こんにちは。四季映姫です。
さっきまで大量の仕事に四苦八苦していましたが、小町に説得……というよりは半ば無理やり休憩を取らされて現在は昼食を食べようと食堂へと向かっているところです。
結局、私は小町の熱烈な誘いを断ることができなかった。
別に昼食をしに休憩を取るのはいいのだがその後が怖いのだ。この時期は繁忙期であるから今もなお私の机の上の書類は瞬く間に溜まっていくのは目に見えている。
そして、それを処理しなければいけないのは結局私なわけで……主に私のささやかな休日が吹っ飛んでしまう。
まあ、休日なんて残った仕事を終わらせるためにほとんどの時間を費やしているわけだし、いつもよりもその量が何倍かに膨れ上がっているだけだと考えると少しは楽かもしれない。……楽だろうか?
私がこの先のことでくよくよと悩んでいると小町が話してきた。
「仕事のことで悩んでるんだと思いますけど大丈夫ですよ!」
「その自信はいったいどこから……」
私はそこまで言ってふと口を閉じた。
私がこの言い方をしてしまうと小町に仕事のことで悩んでいるのを否定しきれていないじゃないか!
何たる不覚! 急いで訂正しなければ……!
「っ……ちがいますよ。別に仕事のことで悩んでいたわけではないです!」
「えー、じゃあ何のことで悩んでたんですか?」
「……休日に何をするかを考えていただけです」
「へー、いいじゃないですか!……で、何をするんですか?」
「……仕事、ですかね」
「結局、仕事のことじゃないですか!?」
うっ……だめだ。言い逃れができない。
原作の四季映姫は休日に説教をするほど話すのが上手な人だ。対して今現在の私は別に話し上手というわけでもないし、今みたいに会話に墓穴を掘ってしまうことが多々ある。
原作の四季映姫ならこんなことはしないだろう。
だから何とかこの墓穴を掘ってしまう悪癖を直したいと思っているんだけれども、こういう癖を直すのには基本的に時間がいるものだ。
そして時間は今の私に最も不足しているものだ。当分の間はこの悪癖は私に付きまとってくるだろう。もうほとんど諦めている。
「とにかくっ、別に仕事のことを考えていたわけでもないし、悩んでいたわけでもないです!」
「それ本当ですか?」
「本当です!」
私は小町に対して弁明を一生懸命した。
もう一度言うけれど、私が仕事に前向きじゃない……もっと言えば仕事をしたくないと思っていることを知られるわけにはいかないのだ。
理由としてはまず第一に原作の四季映姫に申し訳ないということだ。
仕事に対する熱意と真面目さを兼ねた原作の四季映姫が今の私の姿を見たら説教をするのはほぼ確定だろう。彼女は自分の仕事にしっかりと責務を感じて働いていたのだから。
それに、閻魔として示しがつかないこともやはり理由として大きい。
こんな私の性格がここ是非曲直庁中に広まったりでもしたら、ここで働く者たちにとっても士気に影響を与えるだろうし、私自身の問題としても上に立つものとして情けなく感じてしまう。原作の四季映姫を知っているから余計にだ。
だからこそ、ここにいる者たちに私の性格を明かしたくないのだが……。
私がそんなことを考えている中、小町は呆れたようにこっちを見ていた。
「四季様、ほんと認めないですよねー」
「小町、何か言いました?」
「いえ、何でもないですよ」
そう小町が言うと私の手を引っ張る力が強くなり、彼女の歩幅が大きくなる。
小町はスタイルが良いから追いつくように歩くのはそこそこきつかった。
「ほら、もうそろそろ着きますよー! 四季様は何食べます?」
「……うどんでも食べましょうかね」
消化良いしね。
最近は仕事のやりすぎでストレスがかかっているせいか腹痛がすごい。
よく胃薬を飲むようになってから何年かたっているはずなんだけど……効果が薄れてきているのかもしれない。
だから、最近はできるだけ食事をするときは胃に優しいものを食べている。……我ながら情けない理由だ。
「良いですね、うどん。あたいもうどん食べようかなー」
「よそ見してると危ないですよ」
小町はしゃべりながら何を食べようか考えていてよそ見をしている。
さて、もう食堂間近だ。
そして食堂に近づくにつれて食欲をそそる良い匂いが漂ってきて自然と口の中に唾液が分泌されていくことがわかる。
たまには少し多めに食べるのもありかもしれない。……きつねうどんにしようかな?
そんなことを考えながら私たちは食堂の中に入っていった。
▽
小町たちが食堂に入った後、二人ともうどんを注文して机でそれを食べていたところ、小町はこっちへ向かっている視線について気が付いていた。
確かにいつもなら小町一人だけで来るのだが、それだけが理由ではないことは小町にも分かっていた。
こちらのほうを見られているほとんどの理由は、小町の目の前でうどんを啜っている映姫だ。
そもそも映姫はこの食堂をほとんど利用したことがない。
それは休憩する時間もなかったからという理由もあるが、他にも上司が部下の多くが利用している食堂を利用するのは周りに緊張感を与えてしまうかもしれないという不安からくるものでもあった。
だからこそ、映姫が来るという物珍しさからこの食堂内の視線がこちらに集中しているのだ。
ちなみにこの事実を映姫自身は全くと言っていいほど気が付いていない。
部下が良く使う食堂に上司が行くべきでないと考えていたのに視線を気にも留めていないのは、そもそも視線を気にしないよう心掛けているのか単純に頭が弱いのか、真実は本人しかわからない。
そして、こちらのほうを向いている複数の視線について小町も同様にそこまで気にしてはいなかった。
いきなり上司がいつもは使っていない食堂にいきなり現れたときにどれだけ驚くかが小町には想像できるからだ。
だから小町はこちらを向いている視線に対して悪感情を持つことはなかったが、少しばかりの優越感は感じていた。
尊敬する上司と二人で昼食。今まであまりできなかったということ、そしてみんなに見られているという事実も相まって小町は言葉では言い表しづらい嬉しさで小町は満たされていた。
他にも映姫と二人でいることによるちょっとした独占欲もあるのかもしれない。
「この食堂はほとんど利用していませんでしたが……美味しいですね、これ」
「ですよねー! これを機に四季様もこの食堂を利用しましょうよー」
小町は映姫の言葉にそう返すと映姫は柔らかく微笑んでうどんをじっと見つめていた。
今の映姫の雰囲気だともしかしたらこれからここへ来てくれるかもしれないと小町は思っていた。これはかなり僥倖だ。
現在の映姫は小町から見るとかなりストレスでいっぱいいっぱいになっている。
しかも、今は一年の中でも繁忙期に当たる時期だ。映姫に降りかかる仕事の量を想像するのは難しくない。
だからこそ、小町は映姫に日ごろからストレス発散の意味も込めて食堂に来てくれたら良いなと思っているのだ。
小町は確かに映姫のことを尊敬しているが、最近の働きすぎている映姫のことを心配してもいる。
少しぐらい休憩してほしいし、映姫のためだったらいつものサボり癖を引っ込めて仕事を頑張ることも覚悟しているのだ。
いつもの小町だったら余計な仕事はできるだけしたくないといった気持ちがほとんどを占めるが、最近の映姫を見てみるとそのような気持ちも鳴りを潜めている。
とにかく映姫には休んでもらいたい。
これが小町のちょっとした気持ちだった。
「今は繁忙期です。大量の仕事をこなすためには今日みたいに食堂を利用する時間はほとんどないに等しいでしょう」
小町は映姫から話される内容を理解しつつも残念に思っていた。
心の底から映姫に対して食堂を利用してほしいとは思ってはいたものの、映姫の仕事の時間を削ることはそもそも映姫自身が許してくれないだろう。
今はどこも人手不足で大量の仕事を抱えているのだ。
特に閻魔に課せられている仕事の量は群を抜いて多い。閻魔しかできない仕事も多々ある中、ほんのちょっとの時間でさえもやはり惜しいのだ。
(……予想はしてたけど、やっぱり悲しいね)
仕方のない部分が多いのでこれ以上小町は何も言うことはなかった。
小町が少し残念そうな雰囲気を顔に出したところ、映姫はクスリと笑って再び口を開いた。
「……ですが、この繁忙期が過ぎたらまたここへ来ると約束しましょう。……その時は小町も一緒に来ますか?」
その話を聞いて小町の顔は見る見るうちにさっきまでの悲しげな表情から気色を満ちたものへと変わっていった。
確かに今はだめかもしれない。
でも、これからこの食堂を使ってくれるということは小町にとって大変嬉しいことであった。
小町は最後に放った映姫の言葉の返事をした。
「もちろんです! その時を楽しみにしときます!」
小町はそう言って喜びを露にしながら器に残っている麺を啜った。
読んでくださりありがとうございます。
作者の予想をはるかに超えるほど評価を押してくれる人が多くてめちゃくちゃ嬉しいです!本当にありがとうございます!
これからものんびりと投稿していくんでよろしくお願いします。