ゲマトリアが喋り始めるとIQが著しく下がる一般先生です。ぼくバナナ。
太陽はとっくに沈み、照明の灯りに照らされた道を進む。ミレニアムプライスに出展する作品の最終調整を終わらせて納品を済ませ、安堵から欠伸が漏れる。
私達の作品は……まぁ運が良ければ受賞出来るかな?という出来でそこまで自信はない。エンジニア部の人達や他の優秀な人には決して及ばない、せっかくだからと出してみただけの作品だ。受け入れられるとは思っていない。
「今日は部室で寝泊まり……ん?」
私の部室はミレニアムの中でも辺境に位置している。少し前までは真ん中の方にあったんだけど、爆発騒動を起こしすぎて移動命令をくらっちゃったんだ。
「何あれ?」
少し遠くの方で何かがピカピカと輝いているのが見える。何か気になった私は部屋に置いてあった双眼鏡を手にした。暗い時にも見える優れものだ。
あっちは確か廃墟があった方向だけど……ってまた廃墟か。数日前に起きたゲーム開発部の一件が思い起こされる。
原因はエンジニア部だけど、ゲーム開発部の部員の1人に近代兵器を与えて実行して暴走していたハブを撃墜した。地下深くへ落下したハブは最後に廃墟方面に向かう形で信号がロストしたらしい。
「廃墟ねぇ……まぁ私も完全に無関係ってわけじゃないけど」
部室でスヤスヤと眠る部員達を尻目にそう溢す。実は今回出展に漕ぎ着けた作品は一部の技術をたまたま廃墟から拝借したものを使っている。
「あの時は私ながら切羽詰まってたな……部の存続の為に妥協した技術を出し続けて、本当に作りたいものを作れてなかったし」
みんなは私のことを画期的な技術を作り上げた天才の1人として勘違いしているだろう。技術の根本は他者の流用だからあまり誇れはしないが。
「それにしてもなんだろうあれ……白い…女の子?」
そんなことよりも遠くに見える存在が気になった。廃墟のビル群の一つに誰かがいる。こんな時間に廃墟に赴くなんて馬鹿しかいないが、その存在はミレニアムの街を静かに見つめているようだった。
「──えっ」
思わず窓の下に身を隠した。部室の中はみんなを起こさないように暗くされたままで、他の部屋と比べて特質した点はない。この双眼鏡も光るなんてことはなく、あんな遠い距離からスコープも無しでこちらに気付くわけがなかった。
でも、確かに目が合った。
恐る恐るもう一度窓から外を覗き込むと、そこに居たはずの白い少女は忽然と消えていた。
「……杞憂だと良いんだけどね」
この学園で何かが起きようとしている、それだけは明白だった。
「お姉ちゃん、これでどう?」
「バッチリだよミドリ。私が思い描いたボスキャラに完全一致!これなら良いシナリオが書けそう!」
"……とりあえず話は纏まったし、良かったのかな?"
「先生!アリスは中級ゲーマーなので初心者としての感想を聞かせてください!」
アリスに声をかけられて私も作業を手伝いに行く。ゲーム開発部の部室は賑わっていた、それぞれが作業をこなして一つの目標に向かっていく姿勢は何度見ても心を熱くさせる。
〜
今から数日前、ハブの騒動がひと段落した次の日。今日こそはと廃墟に行こうとしていた私達の前に荷物が一つ届いていた。差出人はアビドスからだった。
すれ違いでアビドスに帰っていったコウからは特に聞いてないが、箱を開けると手紙とUSBメモリが入っていた。
"ケイちゃんからだ!お探しのG.bibleです……え?"
「えぇぇぇぇぇ!!??」
なんと箱の中身は探していたG.bibleだった。USBにデータが保管されているが、同封していた紙によればコウが廃墟から持ち帰った物の中に紛れていたらしい。
善は急げと中身を確認したモモイ達だったが、中身は正直に言うなら期待通りのものではなったと言えるだろう。
開いて記述されていた内容によれば、最高のゲームを作る方法など具体的には存在しない…が結論だった。項垂れるモモイ達を見越してか、G.bibleはアドバイスを投げかけていた。
曰く創作物を提供する側で重視するのはどの層に向けた内容であるかをはっきりさせることだとか、娯楽の最重要要素である楽しいを感じられる内容であるかだとか、いくつかの内容が語られた。
……なんだか途中からマーケティング戦略のアドバイス内容を聞いているようだった。どちらかというとこれ経営者目線の内容じゃないのかこれは?
「みんなを驚かせる作品を作るのも大事だけど、私はみんなにレトロゲーの面白さを知ってほしかったんだ……」
「期待してたのとは違ったけど、これはこれで大切なことを理解出来た気がする……」
「結局こうなっちゃうんですね……よし、やるだけやろう」
「アリス達の冒険は始まったばかりです!先生、サポートはお願いします!」
"任せて。初心者プレイヤーとして頑張ってみるね!"
〜
そんな感じで結局振り出しに戻ってしまったけど、目指すべき道標が見えたからか全員の足取りは比較的軽やかだ。今の進捗ならなんとか期限までにテイルズ・サガ・クロニクル2を完成させることがきっと出来るだろう。
コンッコンッ
「……?お姉ちゃん、誰か来たみたい」
「ごめん、今丁度良いシナリオが閃いちゃった。誰か代わりにお願い!」
「ならアリスにお任せください!」
突然の来客にアリスが対応しにトタトタと向かっていく。ドアを開けると1人の生徒が立っていた。その生徒を見てアリスは顔を青くさせて部室に踵を返した。
「モモイ、大変です!冷酷な算術使いのユウカが攻め込んできました!」
「うわぁぁぁ!?魔王が直接攻め込んで来るなんて反則だぁぁ!!」
「モモイ、またアリスちゃんに変なこと吹き込んだわね……人を化け物扱いしないでくれる?」
あまりの扱いの悪さに少し顔を歪めながら部室に入ってくるユウカ。その左手にはお菓子が入った袋が提げられていた。
"ユウカ!どうしたの?その袋菓子は……買い物帰り?"
「差し入れです。急ピッチで進めれば疲れが出てくると思って、あの子達に買ってきました」
「わぁぁ!ありがとうございます、ユウカ!」
「どういう風の吹き回し?私達を廃部させたかったんじゃ……」
「それは今まで成果を出そうとしなかったから。いくらモモイ達が問題児だからって、頑張っている後輩を蹴落とす真似はしないわ。……やれば出来るじゃない。期待してるわよ」
"ユウカ……なんだかお母さんみたい"
「この年で産んだ覚えはありませんけど?」
喜んでお菓子に飛びつく4人を眺めていると、ふとユウカがアリスを見つめているのに気づいた。何か不思議なものを見るように見つめるその姿に私は疑問を覚えた。
"ユウカ、アリスがどうかしたの?"
「……ミレニアムの色んな人から話を聞いたんです。夜にアリスちゃんが歩き回っているのを見かけたと」
……?ここしばらくはゲーム開発に忙しくて1人になることなんて無かった筈だ。それに色んな子という限り、複数回に渡る証言であることも分かる。
「不思議なのはここからなんです、先生。アリスちゃんを見かけた全員が口を揃えてこう言ったんです。……全身が真っ白だったと」
"真っ白……?"
「はい、体も髪も服装も真っ白。時間帯的にもアリスちゃんが複数人いたとしか思えない状況で……」
目の前でみんなと一緒にお菓子を美味しそうに食べているアリスはいつも通り。とてもそんな風には見えなかった。
……もしかしてアリスにはケイちゃん以外にも姉妹がたくさんいるのだろうか?
「まさかこんな薬が出来るなんて、黒服ってちゃんと成果出す事もあるんだな……」
ポケットサイズ程の入れ物に入ったサプリを揺らしながら登校する。渡したいものがありますと朝早く黒服から連絡があったかと思えば、渡されたのはこのサプリメント。
俺もこの薬の効果は既に体験済みで、実験の結果周辺のビルがいくつか倒壊する事態になっていた。アビドスじゃなければ危なかった。
生徒会室に差し掛かると、部屋の中から顔を出してキョロキョロと辺りを見回しているセリカの姿を発見した。こっちを見つけるとすぐに駆け寄ってくる。
「遅いわよコウ先輩、早く来て!」
「セリカ、どうした?」
「先輩に来客が来てるのよ!ミレニアムの人らしいんだけど……」
困惑して言葉を詰まらせるセリカを尻目に部室内を覗き込む。そこには興味津々に宙に浮く機械を見つめるシロコ達がいた。
「人型ではないロボットのお客様なんて初めてですね〜。おもてなしは出来ませんがどうしましょう…?」
「え、えっと……ずっと浮いていると疲れますよね?クッションを用意したのでよかったら……」
『問題ないわ。このモデルは長期間に渡って稼働できるように調整済み、それに機械に疲れるなんて感覚は存在しないはずよ』
「あ…ははは……ですよね」
「ん……アヤネが緊張しておかしくなってる」
「へぇ〜……ロボットって疲れないんだね。そりゃ便利だなー、羨ましいや」
少し離れた場所から見つめるホシノを除いた面々は突然の機械の来客に緊張を隠せないでいた。入ってきたコウに気づいて機械は振り返る。するとロボットからホログラムが投影され、1人の人物が映し出された。
『石依コウね。私は調月リオ、ミレニアムでセミナーの会長を務めているわ』
「へぇそりゃどうも……会長!?しかもセミナーって……」
「だからみんな緊張してたのよ!!」
ミレニアムにおける代表が、機械を中継にしているとはいえ門を叩いて来ていた。そりゃあこんな状況なら緊張もするものだ。
「……おじさんも生徒会長なんだけど?」
「ホシノ先輩は別だから」
威厳の無さを弄られているホシノは置いて、要件をリオに促す。向こうも長話をする気はないらしく、すぐに話を切り出した。
『アビドス生徒会の部員の1人、石依ケイにミレニアムへの同行を求めるわ』
うすほその供給が多くて良いね……サユリ?好きだよ、うん