Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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後先の第二十二話

 ―――サイレンの音が鳴り響く。

 警察、消防、救急……とにかく『緊急時に集まる職種』の人々が、わんさと新都に集まっているのだ。

 衛宮切嗣による高級ホテル爆破事件。

 ランサーの“生命吸収(エナジードレイン)”による繁華街での集団衰弱。

 ホムリリィとその使い魔の攻撃によって手酷く破壊された建造物たち。

 それらの事件に対処すべく集まった人たちと、それらの事件に巻き込まれた人たちと、それらの事件を聞きつけた人たち。大勢の人たちが新都で喧騒を作り出している。

 時刻はとっくに深夜を回っているというのに、ワァワァと騒がしい雰囲気がいつまでも街を賑わしていく―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 そんな喧騒から少しばかり離れた場所にある廃ビル。人目につかない閑散とした一室にて、二騎のサーヴァントが向かい合っている。

 セイバー。そしてライダー。先のホムリリィとの戦いで、図らずも共闘を果たした二騎であった。

 聖杯戦争の破綻という当面の危機を乗り越え、さあ次の戦いが始まるかと思いきや。

 

「なあセイバーよ。今日のところはここまでにせんか?」

「……いいでしょう」

 

 せめて今晩の間は休戦協定を維持しようというライダーの意見に、セイバーは意外なほどあっさりと同意した。

 彼女は一刻も早く聖杯を手に入れたいだろうに―――だが、それも無理からぬこと。

 これだけ騒ぎが大きくなってしまうと、『次の騒ぎ』も目につきやすくなるだろうと思ったからだ。

 結果を焦り、失敗を失墜に変えてしまうのは本末転倒である。

 加えて、セイバーはランサー及びホムリリィの使い魔との連戦、一日に二度の聖剣解放による消耗。ライダーはホムリリィの攻撃によって大破した戦車と、令呪で強引に発動した“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”による消耗がある。

 よって、これ以上の戦いに得はない―――と。両者の間で利害が一致したのだ。

 

「では、またな」

 

 セイバーの同意を得るや否や、ライダーはウェイバーを引きつれ、ビルからさっさと出ていってしまう。

 彼の人となりをほとんど知らないセイバーは気付かなかったが、これもまたセイバーの休戦承認と同じく異質な光景と言えた。

 隣を歩くウェイバーがおかしなものを見るような目で己の従者を見つめていたが、ライダーは構わず歩き続けた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 ビルを出て、現場から離れた場所でもチラホラと見える野次馬候補たちを通り過ぎ―――二人の道行きが冬木大橋に差し掛かったところで、ウェイバーはやっと己がサーヴァントに向けて口を開いた。

 

「……いいのかよ、ライダー?」

≪あん?≫

 

 返事は念話で行われた。

 ライダーはいつの間にか霊体化している。……それもまた珍しい事だ。

 

「セイバーを勧誘しなくて良かったのかってコトだよ」

≪………………………、≫

 

 イスカンダルは、聖杯戦争に“聖杯”以外の目的をいくつか見出している。そのうちの一つが『新たな配下、もしくは対等な朋友を得ること』だ。

 聖杯戦争二日目―――セイバーとランサーの決闘を見物していた時に『どちらも死なせるには惜しい』と発言していた事から、セイバーとランサーの双方にそれらの可能性を見ていたのは明らか。休戦協定を結んだ今は、勧誘するのに絶好の機会だったはずなのに。

 

≪セイバーの剣……貴様も気付いたであろう?≫

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”……やっぱりそうなのか?」

≪ああ、間違いない≫

 

 深刻に唸る両者だが、これは何も『アーサー王がまさか女性だったとは』などという史実との矛盾を訝しんでいるのではない。歴史など、所詮はどこの誰とも知れぬ他人が書き記した情報だ。どこかで誤解が挟まり、それが今日に至るまで訂正されなかっただけのこと。

 二人が問題視しているのは、彼女の聖剣そのものについてだ。

 昨夜、深山の住宅街を薙ぎ払った光……そして今日、巨大な魔女を消し飛ばした光……これらはまさしく同一のものだった。つまり、巷を騒がす“深山町爆弾テロ事件”の犯人は、紛れもなくセイバーだったという事になる。

 加えてセイバーは聖剣を使う際の条件として、ライダーに―――『監督役に目をつけられれば聖杯を得られなくなる。何か目くらましをよこせ』と口にした。

 それは裏返せば、監督役と言う邪魔さえなければ……街中でも躊躇いなく聖剣を使っていたという事ではなかろうか。深山の街を焼き払ったように、新都もその手にかけていたと。

 

 ………穿った見方だろうか。

 だが、ライダーもウェイバーも……それが『有り得ない』とは言い切れない思いであった。

 

「そうか。なら、当然だな……」

 

 フゥ、と白い息を吐き出すウェイバーの表情には、納得があった。

 

『勝利してなお滅ぼさぬ。制覇してなお辱めぬ。それこそが真の“征服”である―――』

 

 なるほど、かつてライダーが言っていた信念に沿うなら、セイバーの勧誘などできるわけがない。“征服(しょうり)”のために街を消しかねない者をイスカンダルの配下にも朋友にも置くことは、それ即ち信念の崩壊に繋がる。アーサー王とアレキサンダー大王は水と油……正しく『相容れない』関係なのだろう。

 少なくとも『アレはもはや他人の導きで矯正できる段階ではない』と、イスカンダルは確信してしまったのだ。

 

「どうする、ライダー? 戦車が壊れちゃったんじゃ尾行されてても撒けないぞ。拠点に帰るところを見られたらマズいだろ」

≪うむ……しかし、この魔力不足は如何ともし難い。できれば早いうちに何とかしたいが≫

「だよなぁ」

 

 ハァ、とため息。

 令呪のバックアップもあって何とか“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”は発動できたし、結界を展開していた時間も僅かだったから消費魔力は最低限に抑えられた。

 ―――が、ただでさえ魔力不足の状態から無理やりに発動させた形だったのだ。もはやライダーに残された魔力は風前の灯と言っていい。休戦協定の延長でセイバーとの戦いを避けられたのは幸運だったが、これからどうやって戦っていけばいいのか。

 

「危険を承知で拠点に帰って、魔力の早期回復に専念するか……それとも別の拠点を見繕うか」

 

 しかし、この二択―――危険度は同一である。実質、ウェイバーが取るべき手段は一つきりなのだ。

 

「帰ろう、ライダー」

≪そうさな……≫

 

 そう言って、ライダー陣営は緑地公園へと足を向けた。

 それを目撃した陣営がいたかどうかは―――今のところ定かではない。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 冬木市新都、繁華街。

 雑踏ひしめく事件現場―――冬木ハイアットからほど近いビルの屋上にて、ランサーは己が主と再会を果たしていた。

 

「アーチボルトさん……!」

 

 目につく装飾は角ばった縁取りと転落防止用の柵だけの、簡素なコンクリートの平野。その真ん中に立つケイネス・エルメロイ・アーチボルトを見るや、ランサーは破顔した。

 

「良かった、アーチボルトさん……無事だったん―――」

 

 そこでふと、駆け寄ろうとした足が鉛に、笑顔は沈痛な面持ちに変わった。

 ケイネスの隣に横たわる女性……ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの姿が目に入ったからだ。

 

「……ソフィアリさん……」

 

 ケイネスの契約と違い、ソラウからの魔力供給は完全に途絶えている。横たわる淑女の胸元も、一面が血に染め上げられている。

 

 ―――ああ、やはり夢ではなかったのだ。

 

 己にかけられた令呪が消え去った感覚。魔力供給が途切れた感覚。……疑いようのない死の感覚は、夢ではなく現実だった。ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは命を落としたのだ。

 

 ゴメン―――と口にしようとして、できなかった。

 そんな一言で済ませられるわけがない。

 

 ホテル倒壊という危機的状況でも、最優先に案じた婚約者の命。『護れ』と令呪まで使って命じられたにも関わらず、護り通せなかった自分。ケイネスが抱える悲痛など、所詮は他人のランサーが推し量れるものではないだろう。

 ランサーの謝罪は、己の罪悪感を軽減する逃避にしかならない。それはもはや偽善ですらない、侮辱の一言である。

 故に。ランサーは今に発せられるであろうケイネスの憎悪を受け止める覚悟を決めた。

 

「礼を言うぞ、ランサー」

 

 だから。

 次の瞬間に発せられた言葉の意味が、よく分からなかった。

 

「………………………………え?」

 

 数秒の間真っ白になった思考回路。やっと絞り出せた言葉がそれだった。

 

「なん、で」

 

 わけが分からない。婚約者を護り切れなかったサーヴァントに対してかける言葉が―――感謝? ケイネスは悲しみのあまりおかしくなってしまったのだろうか。

 

「どうして。おかしいよ、アーチボルトさん」

 

 自嘲のあまり、ランサーは笑った。

 

「オレはソフィアリさんを護れなかった。ヴィクター化してまで戦ったのに、セイバーもキャスターも倒せなかった。たくさんの人を自分勝手に犠牲にして、何も成し遂げられなかった。最後には、下らない事で令呪まで使わせて……最初から最後まで、アーチボルトさんに迷惑をかけるだけだったのに……!」

 

 笑顔もそこまで。言葉を紡ぐたびに少年は俯き、静かに肩を震わせる。

 ……その姿はもう、存在が害悪なる怪物ではない。

 髪は黒く、肌も通常の色を取り戻している。―――身体中に痣のような、黒々とした瘢痕が浮かんでこそいるが……彼はいま、ヴィクターⅢではなく、人間・武藤カズキであった。

 ホムリリィが倒されてすぐに、ケイネスが令呪を使ったのだ。『正気に戻り、宝具(黒い核金)の使用を中止せよ』―――と。

 だから、ランサーの言った事は事実だ。

 ソラウを護れという令呪を果たせず、倒せたはずのセイバーを取り逃がし、仇敵たるキャスターの首さえ第三者に掠め取られた。ランサーがやった事と言えば、ヴィクター化とホムリリィとの戦いで周囲に大量の犠牲を出しただけ。挙句、その後始末に二画目の令呪さえ浪費させてしまった。

 尤も、意図しない行為だったとはいえ―――ランサーの攻撃がなければ、セイバーとライダーによるホムリリィの打倒は有り得なかっただろう。そう考えれば、ランサーはキャスターを討つことに一役買ったと言えなくはない。が、そんなことはランサーにとってどうでもいいことだ。

 重要なのは、サーヴァントとしての責務を何一つ果たせなかった自分がいるという一点のみ。

 にも拘らず……何故にランサーはいま、ケイネスから礼など受けているのか。

 

「フン。確かに私からお前に言いたいことは山ほどある。もちろん、中には不満も多い」

 

 鼻を鳴らしつつ、ケイネスが横たわるソラウの頬を撫でた。

 その顔は―――紛れもない安堵に染まっている。

 

 ……()()

 死んだのに……安堵とは?

 

「だが、そんなものは……ソラウの命に比べれば軽いものだ」

「……まさか」

 

 せめぎ合う感情。一縷の希望と『そんなはずはない』という常識。

 果たして、ケイネスは結論を口にした。

 

「ああ。―――()()()()()()()()()

「ぁ―――――」

 

 腰砕けになりそうな衝撃。

 それを呑み込んで―――ランサーはソラウのそばへ駆けた。

 凍てつきそうな冬風に乗って、彼女の口元から静かな吐息の音が聞こえたとき……今度こそ、ランサーは膝から崩れ落ちた。

 

「ソフィアリさん……ソフィアリさん!!」

 

 ソラウは死んでいない。

 ソラウが生きている。

 生きているのだ。

 

「良かった……っ。ソフィアリさん、本当に……!!」

 

 少年の双眸から溢れる、大粒の涙。

 それをしばらく見届けた後……ケイネスは解答を告げた。

 

「……私とて本当は、お前を怒鳴りつけてやるつもりだったとも。だが、ソラウが死んだのがお前の所為なら……ソラウが生きているのもお前のお陰なのだ。それを思うと、上手く言葉が選べなくてな……」

「オレ、の?」

「以前、お前は私に語っただろう。英霊としての経歴。武藤カズキの人生を」

 

 そう言われて思い出すのは、召喚されて間もないころだ。

 まだケイネスとカズキが打ち解けていなかったころ。ケイネスとソラウが愛し合う関係になる前のこと。

 聖杯戦争に備えて戦術を練るため、己の持つ宝具、その効力などを二人で話し合った事があった。

 武装錬金。突撃槍。黒い核金。―――そして、武藤カズキの弱点。

 何故、元はただの一般人に過ぎない武藤カズキが戦いに巻き込まれたのか。

 お化けが出ると噂される、裏山の廃工場。そこにいた化物と女の子。女の子を護るために、カズキはその身一つで飛び出して……『死んだ』。

 心臓を一突きに破壊されて、死んだのだ。

 その逸話(エピソード)こそが、武藤カズキという英霊の始まりであり、弱点そのもの。

 そこからカズキが()()()()()()()()()()。―――それこそが、現状を説明する答えとなるのではないか。

 

「まさか、ソフィアリさんに……?」

 

 カズキは無意識のうちに、己の左胸に手を当てていた。

 そこには心臓などない。

 武藤カズキの心臓は、あの日あの夜の廃工場で破壊されて……それきりだ。

 この左胸にあるのは、核金。とある世界における錬金術という技術の結晶。とある一人の戦士によって埋め込まれたもの。それがカズキの心臓の代替を為している。

 ならばいまカズキは、己の知りえないあの夜の続きを目にしているのか。

 己の持つ核金とは別のもの。ケイネスの治療に使われていた、“核金‐XLIV(シリアルナンバー44)

 それがいま、ソラウの体内に―――。

 

「でも、アーチボルトさん……大丈夫なのかな。オレがいなくなったら……」

 

 ランサーの疑問は当然のものだった。“核金‐XLIV(シリアルナンバー44)”は、武藤カズキの“宝具”である。その本質はサーヴァントと同じく霊体であり、カズキがこの世から消えれば、同じく消え去る運命にある。

 

「その心配は無用だ。既に“核金‐XLIV(シリアルナンバー44)”はソラウの一部となっている。ソラウの肉体を依代として現世に結びつく事で、受肉を果たしたようなものだからな。もはやタダで取り出すことはできないだろうが……その代わり、お前が消えたところで問題もない」

 

 その説明は、魔術の知識がないランサーとしては理解の及ばない領域だったが―――ケイネスの表情から『もう安心』という実感を受け取って、心底から安堵した。

 

「……そっか、良かった……」

 

 言ってしまえば、己の宝具を無断で奪われた行為なのだが……それはランサーにとって大事ではないようだ。どんな経緯であれ、ソラウの命が確かな形で繋がれた事が嬉しいのだろう。

 

 犠牲になった人がいた。

 救えなかった人がいた。

 それでも、護れた人がいた。

 全くの無駄ではなかったのだ。

 

「本当に、良かった……!」

 

 ポタ、ポタと。

 とうとう張力を超えたランサーの涙が、ソラウの顔を数滴打った。

 

「うぅ、ン……」

 

 それで目を覚ますようなドラマチックな展開はなかったが、彼女は何やら、むずがゆそうに眉根を寄せた。

 

 ―――ああ、生きている。

 

 カズキもケイネスも、それだけで嬉しかった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

【聖杯戦争四日目・・・終了】

 

 

【脱落者】

 

 ■マスター   なし

                 【残り四人】

 

 ■サーヴァント キャスター

                 【残り四騎】

 

 ■その他    ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 ……時が過ぎる。

 遥か彼方に陽が昇り、夜が明けていく。

 キャスターが墜ち―――残るサーヴァントはあと四騎。

 

 セイバー、

 ランサー、

 ライダー、

 アサシン。

 

 何の因果か。

 それは奇しくも、二日目の時点で衛宮切嗣が予想した『生き残り』の内訳だ。

 そしてソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの戦闘不能(リタイア)によって、マスターもまた残り四人。

 

 衛宮切嗣、

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、

 ウェイバー・ベルベット、

 言峰綺礼。

 

 ―――以上。

 彼ら八人こそが、この狂った第四次聖杯戦争の終幕(オーラス)を担う演者たちである。

 一時の幕間を挟んだ後、物語はついに終わりへとなだれ込む。

 

 最終決戦の刻は―――近い。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・




‐作中捕捉‐
Q.宝具の受肉って、どういうこと?
A.今話における宝具受肉は、桜ルートにおけるアーチャーの腕理論と似たようなものです。
 アヴァロンも現実で発掘されたものにも関わらず、セイバールートで『霊体』として返す事ができたので、逆もいけるんじゃないかなと思いました。

‐作者からのお願い‐
 活動報告のページに、この作品に関する作者からの質問があります。
 お手隙の方がいらっしゃったら是非とも協力をお願いします。
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