あだ名の下りを無かったことにしました。考え直すと別に要らなかったので。実は黒服を厨二病キャラにしたかったのは内緒。
次の日、学校に向かってケイを紹介した。その辺りで拾った、記憶が無いらしいと、シロコと似たような理由を並べた。
結果として、ケイはすぐに受け入れてもらえた。風邪が治り、記憶喪失が2人目と言うこともあってか完全に慣れ切った対応であり、あれよあれよと言う間にケイ、ついでにシロコがノノミによってショッピングに連れて行かれてしまった。
ユメパイセンとホシノは2人で何処かに出掛け、1人残ったコウは暇になった。
数日後にケイと廃墟に行く約束をしたので、今行っても勿体無い。ビナーは最近あまり姿を見かけない。ヒナはあの日以降忙しい日が続いてると役満状態。
ひとしきり悩んだ後、コウは立ち上がってとある場所に向かっていった。
「よぉ黒服、実験しよーぜ!!」
「私に対してこんなに気軽に話しかけられる方は、貴方以外にいないでしょうね」
「そりゃ無傷でお金くれるからだけど」
「普通は無傷で済まされない実験をしています」
「まぁ俺としては楽で良いけどね」
黒服の拠点に押し入り、粗品として出されたポテチをつまみながらそんな事を話す。ゲマトリアである黒服に対して完全に舐め切った態度だが、この関係にも慣れたものだった。
「貴方のおかげで神秘に関する研究は確実に進んでいます。よろしければ、腕か足の一本でも頂きたかったのですが」
「それはやだなぁ……というか無理でしょ。物理的に」
「えぇ、血液の一つでも採取出来れば、研究はより捗ったと思います」
コウは血液の一つも流した事がなく、なので注射もした事がない。生まれて来て病気になったこともなく、予防接種もこの体のせいで受けれなかった。
「それで、今日は何すんの?」
「同じですよ。神秘に関する実験です」
そう言って黒服が何かをコウに渡す。
「……なにこ」
ドガァァァァン!!!
コウに渡された何かが突如爆発する。ケホッと咳き込むコウを尻目に、黒服が説明しだした。
「私と同じゲマトリア所属の、デカルコマニーという方が作ったヘイロー破壊爆弾です。本来ならヘイローがある者に早々渡す事はないのですが……」
「……少しはどんなものか説明してから渡して欲しかったんだけど?」
「クックックッ……この程度で死ぬ筈はないと思っていたので」
「うわ、俺への信頼が凄い。嬉しくない」
「それはさておき、今回の私が用意したものなのですが……」
「それが本命?」
「ええ、何しろ今回はアプローチ方法を変えてみました。一つ質問しましょう、白夜さんは自分に害する物を悉く無力化していますが、自分に得する物はどうしていますか?例えるなら栄養満点の食物などです」
「普通に食べて栄養にしてるけど……」
「そうです。私は今までの実験で、貴方に害のある物を与えて来ました。ある時は恐怖を投与して神秘と恐怖の共存を図り、ある時は外傷を与えて貴方の限界を探ろうとしました」
「なんにも起きなかったけどね」
本当に何も起きていないが、起きていたら死んでいたとのことなので悪運が強かったと言う奴である。
「そこで今回は白夜さんに利益のある効果がある物に加えて、貴方の力の可能性を広げる事をメインにしました。それ相応のリスクは伴いますがね」
「結局リスクはあるじゃん」
「研究者はリスクを攻めるものです、クックックッ…」
「確かに」
「まずはこちらの液体を飲んでください」
「…ゴクン…で?これは何なの?」
とりあえず飲んでから話を聞く。どうせコウ自身の体に何か起きるわけでもないだろうし、大丈夫だろうというのは本人談だ。
「神秘を活性化させる薬です。本来は暁のホルスさんに飲んでもらいたかったのですが、話を聞いて貰えませんでしたので。神秘の活性化により抑えきれないほどの神秘が溢れ出し、飲んだ方の器が不安定になる恐れがあるのですが…」
「……これで俺の守備力が強化されたとしたも、元々効かないんだから分からなくない?、なんか体がポカポカするけど」
ちょっと気分が良くなった、あとは体温が少し上がった気がする、と言うことを黒服に伝える。やはり今回も特に害はなさそうだ。
「回復というものは、時に凶器となります。過剰回復による体の崩壊も立派な攻撃になるのですが、貴方にはメリットしかないようですね。過剰な分の回復が漏れ出ているので、体温が上がったように感じるのでしょう」
「じゃあ発散した方がいいか?おらおら」
覇気のない打撃音が響く。黒服にはヘイローが無いというのに、まるで効いていない。
「肩叩きにちょうど良いぐらいですね、その調子でお願いします」
「次はこちらの実験です」
「……手錠?」
「貴方の神秘は、守るということに特質しています。ですが、守るということは解釈次第で攻撃にもなり得ます。その手錠を付けた状態からすれば、拘束された状態であると言えるでしょう」
「……つまり何をすれば良いの?」
「簡単です、拘束から解き放たれるには手錠を破壊するしかありません。拘束から身を守る……つまり、脱出して見せて下さい」
「………んなぁ〜〜〜!!!」
引っ張る、引っ張る、引っ張り続ける。すぐに壊れることはなかったが、数十分後に勢いよく手錠は外れた。
「どわっ!?……外れた?」
「……なるほど、手錠の耐久よりも自信の耐久が勝ったようですね。それに手錠を引っ張る動作に関しては、特に弱体化はされてない。素の力が発揮されていますね」
「まぁ、手錠を引っ張るって攻撃してるわけじゃないでしょ。手錠に殴りかかってるわけでもないんだし」
ケイと腕相撲をした事があるが、普通に負けて吹っ飛ばされた。機械相手だから仕方ないとは思うが、屈辱であった。
「なら手錠に殴りかかって見ますか?」
「おっしゃオラー!!」
「結果の分かった実験ほどつまらないものはありませんね……」
「続いてはこちらです」
「……?何もないじゃん」
「えぇ、まだ見せていないので」
カチッ……
黒服が何かのスイッチを押した途端、何処かで物音が響く。ぼーっとしていると、後ろから何か振りかぶるような風切り音がした。
「…ごっ!?どわぁあぁぁ!?」
後ろから何かに追突されたような感覚がして、前方の壁に吹っ飛ばされる。……いやあれ鉄球じゃねーか!!
「…ほう、不意を打たれると衝撃を殺せないようですね。それとも殺せる衝撃量には限界があるのでしょうか」
「びっくりした……まぁ身構えてないとキツイかな、流石に不意に来ると無理だわ。俺硬いだけで反射神経とか、動体視力は並だし」
「そうでしたか、それなら健康診断をしてみましょう。私に医師免許はありませんが」
「その一言ですっごい信用出来なくなったよこんちくしょう」
「……良くも悪くも平均的ですね。特質した点も見当たりません」
「俺的には良かったけど、黒服的にはなんか欲しかったんだろうな……」
「そうですね……では次の実験を始めましょうか」
「わお驚く程に切り替えが早い」
「こちら、今回お呼びした足ツボ治療をされている方です」
「貴方が今回施術する方ですね?早速始めていきましょう」
「足ツボ?何でまた……」
「足ツボ治療は多大な痛みを伴います。ですがそれは体に効果のある痛み……それならば、白夜さんにも効果はあるのではないかと思いまして」
「なんか段々と適当になってない?」
「少しずつ検証していく事が、研究において重要ですよ。貴方も何かを研究してみればわかると思います」
「そうですかい……」
「痛くなかったなぁ、でも足が軽くなった気がする」
「……痛みを抑えつつ、足ツボの効果はある。足ツボ治療を受けるなら最適な体と言えますね、羨ましいです」
「貴方も受けられますか?」
「私は遠慮しておきます」
「……ンフッ」
痛みに悶える黒服を想像してちょっと笑ってしまった、許せ黒服。
「今日はこの辺りにしておきましょう。……あの少女との暮らしはどうですか?良ければ私の元に連れて来て欲しいのですが」
実験が終わって寛いでいると、黒服からそんなことを言われる。というか誰にもアビドスのみんな以外は知るはずはないのだが、どこで知ったのだろうか。
「何でもう知ってんだよ、俺何にも言ってねぇぞ」
「観察していると言いましたから。部屋に背負って運んでいる姿を、隠そうともしていませんでしたし」
「……ケイの事、もしかして色々分かってる?」
「えぇまぁ、ですが私からは特に言及はしませんよ。一つ教えるなら貴方の行動により脅威が遠ざかった、と言っておきましょう」
「やっぱり厄ネタだったかぁ……まぁ拾っちゃったからには面倒見るよ」
「今回の報酬金を渡しておきます。……かなりの額になりましたね」
「いやぁ、溜まったなぁ。もう借金余裕で返せるなこれ」
「アビドスには、まだ秘められたものがあります。たとえ借金を返したとしても、問題は山積みでしょうね」
「……まぁ、頑張っていくよ」
明日一括払いで払っちゃうか。そう思いながら、黒服の元を去っていった。