「来ちゃいましたねー、オーストラリア」
ホテルのバルコニーから異国の街並みを眺めていた初春飾利は、感慨深く呟いた。
ビクトリア州の州都であるここメルボルンは、オセアニア有数の都市として知られており、
旧市街地には超高層ビルが立ち並んでいる。
その一方で、州立図書館や聖パトリック大聖堂のようなイギリス風を思わせる歴史的な建造物も
数多く存在しており、観光に困ることはまずない。
時刻は9時。佐天涙子が出場する全豪オープン1回戦までは、まだ余裕がある。
最も、佐天は出場選手としていろいろ準備があるとのことで既に会場に向かっており、今部屋に
いるのは初春だけだった。
御坂美琴と白井黒子は隣の部屋に泊まっており、もう間もなく、一緒に朝食を取るためにこの部屋に来るはずである。
コンコン―。
「はーい」
――――――――
「そういえば、メルボルンって大学多いのよね」
「はい、メルボルン大学の他にもモナシュ大学やビクトリア大学、ラ・トローブ大学などなど。
学生は世界中から集まっているそうです」
「まるで学園都市みたいですわね」
ホテルのレストランで朝食を終えた3人は、トラム。いわゆる路面電車に乗っていた。
メルボルンは公共交通機関が整備されており、この路面電車やバスを使えば市内の名所巡りは容易に行うことができる。
全豪オープンの会場であるメルボルン・パークは、最寄駅であるフリンダース・ストリート駅から歩いてすぐの所にあるらしい。
ほどなくして、電車が到着。15分ほど歩くと、その会場が見えてきた。
「それにしても、やっぱり暑いわねー」
美琴は、持ってきていたハンドタオルで額の汗を拭った。
来る途中で買ったスポーツドリンクは、既に3分の2ほど失われている。
「メルボルンは比較的過ごしやすいらしいんですけど、今日はここ数日で1番暑いみたいですね」
初春も美琴に習うように、タオルを使う。
彼女の頭には、日本から持ってきた麦わら帽子が、トレードマークである花飾りを隠すように被られていた。同様に美琴はスポーツキャップを、黒子は上品さをここぞとばかりに主張するような
白のレディースハットを着用していた。
「ところでお姉さま、ちゃんと日焼け止めクリームは塗ったんでしょうね?」
「さすがに塗ってるわよ、あんたもしつこく言うし…」
「オーストラリアの紫外線は、日本とは比べ物になりませんからね」
「ん?まだふくらはぎ辺りの塗りが甘いような…」
「えっ、そんなこと…」
御坂美琴は感じた。危機感を。本能と経験則が自分に警報を鳴らしていることを。
だが、その危険対象の行動は想像を遥かに上回る速度を備えていたのである。
「では、この黒子が塗って差し上げますわ!お・ね・え・さ・ま!!」
「は、はぁ!?自分でやるわよ、そんなの!!」
「どうか!遠慮なさらず!!」
「いいって言ってんでしょうが、あんたは!!」
学園都市ではお馴染みの光景が、遠く離れたこのオーストラリアの地でも展開されようとしていた。
「ちょっと二人とも…。あっ、もうすぐ佐天さんの試合始まっちゃいますよ!」
「えっ、もうそんな時間!?」
携帯端末が示していたのは、涙子の試合開始まであと10分というかなり切羽詰った状況だった。
「仕方ありません。二人とも私に掴まってくださいな!」