Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

13 / 38
願望の第十三話

 それは、少しだけ未来の出来事である。

 

 とある一人の少女が、聖杯戦争という儀式について興味を持った。

 いかなる願いをも叶える万能の願望器――“聖杯”を巡る、古今東西の英雄たちの殺し合い。

 過去四度、日本の冬木市で行われたという『それ』の足跡を辿りはじめてすぐに……少女は、奇妙な事に気が付いた。

 歴代の聖杯戦争の中でも、最も激しい戦いになったという第四次聖杯戦争のデータが、余りにも少ないのである。

 少なくとも開戦から三日目の途中までは、しっかりとした記録が残っているが……それ以降は唐突に不明瞭となる。

 

 これはおかしい。

 

 まともなルールさえ締結されていなかった第一次、戦時下の開催であった第三次でさえ、それなりの情報が残っていたというのに……終結よりまだ十年も経っていないはずの第四次のデータだけが、何故?

 少女はどうしても当時の事情を知りたくて、あらゆる人物、あらゆる書物、あらゆる機関をあたった。

 が、数年にも及ぶ探求に確たる収穫はなく、せいぜい分かったのは『自分と同じく、真実を知りたがっている人が多い』という事であった。

 志を同じくする多くの同志たちの協力を得て、必死に情報をかき集めて――それでもなお、真実には届かない。

 立ちはだかる深い闇を前に、少女は恐々と呟く。

 

「……一体、三日目の夜に何があったっていうの……?」

 

 

* * * * *

 

 

 冬木教会の礼拝堂で、キャスターと璃正は向かい合う。

 片や英霊、片や人間。

 通常ならば、場を支配する力を持っているのはキャスターの方だ。しかし、この場この時に限っては――璃正がキャスターの上をゆく。

 

 令呪。

 

 サーヴァントを御する絶対的な力。

 本来ならば、キャスターのマスターである雨生龍之介が所有しているはずの刻印が……何故か、言峰璃正の右手に刻まれていた。

 

『主の許へ馳せよ』――と命じられて、キャスターは璃正のいる教会に召喚された。

『動くな』――と璃正に命じられた事で、キャスターは身動きがとれなくなった。

 

 それらが指し示す事実は一つ。

 いま、キャスターのマスター権を握っているのは……目の前の神父(コトミネリセイ)であるという事だ。

 

「そんな、馬鹿なこと……!!」

 

 事態を認識しつつも、キャスターはその過程について理解が及ばない。

 いくら監督役だからといって、名前も居場所も分からないマスターから遠隔で令呪を取り上げる……などという事は出来ない。

 そんなことができるなら、わざわざあんな『警告』をする必要性はない。

 だが、実際に璃正は龍之介の令呪を持っている。……キャスターのマスター権さえ手に入れている。

 

(一体、どうやっ…て……?)

 

 動かない身体。キャスターは全力の抵抗で視線だけを泳がせて……礼拝堂の隅に、見逃せないものが転がっているのを見つけた。

 人間だ。見覚えのある人間が、拘束されて蹲っている……。

 

(雨生……龍之介……!)

 

 それは、彼女のかつてのマスターであった。

 何故、龍之介がここにいるのか――それを考えた時、ほむらは今度こそ、完全に現状を理解した。

 

 監督役は、先日の湾港区画爆破事件をきっかけに、犯人の捜索を始めていた。どういう経緯かは知らないが、龍之介は監督役の追手に捕まってしまったのだろう。

 そして、拷問か、あるいは協会が派遣した魔術師の暗示か――手段はともかく、龍之介は監督役に、自分が知る全ての情報を話してしまった。自分が連続殺人事件の犯人であること、冬木市にて『姉御』という名の女性に協力を受けている事。その手管が人間とは思えない事など。

 ほむらは、龍之介に聖杯戦争に関しての説明をしていなかった。どうせマスターとしての働きは期待していないし、令呪で妙な事を命じられても困るからだ。

 だが、マスターの証たる令呪を宿している時点で、龍之介が聖杯戦争の参加者である事は一目瞭然。そして龍之介はマスターの透視力でもって、尊敬する『姉御』が人間でない事は理解できてしまっている。

 監督役は、あの場にいたセイバー・ランサー・ライダー、そして密かに内通していたアーチャー・アサシン……この五騎を除くサーヴァントが犯人であるとあたりをつけていた。

 今回の聖杯戦争において、セイバー以外に『女性』のサーヴァントは確認されていない。

 これらの情報から、監督役は龍之介のサーヴァントが事件の容疑者であるキャスターかバーサーカーのどちらかだと判断し、龍之介から奪った令呪で、サーヴァントを教会へ呼びつけたというわけだ。

 果たせるかな。この場に現れたサーヴァントはキャスターであり――…。

 

「第三の令呪を以って命じる。キャスターよ――『我が問いに偽りなく答えよ』」

「――――――――ッッ!!」

 

 三度、キャスターを襲う魔力の暴風。

 この状況で()()だと?

 聞かれる内容など決まっている。

 聞かれたらまずい。答えたらまずい。だが抵抗できない!

 まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい――!

 

「昨日の夜、冬木市湾港区画でサーヴァント同士の戦闘が行われたのだが……そこで無数の戦術兵器を使用し、倉庫街を再起不能にした者がいる。その事件の犯人に心当たりはないかね?」

「私…が、やった……」

「……ほう」

 

 璃正の雰囲気が変わった。

 最後の確証を与えてしまった。

 断頭台が見える。絞首台が見える。

 なのに、この口は令呪という支配から逃れられない。

 

「あれは、聖杯戦争という儀式の露呈……ひいては神秘の露見に繋がる可能性が高い、危険な行為だった。それについてどう思うね?」

「どう、でも…いい……」

 

 口が開く。

 言ってはならない事を――本心を隠せない。

 

「……では、これからも機会があれば、あのような行動に出ると?」

「当、然……よ」

 

 だって――『偽りなく答えよ』と命じられたのだから。

 

 

 

「神秘なんか…どうでもいい。ルール違反も…どうでもいい。世界がどうなったって構わない……。この戦いに…勝ちたい。聖杯が、欲しい。奇跡が、欲しい。そのためならなんだってやる。なんだってする……!!」

 

 

 

 これがキャスターの、暁美ほむらの偽りない本心。

 彼女の『願い』は、きっと大多数の人間に共感を得られるだろう。

 言峰璃正とて、ほむらの全てを知れば、同情の一つでもするかもしれない。

 だが、この場で重要視されるのは――情ではなく、理だ。

 いかにほむらが同情に値する事情を抱えていようと、璃正は聖杯戦争の監督役である。その役目は、聖杯戦争を滞りなく進行させる事。

 ほむらが己が願いのために、それを阻むというのなら――。

 

「そうか」

 

 璃正は、その――たった一言で、ほむらに『終わり』を宣告した。

 もはや質問に意味はない。

 キャスターのサーヴァントは、第四次聖杯戦争における害悪でしかない。代替マスターを用意しても、令呪で行動を縛ろうと、性根がこれでは後々の面倒になるだけ。

 

 ならば――――。

 

「第四の令呪を以って、キャスターに命じる」

 

 龍之介から奪った三つの令呪を超え、璃正は監督役として、予備令呪の一画を発動させる。

 命じる内容が何かは――決まっている。決まりきっている。

 ほむらは、一秒後の未来を確信した。

 

 死ぬ。

 

 自分はここで死ぬ。

 何もできないまま。

 何も果たせないまま。

 何も救えないまま……。

 

 

 

 ―――― ほむらちゃん ――――

 

 

 

(そんな、――こと)

 

 そんなことを。

 

(許さない――――――――!!)

 

 暁美ほむらは許さない――!!

 

 

 

 ほむらは失敗した。

 龍之介がこの段階で捕まるはずがないと盲信していた。

 だから、現状のような苦境に立たされた。

 

 だが――同時に、璃正も失敗していた。

 それは、ほむらに『動くな』と命じた事。

 令呪は単一で明確な命令ほど、強い効力を発揮する。『一切の抵抗をするな』では、逃げられる可能性があると思った。だから『動くな』と命じたのだ。

 必要な質問を終え、裏が取れたら早々に自害させるつもりだったから――油断した。

 念には念をと思うなら、令呪を余分に消費してでも『一切の抵抗をするな』・『逃げるな』と命令を重ねるべきだった。

 一秒で殺せるから、と――『一秒を無限に引き延ばす術がある』など予想できなかった。

 璃正は『令呪さえあれば』と、心のどこかで英霊を侮ったのだ。

 

 

 

「『自――――――」

 

 自害せよ、と命じようとした璃正の声が……止まる。

 いや、璃正だけではない。世界全てがその動きを止めていた。

 ほむらの仕業である。

 左手の盾に備え付けられた砂時計。

 サラサラと常に流れ落ちていたはずの砂が、止まっている。

 盾だけでなく、この砂時計もまた宝具。ほむらが魔力を注ぐことで、砂時計は動きを止める。

 そして、この砂の動きは世界の時間と同期しているのだ。

 ()()()()()()()()という事は……つまり。

 

 

 

『自身と、自身に触れているもの以外の全ての時間を停止させる』……それが、暁美ほむらの宝具――“因果を紡ぐ盾(デッド・エンド)”が持つ、第二の能力。

 

 

 

 物質収納と同じく、二日目の襲撃における要となった能力。魔術師殺しの目を盗み、間桐雁夜を誘拐せしめた能力。今日まで監督役に把握されることなく、龍之介のアートの材料である児童を調達していた能力である。

 もちろん、時間を止めたところで令呪の呪縛は解けない。

 ほむらは未だ、微動だにできない。

 だからほむらは“因果を紡ぐ盾(デッド・エンド)”の第一の能力を発動させた。

 盾の内側に収納されていた物質が、一つ、また一つと――ひとりでに盾から零れ落ちて、教会の床をコロコロと転がっていく。

 僅か数瞬の間に、礼拝堂に、まるで果物の配送箱でもひっくり返したような惨状が生まれ……やがてピタリとその光景が静止する。

 物質の群れは『ほむらの身体から離れた』と判断し、その時間を止めたのだ。

 

(……これは、賭け)

 

 璃正の命令が早いか、ほむらが零した()()の爆発が早いか。

 そう。ほむらが床に散乱させたのは、全てが爆発物だ。

 しかも非情に強力な。ただの一つでも爆発すれば、この教会は倒壊するだろう。全てが誘爆すればどうなるかなど、想像もつかない。

 これらの爆発物には全て、ほむらのスキルである『魔力付与』によって、低ランクながら神秘が宿っている。直撃すればほむらとて無事ではいられないだろう。

 つまり、ほむらは令呪で命じられても、その前に爆弾が爆発しても、どの道死ぬ。

 ならばほむらは、一体何に『賭け』ているのだろう――。

 

 宝具“因果を紡ぐ盾(デッド・エンド)”――解除。

 再び、世界が時を刻み始める。

 

「――害せ、」

 

 璃正の最後の一言は、爆炎に呑まれてかき消えた。

 ほむらの爆弾は、璃正の命令に先んじて爆発し、爆発が爆発を呼び――璃正を、ほむらを、龍之介を、そして教会を吹き飛ばしたのだ。

 

 深夜の猟奇的殺人事件、原因不明の児童失踪、湾港区画で起きた謎の爆弾テロ、聖剣の暴発とバーサーカーの暴走による住宅街への壊滅的被害……連日の悲劇に怯えきった冬木市民の脳裏に、また、新たな事件の爪痕が刻まれる――――。

 

 

* * * * *

 

 

 雨生龍之介は、迫り来る絶対的な『死』を目の前にして――相貌を崩した。

 

(ああ、これだ……)

 

 自分が知りたかったもの。

 他人のはらわたを裂いて回って、脳漿をくり抜いて、無数の人生を終わらせてまで追い求めたもの。

 ホラーやスプラッタじゃ満足できなくて、現実でもやはり完全には満たされなかった探求心。

 それがいま、完全に満たされている。

 そうだ……自分は『これ』が知りたかった。『これ』が見たくて、『これ』を確かめたくて、今日まで。

 

(姉御ぉ……アンタ、やっぱスゲーや……)

 

 まるで、自分の好みを()()()()()()いるかの助言ができる少女。

 湯水のように湧き出る彼女のアイデアは素晴らしくて、感動を覚えて――けれど、何故か斬新ではなかった。

 アイデアを聞いた時、作品を作り始めた時は楽しいが、何故かすぐに飽きてしまう。

 まるで、最初からその作品の作り方を知っているかのように手先が動き……あっという間に完成させてしまう。

 たくさんあった材料だって、あっという間に使い果たしてしまう。その材料にも、何故かどれもこれも見覚えがある気がして楽しくない。

 

 正体不明のマンネリズム、理解不能のスランプ。

 

 龍之介はモヤモヤを抑えきれなくなって、新たな材料を求めて街へ出た。

 廃工場(アトリエ)を出るなと姉御にキツく言われていたけど、我慢できなかった。

 街には自分好みの子供たちがいた。女たちがいた。

 それを見たら、スランプなんて無かったかのように創作意欲が湧いてきて……けど、その意欲が満たされる事はなかった。

 拠点の廃工場に戻る前にワケの分からない連中に捕まって、よく分からないうちにベラベラ喋って……最後は縄で縛られた。

 

 私服警官だったのか、と予想する一方――そうじゃない風にも感じて。

 刑務所に入ったら、ツマラナイ日々が始まるんだろうなあ、と予想する一方――そうはならない気もしていて。

 

 龍之介の予感は見事に的中した。

 己の行き先は牢屋ではなく……地獄だった。

 尊敬を抱いた少女の手によって、爆炎に焼かれ、爆風に散らされ、――雨生龍之介は死んでいく。

 スランプを感じ始めたころは『姉御のアイデアが悪いのか?』と疑った事があったが……まったく、とんだ勘違いだ。

 やっぱりあの少女は凄かった。自分を知り尽くしている。

 だって――龍之介が一番知りたかった事を教えてくれた。龍之介が一番欲しかったものをくれたのだ。それに勝る至福があろうか。

 

(ねえ、姉御)

 

 彼女に出会って間もないころ、龍之介は問うた。

 姉御はどうして、見ず知らずの俺によくしてくれるのか、と。

 彼女は言った。叶えたい願いがあるからよ、と。

 ……龍之介の願いは叶った。なら、次は。

 

(叶うといいね。姉御の願い――――)

 

 そんな、素性からは信じられない、純粋な独白を最後に――稀代の連続殺人犯・雨生龍之介は、その生涯に幕を下ろした。

 

 

* * * * *

 

 

 姫君の亡骸を前に、決定的な別離を果たした切嗣とセイバーは、

 一人の男の名誉に苦悩するソラウとランサーは、

 死闘を乗り越え、泥のように眠るウェイバーとライダーは、

 一人の女性を前に、如何なる愉悦を引き出そうかと悩む綺礼とアサシンは、

 夜の街を一人、死へと向かう身体を、意思の力だけで引きずる雁夜は、

 

 その日。暁美ほむらの、信念をかけた意思の炸裂を耳にした。

 

 それは、命の爆ぜる音。

 第四次聖杯戦争三日目の終焉を告げる音だった――――。

 

 

* * * * *

 

 

【聖杯戦争三日目・・・終了】

 

【脱落者】

 ■マスター   雨生龍之介

         間桐雁夜    【残り四人】

 

 ■サーヴァント バーサーカー  【残り五騎】

 

 ■その他    アイリスフィール・フォン・アインツベルン

         言峰璃正

 

 

【備考】

 中立地・冬木教会の爆破により、監督役を始め、報告に集っていた監視役が多数死亡。

 人員の減少により、監督業務に大きな支障が発生。急遽、本部に救援を要請す――。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。