Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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誕生の第十九話

 ―――“賢者の石(Lapis philosophorum)

 

 それは、中世ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬。錬金術という分野における一つの到達点として知られる存在。そして本来、現実には存在しない想像上の代物。

 

 しかし―――()()()()()()()()においては、賢者の石の『試作品』が存在した。

 

 とある組織が長きに渡る研究の末に生み出したそれは、仮名を“黒い核金”という。

 研究者たちは喜んだ。人喰いの怪物(ホムンクルス)を打倒する希望の星……人類にとっての夢を形にしたのだと。

 だが……“黒い核金”の正体は希望の星ではなく、人類に終わりを齎す凶星であった。

 

 ―――第三の生物(ヴィクター)

 

    ただ生きているだけで、周囲の生命を害する者。

 

    呼吸と同じ気安さで、命という命を吸い上げる者。

 

    人間でなく、人喰いの怪物(ホムンクルス)でもない者。

 

    人も植物も動物も怪物もおしなべて平等に喰らう者。

 

    それこそが“黒い核金”によって生まれたモノだった。

 

 何を間違ったのか。

 何が間違っていたのか。

 人類がその答えを知る事はなかった。

 何故なら研究者たちは“黒い核金”の危険性を知るや否や、賢者の石の研究を凍結し―――全ての真実を闇に葬ったからだ。

 

 己が罪を隠すため。

 己が過ちを隠すため。

 全ての責任を放棄し、全ての咎を哀れな戦士と、その家族に押し付けた。

 

 余りにも救いのない仕打ちに戦士は嘆き、怒り……そしていつしか、錬金術の全てを滅ぼすと心に誓った。

 

 悲しい怪物が生まれ、その姿を消してから―――百年後。

 研究者たちが隠蔽した『罪』が、また新たな悲劇を生んだ。

 

 極東の地・日本。

 平和な国の平和な街で暮らしていた一人の少年が……知らず、かつての戦士と同じ地獄へ落とされた。

 

 少年には家族がいた。友人がいた。恩師がいた。心を寄せる人がいた。

 彼はどこにでもいる普通の少年だった。

 

 なのに……気付けば、ただ存在するだけで家族を殺し、友人を殺し、恩師を殺し、心を寄せる人を殺す怪物にさせられていた。

 

 何を間違ったのか。

 何が間違っていたのか。

 彼はどこにでもいる普通の少年だったはずなのに―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 突撃槍とは思えない俊敏さと、突撃槍ならではの重さを兼ね備えた連撃がセイバーに迫る。

 三段突き。それは二日前、あの倉庫街でランサーが見せた攻撃である。が、

 

「うぐ、ぐっゥ――――!」

 

 一撃目で身動きが取れなくなる。

 二撃目で一歩後退する。

 三撃目で、突撃槍はセイバーの首を取りに来る―――!

 

「ああああああアアアアアアアアッッ!!」

 

 腰からねじり打つ、渾身の払い斬り。

 斬るではなく砕くと形容した方が適当に思えるほど力強いそれは……三撃目の矛先を僅かに逸らしただけ。変えきれなかった槍の軌道が、稲妻めいた速度でセイバーの右肩を抉った。

 

「が、――――ァあ!!」

 

 噴出する血。全身を駆け抜ける鋭痛。あの時は軽くいなせたはずの攻撃が、今のセイバーには捌けない。ランサーの攻撃には、二日前とは比べ物にならないほど濃密な魔力が注ぎ込まれている!

 

 さっきまでは令呪によるサポートの賜物に過ぎなかった、それ。

 だが今は―――違う。

 

「アアア■アアァ、―――ア■アア■アアアアアッ!!」

 

「くっ、う!?」

 

 突撃槍が、まるで剣のように逆袈裟で叩きつけられる。

 獣のような咆哮、常識外れの怪力、人のようで人でないその威圧は―――

 

「バーサーカー……!?」

 

 ―――まるで、昨夜戦った巨人を思わせる。

 

「ガァ■アァァアアア! アアアア■アアア■■アアア―――――ッ!!」

「おおお、ぉおおおおおお!!」

 

 セイバーが『魔力放出』のスキルを全開に発動する。

 魔力による推進力。一時は本物のバーサーカーの攻撃さえ凌いでみせた、彼女の『全力』。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 振るわれた渾身の一刀が、周囲の空気ごと突撃槍を弾く。

 

「ォオオオ■オオオッ!?」

 

 最優の全力を前に、さしものランサーも突撃槍ごと一歩後退する。

 

「―――っぐ!」

 

 だが、それはセイバーも同じだった。

 己にできる最高の一撃で、やっと互角。―――それが現状の力関係。

 セイバーは弾き飛ばされたままの勢いで更に五歩、飛ぶように後退した。

 崩壊したホテルを背景に、両者の距離は七歩分。サーヴァントと言えど、一足では詰められぬ距離―――。

 

「…………っ……」

 

 近接武器の使い手として、ひとまずの安全距離を保ったところで―――セイバーがクラリとよろめく。ふらつく足がたたらを踏んだ。

 

「……敵の魔力……いや、生命力を吸い上げる宝具……!」

 

 戦慄と共に、セイバーがランサーの能力を把握した。

 

 ―――“生命吸収(エナジードレイン)

 

 一定範囲内に存在する生物―――人間はもちろん、犬猫に植物、果てはプランクトンまで―――から、問答無用で生命力を簒奪する能力。

 ランサーのそれは、厳密には能力ではなく『生態』と称するべき力だ。呼吸と同じく、自分の意思で止める事はできない。“黒い核金(人類の罪)”を以って命を繋いだ者に降りかかる、悲劇の宿命。

 

 ただ存在するだけで周囲に死を撒き散らす怪物―――ヴィクターⅢ・武藤カズキ。

 それが、第四次聖杯戦争におけるランサーのサーヴァント……その正体であった。

 

 ランサーは生命力を喰う事で強くなり、セイバーは生命力を喰われる事で弱くなる。この現実が両者の間に横たわる技量差を埋め、代わりに生物としての格差を突きつける。

 

 捕食者と被捕食者。

 弱肉強食の節理こそが、いまこの場でセイバーを追い詰めるものの正体。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 こうしている間にも、セイバーの身体からは命が吸われていく。

 幸い、彼女の高い対魔力が“生命吸収(エナジードレイン)”の効力を軽減しているものの……完全に無効化はできない。じわじわとノミで身体を削り落とされていくような感覚が拭えない。

 短期決戦では出力負けし、長期戦では力の差が広がるばかり。

 切り札の聖剣を使えば倒すことができるかもしれないが……槍兵の敏捷性を考えると、闇雲に放ったところで当たるかどうか分からない。

 

(今は、勝てない……!)

 

 セイバーはこの場での敗北を認めた。

 だがそれは決して、聖杯を諦めるという意味ではない。

 周囲から生命を吸い上げるという特性上、街中での戦いでは勝ち目がない。しかし逆に言えば……人気の無い場所に誘い込むことができれば勝機はある。

 負けはあくまでこの場だけ。勝ちの目が消えたわけじゃない―――!

 

「“風王(ストライク)―――鉄槌(エア)ッッ!!」

 

 剣身にまとわせていた烈風を叩きつける。

 標的はランサーではなく、ランサーの手前。地面に向かって。

 

「グガ、ァァ■アア■アアッ!?」

 

 コンクリートの地面が砕け、暴風がランサーの目を洗う。一瞬の視覚障害。不意を打った目くらましに乗じて、セイバーは即座に身を翻した。

 敵前逃亡。――――戦略的撤退と言い換えても、昨夜までのセイバーなら容易にはとれなかったであろう選択。

 だが今の彼女には『誇り』に拘る権利などない。勝利する事でしか、奪った命に報いる事ができない。己の罪を贖えないと信じている。

 

 走る。

 走る。

 走る。

 

 弾丸のような疾駆が、セイバーを新都から離脱させていく。

 警察の包囲網を飛び越え、徐々に集まり始めていた野次馬たちの隙間を突き抜け、駆ける。

 ランサーの妨害はない。追いかけてもこない。

 ―――いつの間にか、セイバーの全身を苛んでいた重圧が消えていた。

 距離にして半径500メートル。“生命吸収(エナジードレイン)”の効力範囲をその身で見切り、セイバーは確かな勝算を得た。

 

(途方もない力ではあるが、決して完璧ではない)

 

 そも、ランサーが不死の怪物ならば―――死後の魂(英霊)が集う聖杯戦争に参戦しているのは理屈に合わない。

 

(ならば……打倒する術は必ずある)

 

 それを見つければ―――

 

「…………っ!?」

 

 いよいよ繁華街を抜ける、というところでセイバーの足が止まった。――――人影だ。セイバーの行く末に、人影が立ちはだかっている。

 

(……誰だ?)

 

 人影からは魔力を感じる。

 

(この雰囲気……人間ではない。―――サーヴァントか?)

 

 だが、その小柄なシルエットには見覚えがない。

 ランサーではない。アーチャーでもない。ライダーでもない。アサシンでもない。バーサーカーでもない。セイバーが外見を知る五騎のうち、誰でもない。ならば答えは一つ。

 

「……貴女はキャスターのサーヴァントか?」

「――――――――――――――、」

 

 人影は答えない。

 ただ、ゆっくりとした足取りでセイバーへと近づいてくる。

 

「待て。それ以上近づけば敵対行為と見なす」

 

 不可視の剣を構え、人影に向けてプレッシャーを放つ。

 セイバー個人としては、今にもランサーが追ってくるかもしれない状況で戦いたくないというのが本音だ。もしもキャスターに戦闘の意志がないのなら見逃しても良いと思っている。

 そんな事情が分かっているのか、いないのか。

 

「――――――――――――――、」

 

 人影はセイバーの言葉など聞こえないかのように歩を進める。

 ―――交渉決裂。

 

「……そうか。そちらがそのつもりなら、こちらもそうさせてもらう!」

 

 人影に向かって駆け出すセイバー。

 セイバー……アルトリアには、高い対魔力がある。そのランクはAクラス。魔方陣や瞬間契約を用いた大魔法さえ完全に無効化する代物だ。

 今代のキャスターがどれほどの腕前かは分からないが、こと魔術師を相手にする限りセイバーは最強。迎撃の一撃を対魔力で無効化し、その動揺の隙を突いて切り捨てる。―――万が一躱されたなら、追撃は諦めてそのまま離脱する。それがセイバーの戦略であった。

 

「――――――――――――――、」

 

 放たれた矢のように駆けるセイバーに、人影は迎撃どころか何の反応も示さない。

 目が追いついていないのか、それともいきなり斬りかかってくるとは思わなかったのか。

 あと一歩で必殺の間合いに―――というところで、セイバーはおかしなものを見た。

 

「―――――な、」

 

 驚愕と共にセイバーの足が再び止まる。

 接近した事で、シルエットしか見えなかった『キャスター』の姿を正確に認識したためだ。

 

「――――――――――――――、」

 

 ……『キャスター』は先ほどまでと変わらず、何の反応も見せない。

 何らかの魔術を行使したわけではない。それどころか魔力に僅かな揺らぎも見られなかった。あのままセイバーが剣を振り抜いていれば、間違いなく無抵抗で真っ二つになったはずだ。

 なのに何故、セイバーは剣を止めたのか―――。

 

「な、なんだこれは……!?」

 

 動揺するセイバーの前には『キャスター』が立っている。

 一見して14、5歳ほどの少女に見える矮躯。黒い髪で、帽子を被って、眼鏡をかけて、セーラー服のような衣装を身にまとって……けれど、その身体は人間のそれではない。

 まるでブリキ人形のように関節があからさまで、顔色は紫で、その表情はのっぺらぼう。眼鏡のレンズの向こうには、あるべき瞳が存在しない。

 片手に身の丈ほどの槍を携える姿は、まるでおとぎ話の一兵卒。

 

 ―――その『キャスター』の隣にも『キャスター』がいた。

 

 その隣にも『キャスター』がいた。

 その隣にも『キャスター』がいた。

 その後ろにも『キャスター』がいた。

 その後ろにも『キャスター』がいた。

 その周囲に『キャスター』がいて、『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいて『キャスター』がいた。

 

 いつしか同じ姿、同じ格好の『キャスター』が―――百を超える群れを成して繁華街の出口にひしめいていた。

 

「何だ、お前たちは……何なんだ?」

「――――――――――――――、」

 

 セイバーの誰何を合図に、物言わぬ『キャスター』の軍勢が一斉に前進した。

 迫り来るブリキの兵隊たち。

 

「ッ――――――あ!」

 

 津波のような進撃を前に、セイバーは剣を構え直す。

 ―――その内心には恐怖があった。

 数を恐れたのではない。得体の知れない雰囲気を恐れたのでもない。

 ただ、眼前の少女たちから感じられる魔力が―――底なしの『絶望』に染まっていたから。

 

「うぁ………ぁあああああああアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッッ!!」

 

 恐怖を振り払うように叫び、セイバーは『キャスター』の軍勢に立ち向かっていく。

 

 ……未来予知にさえ近づいた彼女の『直感』が告げていた。

 この絶望は己が手で打ち倒さなければならない。

 さもなくば、アレがお前の末路になるぞ―――と。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「チ、―――」

 

 冬木ハイアットホテルからほど近い雑居ビルにて、衛宮切嗣は忌々しげに舌打ちをした。

 作戦は成功。

 ホテルの爆破から狙撃。―――大勢の宿泊客さえ巻き添えにした攻撃で、切嗣は見事にソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの殺害を果たした。

 ホテル脱出の際、ランサーがケイネスを連れていなかった事から、ケイネスは二日目の攻撃で既に死亡、もしくは救出が間に合わずホテル崩落に巻き込まれた事が予想できる。よってケイネスも死亡したと考えていいだろう。

 加えて遠坂凜を追わせた使い魔から、言峰綺礼とアサシンの情報を得る事ができた。特に、アサシンの宝具と思しき『魔眼』の存在を知れたのは僥倖だ。

 ランサー陣営を壊滅させ、アサシン陣営の切り札を垣間見た。―――切嗣の打った一手は、間違いなく切嗣を聖杯戦争における上位者へと昇格させたはずだ。

 

 にも関わらず、何故に切嗣は舌打ちなどしているのか。

 全てはランサーの『奥の手』によるものだ。

 周囲の生物から問答無用で生命力を奪い取る? セイバーの対魔力を以ってしても軽減が限界?

 

(馬鹿げた能力だ。こんなものを使われたら、聖杯戦争というシステムそのものが破綻する―――!)

 

 街中で戦術兵器を使ったり、最優でも太刀打ちできないステータスだったり、今回の件だったりと……どうしてこう、今回の聖杯戦争に限って馬鹿げた奴らが召喚されているのか。

 言峰綺礼が拠点である円蔵山を出た今がチャンスだ。ランサー陣営を倒したように、何とかここで奇襲をかけて仕留めておきたい。

 なのに……アサシンの宝具と、ランサーの宝具が、切嗣の思惑を台無しにした。

 ただでさえマスターの天敵であるアサシンの存在は『奇襲』という行動の危険性を高めているというのに……キャスターにトドメを刺したあの『魔眼』は最悪だ。

 

 あれは恐らく―――『被術対象を自滅させる』魔術だろう。

 あれを前にしては狙撃など論外だ。

 切嗣から綺礼を見る、という事は―――綺礼からも切嗣が見えるということ。いざ引き金を引く段になって『銃口が自分に向いていました』では話にならない。

 切嗣の手で綺礼を倒そうと思うなら、目を合わせずに倒す……毒殺や爆殺でないと無理だろう。事前の準備がない現状では不可能だ。

 ランサーの宝具によって綺礼を監視していた使い魔が吸い潰されたいまでは―――なおのこと。

 

「仕方がない。ランサーの宝具に巻き込まれないうちに撤退を……」

 

 ―――と。

 気を取り直して新たな作戦を考えようとした切嗣は―――己が窮地にいる事に気付いた。

 

「何だ、こいつらは……!?」

 

 人気のない雑居ビルの一室。切嗣の他にはコンクリートと埃しか存在しないはずのフロアに、ブリキの兵隊たちが立ち入っていた。

 底なしの絶望に染まった魔力を垂れ流すその姿は、紛れもなくセイバーの前に立ちはだかった『キャスター』と同一である。

 

「――――――――――――――、」

 

 フロアに立ち入っているのは八人。廊下にひしめいているのが二十数名。ゆっくりとした足取りで、ブリキの少女たちは切嗣へと忍び寄る。

 切嗣の胸ほどしかないサイズの人形。しかし、そのうち一人の手でも切嗣を殺すには十分―――。

 

「“固有時制御(タイムアルター)二倍速(ダブルアクセル)ッッ!!”」

 

 脊髄反射で紡がれる呪言。

 人間の速度を超越した動きで、切嗣は雑居ビルの窓から飛び降りた。地上五階の高さから見事に着地した切嗣は、痛みに構わず、ランサーのいる方角から真反対に向かって真っ直ぐに撤退していく。

 

(何だあれは、何だあれは、何だあれは!?)

 

 セイバーと同じく、切嗣の内心にもまた恐怖があった。

 いや、切嗣の動揺はセイバー以上だっただろう。何故なら切嗣はランサーの余波によって使い魔が殺される直前、アサシンによってキャスターが殺害された瞬間を目撃している。キャスターは抗う事もできず死亡し、消滅したはずなのだ。なのに―――…!

 

「く、―――!?」

 

 二倍速で通り過ぎていく景色の中に、無数の『キャスター』の姿がある。

 ビルの中に、路地裏に、店の中に、道の端に、商店街に……『キャスター』が蠢いている。

 それら全てから、一つの例外もなく『絶望』の黒い魔力が発せられている―――!!

 

「おお、ぉおおおお!」

 

 切嗣は後に襲い来るであろう揺り戻しのダメージにも構わず、固有時制御を保持したまま夜の新都を駆け抜ける。

 一分一秒でも早くこの場を離れなければ取り返しのつかない事になる―――そんな予感があった。

 

 判断が早かったからだろう。

 切嗣は『キャスター』に行く手を遮られることなく、繁華街の脱出に成功した。

 その僅か十数秒後。

 

「――――――――――――――、」

 

 物言わぬブリキの兵隊が、切嗣の駆け抜けた出口に密集していく。

 人海戦術。

 群れなす『キャスター』たちが肉壁となって、冬木ハイアットを中心に―――繁華街を取り囲んでいく。

 その姿はさながら、獲物に群がる蟻の大群のようだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 冬木ハイアット跡地。

 ランサーは己の鏡像と対峙していた。

 

「――――――――――――――、」

 

 ぞろぞろと姿を現すブリキの兵隊たち。

 

「――――――――――――――、」

 

 ランサーはセイバーを追わなかったのではない。追えなかったのだ。

 

「――――――――――――――、」

 

 この無数の軍勢と……

 高層ビルもかくやという巨躯の『魔女』に阻まれて。

 

「……キャス、ター……」

 

 ランサーが呟く。

 まるでレコードのような黒い三角帽子、全身を覆う黒いマント、背中から生えた一対の黒い翼。―――大きく印象が違っているが……目の前にいる『魔女』は間違いなくキャスターだ。

 二日目にてケイネスを襲撃した少女。

 

 ランサーは思考する。

 ……そうだ、確かあの女は兵器を使ってケイネスを攻撃した。

 ホテルが倒壊する際に魔力は感じなかった。なら、あれも兵器で行われた事ではないか?

 冬木ハイアットを爆破したのは―――お前か?

 ホテルの宿泊客を道連れにケイネスを害し、あまつさえソラウを撃ち殺した犯人は―――オマエじゃないのか?

 

「キャスター……!」

 

 ランサーの目に殺意の火が燃える。

 もはやランサーの心にセイバーのことなど残っていない。そんな事はどうでもいい。

 

「キャスター!!」

 

 殺す。

 この女こそ害悪。

 決して許してはならない存在―――!

 

「キャスターァァ―――――――ァァァアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 漆黒の魔力を漲らせて、ランサーがキャスターの許へ走る。

 キャスターもまたランサーの姿を認めると、人には理解できない叫び声を上げた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 ―――とある一人の少女がいた。

 その少女は、たった一人の親友を助けようとあがいてもがいて……気付いたら人間ではなくなっていた。

 

 何を間違ったのか。

 何が間違っていたのか。

 

 何も分からないままに、少女は迷路をさまよい続ける。

 

 ―――ともだちを助けたい。

 

 ほんのささやかな願いを叶える事ができないまま、少女は迷路をさまよい続ける。

 

 大それた願いではないはずなのに。

 許されない願いではないはずなのに。

 どうしてもその願いは叶わなくて……そのために、少女は多くを犠牲にしていく。

 友人を見捨てて、先輩を見捨てて、知り合いを利用して、救うべき親友とさえすれ違う。

 

 ともだちを助けたい。

 

 その願いを除く全てを切り捨てて、己の持つ尊厳も人生も投げ出して―――それでも願いは叶わない。

 まるで運命に定められているように、世界は少女から親友を奪い去っていく。

 

 どうしてこうなったのだろう。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 

 何を間違ったのか。

 何が間違っていたのか。

 何も分からないままに、少女は迷路をさまよい続ける。

 

 その迷路に『出口がない』と気付いた時―――少女の心は折れた。

 そして少女は、人間どころか……少女ですらなくなったのだ。

 

 それは、人類の敵。

 それは、絶望に堕ちたモノ。

 それは、ヒトでもヒトならざるものでもない、第三の存在。

 

 名を『魔女』と称す―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 怒りに染まった魔力と絶望に染まった魔力が衝突する。

 人類に仇為すモノ同士の戦い。排斥されるモノ同士の戦い。

 それが第四次聖杯戦争四日目における、本当の戦いが始まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・




‐Information‐

■ステータス情報が更新されました!

‐作中捕捉‐

その①
Q.ほむら魔女の見た目はゲーム版? それとも劇場版?
A.ほむら魔女の見た目はゲーム版(彼岸の魔女)です。
 使い魔は劇場版のやつ(ロッテ)がそのまま出てきてると思ってください。

その②
Q.zeroが終わったらstay nightに続くの?
A.続きません。Zeroで終わりです。今のところ、エピローグ含めて全三十二話を予定してます。

その③
Q.十八話の『無関係な人を巻き込むのか』って、少なくともケイネスとソラウは狙われても仕方ないんじゃないの?
A.『(ケイネスとソラウを殺すためだけに)無関係な人間を巻き込むのか』という意味です。描写不足ですいません。
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