別に修正しても消さなくていいんじゃね?ってやっと気づいた。
季節は冬、雪が降るのも珍しくない時期になってきたが、コウには関係ない。年がら年中いつものアビドスの制服を着ている。真夏の時も真冬の時も、体質のおかげか風邪になることもないので、厚着をする必要もない。
……のだが、手袋は持つようにしている。雪遊びする時に、流石に素手で雪を掴むのはキツイ。彼も感覚がないわけではないのだ。
「砕け散れぇぇぇぇぇ!!!」
「ん、全然当たって…ない!!」
「うぇ……反撃出来ないよぉ……」
コウ&ユメと雪合戦をしているのは砂狼シロコ。最近ホシノが拾って来たという、記憶喪失の子だ。
何故アビドスでは行き倒れになっている人が続出しているのか、せっかくだからうちの子にしちゃおう!!とユメが言ったのが決め手らしい。
今回の流れではシロコがいつものように勝負を挑み、戦闘では勝てないコウの切り札としてユメが派遣されに行ったのだが、糠に釘も良いところ。
コウ本人の全力ストレートは見当違いの方向に吹っ飛び、受けるのが癖になっており当たってしまう。ユメは体がデカすぎて遮蔽物に隠れられてないわで酷い有様。結果的に体が小さく、身体能力が高いシロコ相手に2人はボコボコにされるだけであった。
「シロコちゃん……その辺にしておいてあげたら?流石におじさんも可哀想になって来たんだけど……」
「シロコちゃーん、そろそろおやつの時間ですよ〜」
「ん……分かった」
ベージュのロングヘアが目立つ彼女は十六夜ノノミ。かのセイント・ネフティスを実家に持つ令嬢なのだが、ネフティスはアビドスの復興に失敗してむしろダメージを与えていった過去があり、子供ながら責任を感じてこちらに来ている。
「ちくしょ〜……戦いになると絶対に勝てねぇ……」
「元気出してコウくん……私も当てられてばっかりだったから……」
「ん、また勝負する」
「「 勘弁して下さい…… 」」
部屋に戻って行く3人を尻目に、雪の上に2人で倒れていた。
「シロコちゃんって本当に元気だね〜……」
「そっすね……あんな子が後輩になるなら、しばらく安泰じゃないですかね。というかなんでホシノはおじさん呼びしてるんですか、突っ込まなかったけど」
「あれは親しみ易いキャラ作りだよ。2人で一緒に考えたんだ〜……」
するとユメが少し悩んだ顔でコウの方を向いた。
「……ねぇ、コウくん。私ってもうすぐ卒業するでしょ?正直に言うと、ホシノちゃんにも迷惑かけてばかりで、アビドスの為にもう少し何か出来てたらなぁ……て思う時があるんだ」
「……ユメパイセンが居なかったら、そもそもホシノはここに居ないですよ。というか俺の方が何もしてないし……」
「コウくんは良いんだよ、やりたい事があるんだから。私もここを守りたいから生徒会に入ったんだよ?」
「……卒業した後はどうするんですか?」
「どうしようかな……でもアビドスからあまり離れたくないんだよね。みんなの事も気になるし……」
「……起業とかしたらどうですか?アビドス復興会社とか。それなら卒業してからでもみんなの事を見てられるし……」
「……私に出来るかな」
「出来ますよ、パイセン以上にアビドスが好きな人いないし」
「……うん、考えてみる」
そう言うとユメはいつものように笑顔を浮かべた。
「……」
「どうしたの?コウくん」
「いや、ユメパイセンの笑ってる顔、やっぱり好きだなぁって」
「……うぇえ……?」
「ユメパイセンと一緒にいると気持ちが軽くなるというか、フワフワしてきます。パイセンの笑顔を見るの、初めて話しかけてくれた時から好きなんですよ」
「ぁ……ふぇ……ぅぅ……」
ユメの顔がかつてない程に赤く染まっていく。
「何で急に恥ずかしがってるんですか?……ほら、笑って下さいよっと」
ユメの頬に手を添えて、笑顔を作ろうとする。
「ぅあ……あ……えへへ……」
「そうそう、その顔が好きなんです。これからも沢山笑っていて下さいね」
「ユメせんぱ〜い!!コウ〜!!遅いとおじさん達がお菓子全部食べちゃうよ〜!!」
「やっべそりゃまずい、早く戻りますよ、ユメパイセン!」
「あっ……待ってよぉ……コウくん〜……」
「………うぅ…私、おかしくなっちゃったのかなぁ……」
『コウ先輩、シロコちゃんの面倒を見てくれませんか?』
そんな事を電話越しに頼まれてしまった今日この頃、コウはシロコと2人で生徒会室にいた。
雪合戦の次の日、なんとコウとシロコ以外の全員が風邪をひくという、ある意味の奇跡が発生した。その為シロコの面倒を頼まれて着替えも用意されており、夜は俺の家に泊まる予定だ。
何故雪合戦に参加していないホシノとノノミが風邪をひいたのだろうか、これが分からない。
「暇だな〜シロコ。何かしたい事とかあるか?」
「ん、銀行強盗」
「お前そればっかだな」
何故こんな子に育ってしまったのか、実はゲヘナ出身だったりするのだろうか。
「……シロコって俺の部活動の名前覚えてる?」
「ん……確か、守備力挑戦部であってる?」
「そうそう、みんなが風邪ひいてなきゃ今日も何処かいく予定だったんだけど、暇なら一緒に行く?」
「……行きたい」
「じゃあ行きますか。今日は一日お出かけの日って事で、そのまま俺の家に帰るから着替えも持って行くぞ〜」
「分かった」
「着いたぞ」
「ここは?」
「ミレニアムの廃墟ってとこ」
廃墟。ミレニアムの立入禁止区域であり、先人達の失敗作や謎に徘徊してるロボットがいたりする、ミレニアム屈指の激ヤバスポットである。その事について説明していると、段々とシロコの目が輝き始めた。
「入っちゃダメな所に入るのが、ワクワクするんだよな。……ちなみにバレたら本当にまずいから、静かにしてろよ。銀行強盗の予行演習だと思えば良い」
「ん……分かった」
シロコの手を取って廃墟に向かって行く。薄暗い雰囲気が伝わって来たのか、少し不安そうにしていたからだ。
「安心しろよ、シロコ。先輩の名にかけて、絶対にお前を守ってやる。いざという時は俺を盾にでもしとけ」
「……うん、頼りにしてる」
薄暗い廃墟の中は、少し近寄りがたい雰囲気を醸し出している。途中からロボットの数が格段と増えた気がするが、シロコが早めに接近音に気付いたおかげで避けることが出来た。
「いつもならもっと戦闘になってるけど、シロコは頼りになるな〜。こりゃ楽ちんだな」
「ん、コウより私の方が凄い」
「おうすげぇよお前はほんとに」
「ん……」
調子に乗ったクソガキムーブをかまされたが、実際凄いのでコウはシロコの頭を撫でる。シロコのお陰で未だ一度も接敵していないのだ。
その後もシロコに助けられながら奥へ進んでいくと、一台だけ電源が付いているコンピューターが目に入った。
「……わぁお。すっごい何かありそうな雰囲気だな、あれ」
「……気になる」
近づいてみると、唐突に音声が響き出した。
[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]
「何じゃこりゃ、お探しの項目?」
「………」
「あっシロコ、あんまり触っちゃ……」
シロコがキーボードに文字を入力していく。何を打ち込んでいるのか気になって覗いてみると……
『超高性能AI』
「お前それはちょっと、高望みしすぎじゃない?」
「ん……銀行強盗の時のサポートをしてくれるAIが、前から欲しかったから」
「いや流石にこんな廃墟にそんな物は……」
[……確認しました。素体を製作中……しばらくお待ち下さい]
「……マジか」
「ん、これで銀行強盗が出来る」
都合が良すぎると思ったのだが、実際に出来てるたいだから仕方がない。それからというもの、超高性能AIなのも理由なのか、数十分待たされる事になった。
[……素体の製作が完了しました、データの移動を行います。移動の最中、右側のボタンは絶対に押さないで下さい]
(……あぁ〜、めっちゃ押してぇ〜………)
押すなと言われると押したくなってしまうのが当たり前。もはや先程の音声は振りなのかと勘違いしそうになる。溢れ出る押したい欲を必死に抑えつつ、AIの完成を待つ。
「……あれ、シロコ?」
「んっ」
「あっ」
ーブチッ!!ー
コンピューターの画面はそれ以降、光を無くしてしまった。
「……シロコ、あのさ、何で押したの?」
「ん、絶対に押すなは押せって事って、ホシノが言ってた」
「………」
冷や汗がダラダラ流れる中、コンピューターの隣の地面に穴が開き、下から何かが上がって来た。
「「………」」
そこには長い髪の女の子が、椅子に座って眠りについていた。
「……この女の子にしか見えないのが、超高性能AI?」
「……ん、ここに何か書いてる」
「けーいーわい……キー?それともケイ……てかやばっ、全裸じゃん、何か着せてあげれるか?」
咄嗟に視界を逸らし、シロコに何か着せるものはないかの確認をする。確か今は泊まり用の荷物を持って来たままだったはずだった。
「ん、丁度着替えがある。何着か持って来てて良かった」
「ノノミに感謝だな。そんじゃ頼む」
「……ん、出来た」
(ピピッ、ピピピッ)
「ん?」
「何?今の音」
「………」
アビドスの制服を身に纏った少女が、ゆっくりと目を開けた。その顔には、まるであるべき何かをなくしてしまったかのような、困惑した表情を浮かべている。
「………?……わたし……は……?」
「えっと……大丈夫?」
「…わ……たしは……」
「シロコ、お前これ多分やらかしただろ」
「……」
「黙っても状況は悪くなるだけなんだが…」
「……状況……把握……困難」
「わたしは……一体……なぜ……?」
明らかに混乱している様子の少女を見て、コウは色んなゲームであれほどセーブ中に電源ボタンは押すなと言われていた理由を改めて再確認した。
「とりあえず、連れて帰るぞシロコ。埒があかねぇ」
「ん、帰ろう」
今夜は随分と忙しくなりそうだ。そう思いながら少女を背中に背負って、来た道を戻り帰って行った。
ケイ、まさかの記憶消去&お持ち帰り。