修正2話目です。これからも多少会話内容の変更が見られますが、ご了承ください。
変人で地元愛のない薄情な奴、それがホシノから見たコウの第一印象だった。
数十年前に発生した砂嵐によって衰退していくアビドス。周りの人達は無慈悲にもこの土地を捨て、別の学園へ渡っていく人ばかりだった。
入学式の時点で人は少なく、そのほとんども数週間も経てば未来に希望を持てずに転校していった。
その中でもコウは転校せずにアビドスに通い続けた、唯一の同級生だった。ユメ先輩からも度々話題に上がり、石依コウという名前だとホシノは知った。
先輩がいる生徒会に入る事になり、同じぐらい地元愛が強いであろう彼の元を訪ねて初めて言葉を交わしたが、内容はホシノが想像した者では到底なかった。
「おっ……確かホシノ……だっけ?ユメパイセンが良く話題に出してた、喧嘩が強い子であってる?」
「どんな内容かは深く聞きませんが、あってます。……私達しか1年生は居なくなりましたが、貴方は同じように此処を去らないのですか?」
「なんで去らないかって?家から近いからってのと……ビナーって奴がいてさ。それ目当て」
「……は?」
「そうそう丁度良かった、頼みたい事があってさ」
「……何ですか、いったい」
「勝負してくれ」
「は?」
ホシノは訳が分からなかった。今だにアビドスに残り続ける理由が『家が近いから』という浅すぎる理由なのもそうだし、『ビナー』という存在は聞いたことがない。唐突に勝負を吹っかけてくるのも変な奴だという考えを加速させた。
「じゃあ……ハンデを付ける。俺はあの校庭のど真ん中から一歩も動かないから、ホシノは持てるだけの全てを使って俺を倒してみて」
自身にとって都合が良すぎるハンデをあげ、得意である戦闘勝負を仕掛けてくるコウを見て、ユメ先輩と似た抜けている人なのかとホシノは哀れに思った。
「……良いですけど、喧嘩には自信があります。コテンパンに負けたからって此処を出て行かないでくださいよ、ユメ先輩が悲しみます」
「おう大丈夫、多分負けないから」
「……へぇ……」
その日、ホシノは初めて勝負に負けた。
砂に埋もれかけた本校の校庭のど真ん中で宣言通り待っていたコウの背後から、完全に不意を突いて愛銃のトリガーを引いたが少し震えるだけ。
「ッ…!後ろか!びっくりしたぁ」
そんな余裕を見せながら笑いかけてくるコウに、どうにかして目にものを見せてやりたかったホシノは様々な手を尽くした。
もう一度力を込めて散弾を放った。真正面から受け止められ、笑みを浮かべていた。
体術に切り替えて肉弾戦を仕掛けた。いくら殴っても壁を殴っているかのように、動かせもしなかった。
砂を巻き上げて視界を奪い、組み伏せようとした。組み伏せは出来たが、まるで痛みを感じていない様だった。
何をしても、何をしても、彼はその場から一歩も動かなかった。
「ハァ……ハァ……何で……」
「これはもう、俺の勝ちで良いな?」
「待て……私はまだ一撃も受けてない、まだ戦える…!!」
「忘れてない?この勝負はホシノが俺を倒せたら勝ち、倒せなかったら負けの勝負だ。ホシノが無傷だろうと、俺を倒せてなきゃホシノの負けだぞ?」
「クソッ……」
「それじゃあ勝ったことだし、俺の言うことを一つ聞いて貰いますか」
「……そんなこと一度も聞いてないんですが」
「まぁ良いじゃん、別に大した命令はしないからさ」
「……それにしても、何で一度も攻撃して来なかったんですか?貴方の性格上相手が傷つくのが辛いとかではないでしょうし」
いい性格をしている彼なら、そんな紳士的な理由ではないだろうとホシノは踏み込んだ質問をした。
「……いや理由と言っても、俺攻撃出来ないから」
意味がわからなかったので詳しいことを聞くと、攻撃に関してある意味才能と言っていいぐらいにダメらしい。攻撃に転じた際のみ相手へのダメージがなくなり、道具を使ったり銃を使ってもまるで当たらないとコウから聞かされた。
「……なら次から私を倒せたら勝ちとかにしましょうか」
「それ絶対勝てないからやめてくれない?」
そんな風に話していると奥の方から誰かが駆け寄ってくる姿が見えてきた。
「お〜いホシノちゃ〜ん!!コウく〜ん!!」
「……ユメ先輩……」
「あっ、ユメパイセン!!」
「見てたよ2人とも!すっごい戦いぶりだったね!!」
「……見てたんですか?」
「うん!校庭で2人が何かしてるな〜って眺めてたの」
自分が手玉に取られる様を見て欲しくなかったホシノは、明らかに機嫌を悪くしている。それを尻目にユメは嬉しそうにしているが。
「うんうん。こんな頼りになる後輩が2人も残ってくれるなんて、私は幸せ者だよ!!」
「そうだ、ホシノ?せっかく唯一の同級生なんだし、モモトークの交換しない?」
「……何故貴方とそんな事を」
「……命令」
「……はぁ」
「ホシノちゃん、それぐらいさせてあげようよ。せっかくの同級生なんだよ?」
「……分かりました、早くスマホ出して下さい」
「ほいほい」
その後ホシノは、ユメに生徒会に入ると伝えて大いに喜ばれた。コウには誘わなかったのか?とユメに尋ねてみると、
「コウくんは自分で部活開いちゃってるみたいなんだよね。何だったっけ………守備力挑戦部だったかな。活動で忙しいからって断られちゃった」
「お?入部する?俺の部活はきついぞ」
「結構です」
それ以降ホシノはコウと表立って会うことはあまりなかったが、次に彼の声を聞いたのはその時交換した連絡先からであった。
先輩が病院で目覚めたという知らせがホシノに届いたのは、あの日から2日経ってからだった。あの日、ホシノは砂祭りの復活を語るユメに酷いことを言ってしまった。
「……ホシノちゃん見て見てー!アビドス砂祭りの昔のポスター!凄いよね?この時はまだオアシスが湖みたいに広がってたんだよ」
襲撃が重なり、精神的にも疲れていたホシノを元気付けようとしたユメだったが、悉くその日は都合が悪かった。
「あ、このポスターは記念にあげる!!…ねぇホシノちゃん?もし何か奇跡が起きたら、またこの時みたいに人がたっくさん集まって……」
「奇跡なんて起きっこないですよ、先輩。そんなもの、あるわけないじゃないですか。それよりも現実を見て下さい!」
「は、はう……」
「こんな砂漠のド真ん中にもう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!?夢物語もいい加減にしてください!」
「うえぇ、だってホシノちゃーん……ご、ごめんね?」
悲しそうにするユメを見て、これは八つ当たりでしかない事をホシノは分かっていたが。
「……っそうやってふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの……もっとしっかりしてください!貴方はアビドスの生徒会長なんですよ!?もう少しその肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!」
その激情は止まる事はなく、遂にはポスターを破り捨ててしまった。
「あっ……」
悲しそうなユメの声を背に、ホシノは生徒会室を出ていく。その後数時間経って落ち着きを取り戻したホシノは、先程の蛮行を謝罪しに生徒会室に戻ったが……
戻った部屋にユメは居なかった。
「ユメ……先輩……」
遭難してしまったのだろうか、ギリギリ電波を拾ったのか辛うじて送られてきたメッセージには、砂漠に行ってコンパスを忘れてしまった事、メモと手帳に伝えたいことを書いておいたとの遺言としか言えないメッセージ。最悪の展開が音を立ててやってきたようだった。
まだ先程の事を謝れてないのに、こんな形でお別れなんてしたくなかった。
無我夢中で砂漠を駆けずり回ってユメを探すホシノ。しばらく経った後、スマホから着信がかかった。すぐさま確認すれば、あの時以来碌に会話もしなかった石依コウだった。今はそれどころではないと着信を切る。
しかしすぐに2回目が来て、切るとまたかかってきた。
腹が立って来て、電話を取り声を荒げた。
「何なんですか一体!!何度も電話してきてこっちはそれどころじゃないんです!!」
『うるっさ』
久しぶりに電話して早々にこの言いよう、冷静に考えれば自分のやっている事は良くないと分かったのだが、今のホシノにそんな余裕はなかった。
『……そのそれどころって用事、もしかしてユメパイセンと関係ある感じであってる?』
「は?……どうしてそれを……」
『そりゃ見つけたからな、ユメパイセン砂漠で倒れてたぞ、今は近くの病院に運んで治療してもらってるとこ。多分そこまで重症じゃないと思うぞ』
それはホシノに取っては救いの知らせだった。
「……本当ですか?」
思わず声が震え、涙が出てくる。見つかって良かった、生きててくれて良かった、様々な感情がホシノに溢れ出してくる。
『マジマジ。嘘なんか付かないって』
コウの軽い話し方は、今だけはありがたいものだった。
「良かった……ありがとうございます……」
『また後で連絡するから、それじゃまたなー」
「グス……はい……」
「おっすホシノ。数ヶ月ぶり〜」
コウは病院の前で待っていた。最後に会った時と変わらない、
「久しぶりですね、コウ。……ユメ先輩の件はありがとうございました、運良くコウが見つけてくれなかったら、私は先輩と二度と会えずに喧嘩別れをしてしまう所でした」
「……え?喧嘩してたの?」
コウはどうやらこうなった経緯を知らないらしい。ホシノは懺悔するかのようにポツリと語り出した。
「……はい、ユメ先輩が持って来てくれたアビドス砂祭りのポスターを怒りに任せて破いてしまって、暴言を吐いてしまいました」
「…………」
「数時間経って部屋に戻れば、居なくなった先輩と、テープで修復されたポスターがあって……その間、ユメ先輩は……砂漠で死の淵に、立っていて……」
「オッケーもう十分だから、それ以上はいい」
「……うう……」
頭に手が置かれ、コウにゆっくりと撫でられる。
「……まぁ今回は運が良かったな、ホシノにはまだ謝れる機会があるし。きちんと話し合ってごめんなさいしたら、また元に戻れるだろ。ユメパイセンだし」
溢れ出る涙を彼のハンカチで拭われている。最低限の慰め方であろうと、今のホシノにとっては心地よかった。
「ほら、行こうぜ?ユメパイセンが待ってる」
「……はい」
その後ホシノはユメと無事再会を果たし、共に大泣きしながら2人揃っての謝罪祭りが始まった。2人とも涙が止めどなく溢れ出してきて、拙い謝罪言葉を繰り返す人形のようになっていた。
実はこの場面をコウはひっそりと録画しており、ユメが退院した後にニッコニコでその録画を見せて来た時は、また一波乱あった。