Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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多勢の第二十話

 彼岸の魔女―――ホムリリィ。

 かつてはキャスターのサーヴァント、暁美ほむらという少女であった『魔女』は、大勢の使い魔を引きつれてランサーの前に現れた。

 

「■■■■■!」

 

 まるで号令のような声を合図に、使い魔たちが動き出す。

 槍を持った兵隊たちがランサーに飛びかかろうとするが……よりにもよって槍でランサーを打倒しようとは浅はかである。

 

「ォォオ」

 

 ランサーは、まるで野生の獣のような敏捷さで使い魔たちの傍を潜り抜け、大きく跳躍した。振りかぶられる突撃槍が、眩いばかりの陽光の輝きを帯びる。 

 

「ハァアアア■■ァァアアアア■アアアアアアアッッ!!」

 

 ランサーの突撃槍が、魔女―――ホムリリィの胸元に突き刺さる。先ほどセイバーの全力と拮抗したほどの一撃だ。

 

「■■■……」

 

 だが、相手はセイバーではなく……高層ビルと同等の体躯を誇るホムリリィである。ウェイトの差を考えれば、画的には爪楊枝が刺さったようなものだ。それがいかに宝具による攻撃であっても、与えられるダメージは体格差に反比例してしまう。

 

「■■■■■■」

 

 黒板を引っかいたような不協和音の叫びと共に、ホムリリィは胸元を払った。

 

「ガ、ァッ!?」

 

 まるで羽虫を追い払うような所作一つで、ランサーは地上に叩きつけられた。着地と言うより着弾。道路にクレーターを作り出すほどの衝撃が、ランサーの全身を打ちのめす。

 

「ォオオ、……ごっ!」

 

 全身骨折。内臓はぐちゃぐちゃで、肉体は人間とは思えないほど崩壊した。

 

「ぁァア、■■アアアアぁ!」

 

 それでもランサーは即座に元の姿を取り戻した。セイバーから、綺礼から、キャスターから、周囲の人間から、そしてホムリリィから奪い取った膨大な魔力を使って力任せに再生したのだ。

 修復を終えたランサーは再びホムリリィに攻撃を仕掛けようとする。が―――それを悟ったのだろう。ホムリリィが先手を取った。

 

「■■■■■■■■!」

 

 ハンマーのように振るわれる握り拳。大上段から打ち下ろされた右手が、攻撃態勢に入っていたランサーを狙う。

 

「アア■アア■アアアアアァ……」

 

 ランサーもまた、その握り拳を迎え撃たんと槍を空に構えた。

 穂先に充溢する極大魔力―――。

 

「ウァアアア■アアア■■アアアアアアアッッ!!」

 

 槌と槍。

 共に冗談のような魔力を湛えた一撃が衝突する。

 

「■■■■■■■■■ッッ……!」

 

「ガァ、ア…■■ァああ」

 

 とてつもない衝撃を前に、突撃槍が軋みを上げる。

 この槍は武藤カズキの心臓の代替でもある。即ち宝具であり霊核。武器であり弱点なのだ。破壊されれば、いくら魔力があろうと死ぬしかない。

 衝撃に耐えかね――――突撃槍に一筋のヒビが入る。

 

「が、……!!」

 

 心臓に走る衝撃。霊核という急所そのものへのダメージ。

 それでも―――ランサーは魔力を緩めなかった。

 

「ァァアアア■■アアア■■ァアアアアアッッ!!」

「■■■■■■■■■―――――――……ッッ!!」

 

 街中に響き渡る魔女の悲鳴。

 競り勝ったのはランサーであった。ホムリリィの右手が裂け、柘榴のような断面を晒している。

 

「ァア……!」

 

 だが、悲鳴を上げたのはランサーも同じであった。

 それは霊核のダメージに根ざすものではない。

 ホムリリィが倒れ込んだ先……十三階建てのマンションがガラガラと倒壊していく。その余波を受けて、近くにあった雑貨屋と総菜屋とトレーニングジムとガレージが潰れた。

 

 ―――いま、何人死んだ?

 

「アア! ァァア■アああ■■アアア!!」

 

 ランサーでもなく、ヴィクターでもなく、武藤カズキが悲鳴を上げた。

 

「■■■■■■■……」

 

 マンションの残骸を押し分け、のっそりと起き上がるホムリリィ。

 まだ戦う気らしい。

 

(―――何で)

 

 ランサーが歯を食いしばる。血が出るほどに拳を握る。

 

「クソ、クソッ、クソッ、クソッ! クソッ! クソぉッ!!」

 

 唾棄と共に全身から魔力が溢れ出す。―――他人から奪った魔力が。

 自分に出せる全力を漲らせて、ランサーはホムリリィに突撃した。

 

「もう立ち上がるなァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!」

 

 ―――そうしてまた、誰かの命が消えてゆく。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 ところ変わって、繁華街入口。

 ランサーとホムリリィの戦場から一キロほど離れた場所で、セイバーは無数のブリキ人形と戦っていた。

 

「ク、ッ―――ハァ!!」

 

 一振りで千切れ飛んでいく人形たち。

 だが、その後ろからまた人形が現れ―――セイバーに槍を突き出してくる。

 躱す、斬る、また現れる。躱す、斬る、また現れる。躱す、斬る、また現れる。

 この連鎖を一体、何度繰り返したのか。

 百を超え、千にも届くのではないかというブリキの軍勢が―――常に360度あらゆる角度から攻撃を仕掛けてくる。

 幸い技量はゼロ……ただ槍を突き出してくるだけなので、今のところ一太刀も浴びていないが、このまま疲弊すれば分からない。もし一撃でも浴びれば動きが止まり、次の瞬間にはハリネズミと化すだろう。

 

「ハァ、ハァ――――ァアアッ!!」

 

 一振りであっさりと死んでいく兵士たち。

 何人死んでも淡々と切れ目なく襲ってくる兵士たち。

 戦闘が始まってから数分。だが、セイバーの体感時間では既に一日中戦い続けているかのような疲労が溜まっていた。一瞬も集中を切らさずに戦い続けるという行為は、セイバーに予想以上の負担をかけていた。周囲全てが敵の海という状況も、消耗に拍車をかけている。

 一番の問題は、数にモノを言わせた攻撃が、セイバーに僅かな『溜め』の時間すら許さないこと。

 これでは“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”どころか“風王鉄槌(ストライク・エア)”すら使えない。対多数の状況にも関わらず、対多数の持ち札が軒並み使用不可能と言う状況こそが恐るべきものである。

 

(まずい……何とか打開策を)

 

 そうは言っても、この状況でセイバーにできるのは剣を振り続けることだけ。

 コンマ一秒でも足を止めれば、後に待つのは死のみだ。

 

「――――――――――――――、」

 

 憎らしい無貌が迫る。

 突き出される槍を弾こうとして……初めて、セイバーの剣が空を斬った。

 ついに体力の限界が来たか。

 セイバーの命運もここまでか。―――と思いきや。

 

「AAAAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!」

 

 高らかに響き渡る鬨の声が、セイバーの悲観を洗い流していく。

 対軍宝具―――“神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)”の車輪と雷が、セイバーの周囲にいた軍勢の一部を薙ぎ払ったのだ。

 

「な、―――ライダー!?」

 

 驚愕をよそに、戦車は反転し―――今度はセイバーの方へ。

 

(攻撃か!?)

 

 身構えたセイバーだが、

 

「掴まれ、セイバー!」

 

 戦車から伸ばされる太い腕。

 

「っく!」

 

 思考より反射で、セイバーはその手を掴んだ。

 勢いに引きずられるまま、セイバーの身体が空へと舞い上がる。

 高く。高く。戦車は、あっという間に街を見下ろす高度まで上昇していった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「ホレ」

 

 安全を確認したのち、ライダーはセイバーを戦車の御者台へと下ろす。

 

「…………………………、よう」

 

 先客―――ライダーのマスター―――の何とも言えない表情を見て、セイバーは自身が危機を脱した事を確信した。

 

「ライダー……何故私を助けた?」

「なあに、戦場の華は愛でるタチでな」

 

 そう言ってニカッと笑うライダーだが、セイバーの『本当の事を言え』という表情を前に「お堅いやつだなあ」とため息をついた。

 

「向こうを見てみろ、セイバー」

 

 顎で指し示された方角を見やる。―――それは冬木ハイアットのある方角。先ほどまでセイバーがいた場所であった。

 そこに、何やら見覚えのないものがある。

 

「……何だ、あの巨人は……?」

 

 そう、巨人。身の丈三十メートルを超えるのではないかという姿の巨人が、そこには立っていた。

 その周りには十メートル台、十五メートル台と思しき巨人たちの姿も見える。

 

「うむ。坊主によるとアレも聖杯戦争の参加者らしい」

「……本当ですか、ライダーのマスター?」

「ああ。ところどころ文字化けして読めない部分があるけど、サーヴァントと同じようにステータスが見える。さっきオマエを襲ってた小さい人形たちも同じくな」

 

 セイバーは「そんな馬鹿な」と戦慄く。

 サーヴァントは七体のみ。八体目が出てくるだけでもおかしいというのに、百も千も現れるとはどういうことなのか。全くわけが分からない。

 混乱するセイバーとは対照的に、ウェイバーは比較的冷静に現状を受け入れていた。

 それというのも、自身のサーヴァントであるイスカンダルが“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”―――『サーヴァント召喚』という能力を備えているからだ。

 詳細は分からないが、恐らくあの巨人も、セイバーを襲ったブリキ人形たちも“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”と同じタイプの宝具で呼び出されたのだろうと思ったのである。

 実際、使い魔という分類は同じなので―――ウェイバーの推測は的を射ていたといえる。

 

 閑話休題。

 

 ライダーは「アレが『何なのか』はどうでもいい」とセイバーの疑問を切り捨てると、真剣な表情で問いかけた。

 

「アレをほっとくと聖杯戦争どころじゃなくなる。それじゃあ貴様も困るだろう?」

「一時休戦か。いいだろう」

「フフン、話が早いな」

 

 ライダーは不敵に笑うと、早々に本題を持ち掛けた。

 

「坊主によると、あの真ん中の巨人……三角帽子を被ったヤツが本体らしい。アレを倒せば何とかなる。セイバー、彼奴を倒せるだけの破壊力を出せるか?」

「私の対城宝具ならやれるでしょう……が、あんな場所で放てば神秘の秘匿もへったくれもない。教会に睨まれれば結果は同じだ。ただでは使えない」

「ほお、対城宝具か。そりゃあ頼もしいな!」

 

 ハッハッハ! と豪快に笑うと、ライダーは「心配するな」と言った。

 

「余が彼奴を固有結界に引きずり込む。これなら中で何をしようと外に情報は洩れんだろう。どうだ?」

「固有結界!? 騎兵(ライダー)の貴方が……ですか!?」

「やっぱりそう思うよなあ……」

 

 セイバーの分かりやすい反応に、ウェイバーは過去の自分を視るような気持ちになった。

 

「マスターの僕が保証する。コイツの言ってることは本当だ」

「……分かりました。では、そのように」

「話は決まったな! なら征くぞセイバー!」

 

 猛々しい鞭の一打ちで、神牛の頭が巨人たちのいる場所……魔女の方角へと向けられる。

 そして、

 

「AAAAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!」

 

 現れた時と同じように雄叫びを上げ、戦車を街中へと疾走させた。

 嵐のような暴風の中、御者台にてゆっくりと風王結界(インビジブル・エア)が解かれ―――不可視の鞘から抜き放たれた聖剣が、静かに真名解放の時を待つ。

 

「…………!」

「えっ……?」

 

 来たるべき一瞬に備え、精神を集中させていくセイバーは気付かなかった。

 聖剣から輝かしく放たれる『黄金の光』を目にしたライダーとウェイバーが、僅かに目を剥いた事に。

 その目が『まさか』という懐疑の色を宿している事に。

 動揺は余分。

 魔女の待ち受ける戦場は―――もうすぐそばまで迫っていた。

 

「―――っあ!?」

 

 ウェイバーベルベット、痛恨の失敗であった。

 深山を焼いた聖剣の輝きに気を取られ、固有結界を発動するタイミングが僅かに遅れた。

 イスカンダルは昨夜の戦闘で消耗している。故に主従同意による令呪の使用によって魔力に増幅(ブースト)をかけなければ、固有結界は使えないのだ。

 そのコンマ一秒を争うタイミングに、動揺を差し挟む余地などあるものか。

 

「■■■■■!」

 

 ホムリリィが、ライダーの戦車に気付いた。

 

「だっ、―――第二の令呪を以って命ずる!」

 

 ウェイバーが慌てて令呪を発動させるが、一手遅れた。

 

「■■■■■■■■ッ!!」

 

 使い魔の群れが戦車に取り付かんとする。

 ホムリリィの腕が戦車に迫る。

 

「―――『令呪の魔力を以って、固有結界を発動せよ!!』―――」

 

 瞬間、空間が歪む。

 世界が心象風景で塗り潰されていく。

 だが―――間に合わない。

 これでは世界が変質しきる前に、魔女の拳が戦車に届く―――!

 

「ぁ」

 

 ウェイバーの心を突き抜けたのは、後悔。

 

 またか。

 また、ボクはライダーの足を引っ張ったのか。

 変わりたいと。変わろうと誓ったのに、また。

 それもこんな、大事な時に―――!

 

「ぁぁぁああああああアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 次の瞬間、ウェイバーの視界は膨大な魔力に焼き尽くされていった。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・




 旧・二十話は見直したら9000字超えてました。「流石に長い!」・・・という事で、二分割の上で文章量がちょうどよくなるように加筆修正。
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