ちょっと長くなりそうだったので2つに分けました。
「それでは、アビドス生徒会の定例会議を始めます」
「は〜い☆」
カタカタヘルメット団の騒動から一夜明けた日。アビドスにて定例会議が行われていた。いつもと違うのは先生がいること。すこし狭く感じる部室にて、会議は始まった。
「本日はユメ先輩に加えて先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目に議論が出来ると思うのですが……」
「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない……」
まぁ最近は碌な意見を出せてなかったから的外れでも無いというか……とコウは思ったが、口に出さないでおく。アヤネは怒らせると怖いからだ。
「みんな、昨日は災難だったね。私はみんなが無事ですっごく安心したよ〜」
先程まで泣き喚いていたユメの姿はどこへ行ったのか、ふにゃふにゃとした笑顔をみんなに向けている。心配されるのは嬉しいが、あの体で抱きつかれては息をするのも難しいので、勘弁してほしいと思うのは全員の総評である。
"みんな、今日はよろしくね"
「うへ、よろしくね〜先生」
「まずは近況報告からです。地図で見るとこの辺りなのですが、今回はこの地帯の土地を買い戻す事ができました」
正直に言っても誰もいない、買い戻してもほぼ意味のないような場所だがやらないよりはマシだろう。こういうのはコツコツ行うのが大事だ。
「それにしても、何でカイザーはこの辺りの土地だけ手放してたのかな」
「はい…今回買い戻した土地は、カイザーが既に手放していた土地の一部を購入したものです。もしかしたら手放すほどの面倒な何かがあったのかもしれませんが……」
みんな地図を見つめて考えている。だが特に何も思いつかずに時間だけがすぎていく。するとコウが何かを思い出したかのように「あっ!」と声を上げた。
「コウ先輩?何か分かりましたか?」
「多分だけど……この辺りって確かビナーがうろついてた所だと思う」
"ビナーって確か……この前教えてもらった奴だよね?"
ビナーをよく見かけるスポットが確かこの辺にあったはずだ、とコウが目星をつける。それは丁度手放された土地が散らばっていた。
「カイザーはビナーを避けているのでしょうか。……いや、あれに向かっていくのはコウぐらいしかいませんね。普通避けます」
「良い子なんだけどなぁ、ビナー」
「毎回思いますけど、馬鹿なんですか?」
辛辣な言葉を浴びせられて苦笑いをコウは浮かべる。しかしあれに1人で突っ込んでいくような男に同情出来る人がいるわけがなく、みんな頷いている。
「……次っ!!次の話しよう!!」
"逃げたね?"
「えっと……じゃあ私からなんだけど、この前話したアビドスのお土産計画についてだね」
「もしかして、もの凄く人気になったとか?」
アビドスのお土産計画とは、アビドスの砂をモチーフにしたお土産としてお菓子を作って販売しようという計画である。自治区端辺りのお土産屋にて、きな粉を塗したお団子を作りアビドス砂団子という名前で売ってもらっていた。
「それが……買ってくれた人からは好評を貰ってるんだけど、そもそもアビドスにわざわざ来るような人が少ないから売れ行きが良くなくて……」
「でも好評なんでしょ?それだけで十分すぎるわよ」
実際はそうである。少しでもプラスの情報を貰えただけで、こっちとしては大勝利もいい所だ。
"売れ行きがないなら、シャーレの売店にも並べるようにしようかな?後々色んな学園と交流することになるだろうし……"
「本当ですか!先生!?よろしくお願いします!!そうだ、一箱持ってきたんですよ。良かったら食べてみてください!」
"ありがとう……〜わっ、すごく美味しい"
「嬉しいです……」
「良かったですね〜、ユメ先輩」
「ノノミちゃん……うん!頑張って良かったぁ……うぅ……」
「あらら☆」
目に涙を浮かべ始めたユメをノノミが慰めている。どっちが先輩か分からなくなりそうな光景だ。
「えっと……それでは次の議題に移ります。内容は今後の資金繰りについて、です」
"今のままじゃ足りないの?"
「うへ、そうだね〜……指名手配の取り締まりの報酬とか、さっきのお土産だけじゃあ収入としては足りないからねぇ」
「ん、ここはやっぱりでっかくいくべき」
「ご意見のある方は、挙手をお願いします!」
「はい!はい!」
セリカが元気よく手を挙げている。その表情からは自信溢れる様子を感じさせている。
「はい、1年の黒見さん。お願いします」
「……あのさ、なんで名字でよぶのよ。ぎこちないんだけど」
「セ、セリカちゃん……でも、せっかくの会議だし……」
「まぁいっか……コホン……とにかく!生徒会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は崖っぷちとしか言いようがないわ!」
崖っぷち……言い得て妙ではあるが、最後の砦であるノノミのカードやコウの貯金をあれから崩してないのを考えると楽観的に思ってしまうのが現状だ。
「このままじゃ埒が開かない……シロコ先輩の言う通り、やっぱりでっかく一発狙わないと!」
「でっかくって……例えば?」
アヤネのその言葉を聞いて待ってました!と言わんばかりに、セリカは一枚のチラシをバッ!と見せびらかしてきた。
「これこれ!街で配ってたチラシ!」
「これは…!?」
"……待って、これ……"
「どれどれ……「ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで貴方も一攫千金」……えっと……セリカちゃん?」
「この間、街で声をかけられて説明会に連れていってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!これね、身に着けるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば……って、どうしたのよ?」
自分を信じられないような目で見つめる周りの視線に気づくセリカ。気まずそうにしながらアヤネが口を開いた。
「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……」
「少しは警戒心高くなったと思ったらこれだよ……」
「儲かるわけない」
「えぇー!?」
セリカの危機管理能力の低さを改めて危うく思う周囲。ホシノはこの時近いうちに、セリカに対して教育を施すことを誓ったのだった。
「セリカ、そもそも運気というものは上がることを証明出来るものではないです。その人の感じ方や気分でしかありませんから」
「そ…そんな……ケイ先輩、私2個も買っちゃったんだけど!?」
「……良い経験にはなりましたね」
「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。気を付けないと悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」
「……!!……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……」
涙目になるセリカを見て不憫に思ったのか、ユメとノノミがセリカに近づいていく。アビドスの誇る2代抱擁力があれば、瞬く間に制圧出来るだろう。
「気持ちはわかるよセリカちゃん……私も昔に幸運になる壺とか買っちゃったことあるから……」
「大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう?私がご馳走しますから」
「ぐす……ノノミせんぱい……ユメせんぱぁい……」
「えっと……それでは、黒見さんからの意見はこの辺で……他に意見のある方は…」
「はいは〜い!」
「はい、3年の小鳥遊生徒会長。……ちょっと嫌な予感がしますが」
続いて手を挙げたのはホシノ。せめて先程よりはマシな内容を出す事をアヤネは祈っていた。
「まず我が校の一番の問題は、全校生徒がここに居る数人だけって事なんだよね。……つまり、生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー」
「「生徒数を増やす」ですか……でも今更アビドスに来てくれる生徒なんて……」
「簡単だよー。他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」
「はい!?」
アヤネは自らの耳を疑った。ホシノは一歩引いた視点から見ているような雰囲気をしても、謎にふざける時はふざける人である。何故今なのか。
「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへ〜、これで生徒数がグンと増えること間違いなーし!」
「良いね、それ。ターゲットはトリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?」
「お?……えーっと、うーん……そうだなあ、トリニティ?いや、ゲヘナにしよーっと!」
「おいシロコ、乗るんじゃない」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな方法で転校とかってありなんですか!?それに、他校の風紀委員が黙っていませんよ……」
「うへー、やっぱそうだよねー?」
「やっぱそうだよねー、じゃありませんよ、ホシノ先輩……もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」
議題はまだ始まったばかりである。あと数人の意見が残っているというのに自分はこれが終わった時に立っていられるか、アヤネは心配になった。