「えーっ…!?」
美琴達があたふたしていた頃、佐天は試合会場の控え室で学園都市から電話を受けていた。
その衝撃的な内容に、思わず声が出てしまったのである。
「だって、そんなの絶対無理ですよ…!」
「え?もう話は通してあるって…いやちょっとまってくださいよ!あっ…!」
電話は一方的に切られてしまった。愕然とする佐天。
そして…。
「佐天涙子さん、時間になりましたのでこちらへお願いします」
「は、はい…」
――――――――
一方、美琴たちは試合会場に到着していた。
黒子の能力で若干道中をショートカットしたことは、3人だけの秘密である。
「なんとか間に合いましたねー」
「はぁ、試合見る前からなんか疲れたわ…」
「まったく、お姉さまがもっと素直になってくださればこんなことには!って、なんかザワついてますわね」
辺りを見回すと、観客のほとんどが携帯やタブレットを取り出して、各々に驚きの表情を浮かべていた。
「ほんとだ、何かあったのかしら?あっ、そういえば佐天さんの対戦相手って誰だっけ?」
「えーっと、今端末にドロー表を…って見てください!!」
初春が端末を2人の前に持っていく。
「どうしたんですの?ってこれ男子のドロー表じゃありませんの」
「あの…でもここに佐天さんの名前があるんですよ!」
「そ、それって…もしかして…」
「えーっと…つまり…佐天さんが男子のシングルスに出ているということですの…?」
「みたい…ですね。対戦相手は…ルーラット」
「また初戦から厳しい相手ですわね」
「ルーラット…どんな選手だったっけ?」
「ルーラット選手は元世界ランク1位で、グランドスラムで2勝を挙げているベテランプレーヤーです。地元であるこの全豪でも、準優勝の経験がありますね」
「あ、二人が出てきましたわ」
まず出てきたのは、ルーラット。オーストラリア出身の人気プレーヤーの登場に、大きな歓声が沸く。
そして、佐天涙子。歓声というよりはどよめきが会場に響く。
「ビックリだ、ほんとに女の子が出てきたぜ」
「これ何かの演出でしょ?とても信じられないわ」
観客は口々に驚きの声を挙げる。
どう考えても場違いな存在に、会場中の視線が集まっていた。
そして、当の2人はというと。
「…」
「…」
「お互い戸惑ってるわね」
「ええ、どちらかというとルーラットの方が…」
「まさか女子と対戦することになるなんて思ってもみなかったでしょうね」
試合準備も整い、両者がコートに入る。
すると、いきなりルーラットが佐天に向かって叫んだ。
「ヘイ、ジャパニーズガール!」
「は、はいっ…」
「コレがエキシビジョンならユーにハナを持たせてやってもいいが、そうはイカねえ!」
「は、はぁ…」
「センゲンしよう。ユーがコートを去る時、オレは1ゲーム…いや1ポイントたりとも失っていないだろう!」
この時、ルーラットの発言を疑う者はほとんどいなかった。
全盛期を過ぎたとはいえ、元世界ランク1位と女子中学生。
真剣勝負をすれば、どう考えても結果は明らかだったからである。
しかし…。
「エース!」
「決まりました!これでこの試合10本目のサービスエースです」
「佐天、元世界ランク1位のルーラット相手に素晴らしい立ち上がりですね」
…………
「アウト!」
「ル―ラット、またまた彼らしからぬミスです」
「精神的な動揺がダイレクトにプレイに出てしまっていますね…」
「一方の佐天は、初出場とは思えない落ち着き様です」
テレビの実況解説の通り、佐天は男子プロを相手に普通に戦っていた。それも良いプレイをしていた。
もちろん、最初の宣言通りルーラットは全力であるのにも関わらず、である。
その華麗なプレイぶりに、会場の観客は元より、遠く離れた日本でも多くの人々がテレビの前で釘付けになっていた。
「すごい!すごいんだよこの子!もう1セット取っちゃったんだよ!」
「ニャーン!」
その後も試合は佐天が優位に進める。そして…。
佐天のマッチポイント。
ルーラットが、渾身のサービスを放つ。時速は200km。
そのボールに対し、佐天は素早く反応。
そのリターンは、ルーイットの反応できない速度とエグい角度を伴って見事に決まる。
リターンエース。
その瞬間、佐天涙子の全豪オープン1回戦突破が決まったのである。
会場に響き渡る、どよめきと歓声。
地元の人気選手が敗れたのにも関わらず、突如出現したニューヒロインへの賛美はしばらく鳴り止まなかった。