やっと納得のいく形になったので投稿します。
「……はぁ、事態を止めてくれたことには感謝してるわ。でもあれはミレニアムの重要な資産の一つなのよ?可能なら見つかった時点で捕縛に移るべきだったのに」
「でもあれほどのものを止めるには生半可な準備ではすぐに太刀打ちできなかった。ミレニアムプライスが迫っている以上、出来るだけ被害を出さずに早急に事を納める必要があっただろう?」
「……否定出来ないのが悔しいわね」
現場はエンジニア部の部室。騒ぎを聞きつけたユウカはハブにとんでもない兵器をぶっ放す瞬間を目撃した。撃墜していくハブを見て溜め息を吐きつつ、下手人のエンジニア部達に何があったのかを聞いていた。
「モモイ、説明してくれる?」
「これには色々と訳が……」
「モモ!やっと見つけた!」
小走りで駆け寄ってきたお団子ヘアーが目立つ彼女は小塗マキ。その手には学生証が握られていた。
「はいこれ!部室に持っていったのに居なかったから探してたんだよ?」
「ありがとうマキ!……あはは、ごめんね私ってば忘れ物しちゃって」
「忘れ物……?別に忘れてなんか─」
「はい!マキは戻ってもいいから!ありがとう!」
口を手で覆われたマキはモモイに押されて帰っていった。
「……コホン!ちょっとアリス、こっち来てくれる?」
「……!クエスト『モモイの元に迎え!』を実行します!」
「はいこれ、アリスの学生証。これがあれば私達の学校の生徒だって認められるようになるの。生徒名簿もヴェリタスのみんながハッキ……登録してくれたから、これでアリスは正式な仲間だよ」
"待って、今聞き流しちゃいけない単語が聞こえてきた気がするけど"
そろりと2人の近くに近づいていた先生は、ここに来る前滅多に聞かない単語が聞こえて小声で話していた2人の会話に入った。ハッキ?それに続く言葉は十中八九ハッキングだろう。当たり前のようにハッキングする部活が存在して良いのか?ホワイトハッカーなのか?
「なるほど……アリスはギルドカードを手に入れました!」
「まぁそう言う事でいいか……」
「それで、この子は誰なの?ミレニアムの服装を着てるみたいだけど……」
「アリスちゃん……頑張って!」
後方からミドリが固唾を飲んで見守っている。正直上手くいくかどうかは半々、先生は最悪自分が出来るフォローの手札を準備していた。
〜
「ふぅ…….なんとかなった」
「おぉ、お疲れさん」
「うわぁぁ!?……ってコウじゃん?帰ってきたの?」
なんとかユウカの信頼をもぎ取ったモモイ達が部室に戻ると、コウがゲームを起動して遊んでいた。
「アリスは?」
「エンジニア部に貰った武器の細かい調整をしてもらってて、もう少ししたら帰って来ます」
"何やってるの?"
「初めて見るゲームがあったからやってみてるんだけどさ……『テイルズ・サガ・クロニクル』って奴」
「!!」
「そ、それで……感想は?どんなゲームだった?」
コウはゲーム開発部がどんなゲームを作ったのか聞いていなかったらしく、先生達が部室に帰ってくるまでの間は完全初見のゲームとしてテイルズ・サガ・クロニクルをプレイしていた。
前評判を聞かず、知り合いと言える人にプレイしてもらうのは初めてだったモモイは少し緊張しつつもコウに感想を聞いた。
「まだ全然途中だけど……まぁやる気があるクソゲーって所かな」
「やる気があるって……結局クソゲーじゃん!」
「何言ってんだモモイ、クソゲーにも色々種類があるんだぞ」
「種類があるんですか?」
「例えばだな……使い回しが多くてこだわりを感じない、パッと見で面白くなさそうに見えるタイプ。ダウンロードサイトにあるアセットゲーとか」
ゲームは作るのがとても難しい。設定の数々やそれを支えるプログラミングが多岐にわたる苦難の道だ。ネットに売られているアセットを使えば手軽にそれらを短縮してゲームを作ることができるが、それで完成するものは総じて似たようなデザインで目新しさが無い。同時に得られる体験も同じようになる。
「後は、キャラクターの魅力を使ってパッと見の印象を優先しすぎてゲームが面白くないタイプ。原作がアニメとか漫画とかの奴がなぁ……」
キャラゲーによくあるパターンで、ブランド力やパッと見の印象を優先しすぎた結果ゲーム性や作りが疎かになってしまう事も多い。キャラクターはあくまで第一印象、プレイしてから裏切られる分こっちのほうがヘイトが溜まりやすい要素がある。
「このゲームはその2つとは違う。デザインは練られていてオリジナルに溢れてる。最近の高性能重視の世の中でレトロ風のゲームは印象にも残りやすいし」
「じゃあ何がダメだったの?」
「こればっかりは仕方ないけど、作りの粗さ……バグは多いし誤字脱字も多い。一部ギミックの難易度がおかしいし……」
ムービーの途中で猶予3、4フレームのQTEが何度か発生した。すぐそばにセーブポイントがあるとはいえ反応出来るわけがなかった。
「そこはみんなのゲーム力を信じてて」
「これの狙ってる対象ってプロのゲーマー?そんな事ないはずだぞ」
「部長がこれぐらいなら一度見れば狙って出せるって……」
これを狙って出せるならもう人間を辞めて……いや世界には猶予数フレームの大技を連続で決めるタイムアタックもある、部長はもしかしたらそのレベルなのかもしれない。
「逆張りのしすぎはただの裏切りになる。言われた操作方法をしたら大爆発するのは前提条件が違いすぎるだろ、掴みは良いけど掴み方が荒すぎる。……まぁ魅力はある、磨けば光る作品だってのが総評ってところかな」
「凄い、少しでも褒めてくれたのなんて初めて……」
「コウは見る目がある!私達のゲームも捨てたものじゃなかったんだね!」
非難ばかりじゃない、魅力を見出してくれた率直な意見を人は聞きやすい。作品に関して罵詈雑言を浴びせられるのに慣れていた2人は前向きな意見に好印象を抱いた。
「そういや部長さんって今日はいないのか?特に見かけてないけど」
"私もまだ会った事ないんだ"
「あー、多分何処かにはいるはずだけど……」
その時、部室にあったロッカーからガタンっと物音がした。突然の出来事にビクッと体を揺らしていると、ゆっくりとロッカーのドアが開いて中から人が出て来た。
「……あっ…えっと…こんにちわ」
「ユズちゃん!?いつからいたの?」
「その人が部室に来てから……かな」
……約1時間前ぐらいから部長はロッカーにいたらしい。コウがゲームをしている間もずっとロッカーにいたのに誰も気付いていなかった。
「先生、部長のユズだよ。ユズ、大丈夫?2人とは初対面だと思うけど」
「……先生が協力してくれてるのは知ってるから。それにさっきのゲーム評価を聞いてると、この人なら…大丈夫かなって」
"よろしくね、ユズ"
「よくロッカーの中に入ってたな……」
「アリス、ただいま帰還しました……!見慣れない人がいます、新たなメインキャラクターの予感です!」
「アリス、この人が部長のユズだよ」
「ユズはクランリーダーですね、よろしくお願いします!」
武器の調整が終わったアリスが部室の中に入って来た。背中には光の剣もといスーパーノヴァが襷掛けで背負われ、小柄な身なりと裏腹に大きな武器が存在感を際立たせていた。
「……すげぇ強そうな武装。ちょっと後で威力見せてくれるか?」
「チュートリアルは完了したので、準備は万端です!」
「今じゃなくて良いって……」
"ねぇコウ、廃墟探索が終わったら帰るって言ってなかった?随分と寛いでるけど大丈夫?"
事前に聞いていた予定と比べてのんびりしているコウに先生は尋ねた。
「本当なら帰ってビナーに餌やりする予定だったけど」
"待って、餌やり?"
「ちょっとアリスに用事が出来たから、みんなを待ってた」
「アリスにですか?……今コウの頭上にクエストのマークが見えます!受けて立ちます!」
「えっと何々……録画を回して質問をする……なるほど?」
『アリスは覚えてる記憶はどれぐらいあるんだ?』
『すみません……アリスはモモイ達と出会ってからの事しかセーブデータがありません。以前までの冒険の書は消えてしまったようです』
「────????」
ケイは混乱していた。ミレニアムに向かったコウに王女の様子を報告してもらおうと連絡をし、送られて来た動画を見て頭を悩ませていた。
記憶が無いのは分かる。王女はプロトコルを完遂するために作られた器であり依代、仕組みとして備えられたAIに意味はなく鍵の役割を持った自分が王女のシステムを補助し、運用することが使命だった。神秘を扱う際にどうしても人の形と意思を得なければならず、体がなかった自身を仲介役とする事で成り立っていた。
だが何だあの話し方は。出来の悪いAIの知識を詰め込んだようなゲーム語録のオンパレードには目眩がしてくる。
「……いえ、この際そこは良いです。最も重要な事は知れたので」
『もし世界を滅ぼせる力があったとしたら、貴方は世界を滅ぼしますか?……なんだこの物騒な質問』
『そんなことしたくありません!……アリスはモモイ達と最高のゲームを作って、エンドロールのその先に行きたいです。エンドコンテンツを限界まで楽しみたいです!』
王女、いやアリス本人に世界を滅ぼす意思が存在しない。純粋無垢なAIはゲームを通じて広い世界を知り、自分だけの物語を紡ぐ為に飛び出していった。自身の本来の役割はあまりにも重い、いつかそれが枷になるかも知れないがアリスならばきっと意志を貫けるはずだ。
「G.bible……私だけでは難しいですね。旅の無事には後押しが必要でしょう」
スマホを取り出したケイはモモトークを起動し、ある人物に電話をかける。知人の中では一番まともかつ語彙力がある頼れる後輩に。ユーモアがあってどこか人を惹きつける魅力がある先輩に。
「アヤネ、ユメ先輩、力を貸してください。……知り合いを喜ばせたいんです」
『永遠に動き続けるシステム』『電力も資源ないのに兵力を生み出し続ける工場』そんな夢でしかなかった噂話。機械を動かすには電気が必要。機械を生み出すには資源が必要。そんな当たり前を覆す事が出来る可能性があればいいなと誰かが溢した噂話。
沢山の廃品が眠ったあの地にはそれを叶える代物が存在するとか、根拠の一つないただの想像の話。
(何じゃこりゃ、お探しの項目?)
あの日、そんな背景を知らず訪れた2人組によってその説は立証された。とあるAIによって電力を節約され、長い事生きながらえていたシステムがあった。そのシステムは2人の願いを叶え、廃墟であったはずの場所で規格外の代物を生み出した。完成途中でとっくに内蔵電力が尽きていたことも気付かずに。
結局その代物は本当の完成に至る前に事故で中断となってしまったが、確かに成果を果たしていた。システムは己の変化に気付くことはなく、新たな命令が来るのをただ待っていた。待ち続けた。
『────』
そのシステムは神と出会った。