四季映姫に成り代わったけど仕事したくない   作:鳩羽しろ

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第四話 四季映姫は家に帰りたい!

 小町は昼食を食べ終わってから仕事場に戻り、映姫のためにも自分に課せられた仕事を何とか終わらそうと躍起になっていた。

 いつものようなサボり癖はその時には完全に息を潜めており、どんな人物が見てもまじめに仕事をこなしていると思われるほどに小町は一生懸命だった。

 そんな小町の態度のこともあって、小町がするはずだった仕事は見る見るうちに減っていき、この繁忙期には考えられないほど早い時間帯でほとんどすべての仕事を終わらせていた。

 

 こうも早く仕事が終わってしまうと小町の同僚や上司からまだたくさんある仕事を押し付けられそうなものだが、小町は自分の仕事が終わった瞬間に上司に報告してその場を去ってしまった。

 そういうわけで、まだまだ仕事が残っている小町の同僚のほとんどは小町に助けを求めることすら叶わず確実に残業を強いられる量の仕事を泣く泣くこなすしかなかった。

 

 そんなことは小町は露知らず、尊敬する上司こと映姫がいる執務室の元へと駆けていく。

 そのときの小町の顔はかなり嬉しそうであり、口角が上がるのを抑えきれていない様子だった。

 

 

 そして小町が映姫の執務室の前にたどり着き、扉を思いきり開けた。

 

「四季様ー! 手伝いに来ましたよー!」

 

 小町は扉を開いた後からノックをしていなかったことに気が付いた。

 

「小町っ!? どうしてあなたがここに……仕事はどうしたんですか?」

 

 小町は映姫に怒られるかな?と思ったが、映姫はびっくりしすぎてそれすら気が付かずに別の方向に疑問を持つ。

 小町は正直助かったと思っていた。

 

「あー……一応、私の仕事は全部終わらせましたよ。だからあたいを頼ってもらって全然オッケーです!」

 

 ここにきて同僚の助けをほとんど無視したことの後ろめたさが小町にわいてきた。

 映姫も言っていたが今の時期はこの是非曲直庁全体がとんでもない労働過多に襲われている。

 今改めて考えてみると、さすがに同僚の仕事を何も手伝わずにすぐに帰ってしまったのは良くなかったと反省する。

 

 そして映姫の様子としては小町がここまで早い時間帯に終わらしたことにまだ疑問を持っているのか、それとも手伝ってもらうかを考えているのかかなり悩んでいた。

 小町としてはここはしっかりと映姫に手伝ってほしいと言われたいのだが、この様子だとなかなか許諾してくれる感じではなさそうである。

 

(……うーん、どうやって認めてもらおうかね?)

 

 そこで小町にある考えが浮かぶ。

 今の映姫の様子だと小町に仕事を手伝ってもらうことを認めるかを考えるのにかなり時間がかかるかもしれなかった。

 そうなると映姫が小町に手伝いを求めない、なんてことも万が一の可能性として小町は予想していた。

 だとしたら、このまま小町が手伝いをさせてほしいと言い続けてもあまり効果があるとはいえない。

 

(だったら……ここは押してダメなら引いてみろ戦法で行こうか)

 

 小町は映姫に気が付かれないほどほんの少しだけ口角を上げた後、途端にだれがどう見ても悲しげな表情に変えた。

 

「……それとも、あたいがいないほうが仕事しやすいですか?」

「……うっ」

 

 小町が悲しげな表情をしてみると、映姫はかなり苦しげな表情に変わっていった。

 小町にとっては予想通りの展開だった。

 

(よしっ……このまま行けば認めてもらえるかも……!)

 

 小町は心の中ではかなり悪い顔をしながら表の顔ではほんの少し悲しげな表情を張り付けている。

 小町は意外と腹が黒かった。

 このようにして認めてもらうのは小町としては正直申し訳ない気持ちもわいてくるが、さすがに映姫のことを手伝えないとなるのは最悪だった。

 小町は少なからず罪悪感を抱くが、映姫に納得してもらうには仕方ないと割り切る。

 

 そこから映姫は長い間考えていた。

 小町から見ても映姫は眉間にしわを寄せていて書類の山をちらちらと見ているのがよくわかった。

 そして、そこそこの時間がたって小町が本当に不安になってきたときのことだった。

 

「……わかりました。せっかくですし小町に手伝ってもらいましょう。……それで良いですか?」

 

 ようやくひねり出した映姫の言葉は小町にとってかなり都合の良いものとなった。

 その言葉を聞いた瞬間さっきまで張り付けていた悲しげな表情から一変、心の底からの満面の笑みを浮かべて嬉しがり、映姫の机の隣にあった机に座って作業を始めた。

 

(やっぱり四季様はチョロいねー)

 

 小町から蒔いた種だけれども、こうまで上手くいってしまうと騙してしまった罪悪感がまたわいてくる。

 こうまで上手くいってしまうと、小町からの手伝いを了承してくれた感謝と同時に些かチョロすぎるんじゃないかという心配もわいてくる。

 閻魔として仕事をしているのに騙されるとはこれ如何に。

 身内にはとことんポンコツな映姫であった。

 

 

 

 

 

 

 

「……やっと……やっと終わりましたー!」

 

 私の机にもともとあった大量の書類は今やすべてが完了済みのほうの机に置かれている。

 そう! ようやくすべての書類を終わらすことに成功したのだ!

 

「やりましたね! 四季様!」

 

 私の隣に座っていた小町もすべての仕事が終わった今、両手を上に伸ばしてガッツポーズを掲げている。

 その姿は仕事をやり切った達成感と解放感でいっぱいだった。

 

「本当に……本当にありがとうございます。小町」

 

 正直、小町がここまでしっかりと働いてくれるとは思ってなかった。

 なんだかんだ雑談をしながらのんびりと仕事をするものだと私は最初思っていたのだ。

 だけれども、いざ小町が仕事を始めてみるといつもは見ることのないものすごい集中力を見せて見る見るうちに仕事を終わらしていったのだ。

 隣でそこまでの集中力を発揮されると私も身を引き締めないといけないと思って、今までだらけ気味だった身体を叩き起こして無理やりにでも仕事に集中させたのだ。

 

 そして、その効果はてきめんで小町の集中力のおかげで私もだらけることなくしっかりと目の前の仕事に向き合うことができた。

 その結果が今なのだ。

 本当に喜ばしいことである。

 

「今回のお礼はいつか必ずさせてもらいますね。……今日はもう遅いですし帰りましょう」

「お礼ですか!? やったー! 楽しみにしてますね!」

 

 小町はそう言って上機嫌に椅子から立ち上がって執務室の扉のほうへとスキップしていった。

 喜んでくれたようで何よりだ。

 サボり癖のある小町にここまでしてもらったのだからそれ相応のご褒美を与えないといけないね。お礼をどうしようかとまたいろいろと考えないと。

 

 今の時刻としては日を跨ぐ一歩手前ぐらいだった。

 小町が手伝ってくれる前は絶対に日を跨ぐし、何なら家に持ち帰ることすら視野に入れていたので、この時刻は正直かなり早いほうだった。

 まあ一般的な定時よりもはるかに遅いということには目を瞑ろう。

 今の是非曲直庁には余裕なんてないのだ。

 

 定時よりもかなりすぎてしまっていたことから、途中小町を帰らそうと私が必死になっていた時があったのだが、小町は一向に聞く気配がなかったので渋々帰らせることを諦めた。

 結果だけで言ってしまうと小町を帰らせなかったのは正解だったかもしれない。だが、この時間まで残ってもらってしまったのは上司としてどうなんだろうか?

 ……ご褒美ホントにどうしようかな。

 

「四季様ー、もう帰りますよー」

「……わかりました。今行きます」

 

 遅かったのか小町に急かされてしまった。

 私は執務室の明かりを消して急いで小町のいる方向へと駆けて行く。

 外のほうを見てみるとあまり明かりが付いている部屋は見当たらず、どうやら私たちがほとんど最後に仕事を終えたらしいことがわかる。

 明日の是非曲直庁は休日だ。

 だからここに残って明日の朝まで残業をするという人はいないみたいだ。

 ……まあ、一応休日ってだけで仕事をする人は多そうだけどね。私みたいに。

 

 そしてその後、私たち二人は是非曲直庁から離れ、家へと帰っていった。

 小町とは途中でお別れしてしまったが、それまではずっとおしゃべりを楽しんでいた。

 最近のストレスマッハな環境ではちょっとのおしゃべりでもかなりストレスを軽減してくれる。特に小町が近ごろ食べに行ったと言っていた人里のスイーツ店にはかなり興味がひかれた。

 いつか行ってみてもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、いつの間にか私の家についていた。

 さっさと扉を開けて中に入ってしまう。

 

「あぁ~、つかれた……」

 

 職場の私からしたら信じられないくらい気の抜けた声を出しながら私は布団に倒れこんだ。

 今日は本当に忙しかった。

 お風呂も入りたくない気分だったがさすがにそれはまずいので湯を沸かさないといけない。

 あー、もうめんどくさい。

 

「……それにしても今日は小町にいっぱい助けられちゃったな」

 

 昼食を一緒に取ろうと言ってくれたし、仕事も手伝ってくれた。本当に小町には迷惑をかけてばっかりだ。

 こんな上司でいいのかなー。

 

 私はぼーっと頭をほとんど動かさないまま、お風呂のお湯を沸かす準備を始めた。

 まずいね。お湯が沸く前に寝ちゃいそうだ。

 

「……明日は休日。……でも、何しよっかなー」

 

 正直、予定としては仕事の割合がかなりを占めている。この繁忙期のせいで前から家に持ち帰った仕事がかなりあるのだ。

 しかしながら、さすがにそれで丸ごと一日が消えるということは起こらないはずだ。いくらなんでも。

 

 今まで休日にやることなんて仕事か寝るかの二択なのだったのだから、いつも通りでもいいのかもしれない。

 けれども、小町に休日のことを問われたことを思い出すと、もっとまともな休日を送ってみたいという気持ちもある。

 もっと上司らしく……優雅に……。

 だめだ。前世も含めて優雅な休日を送った記憶が欠片もないから、優雅な過ごし方というものがどんな感じなのか全く分からない。

 

 そんなことを考えているともうお風呂に入れる時間になったようだ。

 とりあえず、湯に浸かってゆっくりしよう。

 

「……お風呂の間、小町へのご褒美を考えようかな?」

 

 それが良い。

 私はほんの少し気持ちの良い思いを抱えながらお湯を身体に掛けた。




ここまで読んでくださりありがとうございます!
前回からそこそこの期間投稿できない日が続いてしまいましたが、これからは多分このくらいのペースで投稿することが多そうです。
ただ、ゴールデンウィーク中にはまた投稿する予定なのでどうぞお楽しみに。
これからもこの小説をよろしくお願いします。
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