レナさんに、せめて戦争が終わるまで家に滞在していけと言われて、なしくずし的にブライト家に泊まらせてもらっている身だが、出来れば早めにこの家からは出て行きたいところだ。
死ぬ気の炎をエステルに見せてしまった手前、そう焦る気持ちが強くなる。
将来、どの道《空》の至宝を巡った争いに巻き込まれるエステルをこう思うのは変と思うかもしれないが、それでも死ぬ気の炎を見せてしまった時点で、何かしらの厄事に巻き込んでしまうかもしれないと思うと、気が気でいられない。……それくらいには、あの子に心を許してしまったという事でもあるのだが。
……それに、既にあの子に襲いかかる第一の悲劇は回避されている。
……自分の、突発的で手前勝手な行動によって。
無論、それでも故郷を他国に襲撃される場に居合わせてしまった事はエステルに深くは無いトラウマを植え付けただろうが、彼女自身に降りかかる悲劇は無事回避できた訳なのだ。
……それを、たかだか私のポカ程度で帳消しにしてしまうのは嫌だった。
救済という事柄には本来、代償などあるべきじゃないのだから。
そして、エステルの母親にして、本来なら既に死んでいたであろう女性、レナ・ブライト。
一週間、間近で過ごしてみて、やはりあのエステルの母親なのだと否が応でも思い知らされる。特に、自分に家に泊まっていきなさいと迫ってきたときの笑顔の圧は……あの剣聖すら尻に敷いてしまうのも納得の圧だった。
それでも、故郷を襲撃されて気が気でない筈なのに、彼女は私にそんな素振りを一切見せず、優しく、暖かく接してくれた。
ああ、正直に言おう。
エステルとレナさん……この2人がいなければ、自分の精神はもっと不安定になっていただろう。
死ぬ気の炎を出してしまったという焦りも、エステルの不思議な包容力のおかげでどうにか落ち着いている。レナさんも同様だ。
だからこそ、私はあの家にいるべきではないのだろう。
レナさんを助けられた事……たったそれだけの介入を行えただけで自分は満足するべきだったのだ。
だからなるべく早くこの家を出たいというのは噓……本当は、時間が許してくれるならばずっとここにいたいのが自分の本心だった。
だから正確には、出たい、のではなく……出るべき、と表現するのが適切だ。
だから私は、レナさんにこう伝えた。
ブライト家に留まるのは戦争終了までではなく、あくまでアナタの主人が帰ってくるまでだと。
あのチート親父さえ帰ってくれば、自分という護衛もいらなくなる
後は3人で幸せに暮らしてくれれば、それでいい。……いいや、いずれ来るであろうあの琥珀色の瞳の少年も含めれば4人、か。
「無事か!? レナ、エステル!!」
バタンと、玄関のドアが思い切り開く音と共に、1人の男が家へと駆け込んでくる。
私服ではなく軍服を着たまま、なのを見るに一報を聞きつけて即座に駆けつけたのだろう。それだけでも、この男の妻と娘への愛情は伝わってくる。
「あぁ……アナタ……!!」
「無事だったかレナ!! エステルは!?」
「えぇ、エステルも無事ですアナタ。 今私達がこうして無事なのは、ここにいるフブキさんのおかげです」
互いに抱きしめ合う男とレナさん。
やがて私の名前を出したレナさんは男、カシウス・ブライトの腕から離れ、私の方へ手を差し出してカシウスに紹介する。
「そうだったのか……」
「危うく時計塔の瓦礫に潰されそうになった所を助けて下さったんですよ。……あの時、せめてエステルだけでもと覚悟を決めていたのだけれど、彼女のおかげで助かりました」
「そうか。……ということはあの瓦礫の切断面は君の業だったのか。君のような少女が……」
おいレナさん、余計な説明はやめてくれ。
おかげでチート親父が此方を興味深そうに凝視してるじゃないか。まさかあんたレグナートに対してもそんな眼をしながら挑んだんじゃあるまいな。
「おっとすまない。知っているかもしれないが……オレの名はカシウス・ブライト。どうやら、君のおかげで妻と娘は命を救われたようだね。
……本当に、ありがとう」
佇まいを正し、カシウス・ブライトは頭を深く下げて私に感謝を述べる。
「……別に、助けられたから助けただけだ。アナタが気にする必要はない」
「……君にとってはそうかもしれない。だが、君がいてくれたお陰でオレはこの世で1番守りたい物を……失わずに済んだんだ。助けに行けなかったオレが言っても、説得力はないのかもしれんが」
頭を下げながら、若干、悔いるように体を震わせるカシウスを見て何も言えなくなる。
原作においては、この百日戦役の戦火から多くのリベール国民を救った英雄であったが、軍属故に身を縛られていた為に1番守りたい物を守ることができなかった男だ。
その結果として、妻であるレナを亡くし、エステルとの父子家庭となってしまったのだから。
……でも、この世界では違う。
レナさんは生き延び、こうして旦那と再会できた。
それだけでもういいじゃないか。
「……頭を上げて下さい。そこまで言うなら、礼は受け取っておきます。〈剣聖〉に頭を下げられるのは、些かむず痒い」
「ハハハ……やはり知っているか。そう言って貰えると助かる。しかし君も相当な強者とお見受けするが、どうかな?」
言って、カシウスの目が再び興味深そうに私を凝視する。
……視線の先は、正確には私が腰に携えている4本の刀だ。いやだから怖いってば。
万が一エステルの身にナニカあればと思い、帯刀して釣りに出かけたのは間違いだったかも知れないと、今更ながら後悔する。いずれバレていただろうとしても。
「買い被りでしょう。……それに、アナタが帰ってきたことで、ようやく私も肩の荷を下ろせる」
肩の力を抜いてそう言うと、ビクリ、とレナさんの肩が震えた。
カシウス・ブライトも訝しげに此方を見ている。
「剣聖が帰ってきたのであれば、もう何も心配はない。明日、ここを
「……そう」
私の言葉に、レナさんが目線を下ろす。
……その様子を見ると、ここを出て行く決心が揺らぎそうになる。だからそんな顔はしないでくれレナさん。
「どういう事だ、レナ?」
「……元々、私が無理を言ってフブキさんを引き留めていたんです。せめて戦争が終わるまでって。……最終的に、フブキさんはアナタが帰ってくるまで留まると言ってくれました」
「……なるほどな」
レナさんの言葉に、カシウス・ブライトは納得したように頷く。
自分が帰ってくるまで、という言葉だけで私の意図を察してくれたのだろう。
だが、レナさんの言葉には語弊がある。
「世話になったのは私の方ですレナさん。だからこそ、これ以上迷惑をかける訳にはいかない」
「迷惑だなんてそんな……!! 私は、わたしは別に、もっとここにいて下さっても一向に……」
……おい、旦那の目の前でそんな思わせぶりな台詞放ってんじゃねえよ。いくら私が女だからって。
目を逸らしながらそう呟くレナさんに思わず内心でそう突っ込む。
チート親父も何やら思案顔で此方を見つめているし、さてどうしたものか。
……そんなことを考えていたら。
「……フブキ姉、行っちゃうの?」
後ろから、幼い声が聞こえてくる。
よりにもよって、1番、このことを聞かれたくない娘の声が聞こえてきたのだ。
……あぁ、死ぬ気の炎の件といい、私はどこまでポカを犯せば気が済むのだろうか。
振り返れば、不安そうに此方を見上げる幼いエステルの姿があった。
いつの間にか目を覚ましたのだろうか、階段から降りてきたエステルは偶然にも今の会話を聞かれてしまったらしい。
「……どうして……?」
握りしめた手で胸を押さえながら、エステルは一歩、私に歩み寄る。
「イヤだ、イヤだよぉ……」
瞳を潤わせ、涙粒をポロポロと床に垂らしながら、エステルは私の黒いスカートの布地を掴んできた。
「エ、エステル……」
戸惑う私は、どう声を掛けて良いのか分からない。
きっとエステルは、未だ怖いのだろう。
私の介入がなければ、きっとレナさんはここにはいなかっただろうという事くらい、エステルも理解している。
そんな母や自分を守ってくれる存在がいなくなってしまう事を、エステルは何処かで恐怖しているのではないか。
だが、もうそんな必要はない。
この通りレナさんは生きているし。本来その役目となるべき父親、カシウスは帰ってきたのだ。
私がここにいる意味なんて────
……バカか、私は。
誤魔化すのもいい加減にしろよ。
そんな理由でエステルが私を引き留めている訳ではないことくらい、分かるだろう。
エステルが私との別れを心の底から惜しんでくれている……そんな気持ちすら素直に受け取る事ができないのか私は。
「イヤだ、イヤだ……うわああああんッ!!」
やめろ、やめてくれ、泣かないでくれよ頼むから。
決心が鈍るんだよチクショウ。
「エステルッ……」
私は何も言うことができず、しゃがみ込んで幼いエステルの小さい背中をそっと撫でることしかできなかった。
……どう言葉を掛ければよいか、途方に暮れた私は、助けを求めるようにブライト夫婦に目線を向ける。
レナさんは、涙こそ流さないが、その表情はエステルと同じモノだ。私を無理矢理引き留めようとはしないようだが、今のエステルの私とのやりとりを見てその気持ちを一層強くしている様子だった。
……カシウス・ブライトの方は、未だに私とエステルを見つめて思案に耽っている様子だった
彼らの助けを期待できないと見た私は、もう一度エステルの方を見ようとして。
「ウォッホン!!」
カシウス・ブライトの、態と咳き込むような声が部屋中に木霊する。
それを切っ掛けにエステルは泣き止み、私とレナさんの意識もまたカシウス・ブライトに集中するようになった。
「あー、積もる話もあるようだが、まずは食事と行こうか。オレの分は……用意されていないだろうからいい。
……フブキ君」
「ッ!」
声を掛けられ、思わず身構える。
さすがは剣聖と呼ぶべきか、声を掛けられただけであるにも関わらず、何処とない凄みを感じさせる。
……いやそれとも、私が必要以上に怯えているだけなのか。
「オレとしても、君への感謝も含めて、今日一日くらいでは話し足りないと思っている位だ。明日まで時間があるのだろう? ならばせめて……それまでどうするかゆっくり考えてみても遅くはないだろう」
そう言ってカシウス・ブライトは気のいい笑みを私に向けてくる。
その暖かい目はやっぱり……エステルやレナさんの目とそっくりだった。
「……分かり……ました」
その目を向けられては、少なくともノーとは、言えない私だった。
その後、レナさんはちゃんともしものために夫の分の昼食も用意していたようで、昼食は4人で卓を囲むこととなった。
その間、特に話が弾むこともなく、先の静まった空気が黙々と続いた。
私も、エステルも、レナさんも、そしてカシウスさんも。
だが、食事している最中に時々、3人からそれぞれ此方を伺うような視線を感じることがあった。
きっと、3人とも色々私に言いたいことは、あるのだと思う。
それでも何も声をかけないのは、きっと私に考える時間をくれているからだったのだろう。
「……ご馳走様です。少し……考えてきます……」
どうするのかの結論は、結局夕飯の時間まで持ち越される事となった。
宛がわれた部屋──原作では後にあの少年が使うことになる部屋──に戻った私はベッドの上に座り込んで考える。
「……ハァ」
ため息が漏れる。
額を手で押さえ、そのまま膝に肘を着いて考え込む。
……正直な所、ブライト一家に留まる選択肢もないわけではないのだ。
この特級呪物なリングや匣意外にも、考えるべきことは山積みだ。
──例えば、どうして自分は江風の容姿でこの世界に来てしまったのか。
──元の世界に帰るためにどうするべきか。
ブライト一家を出て行くべきと考えるその心には、後者のような理由だって存在する。
「この世界からはとっととオサバラしたい。だが……だからと言ってこの世界の人達を蔑ろにしたい訳じゃないんだ……」
自分の欲望と、そしてブライト一家の人間達のこと……どちらを併せて考えても、自分はやはりここにいるべきではないと結論が出る。
己がこの世界の異物であるというのならば尚更。
「やはり1番の理由は……このリングと匣だな」
右手の中指に嵌めた、幻属性の結晶回路をはめ込んだ指輪。
懐から取り出した、白い匣。
それらを交互に見つめながら呟く。
「七耀属性の炎か……どんな厄介事を引き寄せるか堪ったものじゃない。だが確かに……今の私には欠かせないモノかもしれない」
言いながら、白い匣の方を見つめる。
「この匣の中身が私の予想通りならば……使いこなせればこの世界を渡り歩くのも容易になる」
この世界において戸籍もない私は、まず関所を通る段階で網に引っかかってしまうだろう。だが、匣による幻術を使いこなせるようになれば、姿を消すなり、パスポートを偽造するなりでいくらでも渡り歩く手段が増える。
この世界を渡り歩ける手段が増えれば、元の世界へ帰れる手段を探すのも容易になるかもしれない。
……あくまで、匣の中身が予想通りの代物であればの話ではあるが。
「……でも、確信はほぼある」
次に目線を向けたのは、壁際の椅子に立て掛けてある、
……幻属性の波動が流れるこの体。
本来、七耀属性の炎で開匣できる匣兵器など存在しない筈であるが……あの世界には、頭に「幻」と名の付くとある霧属性の匣兵器が存在していること。
ここまで材料が揃っていれば、今の自分の戦闘スタイルは、もう予想が付いてしまう。
……思い浮かべるは、あの霧の幻術使いにして、四刀流の剣士。
あんな曲芸じみた剣術なんてできるか、なんて叫びたくなるが、不思議と“できる”という確信をこの体から感じるのだ。
……ロレントで帝国兵を相手にする時も、本来実戦向きではなく使いづらい筈の二刀流の剣業もこの体は何の違和感もなく使えた。
だったら、その体が所持していた匣兵器もどういう代物か、今更疑うべくもない。
きっと、自分はあの剣士と遜色ない剣技を使える。
あの時代において最強の剣士と謳われた彼の剣技を。
そして、そこに彼の匣兵器を使いこなせるようになれば……きっと私は、1人でもやっていける。
そんな気がするのだ。
そうなれば、自分は頻繁に幻術を使うために、頻繁に死ぬ気の炎を使い続けなければならないだろう。
ならば尚更エステル達の元にはいられまい。
「……考えるまでも、なかったな」
心なしか、声が沈んでいた。
でも、もう決めたことだ。
……明日限りで、私はブライト家を去る。
そう、決めたのだった。
◇
……と、決心を固めたものの。
「フブキ姉、その梅干し取って!」
「……あぁ」
結論を語るべき、夕食の食卓の場で、再び4人で卓を囲む。
私とエステルが釣ってきた魚を、レナさんが腕によりをかけて振る舞ってくれた献立だ。
「この魚はお前が釣ったのか、エステル?」
「うん! 私とフブキ姉でつってきたやつ!」
「ほぉ、フブキ君とな!」
仲よくて何よりだ、と上機嫌で笑うカシウスさん。
「そーいえば、おとーさん帰ってたんだね! おかえりなさい、おとーさん!」
「……エステルよ、今更か。おとーさんは悲しい……」
「まあまあ、貴方ったら。フブキさんも、遠慮なく召し上がって下さいね」
「……はい」
……何なんだろうな、この空気は。
昼食の時の湿ったい空気はどこにいった。
なんで普通に笑談しながら食事をしているんだ。
何しれっと私もそこに加わってるんだ。
このままじゃ切り出しにくいじゃないか!!
「……さて、と」
ひと息ついた所で、カシウスさんが此方に向き直ったことで、場の空気が一変する。
……よかった、なんとか切り出せそうだ。
「改めて礼を言うよ、フブキ君。エステルとレナを助けてくれてありがとう」
深くお辞儀をしながらそう言うカシウスさんに続いて、レナさんもそれに続くように頭を下げる。
「……先も言いましたが、助けたのは偶々です。私の方こそお世話になりましたので、気になさる必要はありません」
「そうか。……君の事はレナから聞いたよ。何でもエステルとは本当の姉妹のように仲良くしてくれたとか」
「……いえ、私自身は他人と馴れ合う質では。そう在れたのは、単にエステル自身の力です。最早、一種の才能だ」
「ハハハ、オレとレナの娘だからな!! ……とはいえ、エステルを惹き付けたのは君自身の魅力だと思うがな」
愉快そうに笑いながらそう言うカシウスさん。
レナさんも自慢の娘を褒められてか、嬉しそうに笑っている。
「君はカルバードから来たそうだな。……昼間に見た刀からして、君も東方の剣術を修めているのか?」
「剣術という程では。ほぼ我流の、
「……やはり、謙虚だな。あの時計塔の瓦礫の切断面、雑念のない、洗練された太刀筋でなければあのようにはならないよ。レナとエステルを助けたその剣筋、機会があれば是非とも見てみたいものだ」
「八葉一刀流の〈剣聖〉にそう仰られても、嫌味にしか聞こえないですが」
「ハハハ。だがその〈剣聖〉の名も、大切な人を守れなくては何の意味もない。……オレがレナとエステルの危機に駆けつけられなかったように」
途端に、カシウスさんの表情に少しだけ影が落ちる。
やはり、此度のロレントの襲撃を受けて心に傷を負い、己の無力を痛感したのはカシウスさんも同様のようだった。
「どのように見事な剣技であっても……そこに伴う結果も含めて評されるべきだろう。
だからこそ、2人を救った君自身の剣技を誇って欲しいものだがな」
「……そこまで言うなら、賛辞は受け取ります」
そんな複雑そうな眼差しでそう言われると、何とも言えなくなってしまう。
……本当は、赤の他人である私ではなく、自分で守りたかったろうに。
そんな彼の気持ちは、想像するまでもなく理解できてしまう。
「そーそー!」
そんなカシウスさんに同意するように、エステルはエヘンと言わんばかりの表情で得意げに笑う。
「フブキ姉ったら、ほんとーにすごかったんだから! あんないっぱいいた人たちを、ほんっとーに、すぐに倒しちゃったんだから!!」
「そうかそうか! やはり、ロレントに現れた“御狐様”は伊達ではないな!」
「はい……はい?」
ナニカ、聞き捨てならないような単語が聞こえたぞ。
ロレントに現れた……何だ?
一体誰がそうだと?
「……ん、知らないのか? 街中で噂になっていたぞ。突如として現れ街を救ってくれた、狐のような髪型をした剣士。まさか家にいてくれたとは思わなかったぞ」
「んー、たしかにフブキ姉の髪、キツネさんみたーい」
椅子の上に立ち上がったエステルが、私のケモミミ部分を撫でながら興味深そうに撫でる。
それよりも……狐様なんて大層な名前にも程がある。
“フブキ”を名乗った由来は確かに某Vtuberからであるが……私は決して「コンコンきーつね」なんて言ったりしない。
恥ずかしがって項垂れる私を面白がったのか、エステルとカシウスさんが更に追い打ちをかけてくる。
「あ、フブキ姉てれてるー。よっ、おきつねさま!」
「おっ、エステルも乗り気だな! 街のみんながかっこよかったと褒めてたぞ、御狐様!!」
やめてくれカカシ。
その呼び名は私に効く。頼むからやめてくれ。
「おきつねさま!」
「御狐様!」
そんな私に容赦なく、2人は追撃をかけてくる。
この体の事を考えればあながち間違いとも言い切れないだけに、どう言い返していいか分からない。
えぇい、せめて私ではなく長門様の方をそう呼ばないか!
「エステル? あ・な・た?」
「「……ごめんなさい」」
そこに、レナさんによる助け船が飛んでくる。
その笑顔の圧に、エステルとカシウスさんは先ほどの調子の良さはどこにいったのか、しょんぼりと項垂れて静かになった。
……その様子が、酷くおかしくて。
笑いがこみ上げてきた。
「ふ、フフフ、ハハハハハッ」
腹を押さえながら、急に笑い出した私に、3人の視線が集まる。
それにも構わず、私は笑い続けた。
……あぁもう、この光景だけで、礼としては十分過ぎた。
もう、未練はない。
「まったく……この家は本当に、愉快な奴ばかりだな」
原作では見ることできなかった、家族3人での幸せな団欒。
ここにあの琥珀色の瞳の少年も加われば、また愉快な家族が完成する事だろう。
それを想像するだけで、こっちも救われたような気分になる。
……だから、やはり、レナさんを助けたことだけは、後悔はない。
「ありがとう」
もうすぐここを去ると決めた身だが、この言葉だけは伝えたい。
「アナタ達を助ける事ができて、本当によかった」
そう思わせてくれる光景を見せてくれる。
それだけで、本当に嬉しかったんだ。
3人とも、本当にありがとう。
この世界に来て以来、初めて浮かべたであろう笑顔を浮かべる。
呆然となる3人に、私の礼の意味は分からないかもしれない。
でも、それでいいんだ。
この光景を見れただけで、私はこれから頑張っていける。……そんな気がしたから。
……そんな私を見定めるように見ていたカシウスさんの目が、やがて何かを決心するような目に変わっていたのを、私は気付かなかった。
……そして、夕食後。
運命を変えたことによる、最初のツケがさっそく、私に襲いかかってきた。
「……フブキ君、折り入って頼みがある」
私の部屋に来たカシウスさんが床に座り込むや否や、そう言ってくる。
「……頼む。どうかオレの剣の、最後の相手となってほしい」
土下座して頼み込んでくるカシウスさんを前に、意味が分からず思わず硬直する。
……一体、何を言っているんだこの人は。
「君しかいないと、そう思った。君にオレの剣を、終わらせて欲しいのだ」
……まだリングの炎も、匣も開匣できていないのに、