Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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男達の第十一話

 ……此処へ辿り着いてから、一体どれだけの時間が流れたのか。

 ふとした時にどこからか呼び声が響き、それに応えて戦場へ赴く

 そして殺す。許されざる者を殺す。

 ただ殺して、殺して、殺して、殺してきた。

 彼は、その日々を後悔したことはない。

 そんな心はあの日、あの夜に置いてきた。

 

 

 

 ――――己はただの銃剣であれ

 

     神罰という名の銃剣であれ

 

     嵐であれ 脅威であれ 炸薬であれ

 

     心無く 涙も無い ただの恐ろしい暴風であれ――――

 

 

 

 ()()を胸に突き刺したその瞬間から、彼は己に『そう在れ』と願った。

 誓いに背くことなく、誓いに悖ることなく、ただ戦う事だけが彼の使命。

 

 

 

 ある時、いつものように己を呼ぶ声があった。

 いつものようでいて、どこか違う呼び声が。

 

 その声は言った。

 その目を混沌に曇らせよ、

 狂乱の鎖に囚われて来たれ、

 我はその鎖を手繰る者である、と。

 

 ――おかしなものだ、と彼は訝った。

 

 己には既に心など無く、意思など無い。狂うも何もあったものではないのに。 

 故に、始めは人違いかと思ったが……よく考えてみれば、別段見当違いの指名でもない。

 生前の己は確かに『狂って』いた。自ら『信仰に狂える者』を名乗っていたのだ。

 自覚と同時に、身体がグイと引き込まれる感覚がした。『応えて』しまったのだろう。

 

 世界の扉が開き、彼の地へと降り立つ。

 そこには確かに、己が呼ばれるだけの理由があった。

 

 許されざる異端の気配。

 秩序なき混沌の横行。

 神の代理人を自称する彼らの教義において、許されざる罪悪の数々。

 それらを認めた時、彼は召喚と契約を了解した。

 

 ――いいだろう。

 

 息を乱す召喚者、呵々と笑う蟲翁、あたりを這いずりまわる異形の魔蟲。

 周囲の全てに構わず、彼はかつての誓いを繰り返す。

 

 

 

 ――――我らは神の代理人

 

     神罰の地上代行者也

 

     我らの使命は 我が神に逆らう愚者を

 

     その肉の最後の一片までも絶滅する事――――

 

 

 

「――――AMEN」

 

 

 

 そして彼は、確かな罪悪に向けて銃剣を振り下ろした。

 

 

* * * * *

 

 

 殺す。――殺される。

 また殺す。――また殺される。

 もう一度殺す。――もう一度殺される。

 

 蒼穹広がる砂漠の戦場で、一体どれだけの死が交錯したのだろう?

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 ――兵士が狂戦士の身体を剣で切り裂く。槍で貫く。槌で挽き潰す。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 ――狂戦士は即座に傷ついた肉体を再生し、とりついた兵士たちを薙ぎ払う。

 固有結界“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”が展開されて五分と少し。

 その間、ライダーとバーサーカーの間で交わされた『戦い』の経過はそれだけだ。

 ライダーは自らの軍勢をバーサーカーに差し向け、一度に四~五名の兵士がバーサーカーへと同時に攻撃を行う。バーサーカーは近づいてくる兵士を一挙動で八人は屠る。死んだ兵士の後を埋めるように、また新たな兵士たちがバーサーカーへと攻撃する。やがて殺し切れなかった兵士の攻撃をバーサーカーが受ける。バーサーカーが傷を再生し、自分を傷つけた兵士たちを殺す。また新たな兵士が――…。

 

 最初こそ、王の軍勢は槍の投擲や弓による遠距離攻撃で戦いを優位に運んでいたが――バーサーカーはいかなる傷を負ってもその足を止める事なく前進し、ついには並列横隊の兵士たちをかき分けながら進むに至った。

 

 バーサーカーの狙いはライダーだけ。

 ライダーは、バーサーカーが本丸にたどり着くまでに物量で殺し切ればいい。

 バーサーカーは、己の魔力が底を尽く前にライダーまでたどり着けばいい。

 つまるところ、この戦いは単純な根比べ――。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 男たちの叫び。

 男たちの剣戟。

 男たちの断末魔――。

 

 それらを感じながら、戦場から一つ離れた場所で、ウェイバー・ベルベットは立ちつくす。

 

 野蛮だ。

 こんな、戦略もなにもない殴り合い、殺し合いはナンセンスだ。

 ウェイバーが辿り着くべきは、魔術の深奥。学問の頂。こんなものは求めていない。

 

 なのに――

 

 

 

「……凄い……」

 

 

 

 口を突いて出たのは、紛れもない感動の声。

 身体が熱い。胸が暴れてる。落ち着いていられない。

 この、腹の底に灯った一つの炎を消す方法が分からない。

 

「ライダー……」

 

 彼方で戦場を駆ける己のサーヴァントを、想う。

 そうだ、彼はいま戦っている。

 命を賭けて、命を賭して、勝利へと疾走しているのだ。

 なのに――自分はいま、何をやっている?

 安全地帯で観客をやっているだけだ。何もしていない。何もできていない。

 やったことは一つ……ライダーに『戦え』と命じた事だけ。

 それを褒められた時、自分はどう思った?

 不満だったんじゃないのか?

 なのに――何故、その不覚を払拭せんと思わなかったのか。

 

「熱い――ライダー、熱い。この砂漠は……熱いんだ」

 

 ジリジリと照り付ける太陽が熱い。

 吹き付けるからっ風が熱い。

 地面の下から火で炙られているかのように、大地が熱い。

 彼方の戦場……大気を伝って届く男たちの声が……熱い。

 

 熱い。熱い。熱い。――熱いんだ! この熱をどうすればいい!?

 

「ライダー……、ライダー……! ライダー……!! ライダー……ッ!!!」

 

 行き場のない感情が叫びとなって響く。

 この気持ちは何だ。

 この感情は、何という名だ?

 神秘を探求する学徒でありながら――ウェイバーは今や、自分のことすら分からない。

 分かることがあるとすれば……それは一つだけ。

 何故、自分はこんな場所で立ち尽くしているのか――という『後悔』の念。

 

『オオオオオオオオオオオ……!!』

「あ、――――」

 

 軍勢の声が、少しだけ小さくなっている――気がする。

 

「圧されてる……のか? 負けるのか? ライダー……!」

 

 何かないのか。

 

「ライダー!……」

 

 今の自分にもできる事が……何か。何か!

 

「ライダー―――――――――――ッッッ!!!」

 

 喉よ張り裂けよとばかりに、ウェイバーは叫んだ。

 ()()こそが、己に出来る唯一の事だと信じて。

 

 

* * * * *

 

 

 ライダーの最終宝具“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”は、圧倒的な物量でもって敵を蹂躙する。

 軍勢の実力は高く、固有結界に召喚されるサーヴァントの中には、召喚者であるイスカンダル本人よりも強い英霊さえ存在する程だ。

 神代から現代まで、絶対的な強さの象徴である『数の優位』もあり――まともな殴り合いで“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”に競り勝てる英霊などいないだろう。

 ライダーはそう――思っていた。今、この瞬間まで。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……!!」

「ぬぅ……!」

 

 バーサーカーは止まらない。

 幾百の敵が立ち塞がっても、幾千の剣林を前にしても、幾万から成る槍衾が襲い掛かっても……彼は一瞬たりとも、その前進を止めようとしない。

 

 前へ。

 前へ。

 もっと、前へ。

 有象無象を蹴散らして、更なる彼方へ。

 戦列を散らせて命を散らせて、その後方へ、その後方へ。

 

 肉体が意思の下に動いているのではなく、意思がそのまま肉体を形作っているような……そんな姿。

 ライダー……イスカンダルとて、その意思は強固だ。この世に再び生を受け、前世で成し得なかった世界征服を果たさんとする強い決意がある。

 だが、目の前の怪物を見ると――まるでその意思が、風のひと撫でで飛んでいってしまいかねない、脆弱この上ないものに感じてしまう。

 

「見事……!!」

 

 イスカンダルは認めた。認めざるを得なかった。――この男(バーサーカー)は己よりも強い、と。

 

「だが、バーサーカーよ! 戦いとは……強い方が勝つとは限らんぞ!!」

 

 己が勝てなくても良い。

 己が劣っていても良い。

 己()の誰かが勝利を掴めば、それで良い。

 絆こそが征服王の王道。志を同じくする仲間の勝利が、我ら全員の勝利となる――!

 

「AAAAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!」

 

 ついにイスカンダルが自ら――愛馬ブケファラスを駆って、バーサーカーの許へと疾走した。

 イスカンダルが死ねば、全ては終わる。それが分かっていても、もはやそれを躊躇える状況ではない。

 魔術師でもないイスカンダルが何故、固有結界などという大魔術を扱えるのか?

 実のところ、発動の合図こそイスカンダルの号令だが――固有結界を支えているのは彼ではない。イスカンダルの号令によって『座』から駆け付けた軍勢たちが、全員で結界の発動を支える形となるのだ。

 つまり、イスカンダルは部下が支える神輿に寄りかかる構図となるわけだが……この一点が“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”の最大の長所であり、短所となる。

 

 固有結界による消費魔力が、規模に比して少ない――これが長所。

 対する短所は――軍勢の数が減じると、結界を保てなくなることだ。

 結界維持の最低人数は、軍勢のちょうど半分ほど。それを下回ると固有結界は強制的に解除されてしまう。

 そして――その瞬間は、着々と近づいてきている……。

 

 なんという怪物。

 バーサーカーは、ただ一人でイスカンダルの軍勢(ヘタイロイ)のおよそ三分の一を虐殺したのだ。

 殺した人数分の回数は、彼自身も殺されているはずなのに……なおもバーサーカーは倒れない。

 殺されたそばから生き返り、傷を負うたびに再生し、倒れず、止まらず、跪かず、同じように向かってくる。

 

 イスカンダルは知らない。

 これぞ、バーサーカー……アレクサンド・アンデルセンが誇るEX宝具――“エレナの聖釘(せいてい)”の能力。

 聖骸布・聖杯・千人長の槍(ロンギヌス)――聖遺物と呼ばれる奇跡の残骸、その最後の一つ。(キリスト)の身体を、かの十字架に打ち付けた釘そのもの。

 そう、第四次聖杯戦争――この戦いに参戦した全ての人間の望みである『聖杯』と同格の存在。いや、冬木の聖杯が実際の聖遺物とは異なる点を考慮すれば、ある意味聖杯をも超える格を誇る代物である。

 

 その効果は――使用者を、自身と同じ『奇跡の残骸』と化すこと。

 神の力の下に、使用者を『神の怪物』へと変える。

 聖釘がある限り、バーサーカーは死なない。

 腕を落とされても、足を千切られても、腹を裂かれても、首を斬られても、脳漿をブチ撒けようと――アンデルセンは死なない。

 アンデルセンを殺す方法はただ一つ。

 奇跡の根源たる聖釘がある部分を。心の臓腑を――抉ることだけだ。

 例え“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”が万ではなく億の軍勢でも、兆の軍勢でも――アンデルセンを殺すことはできない。物量など彼の前には意味を成さないからだ。そも、かつて“死の河”と呼ばれる吸血鬼の軍勢を乗り越えた彼に、人間の軍勢など敵になろうか。

 

 イスカンダルの直感は正しい。

 イスカンダルはアンデルセンに勝てない。

 イスカンダルの軍勢もまた、アンデルセンに勝てない。

 ならば――この戦いは、すでに勝敗が見えている……。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッッ!!!」

 

 無数の囲いを抜けて、ついにアンデルセンはイスカンダルの眼前に立った。

 会敵――それは、イスカンダルの敗北を示す確かな証。

 もはや逃げる事は叶わず、イスカンダルにはアンデルセンの銃剣を捌くだけの技量がない。

 ここに勝敗は決したのだ。

 イスカンダルとて、それが分からぬほど馬鹿ではない。

 それでも――どうしてここで諦められようか。

 散っていった朋友たちの命に賭けて、イスカンダルは刃を振るわなければならない。目の前の男に剣を突き立てねばならない。

 できるか、できないかではない。

 やるしかない。やらねばならない。例え届かぬと分かっている刃でも――振り上げずにはいられないのだ。

 

「AAAAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!」

「――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」

 

 交錯する一太刀。飛び散る火花。

 結果は――やはり、イスカンダルの敗北であった。

 つい先ほどの打ち合いと同じく、アンデルセンの筋力に圧し負け――イスカンダルの身体が大きく揺らぐ。

 ガラ空きになる胸元、晒される首、不安定な体勢。全てが先ほどの焼き直しで……違う事があるとすれば、神牛のいないこの場では、イスカンダルに回避の手段などない事か。

 

「……見事」

 

 もう一度だけ、イスカンダルはアンデルセンを称賛した。

 戦車を真正面から受け止められ、軍勢もまた真正面から突破された。言い訳のしようもない、いっそスッキリするくらいの敗北だ。

 全てを出し尽くしたいま、後悔はない。

 ふと――「いや」と、イスカンダルはかぶりを振った。

 後悔ならある。

 サーヴァントとしての責務を果たす……そう言っておきながら、自分は負けた。これではマスターに申し訳が立たない。

 

「済まぬ、坊主。――及ばんかった」

 

 迫る銃剣。

 崩れていく世界。

 せめて、マスターだけでも安全な場所に吐き出させるよう、軍勢に通達を……

 

 

 

「――『()()()()()()』ッッッ!!!」

 

 

 

 刹那――イスカンダルの身体に、未知の力が流入した。

 本来、何の効果もなく消えるはずの曖昧な命令。しかし……この時に限っては違った。

 

 令呪。

 敗北を受け入れた身体が、心が、絶対の命令に従い――()()()()()()駆動する。

 

 狙うは心臓。脈動する奇跡の根源。

 常識を超えて。限界を超えて。イスカンダルの剣が……アンデルセンへと奔る。

 

 

 

 決まったはずの勝敗。

 ついたはずの決着。

 終わったはずの戦い。

 稀有なる運命は、それらの結論を全て反転させ――新たな結末へと導いた。

 

 

 

 ――ざくん、と。

 両者の戦いは、そんな音で締めくくられた。

 剣が肉を裂く感触も、骨を断つ手応えも……やけにあっさりとしたものだった。

 

「――――――――――――――」

「――――――――――――――」

 

 イスカンダルも、アンデルセンも動かない。

 抱き合うような体勢のまま……微動だにしない。

 

 ――ただ、銃剣はイスカンダルに届かず、キュプリオトの剣はアンデルセンの左胸を確かに貫いていた。

 

 決定したはずの結末を覆したのは……ただ一つの要因。

 マスターの有無。

 イスカンダルは土壇場でマスターの支援を受け、不可能だったはずの攻撃を可能にした。

 アンデルセンは繰り返される攻撃と再生でマスターを吸い潰し、土壇場で魔力(ガソリン)を枯渇させた。

 

 ――ああ。

 

 もしもこの戦いが、聖杯戦争でさえなければ。

 もしも彼らが、魔力なしには現身を保つことすらできぬ、サーヴァントの立場でなければ。

 今日の日の運命が変わることなど、万が一にもなかったろうに――――。

 

 

 

 世界が完全に崩れて落ちる。

 砂漠が消え、家々が現れる。太陽は月に、蒼穹は星空に、熱風は冷風に姿を変えていく。固有結界が展開される前の光景に――立ち戻っていく。

 

 ただ一つの相違点。

 世界が元のカタチを取り戻した時、バーサーカーのサーヴァント、アレクサンド・アンデルセンの姿は……どこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

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