Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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発火の第二十五話

 マスターとサーヴァント、それぞれ一対一の決闘。

 言峰綺礼による予想外の提案により、セイバー陣営は分断された。

 

「戦闘の余波で聖杯が壊れては困るだろう?」

 

 切嗣が口にするはずだった譲歩も、綺礼の口から。

 そうして切嗣と綺礼は、地下一階にある駐車場へ。セイバーとアサシンは、同じく地下一階にある大道具倉庫へと―――戦いの場を移した。

 それは切嗣にとって幸いだった。

 言峰綺礼が何を考えているかは判然としない。しかし、本来ならあのアサシンを前に何の対策もとれなかった時点で、衛宮切嗣は敗北していた。決まったはずの勝負に再審の機会が与えられたのならば是非もない話である。

 

 が、これが対等な決闘かと言われれば―――断じて否だ。

 そもそもこの戦いにおいて、言峰綺礼は常に衛宮切嗣を上回ってきた。

 

 御三家の一角を開戦直後に苦も無く屠り、その際に己の情報を一切他の陣営に漏らさなかった。

 要塞としての堅固さを度外視し、秘匿性の高さを重視した拠点をその日の内に探り当て、久宇舞弥を攫った。

 そして今日―――聖杯戦争の決め手を打つはずのタイミングで、予想だにしないカウンターを打ち込んできた。

 

 狡猾さ、正確さ、情報力、行動力。

 およそ戦いにおける能力の全てで、言峰綺礼は魔術師殺しを圧倒していると言わざるを得ない。

 恐らくこの『決闘』にも、正々堂々なんて意図は毛頭ない。奴には奴なりの考えがあってこの手段を選んだ。切嗣の行動を、決闘に乗る他ないように誘導した。

 

 ―――いいだろう。

 

 圧倒的に不利な現状を受け止めた上で、切嗣は必殺の覚悟を決める。

 どの道、切嗣に『勝利』以外の選択肢などない。『勝利』しかない。どんな状況からでも、衛宮切嗣は『勝利』せねばならない。

 負けが濃厚でも、絶対でなければいい。

 命ある限り、可能性は引き寄せられる。

 勝機はいくつだ? 千に一つか? 万に一つか? 億か? 兆か? それとも京か?

 いや。それがたとえ那由他の彼方でも、十分だ。

 芥子粒より小さく、針の先より尚か細い可能性を、この一回目に持って来られれば―――それで。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 地下駐車場。コンクリートの冷たい感触が、冬の冷気をより冷たく、地獄の隙間風に変えていく。

 無音の空間。張り詰めた雰囲気。交錯する敵意。

 歴戦の兵士すら震え上がるような空気の中、切嗣と綺礼は静かに相対する。

 左右に主無き鉄の騎馬を並べた、網の目のような通路の一つ―――両者の距離は目測十五メートル。

 切嗣はその右手に必殺の礼装であるトンプソンセンター・コンテンダーを携えている。

 綺礼は左手に抜身の黒鍵を三本、右手は徒手空拳でぶら下げている。

 

 ―――戦略分析。

 

 長期戦は論外。

 徒に言峰綺礼を傷つければ、奴は残った令呪でアサシンをこの場に召喚するかもしれない。そうなれば終わりだ。もう一度この構図を作り出すことは不可能だろう。

 セイバーがアサシンに敗れても同じこと。つまり勝利の為には、ヤツが『決闘』の形式に拘っているうちに脳か首を破壊し、一撃で意識ごと仕留める事が必須となる。

 双方を満たす勝利条件は、即ち短期決戦の他にない。

 

 では、そのために衛宮切嗣が選択すべき初手とは何か?

 

 間合いで言えば、銃を持つ切嗣が圧倒的に有利。

 だが、舞弥の残した言峰綺礼の戦闘情報から、代行者の放つ黒鍵の投擲が、恐ろしく正確かつ神速の速度を誇っている事は承知している。

 加えて、コンテンダーの装弾数が一発きりである事を鑑みると―――携帯に便利な性質を持つ黒鍵のほうが連射性に優れている。

 一撃で仕留められれば切嗣の勝ち。そうでなければ、切嗣は次の一手を打つまで身一つで代行者の猛攻を凌ぎきる必要があるという事だ。

 

 起源弾。コンテンダーに装填された、対魔術師用の魔弾。

 本来ならば切嗣にとって最も有効な殺し手であるはずの切り札。

 しかし―――…

 

(恐らく、奴は拉致した舞弥から僕の情報を得ている……)

 

 久宇舞弥は、衛宮切嗣の右腕である。

 切嗣が持ち得る戦闘手段、細かなクセ、咄嗟の瞬間にとる行動―――その全てを把握している女を、あの男は二日間もの間手中に収めていた。いかに舞弥が元少年兵で拷問訓練も受けているとはいえ、嫌がる人間から情報を引き出す方法などいくらでもある。拷問を行う者に魔術の素養があれば、なおさらだ。

 ただでさえ言峰綺礼は正常な魔術師ではないのだ。事前情報まであっては、切嗣の『起源』によるダメージは期待できない。固有時制御による不意打ちも通用しないものと考えていい。

 だが、いかに事前情報があったとして―――現代の防弾加工程度で、コンテンダーから放たれる30-06スプリングフィールド弾の威力は封殺できない。言峰綺礼の魔術師としての能力を鑑みても、その不足分を補える程の呪的防護措置を備えている可能性は低い。

 

 ―――結論。

 

 いかにして銃弾を当てるかではない。

 いかにして銃弾を躱せない状況を作り出すか―――この一点が衛宮切嗣の勝利に繋がるカギとなる。

 そのために必要なものは何だ。

 言峰綺礼が知り得る情報。

 己が持ち得る手札の全て。

 その間にある差異、食い違い、死角。

 ―――探せ、探せ探せ探せ探せ探せ探せ探せ。あの男を出し抜く一手を思考せよ。焼き切れる寸前まで思考回路を活性化させるのだ。

 

 何か。

 何か。

 何か。

 何か―――。

 

「…………………………、」

 

 無言のままに銃把を握る。

 思考に費やした時間は秒にも満たない。

 しかしその一瞬で―――戦略は、確かな形を成した。

 

「――――――――――、」

 

 切嗣の変化を感じ取ったのか、綺礼もまたプレッシャーを僅かに強めた。

 ここに緊張は極まった。

 あとはどちらかが筋一本でも動かせば、それが開戦の合図となる。

 

 多弁な沈黙。

 五月蠅い静寂。

 溢れかえる無音。

 

 矛盾が矛盾を呼ぶ睨み合いを続けること―――十六とコンマ三秒。

 市民会館のどこかで、大きな衝撃が起きた。

 まるで地震のような揺れが建物を伝播し、両者の身体を通り抜ける。

 ―――刹那、

 

「っ!」

「ッ!」

 

 切嗣がコンテンダーを構えた。

 綺礼が黒鍵を手に間合いを詰めた。

 

 衛宮切嗣 VS 言峰綺礼。

 その初動は、ほぼ互角―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 数十秒前、市民会館―――大道具倉庫。

 主とは違い、セイバーとアサシンの戦いは、部屋に着いてすぐに始まっていた。

 

「ハァ、ァァァァアアアアアア!!」

 

 魔力放出スキルの恩恵により、ジェット噴射と化した魔力が―――セイバーの姿を一筋の流星へと変え、アサシンの許へと誘う。

 振り上げられる不可視の聖剣。逆袈裟に襲い来るそれは、一秒の後にアサシンの身体を両断するだろう。

 

「―――――――、」

 

 アサシンは動かない。

 予想外の速度と勢いに虚を突かれたのか。

 否。

 いま、セイバーとアサシンは向かい合い、視線を交わしている。

 ならば回避の必要性すら認められない。彼にとっては、それだけの事。

 

「見よ、セイバー」

 

 謎の一言が、合図。

 アサシンの双眸から黄金の死光が発せられる。

 

 ―――“瞳術”

 

 アサシンのサーヴァント、甲賀弦之介が誇る最強忍術。

 その正体は、この世界で言う『魔眼』である。

 弦之介に害意を抱いて術を仕掛けた者に対してのみ効果を発揮し、その術を術者自身へと返す。

 剣を振るえば剣を。槍を振えば槍を。槌を振えば槌を。魔術を振るえば魔術を。

 弦之介に敵対した者は、磨き上げた己自身の術をもって滅び去る。

 かつて英雄王ギルガメッシュを屠り、暁美ほむらに自らの額を割らせた究極のカウンタースペル。

 これにより、セイバーもまた……忘我のうちに己が聖剣を自身へと振るってしまう。

 もはや彼女に残された運命は、自らを刺し貫き、華奢な身体に鮮血の徒花を咲かせるのみ。

 咲かせるのみ……の筈、なの、だが。

 

「―――ァァァァァアアアアアアッッ!!」

「ッ―――――!?」

 

 セイバーは止まらない。

 死の閃光など無かったかのように、不可視の剣は勢いを緩めず、真っ直ぐにアサシンの命を殺りに来る―――!!

 

「ハッ――――!」

 

 理性でなく本能、五感ではなく六感で“瞳術”の不発を悟ったアサシンは、セイバーの奇襲に神速の抜刀術で応じた。

 弾ける火花。

 稲妻めいた勢いの刃が聖剣の鍔を捉え、逆袈裟の一閃は振り抜かれる前に受け止められた。

 

「く………………ッ!」

「ァァ、ァアアア!!」

 

 青年と少女の鍔迫り合い。

 第一印象とは逆に、圧倒的な優位を持つのはセイバーである。ただでさえ筋力値に二ランクの差がある上に魔力放出による補助は、純粋な力比べに強いのだ。

 その膂力たるや、未熟なマスターによるステータス低下状態にあっても、ギリシャの大英雄ヘラクレスと正面から打ち合えるほどだ。マスターに不足がない現状、彼女と正面から圧し合える英霊がどれほどいようか。

 

「見よ、セイ―――」

 

 アサシンは今一度“瞳術”を仕掛けようとし―――その瞬間、先ほど“瞳術”が不発に終わった原因を知った。

 セイバーは目を閉じていた。

 自ら盲となって、アサシンに突撃してきたのだ。

 思えば当然。衛宮切嗣は、“瞳術”についておぼろげながらも正体を掴んでいた。ならばサーヴァントであるセイバーに情報が伝わっていても不思議じゃない。先の邂逅の際に飛び出そうとした事から『無知である』と判断するのは早計だった。

 だがそれは危機であり、好機でもある。

 なるほど確かに、目を閉じれば“瞳術”は通じぬだろう。しかし―――そもそもの前提として。戦場で、一時とはいえ『視覚を封じる』事が善手とは言えまい……!

 

「ふッ……はああああっ!!」

 

 アサシンは渾身の力で一瞬だけセイバーを押し返して距離を詰めると、無防備な足元に足払いをかけた。

 

「くっ――――ぅ!?」

 

 不意の一撃に体勢を崩すセイバー。

 それはただ体幹が崩れたというだけではない。魔力放出によって増幅されていた絶大の膂力が、その方向性をズラすという事。勢いがあればあるほど、修正は困難となる。

 

「がぁ、アアアア!!」

 

 それでも流石は最優の英霊。力づくで踏み止まり、すぐさま体勢を立て直す。

 並の英霊ではこうはいかないだろう。見惚れるほどに見事な絶技であるが―――それでも遅い。英霊同士の戦いに、一分の隙は九死に通ず。

 

「はっ――――――!」

 

 アサシンの刀が水平にセイバーの首を狙う。好機は一瞬にして窮地に転じ、その先に待つは地獄坂。

 回避は間に合わない。先のアサシンのように剣で受け止める事はできない。

 ならば、彼女に求められるのは『回避せず』・『迎撃もしない』・『それでいて生き残れる』……そんな解答。

 可能か―――?

 

 ―――是。

 出来る。英霊アルトリアには、それを可能とする技能がある。

 魔力放出、全開。己に秘めたる力の全てを足に込めろ。

 

 チャンスは一回。

 難しい事は言わない。

 ただ、『この場に踏み止まろうする力』を、『この場を踏み砕く力』に変えるだけ。

 そう。アサシンがセイバーの足元を払ったように。セイバーは、アサシンの足元を崩せばいい……!

 

「はあああああああああアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 増幅される脚力。脚ごと砕かんとする勢い。

 セイバー渾身の踏み込みによって、市民会館が揺れた。

 それは衛宮切嗣と言峰綺礼の開戦の合図となり、同時に地割れめいた一撃となって、アサシンを襲う―――!

 

「アサシン―――――――ッ!!」

「セイバーッ!!」

 

 足場の崩壊と共に、草薙ぎの一閃が空を斬る。

 必殺を逃し、必殺を逃れ、騎士と忍の戦いは振り出しに戻る。

 

 斬るか、斬られるか。

 殺るか、殺られるか。

 

 最終決戦・第二番―――未だ、端倪を許さず。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

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