とは?」

 

「…………記憶障害みたいね」

 

「え?」

 

 記憶障害?俺が?

 

 いや、たしかにそうだ。思い出せない。霧が遮る。

 

「あなたがテストパイロットをしていた機体。名はYQM-P。見てもらったほうが早いわね」

 

 そう言い二人を連れて司令は格納庫へと歩く。

 

「司令。彼が記憶障害なのは確かなのですか?」

 

「多分。けど、確実に。会話の中で私のことを司令と呼んではいますけど、名前。わからないでしょう?」

 

「ええ。しかし、司令と副司令というのは覚えています。緊張感も無いことから親密だったのでは?」

 

「…………ハスキ。ミークは覚えているな?」

 

 ミーク。なぜだ。なぜ思い出せない?

 

「おまえはまだ囚われたままか」

 

「教えてくれ。俺は、いったいどれだけの時間を失っている?」

 

「…………9年」

 

 心が締め付けられる。この痛みが本物ならば、おれは死んでいる。

 

 9年の歳月が無い。俺は、失ってしまったのか。

 

 いや、それよりも多い。おれの記憶には仲間の思いがある。9年だけではない。幾人もの友が散った記憶が

 

「ハスキ。落ち着け」

 

 いつの間にか拳にまた血が滴っている。

 

 許せない。理解したくない。

 

 奴から返してもらわなくてはならない。

 

 記憶も……悲しみも…………

 

 奪う。奪われたものを全て。

 

「お前が今はわからない。どうしたらその悲しみを拭えるのかがわからない」

 

「俺もです。でも、今はそれでもいい」

 

 いつの間にか格納庫の前まで辿り着いていた。

 

「わたしにはわからない。お前も、この機体も」

 

 深く、懐かしい香りが扉から漂う。

 

 側壁の扉から中へ入ると一機のカタフラクトが置かれていた。

 

「だが、今は必要だ。いや、今後も。その後も。だから、どうか、助けてほしい。この機体で。『プロメテミス』で」

 

 その機体はあまりにも紅く。あの時見た()に似ていた。

 

 だが、心の中から感じる思いは違った。

 

 手に入れたと、言うんだ。




プロメテミス (YQM-P)???

スレイプニールを元に試験機の為エンジンや内装。システムソフトウェアから違い、頭部も一枚のブレードアンテナをカスタムされた物を使用しており、まるでヒコーキ耳を搭載した狐のよう。

グライダーは搭載されておらず、歩行のみでの運用とされている。また、地上専用機として歩行補助スラスターは搭載されておらず、姿勢制御はCMG(コントロール・モーメント・ジャイロ)によって行われている他、コンピュータ制御を強化している。

塗装は赤、黒、白の順に広く塗ってあり、フレームに簡易屈折機構を追加。これにより通常のスレイプニールよりも広い関節駆動域を持つ。

重量はスレイプニールよりも軽量化されており、装甲は転倒時の対策程度。エンジンは新型ガスタービンの旧型モデルの為アレイオンよりほんの気持ち程度出力が低い。

ワイヤーアンカーを二ヵ所増設。背中と太もも。

コックピットの背面に大型の特殊機構を搭載。重心位置安定化の為基本的には機体上部まで可動フレームで持ち上げて傘のように吊り下げている。二枚の大型の無骨な翼が下半身まで垂れ下がっているかのよう。機体色に似合わないマットブラックとシルバーメタリックで塗装されている。
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