Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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原点の第二十一話

 魔力が枯れ、夢が破れ、希望を失った。

 この世との接点を失い、消えゆく最中……暁美ほむらは思い出していた。

 力尽き、仰向けに空を見上げるこの光景に―――どこか、見覚えがある。

 

 あれは、そう……いつの事だったか。

 時の彼方に消えていった、大切な記憶……。

 

 

 

 

 

 ねぇ…私たち、このまま二人で、怪物になって…こんな世界、何もかもメチャクチャにしちゃおっか?

 嫌なことも、悲しいことも、全部無かったことにしちゃえるぐらい、壊して、壊して、壊しまくってさ…。

 それはそれで、良いと思わない?

 

 

 

 

 

 ……そうだ。あれは、旅の始まり。

 ともだちを助けると心に誓った―――迷路の入り口。

 

 

 

 

 

「ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ってたよね」

 

 うん。

 

「キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな?」

 

 約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる。何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる。

 

 

 

 

 

 あの時も……こうして、ボロボロで空を見上げていた。

 不思議と苦しくなかった。何もかもがどうでも良かった。世界なんて滅んじゃえって。

 でも、約束ができた。死ぬわけにはいかない約束。生きなければならない約束。

 私にしかできないこと―――…。

 

 

 

 

 

 繰り返す。私は何度でも繰り返す。

 同じ時間を何度も巡り、たった一つの出口を探る。あなたを、絶望の運命から救い出す道を。

 まどか……たった一人の、私の友達……。

 あなたの為なら、私は永遠の迷路に閉じ込められても―――構わない。

 

 

 

 

 

 ……でも、もう身体が動かない。

 身体中ぜんぶ壊れちゃって、感覚も何もない。

 何もできない。

 勝つことも、やり直すことも、もう……。

 これじゃ約束を守れない……。

 

「ごめんね。まどか」

 

 涙を流す。

 これだけ繰り返して、別の世界にまで赴いて……なのに運命を変えられなかった。

 どうして私は、こんなにダメなんだろう。

 どうして……。

 

「……あっ……?」

 

 滲む視界の向こうに、紫色の宝石が見えた。

 ソウルジェムだ。……もうすっかり濁っている。

 そりゃあそうだろう。

 私にはもう希望なんてない。絶望しか……絶望……。

 

「絶望したら……どうなる?」

 

 その瞬間、ほむらの脳裏に『絶望』という名の『希望』が湧いた。

 

「ああ。私にもまだ、出来ることがあった……」

 

 ニヤリとほむらの口元が三日月の弧を描いた時、紫色の宝石は砕け散った。

 そしてその中から……“嘆きの種子(グリーフシード)”が生まれた。

 

 新たな命。新たな存在。

 彼岸の魔女―――ホムリリィ。

 それはただ、勝利(聖杯)のために―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 ―――ライダーたちが戦車で空から奇襲をかける数十秒前。

 地上では、ランサーとホムリリィの戦いが佳境に入っていた。

 

「ぐゥ、ァアア■■アア■ッッ!!?」

 

 苦痛の声を上げるランサー。

 

 何百という数を使ってあらゆる角度から攻撃する小柄な兵隊の使い魔。

 空から飛来し、攻撃を仕掛けてくる被り物をしたカラスの使い魔。

 奥歯のような形をした馬に跨る騎兵の使い魔。

 見上げるほどの体躯を持つ巨人の使い魔。

 喪服を着た子供のような使い魔。

 そして大元の魔女・ホムリリィ。

 

 圧倒的な数の暴力を以って、魔女はランサーを責め立てる。

 いくら殺そうと新しい使い魔が現れる。どれだけ殺しても怯まずに攻撃を仕掛けてくる。まるでゾンビのように生気の感じられない使い魔たち。

 ただ数で攻めてくるだけなら“生命吸収(エナジードレイン)”を持つランサーが押されることは無かっただろう。実際、ランサーの魔力は幾度となく再生を繰り返したにも関わらず、海のような総量を保っている。

 

 だから、ランサーを苦しめているのは別のコト。

 戦いが長引けば長引くほどに死んでいく命。

 ホムリリィの、ヴィクターの巻き添えにしてしまう人々の命が……ランサーの精神を無限に責め苛んでいる。

 こうしている間にも、彼のエネルギードレインが周囲の人間の生命を吸っている。早く解除しないと大勢の人が死ぬ。だが、この魔女を放置する事はできない。でも、ヴィクター化しないととても太刀打ちできない……!

 

(どうして)

 

 これ以上の犠牲を出さないための決意(ヴィクター化)だったのに。

 ここでコイツ(キャスター)を倒せば、もう無駄な犠牲は出ないはずなのに。

 どうして、倒せないままに―――犠牲だけが増えていく……!?

 

「ァア■■ア■アア■■ァアアア■■アアア■■■■ア■■■!!」

 

 獣のような声は、どこか泣いているように聞こえる。

 

(――――嫌だ。もう嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!)

 

 ガリガリガリガリ! と、頭の中をカギ爪で引き裂かれているような激痛。それは“生命吸収(エナジードレイン)”で周囲から魔力を集めれば集めるほどに増していく。

 

 武藤カズキに誤算があったとすれば、それは二つ。

 一つは、ホムリリィの力がカズキの予想を超えて強力だったこと。

 ヴィクター化してもなお容易には押し切れない強さが、被害を大きくした。

 

 もう一つは―――ホムリリィとその使い魔たちの存在そのもの。

 彼女たちの存在は全てが『絶望』に染まっており、その魔力は多く『穢れ』ている。

 そんな毒に等しいものを片端から吸い上げていれば当然、カズキ自身も穢れてしまう。

 

「ウァアァ■■■■■■■■ア■■ああアア■■■■■■■■アアアア」

 

 視界に走るノイズ。スパークが散る。全身の神経回路がショートする。

 言語中枢がイカれる。

 脳がグチャグチャになる。

 こコろがよごレてイく。

 

 壊れる。

 

 壊れる。

 

 壊れる。         壊れる。

         壊れる。          壊れる。

 

壊れる。

           壊れる。

    壊れる                 壊れる。

 

 時間が経てば経つほどに、

 

                    絶望が、武藤カズキを壊していく―――。

 

「ア■■■■■■■■アア■■■■ア■■■■■■■■■■■■■■■ァ――――ッッ!!」

 

 ―――ぶつん、と。

 何かが千切れたような音を最後に、武藤カズキは空っぽになった。

 目が見えない。

 耳が聞こえない。

 地面の感触がない。

 煙の臭いもしなくなって、

 口の中はフワフワしてる。

 生きているのか死んでいるのか分からない。

 

 何もない。

 真っ白だ。

 ここはどこ? わたしはだれ?

 

 分からない。

 分からない。

 分からない―――けれど。

 

 それでも、この信念(偽善)だけは貫かなくちゃ―――。

 

「―――ぁ」

 

 槍を握れ。

 

「ぁああ、あ」

 

 両の足で大地を踏みしめ―――跳べ。

 

「ああああ、あああああああああああっ」

 

 前へ。前へ。どんな障害も意に介さず、ただ前へ進め。

 

 偽善でもいい。素直に、愚直に、真っ直ぐに―――前へ!

 

「あああああああああああああああああああああああッッ」

 

 だって、武藤カズキ(おまえ)に出来る事なんか、他にないだろう―――!!

 

「あああああああああああああああああああああああああ―――――――――ッッ!!」

 

 天地を覆い尽くすほどの陽光が迸り、魔女の身体を穿つ。

 それは、武藤カズキという男―――その信念の輝き。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「ぁぁぁああああああアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 四度、ウェイバーに迫り来る『死』。

 その瞬間、ウェイバーの視界を焼いた魔力は―――陽光。

 ホムリリィの拳が戦車を捉えるその瞬間、ランサー渾身の一撃が魔女の身体を穿った。

 それにより、拳の軌道が僅かに逸れた。神牛の片方を挽き潰し、戦車の車輪を破壊し―――しかし、御者台にいる三人を殺すことは叶わなかった。

 必殺を逃したままに―――ホムリリィはランサーの一撃に圧され、身体を大きくのけぞらせた。

 倒れていく巨体。眼前にはもはや行く手を遮るものはない。

 

 障害―――なし。

 状況はオールグリーン。

 ここに、全ての準備は整った。

 

 固有結界が展開され、世界が変革する。

 夜の街並みは消え、魔女の軍勢は一面の砂漠へと放り出される。

 全員まとめて―――砂漠の彼方へ。

 まとめて薙ぎ払うのに都合が良い場所へ。

 

「セイバーッッ!!」

 

 ライダーの叫びを合図に、セイバーが聖剣を解き放つ。

 

「“約束された(エクス)―――――

 

 

 

 

 

 その一振りは輝きに輝きを折り重ね、黄金の光を清く高らかに謳わせる。

 

 血に穢れ、死を運び、幾多の戦いを越えてなお、その光には一欠片の翳りもなく。

 

 相対する敵にすら絶望ではなく、胸打つユメを抱かせる一閃を―――いまここに。

 

 

 

 

 

 

 

                  ―――――勝利の剣(カリバー)ッッ!!”」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 ―――心象風景が白色に染め上がる。

 光の奔流が小さな兵士たちを、哀れな子供たちを、空飛ぶ斥候たちを、露払いの騎兵たちを、強壮な巨人たちを―――彼岸の魔女を残らず呑み込んでいく。

 絶望に穢れ堕ちた魂が、黄金の光に溶けていく。

 光の中、零れ落ちていく少女が一人。

 

 聖杯戦争のルール。

 脱落した魂は、一度聖杯に還らなければならない。

 その契約の下に、彼岸の魔女に変質していた暁美ほむらの魂が解放される。

 しかし、それは彼女の蘇生を意味しない。

 

 既に『暁美ほむら』の霊体はアサシンとの戦いで失われている。

 彼岸の魔女に残されていたのはあくまで魂という純然な力のみ。

 戦うことなど叶わず、あとは聖杯に還るだけの存在。

 今度こそ為す術なく消え去っていくはずのほむらは―――

 

「あはっ」

 

 ―――笑っていた。

 陽だまりのように純粋な顔で。

 

 ……何故笑う。

 もはやお前の願いは叶わない。

 鹿目まどかは救えず、己もまた無為に消えゆく未来を待つのみだというのに―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――― 遅くなってゴメンね、ほむらちゃん ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かるまい。

 この世界の誰にも。

 例え魔法使いであっても―――『彼女』の存在を感じる事はできないのだ。

 

「まどか……!」

 

 ほむらの目に涙が浮かぶ。悲しみではなく、歓喜の涙が。

 ああ。あれは―――まどかだ。鹿目まどかだ。

 迷路の中ですれ違い続けた少女ではなく、己の親友だった―――あのまどかだ。

 

『戦いが終わるまではこっちに来れなかったの。そういう契約だったから』

「ううん……いい。いいの。やっと貴女に会えたんだから……」

 

 あの日。

 ワルプルギスの夜に敗れ、時間遡行さえまどかの因果を増やすだけと気づいたあの日。

 迷路に出口がないと分かったあの日―――暁美ほむらは自ら命を断った。ソウルジェムを破壊し、せめて魔女にならないようにと。

 

 ――――救済の魔女を生み出した者。

 そういう肩書で英霊となったほむらは、また新しい迷路に迷い込むこととなった。

 聖杯戦争。あらゆる望みを叶える万能の願望器を巡る戦いに。

 鹿目まどかを救いたい……その一心で。

 でも、鹿目まどかはここにいる。

 何がどうしてそうなったのかは分からない。

 ただ―――こうして触れ合った事で、ほむらはなんとなく理解できた。

 

 円環の理。

 

 現在過去未来―――あらゆる魔女を、絶望を生み出す前に救うシステム。

 魔法少女たちの希望をウソにしないために、心優しい一人の少女が生み出したもの。

 それがいま、ほむらの前にいる『まどか』の正体。

 彼女は、ほむらの知らないまどか。

 けれど同時に、ほむらの知っているまどかでもあるのだ。

 

『こんなほむらちゃんもいたんだね』

 

 くすくすと愛らしく笑うまどかを見て、ほむらも笑った。

 ほむらがいくつもの世界でたくさんの『まどか』を見てきたように、まどかもまた、いくつもの世界でたくさんの『ほむら』を見てきたのだろう。

 

「他には……どんな『私』がいたの?」

『こっちに来たら、ゆっくり話そう?』

「……うん、そうだね。私たちはもう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――― すれ違う事なんて、ないんだから ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂と言う名の力だけを残し、暁美ほむらはこの世界から、そして英霊の座からも消えていった。

 魔法少女の宿命。運命の行きつく果て。約束された救済。

 円環の理(鹿目まどか)に導かれて―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 聖剣の極光が消え去った時、あとには何も残っていなかった。

 脆弱な魔力で編まれた固有結界を余波で断ち斬り、綻んだ結界が現実に溶けていく。

 吹き抜ける冬の夜風の中。魔女の消え去った光景―――残ったのは、三人の英霊たち。

 

 セイバーは己が聖杯を阻む敵を倒した実感を噛みしめた。

 ランサーは微かな意識の中、僅かに異空間から漏れた極光の残滓を見届けた。

 ライダーは聖剣を携える少女の背中を、どこか憐れむような目で見つめていた。

 

 満身創痍の戦士たちは、無言で夜闇に立ちつくす。

 その場の誰も一言すら発することなく―――戦いは、ここに静かな決着を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・




第二十話と同じく、分割・加筆修正の上で投稿です。
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