Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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決闘の第三話

【聖杯戦争 二日目(夜)】

 

 ――僕はこれからアイリを隠れ家へと避難させる。その間、セイバーは敵の目を引き付けておいてくれ。

 

 切嗣からセイバーへの『頼み事』の内容は、そのようなものだった。

 街中で『私はサーヴァントですよ、戦いを望んでますよ』と魔術師にのみ分かるように挑発し、それに釣られた相手と戦う。そしてセイバーと誰かの戦いを別の敵に観察させ、あわよくば漁夫の利狙いで参戦させる。

 こうすれば、少なくとも一騎……多ければ二騎のサーヴァントの情報を得る事ができる。ひょっとすると、残る一騎(と、切嗣は思っている)も戦場を観察するために現れるかもしれない。

 セイバーはもともと、持ち前の剣技と『真名を隠すための』宝具である“風王結界(インヴィジブル・エア)”を使って戦う英霊だ。ただでさえ史実と性別が異なっているので、切り札である聖剣を解放しない限り、真名を看破されることはまずないだろう。

 セイバーの強さを演出しつつ、敵の情報を探る。――これが切嗣の作戦の意図であった。

 本音を言えば、切嗣自身もその戦場に出向き、マスター暗殺を狙いたいところではあるが……もしもアイリスフィールの隠匿が敵サーヴァントに露見した場合、マスターでない舞弥では、令呪でセイバーを呼ぶことができない。無抵抗で聖杯の器を敵に奪われてしまう事になるだろう。……それだけは避けたい。

 かくしてセイバーは、原作ではあり得なかった『マスターに戦場を任される』という栄誉を手に入れる事となった。聖剣の使用こそ固く禁じられてしまったものの、元よりセイバーも軽々しく使うつもりはなかったので無問題である。

 

(切嗣も、私の視界を通してこの戦場を見ているはず。ここでしっかりと私の実力を知ってもらえれば……)

 

『セイバー、どうやら僕は君を見誤っていたみたいだ。疑って悪かった。これからの戦いは君に任せるよ』

 

(――と、なるかもしれません!)

 

 一〇〇%あり得ない想像である。

 未だ切嗣の外道っぷりを知らないセイバーであるが、少なくとも自分が信用されていない事は理解しているので、この機会に主の認識を改めさせようと一念発起したわけだ。

 そして命令通り街中で挑発をかけた結果……切嗣が『特に狙い目』と言っていたケイネスのサーヴァント、ランサーを釣り上げる事に成功したのである。

 

 

* * * * *

 

 

 戦場に選ばれたのは、奇しくも原作におけるセイバーVSランサーの舞台となった港の倉庫街であった。セイバーが誘い、ランサーが応じたという逆の立場にこそなっているが……この構図には運命の悪戯を感じずにはいられない。

 一人、冬風の中に佇んでいたセイバーの前に、黒い学生服に身を包んだ少年が現れた。

 

(? あれは、マスターか……?)

 

 だが、その身体からは紛れもないサーヴァントの気配を感じる。

 

「……あなたはサーヴァントか?」

「あ、うん。ランサーだよ。キミは?」

「セイバーですが」

「そっか、ヨロシク!」

 

 まるで殺気の見えない態度に、セイバーは困惑する。服装だけでなく、立ち振る舞いも『英雄』には見えない。本当にそのあたりの学生を引っ張ってきたような……

 

『彼は紛れもなく私のサーヴァントだよ』

「!」

 

 倉庫街のどこからか、くぐもった声が聞こえた。

 

『初めまして、セイバー。私がランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。まずは姿を晒さぬ非礼を詫びよう』

「……いえ、私のマスターも同じようなものだ。謝罪は不要です」

『そうか。……サーヴァントはサーヴァント同士、魔術師は魔術師同士で競い合おうと思っていたのだが』

 

 どうやら声に幻惑の魔術がかかっているらしく、セイバーの耳でも出所を特定できない。……しかし今回の狙いはマスターではなくサーヴァントなので、セイバーもそこまで強引に敵マスターの居場所を探ろうとは思わなかった。

 

『そういうことなら仕方がない。今回、私はサポートに徹するとしよう。――ランサー、この場はお前に任せる』

「了解!」

 

 ランサーが戦闘態勢をとる――と、いつの間にかランサーの右手に銀色の突撃槍が握られていた。

 

「本当は人と戦いたくなんかないけど、……オレには聖杯で叶えたい願いがあるんだ。だから」

「それはこちらとて同じだ、ランサー。遠慮は無用――行くぞ!」

 

 セイバーが一足で間合いを詰める。ランサーも同じく前へ出る。

 ぶつかり合う剣と槍。

 ――ここに、聖杯戦争第二戦目の火蓋は切って落とされた。

 

 

* * * * *

 

 

 同時刻。キャスターのサーヴァント――暁美ほむらもまた、倉庫街にいた。

 彼女にとってセイバーとランサーは他の誰よりも警戒する相手である。特にランサーはマスター共々、煮え湯を飲まされた事をよく()()()()()

 できれば、この決闘でランサーには脱落してほしいのだが……それが難しい事も、ほむらはよく()()()()()

 

(ライダー……)

 

 セイバーとランサーの戦いが佳境に入ると、必ずといっていいほど乱入してくる筋肉達磨。

 ほむらにとっては恐れるに足らない相手――だからこそ、その扱いに困る。

 放っておけば、勝手に他のライバルを潰してくれる。しかし、ランサーはできればここで死んでほしい……。

 介入すべきか、しないべきか。ほむらが悩んでいるのはその二択。

 

(……いずれにしても、もう少し時間をおくべきね)

 

 少なくとも、今すぐ介入したところで旨味は少ない。あともう少し……セイバーとランサーが疲弊し、ライダーが突っ込んできた瞬間。それがほむらの狙い時だ。

 一種の博打ではあるが……試す価値はある。

 

(そのためにも、まずはランサーのマスターを探さないと。彼も確実に仕留めなければならないのだから)

 

 作戦を決定したほむらが動き出す。コンテナに身を隠しながら、夜の闇を駆けていく。

 ……ほむらが消え去った後には、何かが残っていた。

 それは切嗣が見たら腰を抜かすであろう――近代兵器の数々だった。銃口は全て、セイバーとランサーが戦っている広場に向けられている。

 おお、ゴッド――ほむらは一体何を企んでいるのだ。

 セイバーとランサーが疲弊し、ライダーが介入してくるその瞬間……この倉庫街で何が起きようというのだ。

 少なくとも、想像するだに恐ろしい事なのは間違いない――。

 

 

* * * * *

 

 

 そんな悪魔的な思惑が裏で蠢いているとはつゆ知らず、セイバーとランサーは剣戟を交わす。

 剣と槍が戦えば、槍が有利――とは一般的な物の見方だ。なにせ槍のリーチを前にしては、剣は攻撃の間合いにすら近寄らせてもらえない。必然的に防戦一方となる。剣道三倍段という言葉があるが、剣と槍の関係もまた、それに類するものといっていい。

 しかし、それは言い換えれば――セイバーに()()()()()()()()()()()()があれば、互角以上に戦えるという意味でもある。

 

「はっ、は、――はァ!」

 

 ランサーによる三段突き。その全てを剣でいなし、セイバーは返す刃でランサーの首を狙う。

 

「ふっ、ぐ!」

 

 慌てて槍を回し、剣を受け止めるランサー。しかし剣に気を割きすぎたせいで、セイバーの接近を許してしまう。

 

「ら、――!」

 

 隣接戦闘(インファイト)――セイバーの右足がランサーの腹部を捉えた。

 

「げぇ!」

 

 カエルのような鳴き声を上げるランサーが、苦し紛れの一撃を放つ。

 

「ハァッ――!」

「く、う!」

 

 だが、そんなものはセイバーに通じない。セイバーは渾身の勢いでその槍を打ち払う。――あまりの勢いに、ただでさえ不安定だったランサーの体勢が大きく崩れた。

 致命的な隙だ。無論、それを黙って見逃すセイバーではない。

 

「そこだっ!」

 

 訪れたチャンスを逃さず、セイバーが再びランサーの懐へと踏み込んだ。――この間合いでは、槍の攻撃は必殺足り得ない。

 殺った――セイバーの確信は、しかし予想外の一撃で裏切られた。

 

「武装解除」

 

 ランサーの槍が消え、そして――

 

「もう一度、“武装錬金(ブソウレンキン)!”」

 

 その瞬間、ランサーの左胸から、消えたはずの突撃槍が現れた。それも、セイバーへとその切先を向けている――!

 

「なっ!? っく――!」

 

 即座に身体をねじり、槍を回避するセイバー。しかし無理な体勢での回避が祟ってか、ランサーへの必殺の機会を逃してしまう。彼女は追撃をかけてくるランサーの攻撃を受け流しつつ、一度、大きく距離をとる。

 

(あの槍は投影魔術か、召喚魔術か……それとも、物質を異空間にでも収納する能力を持っているのか……!?)

「オオオオッ――――!」

 

 後退するセイバーへ向けて、ランサーが槍を突き出す。――僅かに届かない。

 だが、

 

「――貫け、オレの武装錬金!」

 

 ランサーの槍が――伸びた。

 槍の穂先が突如として分解し、その内部から太陽光にも似た輝きが溢れ出す。その光が、分かたれた槍身を前へ、前へと引き伸ばしてゆくのだ。それはまるで、槍が巨大化したかのような……

 

「エネルギー、全・開!!」

「くう、ああああああああッ!?」

 

 届かないはずの槍が、セイバーへと届いた。鎧の胸当てに阻まれたものの、その勢いはまだ止まらない。

 

「喰らえ、サンライトスラッシャー――――――――――!!」

 

 突撃槍の面目躍如。――ランサー渾身の突撃(チャージ)は、槍から溢れ出す山吹色の光を推進力に変えて、怒涛の勢いでセイバーを打ち砕かんとする。

 

「はあああああああああああああああああああっ!」

 

 絶体絶命の窮地で、セイバーは吼えた。

 突如巻き起こる爆風。セイバーが聖剣を保護している“風王結界(インヴィジブル・エア)”の一部を炸裂させたのだ。その勢いに煽られ、槍が鎧の表面を滑り――そして、

 

 

 

 ――ざざっ、と。

 セイバーが着地を果たす。鎧の胸部に罅が入っているが、その肉体は未だ無傷だ。セイバーはランサーの攻撃を凌ぎ切ったのである。

 

「……今のは驚かされました、ランサー」

 

 セイバーが口にしたのは、紛れもない称賛である。

 ランサーの力量自体はそれほど高くない。素人ではないが、長く戦場で戦ってきたセイバーからすれば粗が目立つ槍術であり、十全に対応できる。セイバーとランサーの間には、覆しがたい実力差があるのは間違いない。

 だが、ランサーは咄嗟の機転や不屈の闘志でセイバーに食らいついてくる。大成していないだけで、戦士の素質は紛れもなく本物だ。

 聖杯の知識曰く――英霊は、本人の全盛期の姿で呼ばれるという。恐らく彼は短命の英霊であり、その素質は生前に実を結ぶことがなかったのだろう。もしも本当の意味で『全盛期』のランサーが呼ばれていたなら……今の一合で戦いは終わっていたかもしれない。

 紛れもない強敵。いっそ好感を覚える、どこまでもまっすぐな気迫といい――セイバーは初戦にして望外の好敵手に巡り合ったようだ。

 

「ですが、私に同じ手は通じない」

 

 セイバーは、ランサーの宝具の性質を確かに見て取っていた。

 

 好きなタイミングで召喚・送還を行うことができ、かつ内部に蓄えられたエネルギーを調節することで威力・射程範囲を自在に変化させる。それがランサーのサーヴァント、武藤カズキの宝具……突撃槍(ランス)武装錬金(ブソウレンキン)――“陽光の突撃槍(サンライトハート)”の能力。

 

 多少の例外はあるが、セイバーの“風王結界(インヴィジブル・エア)”と同じく常時開放型の宝具であり、消費魔力のバランスが良い。その上、セイバーとは違う意味で武器の間合いが掴めない。先ほど見せた、いざという時の爆発力といい――非情に使い勝手が良く、強力な宝具と言えるだろう。

 だがしかし――前述した通り、ランサーの実力は明らかにセイバーに劣っている。ランサーがいかに変幻自在の攻めを見せようと、地力で勝るセイバーは、()()()()対応しても間に合うのだ。しかもセイバーには、未来予知にも近い直感スキルの恩恵もある。つまり、ランサーがセイバーを打倒するには、完全に不意を突く予想外の一撃を叩きこむしかない。

 要するに――今の一撃でセイバーを倒せなかったのは、ランサーにとって痛恨であったのだ。

 

「あなたにも分かっているはずだ、ランサー。このままではあなたは私に勝てない。もっとも、あなたにまだ切り札が残されていれば話は別ですが……どうですか?」

 

 ――挑発。

 もちろん、セイバーとて本気で『勝ったも同然』とたかをくくっているわけではない。戦いには『もしも』がつきものだ。一瞬でも油断した人間から死んでいく……セイバーはそれをよく知っている。

 切嗣に『情報収集をしろ』と指示された事もあるが、それ以上に『切り札を破られた』ランサーの反応を観察することで、この後の戦術を決定しようと考えた上での行動であった。

 

(追い詰められたことで恐怖するか、私の『油断』を好機ととるか――さあ、ランサー!)

 

 ランサーの表情は……どちらでもなかった。

 

「………………っ!」

 

 いや、その表情は、恐怖と言えば恐怖であった。しかしそれはセイバーに対するものではないように思える。

 セイバーが()()()()()()について言及した時――ランサーの顔が僅かに歪んだのだ。

 

「……ランサー?」

 

 セイバーが困惑の表情を浮かべた時――

 

 

 

「――――A()A()A()A()La()La()La()La()La()La()La()La()La()La()La()La()La()La()La()Lai(ライ)e()!!」

 

 

 

 ()()()()はやってきた。

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

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