Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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終焉の第三十三話

 あの、冷たい土蔵の中で―――アイリスフィール・フォン・アインツベルンは言った。

 

「セイバー……どうか、切嗣を助けてあげて」

 

 その言葉に、セイバーは「はい」と返答する事ができなかった。

 一日前なら快諾できたはずの願いが、あの時は例え嘘でも受け入れることなどできなかった。

 深山町の惨劇を知る者と知らぬ者。その間には決定的な断絶があり、セイバーの目に彼女は『切嗣に騙されている哀れな姫君』としか映らなかった。

 

 衛宮切嗣。

 お前の願いは何だ。

 妻を謀り、娘を偽り、お前は何を求めているのだ。

 

 

 

 

 ――― 平和を望んで、何が悪い ―――

 

 

 

 

 ……人は追い詰められた時、その本性を表すという。

 ならば、敗北するその瞬間まで叫んでいた彼の信念は……正真正銘の本物なのだろうか。

 平和を望んでいたから。今後全ての人間が争いで傷つかないようにと願えばこそ、非情に徹してきたと。

 

「ああ、―――…」

 

 盲が晴れたような思い。

 衛宮切嗣の姿は、アルトリアと重なった。

 国を思えばこそ非情に徹してきた彼女と。

 

 ――― アーサー王は人の気持ちが分からない ―――

 

 あれを口にしたのは、果たして誰だっただろうか。

 そう言われても在り方を変えなかったのは、誰だっただろうか。

 きっとそれは―――衛宮切嗣であり、アルトリアでもあるのだろう。

 

 ――― 切嗣は、理想を追うには優しすぎる人。

 

     いつか喪うと解りきった相手でさえ、愛さずにはいられないなんて ―――

 

 アイリスフィールの言葉は正しかった。

 切嗣の本心を疑った……その点に関してだけは、セイバーが間違っていたのだ。

 しかし謝罪すべき相手は、もう……この世にいない。ならば、セイバーに通せる筋は何処にあるのか。それを考えた時、既に彼女の足は駆け出していた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 トドメの震脚は、誰もいない空間を通り過ぎ―――コンクリートの地面だけを踏み割った。

 綺礼はその結果に驚くことはせず、ただ少しだけ意外そうな表情を作った。

 

「……お前が見ている事は少し前から気付いていたが。割り込んでこないものだから……てっきり、見捨てるつもりかと思っていたぞ」

 

 そう言って、切嗣の身体を攫って行った人物を見つめる。

 

「ええ。つい先ほどまでは、そうするつもりでした」

 

 主の身体を抱きしめながら返答したのは、金髪碧眼の少女―――セイバーである。

 一足先にアサシンとの戦いを終えていた彼女は、聖杯の安否を確認しに行った後、マスターの生死を確かめに来たのだった。

 しばしの間、無言で向かい合う綺礼とセイバー。

 七秒ほど経ったころ、綺礼が不思議そうに問いかけた。

 

「どうした、セイバー? 見たところかなりの重傷のようだが……それでも、私ごときを殺すには不足あるまい?」

 

 聖杯が欲しいのだろう? という問いに、セイバーは「いいえ」とかぶりを振った。

 

「アレは、……私が欲するものではない」

 

 短い呟き。たった一言に、溢れんばかりの無念があった。

 彼女は見てしまったのだ。聖杯の正体。破壊と殺戮に染まった願望器の姿を。

 

「……まさかとは思っていたが、この気配は……聖杯が発するものなのか?」

「ええ。構造上の幸運でしょうね……ほとんどが外に()()()、こちらにはまだ、あまり来ていないようですが」

 

 それも時間の問題―――と、セイバーは切嗣を背負い上げ、綺礼に問いかけを返した。

 

「コトミネと言いましたね。私は貴方を殺さない。いえ……もはや殺す理由がない。貴方はどうなのです。まだ、切嗣を殺すつもりですか?」

「……私も、つい先ほどまではそうするつもりだったが」

 

 綺礼は意識を失ったままの切嗣、それを背負うセイバーを見比べた後……小さく嘆息した。

 

「もう、そんな気も失せた。何処へなりと持って行くがいい」

 

 その表情には、怒りも憎しみも浮かんでいない。普段通りの無表情があるだけだ。

 返答を聞き届けたセイバーは一度頷きを返し、駐車場の出口へと去っていく。

 その背中に、綺礼はもう一度だけ、言葉を投げかけた。

 

「ああ、待て」

「?」

「聖杯が要らないと言うのなら……お前は何故、まだ()()留まっているのだ?」

「私には、まだやる事がある。それが終わるまでは―――」

「ならば、これを持って行け。何かの役に立つだろう」

 

 唐突に、綺礼は『何か』を放り投げた。

 慌てて空いた手でそれを受け取るセイバー。掴んだものの正体を確かめて……驚愕した。

 

「っ、――――『これ』はまさか……!? 一体、何故……」

「お前には伝言を頼みたい。その駄賃代わりだ」

「伝言…………切嗣にですか。……何と?」

 

 地響きが近づいてくる。

 駐車場の壁が変色していく。

 遠くから水音のような唸り声が聞こえてくる。

 

「――――――――――――――、」

 

 終焉の足音を背景に、綺礼は『伝言』の内容を口にした。

 

「―――この二つだ。切嗣が起きたら伝えておけ」

「分かり、」

 

 ました―――を口にする前に、天井と壁が破裂した。

 轟々と唸る濁流。

 周囲から襲い来る黒い泥。別のフロアを塗り潰し、侵食して此処までやってきたのだ。

 

「く、…………!」

 

 切嗣を背負ったまま、駐車場を脱出するセイバー。振り返ると、背後―――言峰綺礼の姿が、瓦礫と泥に紛れて消えていく光景が見えた。

 最後の一瞬……綺礼が笑ったように見えたが、真偽の程は分からない。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 聖杯は、七騎分の英霊の魂を以って―――世界の外へ孔を穿ち、固定する。

 その穴を通じて『どんな願いでも叶えられる量』の魔力を引き出すことで、使用者の願望を現実にするのが聖杯の仕組みである。

 そして―――アサシンが脱落した時、聖杯には既に七騎分の魂がくべられ、孔の固定を行っている最中だった。

 

 七騎分の魂を受容する器。

 そこにくべられた、七騎分の魂。

 

 予定外である八騎分目の魂は、空けられた孔を通って外へ帰った時―――元々ある魔力の渦に、一種の『さざ波』を起こした。

 それはまるで、コップから溢れ出した内容物のように。

 かつての過ちで悉く呪いに染まった黒い魔力が、内側の世界(こちら側)へと流れ出す―――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 市民会館直上の『孔』から溢れ出した呪いが、周囲の町々を侵していく。

 何の形も得ることなく地上へと流れ出たソレは、ただ通りすがりにモノを腐らせ、建物を溶かし崩し、人々を負の地獄へと落としていく。

 

 ―――死ね。

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 

「あ、―――ぎっ、ぎゃあ、ぐ」

「づぅ、は……げぇ」

「がぁが、がががががががが」

「あひゃ、ひぃ――――ぁ」

「誰か死助け死て死ね死ね死ぶっ」

 

 泥を直接浴びた人間は、極大の呪いに耐えきれず、一瞬で心が破裂する。

 泥に当てられた人間は穴という穴から血を吐き出して、身体中を抉れるほど掻き毟って、何の理由もなく近くにいた人間と殺し合って、人とは呼べない何かに変貌して、ただ惨たらしく、どうしようもなく死んでいく。

 

 ―――この日、冬木市にて『新都』と呼ばれる区画の六割が壊滅した。

 

 それが、結果。

 第四次聖杯戦争が引き起こした悲劇―――“冬木市事件”の総決算。

 開催者、支持者、参加者……この戦いに関わった関係者全員が負うべき罪の証だった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 敗北から四分後。―――新都の街並みより一つ小高い堤防で目を覚ました切嗣は、覚醒より早々に、その悲劇の有様を直視することとなった。

 

「な……………………ッ!!?」

 

 意味が分からない。

 何故自分が生きているのか、何故新都が廃墟と化しているのか、何故空に()()()()が空いているのか。

 理解不能過ぎる状況……いや、切嗣の脳は理解する事そのものを拒んでいた。

 

「気が付きましたか、切嗣」

 

 混乱の中、その声は凛と響いた。

 そばにセイバーが立っている。……そんな事にも気付かないほど、混乱は大きかった。

 

「セイバー……何が起こった?」

「聖杯です」

 

 一言。

 セイバーは分かりやすく、端的で、それでいて切嗣を最も追い詰める言葉を選んだ。

 

「こ……言峰綺礼が、願いを叶えた……のか?」

 

 震える声で返答を求める切嗣。

 それは最悪の可能性―――ではなく、切嗣にとって『そうであってくれ』と願う『最善』の可能性である。

 果たして、セイバーは沈痛を表すように目を伏せた。

 

「いいえ。……聖杯は、願いを叶える前から穢れていました。それがこの戦いの間に起こったものなのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()は……判然としませんが」

 

 その一言に、切嗣は今度こそ目を剥いた。

 セイバーは明言しなかったが、後者を予想しているのだろう。そして、切嗣もまた後者が真実であると確信してしまった。

 

 当然だ。

 聖杯の器はアイリスフィールであった頃から、常に切嗣と行動を共にしていた。

 細工を仕掛けるようなタイミングなど皆無であり、錬金術の大家たるアインツベルンが、悲願の成就を賭けた戦いに『欠陥品』を持ち込む理由などない。

 つまり、切嗣が全ての希望を託したモノは。どんな手段を使ってでも手に入れようとした聖杯は。最初から―――()()()()()()()()()のだ。

 

「ぁ――――――」

 

 理解の瞬間、切嗣は己の手を見た。

 片方は失われ、片方は血塗れ。

 だが、切嗣の目には両方の腕が見えていて……その腕には、現実よりも遥かに多量な鮮血が滴っていた。

 

(幻覚だ)

 

 そうは分かっていても、振り払えない。

 何処からか溢れ出してくる血が、血が、血が……両腕から零れて切嗣の身体を赤々と染めていく。

 

「ぁあ……は、ははは、は………………!」

 

 嗤う。

 もう、何もかもがおかしかった。

 何故、その目で見てもいない聖杯の真実を又聞きなどで確信できるか。

 

 ……思い当たる節があったからだ。

 

 ギルガメッシュ、アレクサンド・アンデルセン、暁美ほむら。これら五騎分の魂を回収した聖杯の器は、すでに起動の準備を始めていた。彼の器はほんの僅かではあるが、その本質である『不吉さ』を醸し出していたのだ。

 そんな聖杯と、切嗣は一日を共にしていた。……言葉にできない『不安』を感じていたのは否定できない。

 その時は、純粋かつ強大な力を前にして、心が委縮しているだけだと思った。

 

 だが、もしも。

 もしもあの時に、切嗣が聖杯を『危険物』だと理解できていたならば。

 深山町の犠牲を、ホテル爆破の犠牲も、全てを無に帰していたとしても。

 

 ―――目の前の惨劇だけは、避けられたのではないか?

 

「あああああぁぁぁ…………っ!」

 

 髪を振り乱す。顔を力いっぱい掻き毟る。

 まるで呪いにあてられたかのように狂乱する切嗣の姿は、数々の悲劇を目にしてきたセイバーをして、思わず目を逸らしてしまうものだった。

 

「切嗣…………」

 

 この男が、どれだけ『平和』を願っていたかは―――既に彼女も知るところである。

 どんな思いで聖杯に縋ったのか。どんな気持ちでこの戦いに身を投じていたのか。アイリスフィールの口にした『優しい人』という人物評が、今になってセイバーの胸を痛めつける。

 ……だが、今はそんな事をしている場合ではない。

 

「切嗣、私に………………?」

 

 意を決して視線を戻すが……そこに切嗣はいなかった。

 

「切嗣? 何処に、―――――まさかっ!?」

 

 悪寒の通り、切嗣は廃墟と化した新都へと走り出していた。

 恐らく、生存者を探すつもりなのだろう。

 

「待って―――止まりなさい、切嗣!」

 

 すぐに追いかけ、襟首をひッ掴んで引き止める。

 

「放せッ」

「放しません! まだ話は途中だ……!」

「これ以上、何を話すことがある!? 悠長にしていたら―――」

「悠長にしていたら、次の悲劇が起きてしまう!!」

 

 自分の台詞を丸々先取りされた切嗣は、一瞬呆けたように黙ったが……次の瞬間、また烈火のような勢いを取り戻す。

 

「分かっているなら、何故止める!?」

「分かっていないから止めたのです!」

「っ―――謎かけをしてる暇はない!」

「まだ悲劇は終わっていない! 食い止めるためには、貴方の協力が必要だ!!」

 

 動きが止まる。

 まだ。……まだ、この先があると言うのか。

 これだけの悲劇に……まだ、続きが存在するだと?

 

「どういう事だ……説明しろ、セイバー!」

「手短に言います。どんなに信じられなくても、一回で呑み込んでください!」

 

 ―――セイバー曰く。

 新都を壊滅させたのは、空にある孔から零れ落ちた泥である。

 泥の流出は止まったが、まだあの孔は塞がっていない。

 何かの拍子に、また泥の流出が始まるかもしれない。

 早くあの『孔』を何とかしないと。

 

「なら、何故早く宝具を使わない!? お前の聖剣なら……!」

「魔力が足りないんです! 消滅覚悟で撃っても、間違いなく出力が足りない!」

 

 ですから、と―――セイバーは切嗣に右手を差し出した。

 これはどういう事か。セイバーの右手が、一つの手首から三本、枝分かれするように生えている!

 一瞬、驚愕に慄いた切嗣であったが……よく見れば、三本の手のうち二本は、セイバーの手のひらに乗せられているだけであった。しかもさらによく見れば、その二本の手は女性のものではなく、筋張った成人男性のそれだ。

 つまりこれは、先の戦いで切り落とされ、引き千切られた綺礼と切嗣の右手であった。市民会館から脱出する際、綺礼に投げ渡されたものである。

 この手の重要性は、手自体ではなく―――そこに刻まれたもの。

 

「ここにある令呪を使って、私に『あの孔を破壊せよ』と命じて下さい! 同意の上の命令なら、聖剣の破壊力は飛躍的に増すはずだ……!!」

 

 そう。切嗣の手には一画、綺礼の手には五画の令呪が残っている。

 計六画の令呪は、存在そのものが魔力の塊だ。その力は聖杯の契約に従い、命令に乗せる事で―――効力を未知数のものに変えるのだ。

 

「衛宮切嗣! 貴方は―――世界を救いたいのでしょう!? なら、その時は今だ! 蹲っている時間などない。今この時を逃して……どうするというのですッ……!!」

 

 少女の碧眼から涙が流れる。

 その悲痛な涙声は、英霊だの英雄だの王様だの……全てのしがらみを超えて、切嗣の心に届く。

 

「お願いします! もう――――」

 

 揺さぶられる切嗣の心に、最後の一撃が撃ち込まれる。

 

 

 

 

 

「もうこれ以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()………………ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 それは、切嗣の心を何より打ちのめす一言。

 燻った感情を爆発させる起爆剤だった。

 聖杯に残された最後の未練が。戦いへの後悔が、跡形もなく吹き飛んだ。

 

「ぁ―――――――ぁぁぁぁああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 ああ、そうだ。

 そんな事は許されない。

 切嗣にとってあらゆる悲劇は平等で……だからこそ、それだけは見過ごせない。

 綺礼の右手をセイバーから奪い取り、強引に令呪と自分の肉体を繋ぎ合わせる。

 其処に残された五画の刻印。その全てを、セイバーに向かって注ぎ込む―――!

 

 

 

 

「全ての令呪を以って命じる! セイバー……『聖剣を使い、あの孔を破壊しろ』!!」

 

 

 

 

 

 ―――暴威に等しい魔力が吹き荒れる。

 セイバーはそれを卓越した技量で抑え込み、聖剣の光へと収束させた。

 

 轟音と共に振り抜かれた光の刃が惨劇の空を両断する。

 軌道上の空気を空間ごと切り取り、願望の成就を待ち望んでいた『孔』を消し飛ばす。

 

 闇を払う光。

 突然の悲劇に怯えるばかりだった新都の生存者たちは、無意識のうちに跪き、その光に向かって祈りを捧げた。

 あれこそは救いの光だと。神が齎した救済の御手なのだと。

 

 それは、ある意味間違いで、ある意味的を射ていた。

 

 あの光の主は、彼らを惨劇に追い落とした元凶の一人であり……その惨劇を終わらせた一人でもあったから。

 

 “約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 一度は街を焼いたその輝きが、今度は街を救った。

 

 そして、同時にその輝きは“魔の五日間”の終焉。

 第四次聖杯戦争の終わりを告げる鐘の音となった――――――。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

【聖杯戦争五日目・・・終了】

 

 

【脱落者】

 

 ■マスター   ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

 

         ウェイバー・ベルベット

 

         言峰綺礼

                 【残り一人】

 

 ■サーヴァント ライダー

 

         ランサー

 

         アサシン

                 【残り一騎】

 

 

 

 

 

【第四次聖杯戦争・・・終結】

 

 

 ■聖杯―――――破壊

 

 ■生存者――――衛宮切嗣

 

         セイバー

 

 ■勝者―――――なし

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 探す。

 

 探し続ける。

 

 瓦礫をかき分け、灰を払って、男は『誰か』を探し続ける。

 

 手の皮が破れても、そこから血が流れても……男は探すことを止めようとしない。

 

 きっと何処かにいるはずだと。

 

 きっと探せば見つかるはずだと。

 

 泣きながら、叫びながら、男は『誰か』を探し続ける。

 

 見かねた少女に止められても、縋られても、男は探すことを止めようとしない。

 

 見つかるはずの誰か。

 

 見つからなければいけない誰か。

 

 それは―――しかし、この運命が歪んだ世界においては見つからない。

 

 本来、男が悲劇から救うはずだった少年は……この世の何処にも存在しないのである。

 

 だから、男はいつまでも探し続ける。

 

 いつしか降り出した雨に打たれても、夜が明け、朝になっても、ずっと―――探し続ける。

 

 

 

 

 

 誰か―――。

 

 誰か―――。

 

 

 

 

 

 いるはずのない生存者を呼びながら、いつまでも。

 

 

 

 

 

 誰か―――。

 

 誰か―――。

 

 誰か―――。

 

 

 

 

 

 いつまでも。いつまでも。

 

 疲労で気を失うまで、ずっと探し続けた――――――……。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 斯くして―――歪んだ運命の戦いは幕を閉じる。

 六日目……戦いが終わった翌日の空は、皮肉なほどの快晴であったという。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

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