Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

26 / 38
煥発の第二十六話

 大道具倉庫に大亀裂が走り、両者の必殺は不発に終わる。

 一旦後退するアサシン。それをセイバーは追わなかった。

 離された間合いは目測7メートル。打ち合うには遠く、離れるには近い。

 

「………………………、」

 

 自分の頬から一筋の鮮血が零れ落ちるのを感じつつ、弦之介はセイバーを見据える。

 

「………………………、」

 

 強い眼差し。

 必勝を誓う眼光が弦之介を見つめている。

 

「見事。……まさか、そんな方法で“瞳術”を躱すとは」

 

 称賛。忍者としては、己の忍術を破られたのだから舌打ちの一つでもするべきなのかもしれないが……このような美技を前にしては屈辱など感じようもない。

 セイバーは“瞳術”が発動する前に自ら目を閉じる事で―――その効果を無効とした。

 だが、それはただ目を閉じただけではない。

 セイバーは、アサシンに突撃した瞬間は確かに目を開いていた。地面を踏み砕くときも目を開いていた。……どちらも、弦之介の“瞳術”が発動していなかった時だ。

 弦之介の目は、常に死光を放っているわけではない。必要な時に必要なだけ発動させる……そういう器用な発動が可能であるからだ。

 本来ならばその特性は、魔力を無駄に消費せず、ただ無差別に敵を虐殺するだけの諸刃の剣になりはしないという美徳。弦之介の“瞳術”を最強の忍術たらしめる要素であった。

 が、―――セイバーはその特性を逆に利用した。“瞳術”が発動する瞬間を感じ取り、その時のみ己の視覚を封じる。今の攻防で彼女が行ったのは、そういう人知を超えた離れ業であった。

 未来予知に等しい直感スキルを持つアルトリアだからこその対処法。

 もちろん、此処へ来る前―――コンサートホールにて切嗣に『アサシンは敵を自滅させる魔眼を持っている。絶対に奴の目は見るな』と忠告されていなければ、それすらも叶わなかったろう。

 先の攻防が非常にタイトな綱渡りであった事は確かだが……セイバーは見事に渡り切った。この第四次聖杯戦争において、二騎のサーヴァントを屠った必殺忍術を、初見にて完全に凌いで見せたのだ。

 尤も……忍術に限らず、いかなる必殺技も、その内容が秘匿されてこそ必殺足り得るのである。今回に限っては、他ならぬ己が主の手で情報が表に晒されていたのだから、この展開も必然と言うべきか。少なくともアサシンに非がない事は確かである。

 

(…………ふむ)

 

 綺礼どのの趣向にも困ったものよ、と思案顔のアサシン。

 最大の切り札を破られた以上、彼は真っ向からセイバーと相対する他にない。しかし忘れるなかれ、甲賀弦之介は忍者であって侍ではない。剣術を修めているとはいえ、純粋な剣技ではセイバーのサーヴァントに敵うべくもない。それは先の競り合いだけで十分に察せられた。

 であれば、まともに打ち合わなければいい。

 不意を突く、敵を弱くする、己が勝てる状況を作り出し、敵が負ける他にない状況を作り出す。そんな、いかにも暗殺者(アサシン)らしい戦術こそが―――この戦いには相応しい。

 

「見よ、セイバー」

 

 三度放たれる黄金の光。

 直前に発動を悟ったセイバーが目を閉じる。

 閉じて、

 閉じ続けて―――。

 数秒の後……「まさか」と、少女の額に冷や汗が伝った。

 

「どうした、セイバー。顔色が悪いぞ?」

 

 そう呟くアサシンの姿が、セイバーには見えない。

 目を瞑っているのだから当たり前だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――。

 

 弦之介の眼は、常に黄金の光を放ち続ける。

 

 ―――“瞳術”の常時発動。

 セイバーが“瞳術”に直感で対応したように。

 アサシンの“瞳術”は、セイバーの直感に対応して見せた。

 

「先ほど、お主はこう言ったな、セイバー?『暗殺者(アサシン)が堂々と敵の前に姿を現すとは、意外だった』と。―――然り。闇夜に紛れ、背後から敵を討つが忍の本領よ」

 

 アサシンは一歩、一歩と間合いを詰める。

 二人がいるのは隠れる場所など何処にもない、開けた大部屋。

 証明に白く照らされ、両者の輪郭はハッキリと映し出されている。

 

「なれば、ここまで辿り着いた相手に、()()()など無礼であったな。許せ」

 

 なのに―――セイバーの目にはそれらが見えない。

 堂々と正面から迫ってきている暗殺者の姿を捉えられない。

 彼女から見た世界に限り、此処は星一つない夜の荒野となる―――。

 

「―――征くぞ、セイバー。我が無明にて地獄へ落ちよ」

 

 影が走る。

 刃が奔る。

 目を奪われたセイバーの首に、死神の鎌が添えられる。

 

「く、ああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 総毛立つ感覚に従うまま、セイバーは剣を振りかざした。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 柳洞寺の境内は、遮蔽物の存在しない平野である。

 これは騎兵であり、高い機動力と突撃力を持つライダーに有利な地形だ。しかし―――ランサーもまた敏捷性に優れるサーヴァントであり、同時に今代のランサーである武藤カズキは、突撃力に優れた宝具を持つ。つまり、フィールドによる優位性は両者共に認められる。そこに格差は存在しないのだ。

 

 では、勝敗を分ける要素とは何か。

 言うまでもなく、サーヴァント自身の戦闘能力である。

 

「ハァ!」

「くっ、あ!」

 

 通りすがりに大上段より襲い来るキュプリオトの剣を、突撃槍が弾く。体重差は歴然。スピードの乗った一撃は、ランサーの膂力では受け切れない。

 たまらずよろめいたランサーの背後から、突撃より即座に反転したブケファラスが迫る。

 狙うは首。うなじから一撃で斬り飛ばす―――!

 

「“武装錬金ッ!!”」

 

 ランサーは背中を向けたまま、遥か後方のライダーたちに向かって『吹き飛んで』きた。

 

「なにッ―――!?」

 

 見れば地面に突き刺した石突きを支点にして、突撃槍が巨大化している。これに乗って空を飛んだというのか。

 膨大な魔力を放出する突撃槍。

 一瞬で元の大きさに縮小したそれが、今度はライダーの方へと向けられる。

 

「サンライトクラッシャーッッ!!」

 

 魔力を推進剤に変える。まるで擬似的な魔力放出。ランサーは戦闘機のような勢いで、踏み込みの効かない空中から突撃をかけてきた。

 このスピードでは今から左右に避けても無駄だろう。予想される威力は、ミサイルと同格。この境内にクレーターを生成できるレベルだろう。

 

「は、は!」

 

 予想外の一撃を前に、ライダーは笑った。

 コイツはムチャクチャだ。槍の技量には未熟さが目立つのに、予想した展開の斜め上を突き破って勝利へと突き進んでくる。

 弱いのか強いのか、とても判断がつかない。

 だが、

 

「面白いぞ、ランサァァァアアアアア!!」

 

 咆哮を合図に、ブケファラスが飛んだ。

 いや―――跳んだのか。

 自重を考えれば信じられない高度まで、一足で飛び跳ねた。

 地上へ向けての突撃……ランサーの軌道上より、さらに上へ。

 

「く、―――このっ」

 

 慌てて突撃の軌道を上方修正しようとするランサーだが、それが果たされる前に、ライダーを乗せたブケファラスはランサーの頭上を通り過ぎていく。

 一瞬の交錯。

 攻撃を外したランサーは、ライダーが事前に予想した通り境内に突き刺さり、込められた魔力を爆発させることで、天高く寺の土を舞い上げた。

 少し遅れて、ブケファラスが着地する。

 また、すぐにU字の方向転換を行い―――ランサーに追撃をかける。

 

「ハァァアアアアアアアア!!」

「このぉおおおおおおおお!!」

 

 疾走するライダー。

 疾走するランサー。

 二騎のサーヴァントは目まぐるしいほどに動き回り、影が交わるたび、境内に高らかな剣戟を響かせていく。

 戦闘開始からまだ三分も経っていない。しかし、その間に交わされた攻防は六十を超えた。

 

≪イスカンダル、馬は大丈夫なのか!?≫

 

 と、懐のウェイバーから焦燥の念話が飛んだ。

 

≪大丈夫ではないな≫

 

 応えるライダーも、やや声が低い。

 体重が重い人間ほど、走ったり跳んだりした時の負担は大きくなる。それは馬とて同じだ。ただでさえライダーの馬は通常より遥かに巨大なのだ。強靭な足腰を備えていようと、足への負担が大きい事は変わりない。

 

 全力で駆ける。

 空高く飛び跳ねる。

 ゼロからのトップスピード、対英霊の戦闘速度からの急停止に方向転換の繰り返し。

 

 この三分足らずで負った足腰へのダメージは、神格さえ与えられた名馬ブケファラスでなければ、とっくに足首から千切れ飛んでいるレベルだろう。

 

≪このままではあと一分持つかどうか……といったところか。脚に一発でも貰えば、その刻限を待つまでもなく『詰み』だろうな≫

≪そうだ、一度距離を取ろう! あの槍、攻撃範囲は広いけど……遠くへ伸ばせば伸ばす程、消費魔力も多くなるみたいだ。大回りで馬を休ませながら戦えば……!≫

≪いや、ダメだ。今のランサーの魔力総量は尋常ではない。消耗戦になれば、どれだけ魔力を節約しようと、先に枯れ果てるのはこちらの方だろうよ≫

≪でも、馬が潰れちゃったら、それこそボクらに勝ち目なんかないぞ!≫

≪その前にケリをつける。―――霊核を破壊すれば、いくら魔力があっても再生できん!≫

≪……霊核を……≫

 

 当然の戦略だ。だからこそ、ランサーもそれだけは警戒している。

 ただ逃げ回って消耗を持つのではなく、全力でライダーを殺しにきているのもそのためだ。常に攻めの姿勢を見せる事で、逆にこちらを委縮させようとしている。一発でも当てれば勝ちなランサーと、一発で急所を潰さなければいけないライダー。この違いを前にすれば、弱腰よりも強気の攻めが有効。ハイリスクだが、それを補って余りあるリターンがある。

 残り時間は約一分。

 その間に、ライダーはランサーのリスクに付け込んで一撃を入れなければ―――。

 

≪………………………、≫

 

 ウェイバーが念話でも現実でも黙り込む。

 何かが引っかかったのだ。

 

 ランサーのリスクとリターン。

 ライダーのリスクとリターン。

 

 ……引っかかる。

 何だ。何が引っかかっている?

 

≪もう一度行くぞ、ウェイバー! 舌を噛むなよ!≫

≪待ってくれ、イスカンダル!≫

≪――――なに?≫

 

 再度突撃をかけようとした足が止まる。

 飛びかかってくるランサーを躱し、ぐるりと境内を時計回り。

 

≪何だ、どうした!? 時間がない! 言いたいことがあるなら―――≫

≪い、一発逆転の賭けを思いついた≫

≪…………賭け、とな?≫

 

 訝しげに目を丸くするライダーは、ニヤリと不敵に笑うウェイバーを見た。

 ……手が震えている。油汗がダラダラと流れている。顔色が悪い。

 きっと、馬から振り落とされないようにするだけでいっぱいいっぱいだったのだろう。少年は今にも胃の中身を吐き戻しそうで、目端には涙さえ潤ませている。

 

 情けない姿だ。

 無様な姿だ。

 

 それでも。

 それでも、

 それでも……この小さな男は、必死に『勝ち』を見ているのだ。

 

 死の恐怖に怯えながら、他力本願な自分に涙しながら、それでも前に進もうとしている。

 

(……戦う前から縮み上がっていた小僧がなあ……)

 

 召喚直後の出来事を思い出し、感慨深くなるライダー。

 その沈黙をどのように解釈したのか。ウェイバーは慌てて前言を撤回した。

 

≪ご、ゴメン。やっぱりダメだ。こんなメチャクチャなコト、作戦なんて呼べない。忘れてくれ≫

 

 そこでもう少し自信を持てばよかろうに―――と思うライダーだが、たった五日で遂げた進化としては、この辺りが限界だろうか。苦笑しつつ返答する。

 ポン、と。

 いつかと同じように、大きな掌がウェイバーの頭を乱暴に撫でた。

 

≪ウェイバー、お主は強い≫

≪…………!≫

≪強さは腕力だけではない。敵に怯え、戦いに怯え……それでも立ち向かえる者が弱いものか≫

 

 己に触れた力強い腕。

 逞しい男の身体を……いつか辿り着くべき男の姿を、ウェイバーは見上げる。

 

≪この征服王が朋友と認めたのだ。―――堂々と胸を張れ≫

≪―――――――――≫

 

 ……泣きたくなった。

 けれど必死に耐えた。

 零れ落ちそうな涙を必死に堪えて、不格好に笑う。

 

 ――――朋友。

 

 その一言が嬉しくて。

 偉大なる男に認められたのが嬉しくて、だからこそ、影に隠れるような事はしたくなかった。

 

 いまは弱くても臆病でもいい。言われた通りに胸を張ろう。

 力では負けても、心では負けない。

 形だけでも、表向きだけでも、朋友ならば対等でありたいから―――。

 

≪……今から説明する。よく聞いてくれ!≫

≪応!≫

 

 ―――そして、ブケファラスは転進した。

 これから行われる最後の一合。

 征服王イスカンダルとウェイバー・ベルベットの、全てを賭けた疾走のために。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。