よく考えたらこれ書き始めてから1年経ったんだなぁ……
建物の中を移動しながら周囲を観察して歩き回る。目に入る景色はアビドスと比べて整備されてあり、砂一つない場所は清潔感を感じます。
さて、歩き回ると言って出てきたもののアリスと会う可能性を考えるならあまり出歩くべきではないのは事実です。が……せっかくミレニアムに来たんですからこの場所の技術を見ておきたい気持ちもあります。
いくら私のこの力が規格外だからといって、作れるものは私が想像する範囲のみ。他人の意見を聞いてみることもクリエイターとしては大事な事です。
……仕方ありません、これは最後の手段でしたが恥を忍んでいる場合ではないでしょう。
さりげなく持ってきていた着ぐるみを手元に取り出す。サイズはかなり大きめで顔が入っても余裕があり、覗き穴からは完全ではありませんがある程度の視界は確保されています。
「あとはこの何ともいえない見た目さえ無ければ……良かったんですが……」
その名はペロロ。見た目はヒヨコっぽく、目が狂っているようで味のあるキャラクター。キヴォトスで微妙に流行っているらしい……ノノミに軽く教えてもらった時はペロロ以外のキャラクターはまだ可愛いデザインをしていたので、何でこの鳥だけこんな見た目なのかは疑問です。
ユメ先輩の家の玄関に置かれていて元々はコウの私物だったのですが、あんな気味悪い物をずっと置かれても困りますと何色を示すとユメ先輩がちょうどモモフレンズにハマっているらしく、差し上げる形になっていました。
……今回これを持ってきた理由は簡単です、ユメ先輩に向かう場所を秘密にされた辺りから嫌な予感がしていました…それだけです。車に乗る前にリソースとして分解して保存。ゲームに例えるならインベントリに収納したと言えば分かるでしょう。
それなら砂もそうすれば良かったのでは?と思われそうですが、あの量の砂を常に保存するのは難しい話です。私の機能はあくまで分解と再構築、私個人のリソース容量が膨大な訳でもないので手の届く範囲にリソースを存在させる事が条件になっています。
万が一アリスに会ってしまった時にこれを被れば誤魔化す事ぐらいは出来るでしょう。
身内に守備力挑戦部といって馬鹿みたいな事をしでかす存在がいるからか、そういった予感に敏感になってしまいました。今日のような出来事に備えられる分コウには感謝をするべき……いやそんなことありませんね。
さてどの部活から行きましょうか?ゲーム開発部はアリスがいるので論外として、ユウカさんによればエンジニア部が有名だとか。そう思考を巡らせていると近くの部屋の中から声が聞こえてきました。
「うぅ〜!悪いのは私じゃなくてあんな杜撰な管理を続けてるシステムが悪いのに……誰かここから出してくださ〜い!!」
……金庫のような部屋に誰かが閉じ込められている?
「……誰かいるんですか?」
「はっ!?神様はまだ私を見放していなかったんですね!はい、ここに居ます!誰か知りませんが助けて下さい!」
「何があったんですか?」
「私はまったく悪くないんですよ!なのにユウカ先輩達が私を悪いって言ってこんな所にずっと閉じ込めて……酷い話です!」
……ユウカさんの後輩の方のようですが、あのユウカさんが何も悪くない人を閉じ込めるような事をするのか?話している姿を見るに聡明な方と思ったのですが、勘違いでしょうか?
「私だってまだ1年生なのに、ちょっと失敗したからってこの仕打ちは無いと思うんです……久しぶりにここから出たいんです……グスッ」
扉の奥で涙を堪える声が聞こえ、1人で泣いている姿を幻視する。……孤独は辛い物で人にとってそれを解消するには誰かがそばにいてあげる事が大事です。私はそっと扉に手を掛けました。
「……そこまで厳重なセキュリティではないようですね」
ピッと音が鳴って扉がゆっくりと開かれる。そこにいたのはピンク色のツインテールが特徴的な1人の生徒。もう大丈夫です、私が来ましたと慰めてあげようと近づいて──
「にははっ!やっと出られました、あなたみたいな親切な人がいて良かったです!」
──ニカッと笑顔を浮かべた人がいました。……さっきまで泣いていた雰囲気はどこに行ったのでしょうか。
「私は黒崎コユキっていいます!ミレニアムの生徒じゃないみたいですけど……」
「私はアビドス生徒会の2年生、石依ケイです。今日はミレニアムに商品の商談に来ていました……さっきはユウカさんと話してたんですが──」
「ユウカ先輩が!?どこ、どこにいたんですか!?」
豹変して周囲をキョロキョロ警戒するコユキに思わずクスリと笑ってしまう。カマをかけてみたがここまで引っかかるとは思っていませんでした。
「フフ……冗談ですよ。ユウカさんならしばらく私の連れの方と話すそうなので、しばらくここには来ないと思います」
「どこからが本当の情報なんですか……ってそんな事言ってる場合じゃないです。早くここから離れないと!」
それではさようなら!と元気よくパタパタと走り出し、コユキはあっという間に何処かに行ってしまいました。良いことをした後は気分が良いですね、アビドスの人達以外との会話が新鮮だったのも大きいでしょう。
気を取り直して部屋を出る前にユウカさんから貰った学園パンフレットを開いて歩き出す。それからいくつかの部活を見学しましたが、他校の生徒が来ることは聞かされていたようで快く見学させて貰いました。
「アビドスとはかなり違いますが、悪くありませんね」
生徒がそもそも少ないアビドスは多種多様な部活が無く、良くも悪くも全員で一つになって行動をしていました。ミレニアムはマンモス校というだけあってそれぞれが別の目的で行動していて、見ていて飽きません。自爆機能……今度一つ付けてみましょうか。
「あれアリスちゃん?今日はどうしたの、クエストの最中?」
背筋が凍った。首が回転しそうな勢いでギュンッと後ろを振り向く。
「最近アリスと似た見た目の人を見かけませんでしたか?」
「さっき見かけたけど……確かあっちの方に行ったと思うよ」
「ありがとうございます!」
咄嗟に曲がり角を曲がって姿を隠す。慌てて着ぐるみを手元に出して頭に被った。それとほぼ同時にアリスが道に飛び出して来ました。
「……!!アリスはモンスターと接敵しました!」
「……私は悪いモンスターではありません」
「その目にそのクチバシ……間違いありません、クレイジーヘルバードチキンですね!」
「クレイジー……?」
「クレイジーヘルバードチキンです!ドラゴニウムカンパニークエストの中ボスでとても手強い強敵です!アリスは隅々まで探索するプレイヤーだったので、そこまで苦戦しませんでした!」
「そ、そうですか……」
話し方に随分とクセがあります。……どうやらアリスは私と違って赤子同然の状態まで記憶を無くしていたようですね。だとするならこの話し方にした元凶がどこかに居るはずです、ゲーム開発部の誰かでしょうか?それなら一発殴りたいです。
「……随分と大きな物を背負っていますね」
「光の剣スーパーノヴァ、アリスがウタハ先輩達に託された勇者の専用武器です!」
解析を試みると、一個人が持っていい範囲を超えている武装内容を閲覧できました。……これをエンジニア部のあの人達は未だ素性が知れないアリスに渡したんですか?正気ですか?
「あの、アリスとそっくりな人を見かけませんでしたか?こっちの方に来ているはずなんですが……」
「見てませんが……ところでアリスはどうしてその人を探しているんですか?」
「直接会いたいからです!噂で聞きました、アリスの姉がミレニアムの見学に来ていると。……モモイとミドリのような家族がいたなんてアリスは知りませんでした。勇者が生き別れた兄弟に会うのはRPGの醍醐味です、話したい事も沢山あります!」
「その2人が出会う事で災厄が訪れるとしたら、どうしますか?」
「えっ……」
突然の質問に目を丸くしているアリスが映ります。そう、これは例えに過ぎない。欠けてしまった2つが揃う事で世界が滅ぶ条件が整うシナリオだとすれば……2人は巡り合うべきではありません。
「……アリスは勇者になりたいです。先生にモモイ達に、たくさん仲間も出来ました。どんな試練があってもアリスは立ち向かって、必ずハッピーエンドを掴んで見せます!」
「……その言葉、忘れないでくださいね」
アリスの覚悟は聞きました、なら私も立ち向かう覚悟を見せるべきです。頭に被ったペロロぬいを外そうと手を添えました。
「──?……!!見つけました、確かにアリスと似ています!」
……ん?私はまだ着ぐるみを脱いでいないのですが、私を見つけた?
「ありがとうございます!アリスは先程の言葉を絶対に忘れません!」
──遠くにいる全身が真っ白の私そっくりな存在に向かって、アリスが駆け出していた。
全身が警鐘を鳴らし始める。相手は少しだけ振り返り、私と同じ横顔がチラリと映る。その顔は不気味に笑っているように見えた。
「待ってください、アリス!!」
咄嗟に着ぐるみを脱ぎ大声をあげてアリスに伝えるが、突如建物の影から出て来たロボットによって遮られる。その特徴的なフォルムは私が知っているシステムの一つ──
「Divi:Sion……!?」
狼狽えている間にもアリスとの差はどんどん離れていく。背中に背負ったスナイパーライフルを握り締めて、思わず舌打ちをした。
「数が多い……!」
後方支援を得意とする戦術ばかりしてきた私ですが、ここまでの多数戦だとスナイパーでは厳しいものがあります。……仕方ありません、あまり使いたくなかった手でしたが手段は選べないようです。
「ATRAHASIS!!」
『ジジッ……!!』
周囲を囲む軍隊を強制的にリソースへと分解し、今の状況を打破できる物へと再構築していく。今日は連続でプロトコルを実行したからかリソースに出来る残りの気力はあまり無い。だから想像するのは先程アリスが袈裟懸けにしていた巨大なレールガンだ。
少しずつ形が形成されていく。ひと固まりのDivi:Sionが分解されて、やがてレールガンがその手に収まった。勇者の剣の複製……まるでバグ技ですね。
「借りていきますよ、アリス」
私は取り囲む軍勢に銃口を向け、トリガーを押した。